2025年1月20日月曜日

横溝正史作「八つ墓村」(The Village of Eight Graves by Seishi Yokomizo)- その1

英国のプーシキン出版(Pushkin Press)から
2021年に刊行されている
 Pushkin Vertigo シリーズの一つである

横溝正史作「八つ墓村」の表紙
(Cover design by Anna Morrison)


「八つ墓村(The Village of Eight Graves)」は、日本の推理作家である横溝正史(Seishi Yokomizo:1902年ー1981年)による長編推理小説で、


(1)「本陣殺人事件(The Honjin Murders → 2024年3月16日 / 3月21日 / 3月26日 / 3月30日付ブログで紹介済)」(1946年)


英国のプーシキン出版(Pushkin Press)から
2019年に刊行されている
 Pushkin Vertigo シリーズの一つである

横溝正史作「本陣殺人事件」の表紙
(Cover design by Anna Morrison)


(2)「獄門島(Death on Gokumon Island → 2024年3月4日 / 3月6日 / 3月8日 / 3月10日付ブログで紹介済)」(1947年ー1948年)


英国のプーシキン出版(Pushkin Press)から
2022年に刊行されている
 Pushkin Vertigo シリーズの一つである

横溝正史作「獄門島」の表紙
(Cover design by Anna Morrison)


(3)「夜歩く」(1948年−1949年)


に続く金田一耕助(Kosuke Kindaichi)シリーズの長編第4作目に該る


横溝正史は、農村を舞台に、できるだけ多くの殺人事件が起きる作品を執筆したいと考えており、


*アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「ABC 殺人事件(The ABC Murders)」(1936年)

*坂口安吾(Ango Sakaguchi:1906年ー1955年)作「不連続殺人事件」(1947年ー1948年)


を踏まえて、本作の構想に取り掛かった。


その際、「獄門島」の風物を教示してもらった友人から、作品の舞台として適当な村として、伯備線の新見駅の近くにある村を紹介される。

その村には、鍾乳洞があると聞き、横溝正史は、以前、D・K・ウィップル(Kenneth Duane Whipple)作長編推理小説「鍾乳洞殺人事件」を読んだことを思い出し、鍾乳洞を作品の中盤以降における重要な舞台の一つに取り入れた。

また、作品の序盤には、1938年(昭和13年)に岡山県で実際に起きた「津山30人殺し」をベースにした田治見要蔵(Yozo Tajimi)による「八つ墓村村人32人殺し」も取り入れている。横溝正史としては、本格探偵小説の骨格を崩すことはしたくなかったが、連載予定の雑誌の場合、純粋な探偵小説雑誌と言うよりも、大衆娯楽雑誌の傾向が強かったため、スケールの大きな伝奇小説を執筆する方向へと舵を切ったのである。ただし、作品の舞台となる八つ墓村が所在する場所は、「津山30人殺し」が起きた村とは全く異なるところに設定した。


こうして構想がまとまった後、「八つ墓村」は、1949年(消化24年)3月から1950年(昭和25年)3月までの1年間、雑誌「新青年」に連載された。

今までの長編3作とは異なり、冒頭部分の過去談については、作者による説明で、本編部分に関しては、主人公となる寺田辰弥(Tatsuya Terada)による回想手記の形式で進行していく。

残念ながら、連載は予定通り進まず、横溝正史が病気のため休載している間に、「新青年」が休刊となってしまう。

そのため、1950年11月から1951年1月まで、雑誌「新宝石」において、作品の続編が連載された。


なお、「八つ墓村」が最初に刊行されたのは、1971年に角川文庫としての出版である。


横溝正史は、太平洋戦争(1941年ー1945年)時下に疎開した場所で、両親の出身地でもある岡山県での風土体験をベースにして、同県を舞台にした作品を発表しており、「八つ墓村」は、金田一耕助シリーズの「本陣殺人事件」や「獄門島」等と並び称される「岡山県もの」の代表作となっている。

また、山村における因習や祟り等の要素を含んだ同作品は、後世の推理小説に大きな影響を与えている。


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