2026年1月22日木曜日

アガサ・クリスティー作「満潮に乗って(Taken at the Flood)」の原題の由来

英国の HarperCollinsPublishers 社から以前に出版されていた
アガサ・クリスティー作「満潮に乗って」ペーパーバック版の表紙 -
第二次世界大戦(1939年ー1945年)中の1944年春、
ドイツ軍によるロンドン大空襲により破壊された
大富豪ゴードン・クロード(Gordon Cloade)の屋敷の窓ガラスを
イメージしているものと思われる。


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1948年に発表したエルキュール・ポワロシリーズ作品「満潮に乗って(Taken at the Flood)」の原題の由来について、今回、紹介したい。

本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第48作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第23作目に該っている。

なお、「満潮に乗って」の場合、米国版のタイトルは、「There Is a Tide」が使用されている。


英国の HarperCollinsPublishers 社から現在出版されている
アガサ・クリスティー作「満潮に乗って」の
ペーパーバック版の表紙 -
ドイツ軍によるロンドン大空襲を背景にして、
それからロンドンを守る英国空軍の戦闘機である
スーパーマリン スピットファイア(Supermarine Spitfire)の形に切り取られている。


「満潮に乗って」の原題である「Taken at the Flood」は、イングランドの劇作家 / 詩人であるウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare:1564年ー1616年 → 2023年5月19日付ブログで紹介済)作の政治劇 / 悲劇「ジュリアス・シーザー(The Tragedy of Julius Caesar → 2023年8月4日付ブログで紹介済)」(1599年)の第4幕第3場におけるマーカス・ブルータスの台詞が、その由来となっている。


ナショナルポートレートギャラリー
(National Portrait Gallery)で販売されている
ウィリアム・シェイクスピアの肖像画の葉書
(Associated with John Taylor
 / 1610年頃 / Oil on canvas
552 mm x 438 mm)


There is a tide in the affairs of men, which taken at the flood, leads on to fortune. Omitted, all the voyage of their life is bound in shallows and in miseries. On such a full sea are we now afloat. And we must take the current when it serves, or lose our ventures.


潮時は人間の行動にも有る、満潮に乗じて事を行えば首尾よく運ぶが、その機を誤るというと一生中航海ごとに浅州暗礁に乗り上げて浅ましい最期を遂げる。わが軍はちょうど満潮の海に浮かんでいるのだ。この潮流を利用するか、難破して貨物を失うか取らんけりゃならん。

(坪内逍遥訳)


英国の The Orion Publishing Group Ltd. から2020年に出ている
「シェイクスピアの世界(The World of Shakespeare)」と言うジグソーパズル(1000ピース)


英国の The Orion Publishing Group Ltd. から2020年に出ている
「シェイクスピアの世界」と言うジグソーパズルにおいて、
ロンドン塔(Tower of London → 2018年4月8日 / 4月15日 / 4月22日付ブログで紹介済)の
背後にある庭園(画面右上)には、
ジュリアス・シーザー(中央の人物)と彼に襲い掛かる暗殺計画のメンバー達が描かれている。
<筆者撮影>


ウィリアム・シェイクスピア作の政治劇 / 悲劇「ジュリアス・シーザー」では、共和政ローマ末期の永久独裁官となったガイウス・ユリウス・カエサル(Gaius Julius Caesar:紀元前100年ー紀元前44年)に対する陰謀 / 暗殺とその後が描かれている。

劇のタイトルは「ジュリアス・シーザー」となっているが、ジュリアス・シーザー(Julius Caesar)自身が主人公なのではなく、3場面だけに登場する人物に過ぎず、第3幕の初めに暗殺されてしまう。政治劇 / 悲劇「ジュリアス・シーザー」の主人公はマーカス・ブルータスで、ジュリアス・シーザーが独裁者へと変貌していくことを防ぐために、ケイアス・キャシアス(Caius Cassius)が主導するジュリアス・シーザー暗殺計画に参加するものの、名誉欲、愛国心と友情の間で、葛藤する。マーカス・ブルータス達によるジュリアス・シーザー暗殺計画は実現したが、ジュリアス・シーザーの右腕で、彼亡き後の三頭政治(Triumvirs)のメンバーの一人であるマーク・アントニー(Mark Antony)が、ジュリアス・シーザー暗殺のメンバー達に対して、敵意を向けるようになり、共和政ローマは、次第に内乱状態へと突入していくのである。


政治劇 / 悲劇「ジュリアス・シーザー」において、ジュリアス・シーザー暗殺計画のメンバーには、


(1)マーカス・ブルータス

(2)ケイアス・キャシアス

(3)キャスカ(Casca)

(4)ディシアス・ブルータス(Decius Brutus)

(5)メテラス・シルバ(Metellus Cimber)

(6)トレボニアス(Trebonius)

(7)ケイアス・リゲリアス(Caius Ligarius)


等が含まれる。


ウィリアム・シェイクスピア作の政治劇 / 悲劇「ジュリアス・シーザー」が創作 / 上演された当時、イングランドとアイルランドの女王で、テューダー朝(House of Tudor)の第5代かつ最後の君主であるエリザベス1世(Elizabeth I:1533年ー1603年 在位期間:1558年-1603年)が統治していたが、高齢であるにもかかわらず、自分の後継者を指名していなかった。そのため、エリザベス1世の死後、イングランド内は内乱状態になるのではないかと言う不安が、世間に蔓延していた。


ナショナルポートレートギャラリーで販売されている
エリザベス1世の肖像画の葉書
(Unknown English artist / 1600年頃 / Oil on panel
1273 mm x 997 mm) -
エリザベス1世は、王族しか着れない
イタチ科オコジョの毛皮をその身に纏っている。
オコジョの白い冬毛は、「純血」を意味しており、
実際、エリザベス1世は、英国の安定のために、
生涯、誰とも結婚しなかったので、「処女女王」と呼ばれた。
エリザベス1世の」赤毛」と「白塗りの化粧」は、
当時流行したものである。


従って、多くのシェイクスピア研究家達は、ウィリアム・シェイクスピアが、政治劇 / 悲劇「ジュリアス・シーザー」を創作する上で、エリザベス朝イングランドを共和政ローマ末期になぞらえて、王権の継承にかかる当時の世間の不安を劇に反映させたものと考えている。


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