テイト・ブリテン美術館(Tate Britain → 2018年2月18日付ブログで紹介済)で購入した ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作「シャロット姫」(1888年)の絵葉書 Oil paint on canvas 153 cm x 200 cm Presented by Sir Henry Tate in 1894 |
アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1962年に発表したミス・マープルシリーズ作品の長編第8作目「鏡は横にひび割れて(Mirror Crack’d from Side to Side)」の題名は、ヴィクトリア朝時代に活躍した英国の詩人である初代テニスン男爵アルフレッド・テニスン(Alfred Tennyson, 1st Baron Tennyson:1809年ー1892年)による詩「シャロット姫(The Lady of Shalott → 2024年9月27日付ブログで紹介済)」をベースにしている。
英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている アガサ・クリスティー作ミス・ジェイン・マープルシリーズ 「鏡は横にひび割れて」のペーパーバック版の表紙 <イラスト:ビル・ブラッグ氏(Mr. Bill Bragg)> |
The mirror crack’d from side to side;
“The curse is come upon me,” cried
The Lady of Shalott.
織物はとびちり、ひろがれり
鏡は横にひび割れぬ
「ああ、呪いがわが身に」と、
シャロット姫は叫べり。
(橋本福夫訳)
シャロット姫(The Lady of Shalott)は、自身の部屋に幽閉され、外へ出ることができないことに加えて、自分の目で、直接、外の世界を見ることを禁じられた生活を送っていた。彼女には、自分の目で、直接、外の世界を見た場合、生きてはいられないと言う呪いがかかっていたのである。
彼女ができることは、鏡を通じて、外の世界を見るだけで、鏡に映ったものを、ひなが一日中、タペストリーへと織っているのであった。そのため、鏡に映る恋人達の姿を見たシャロット姫は、深く絶望した。
ある日、円卓の騎士の一人であるサー・ランスロット(Sir Lancelot)が愛馬に乗る姿を鏡越しに見たシャロット姫は、思わず、アーサー王(King Arthur)のキャメロット城(Camelot Castle)の方を自分の目で直接見てしまう。すると、すぐさま、恐ろしい呪いがシャロット姫に降りかかった。
嵐が吹き荒ぶ中、シャロット姫は、自身の部屋から脱出すると、舟に乗り、キャメロット城を目指す。死を目前にしたシャロット姫は、哀歌を歌う。
シャロット姫の亡骸は、キャメロット城の騎士達や貴婦人達に発見される。その中には、サー・ランスロットも居た。サー・ランスロットは、シャロット姫の魂を哀れんで、神に祈りを捧げるのであった。
英国の画家であるジョン・ウィリアム・ウォーターハウス(John William Waterhouse:1849年ー1917年)は、初代テニスン男爵アルフレッド・テニスンによる詩「シャロット姫」におけるクライマックスの場面を、1888年に「シャロット姫(The Lady of Shalott)」として描いている。
サー・ランスロットの愛を得られぬため、悲しみのあまり、死を選ぶ乙女を描いた同作品は、彼の最も有名な代表作となっている。
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスは、1888年の作品に加えて、シャロット姫を題材にした作品を他に2種類描いている。
*「ランスロットを見つめるシャロット姫」(1894年)
*「影の世界はもううんざりと、シャロット姫は言う」(1915年)
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作「シャロット姫」(1888年)には、自分の目で、直接、外の世界を見た場合、生きてはいられないと言う定めを破り、外の世界、特に、サー・ランスロットを見てしまったシャロット姫が、サー・ランスロットが居るキャメロット城を目指して、舟で向かうクライマックス場面が描かれており、細部の正確な描写と鮮やかな色彩を特徴としている。
嵐が吹き荒ぶ闇の中を出発したため、舟の舳先には、ランタンが掛けられている。
船首の手前には、イエス・キリスト磔刑像の十字架が置かれている。
また、十字架の近くには、3本の蝋燭が立てられているが、そのうちの2本は、既に火が消えている。蝋燭は「生命」の象徴であり、シャロット姫の死が間近であることを意味している。
シャロット姫が着る純白のドレスと舟にかけられた色鮮やかなタペストリーが、背後に迫る暗がりとの対比を際立たせているのである。
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