日本の小学館から2019年に刊行されている 森見登美彦作「夜行」(小学館文庫)の表紙 (カバーデザイン:岡本歌織 <next door design> / カバーイラスト:ゆうこ) |
今回は、2024年1月に中央公論社から「シャーロック・ホームズの凱旋(The Triumphant Return of Sherlock Holmes → 2024年12月26日 / 12月27日 / 12月28日 / 12月29日付ブログで紹介済)」を出版した日本の小説家である森見登美彦(Tomihiko Morimi:1979年ー)が発表した「夜行(Night Train / Walking through the Night / Eternal Night)」について、紹介したい。
「夜行」は、2016年に小学館より単行本として刊行された後、加筆改稿の上、2019年に同社より文庫化されている。
今から10年前の秋、同じ英会話スクールに通っていた
(1)大橋(男性 / 当時、大学2回生)
(2)中井(男性 / 当時、修士課程の大学院生)
(3)武田(男性 / 当時、大学1回生)
(4)田辺(男性 / 最年長者)
(5)藤村(女性 / 当時、大学1回生)
(6)長谷川(女性 / 当時、大学2回生)
の6人の仲間達は、一緒に叡山電車に乗り、京都の「鞍馬の火祭」を見物に出かけた。その夜、仲間の一人である長谷川さんが、姿を消した。
関係者による努力も空しく、何一つ手掛かりは見つからなかった。長谷川は、まるで虚空に吸い込まれたかのように消えてしまったのである。
10年後の10月下旬、失踪した長谷川を除く5人が再度京都に集まり、「鞍馬の火祭」を観に行くことになった。皆、彼女のことを未だに忘れることができなかったからだった。
田辺は、仕事の都合で、少し遅れるということだったので、再会した大橋、中井、武田と藤村の4人は、改札を抜けて、叡山電車に乗り込むと、宿泊予定の貴船川沿いの宿へと向かう。
宿に到着して、田辺の到着を待ちながら、風呂に入ったりしているうちに、ぽつぽつと雨が降り出した。
遅れていた田辺が到着して、5人が猪鍋を囲む頃になると、降り注ぐ雨は一段と激しさを増す。
「鞍馬の火祭」が雨天延期になるのではないかと心配しつつ、夜が更けてゆく中、各人が旅先で出会った不思議な出来事を語り始めるのであった。
*第一夜:尾道(語り手:中井 / 時期:5年前の5月中旬の週末)
*第二夜:奥飛騨(語り手:武田 / 時期:4年前の秋)
*第三夜:津軽(語り手:藤村 / 時期:3年前の2月)
*第四夜:天竜峡(語り手:田辺 / 時期:2年前の春)
彼らは、旅の道中、岸田道生と言う銅版画家が制作した「夜行」と言う銅版画を目にしていた。
岸田道生は、東京の芸大を中退した後、英国の銅版画家に弟子入り。
日本への帰国後、郷里の京都市内にアトリエを構えるが、7年前の春に死去。
彼は、「尾道」、「伊勢」、「野辺山」、「奈良」、「会津」、「奥飛騨」、「松本」、「長崎」、「津軽」や「天竜峡」等、「夜行」と呼ばれる連作の銅版画を遺していた。
いずれの銅版画にも、目も口もなく、滑らかな白いマネキンのような顔を傾けている一人の女性が描かれており、天鵞絨(ビロード)のような黒い背景に、白い濃淡だけで描かれた風景は、永遠に続く夜を思わせた。
どうして、岸田道生は、連作の銅版画に、「夜行」と言うタイトルを付したのだろうか?
「夜行列車」の夜行か、あるいは、「百鬼夜行」の夜行なのか?
次第に雨が小降りになったため、5人は腰をあげると、「鞍馬の火祭」の見物へと向かう。
そして、彼らは、「最終夜:鞍馬」において、驚く経験をするのであった。
森見登美彦作「夜行」は、「シャーロック・ホームズの凱旋」とは異なり、推理小説ではなく、論理的な解決をする訳ではないが、個人的には、「シャーロック・ホームズの凱旋」よりも、出来は良いのではないかと思う。
「夜行」の文庫本には、「怪談 x 青春 x ファンタジー」と書かれているが、正直ベース、これらの分類は、どれも当てはまらないような気がする。個人的には、「幻想」小説と言った方が、一番近いのではないだろうか?
実際のところ、「シャーロック・ホームズの凱旋」の場合も、最終的には、論理的な解決ではなく、非現実的な解決を迎えているので、著者の作品群を見る限り、「ファンタジー」への傾向が強いと言える。
なお、「夜行」に付した英訳である「Night Train / Walking through the Night / Eternal Night」については、作品の内容を踏まえた上での筆者によるものである。
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