ジズソーパズル内の右側の窓の外の縁には、 ミス・マープルが節をつけて歌い出したマザーグースの童謡の中に出てくる 黒鶫(クロツグミ)がとまっている。- ジグソーパズル「アガサ・クリスティーの世界(The World of Agatha Christie)」の一部 |
アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1953年に発表したミス・マープルシリーズの長編第6作目「ポケットにライ麦を(A Pocket Full of Rye)」は、マザーグース(Mother Goose)の童謡の歌詞通りに、殺人事件が発生する「見立て殺人」をテーマにした作品である。
この童謡は「6ペンスの唄を歌おう(Sing a Song of Sixpence)」で、物語において、ミス・マープルがスコットランドヤードのニール警部(Inspector Neele)に対して歌って聞かせている。
なお、歌詞は以下の通り。
< 英語原詞 >
Sing a song of sixpence,
ポケットに ライ麦を
詰めて歌うは 街の唄
くろつぐみを二十四 パイに焼き
切って差出しゃ 鳴きいだす
お城料理の すばらしさ
王様お倉で 宝をかぞえ
女王は広間で パンに蜂蜜
若い腰元 庭へ出て
乾しに並べた お召もの
そこへ小鳥が 飛んできて
可愛いお鼻を 突っついた
「6ペンス(Sixpence)」は、イングランドにおいて、1551年から1970年まで鋳造された通貨である。
また、黒鶫<クロツグミ>(blackbird)は、スズメ目ツグミ科の鳥で、雄の場合、体が黒く、目の周りが黄色で、嘴も黄色い。ヨーロッパにおいて、黒鶫は「春の訪れを告げる鳥」として親しまれており、スウェーデンでは、国鳥に指定されている。
黒鶫(クロツグミ)が、 ジズソーパズルの右下にある蔓棚の上に、2羽留まっている。- ジグソーパズル「ミス・マープルの世界(The World of Miss Marple)」の一部 |
童謡「6ペンスの唄を歌おう」が、何を表現した歌なのか不明で、謎が多い。
そのため、その歌詞の意味やその成り立ちについては、以下の通り、諸説が存在している。
(1)「24羽の黒鶫」は「24時間」を、「王」は「太陽」を、そして、「女王」は「月」を表し、時間の流れを意味する唄と言う説
(2)「24羽の黒鶫」は「12世紀頃まで使われた古英語の24文字のラテンアルファベット」を、「パイに焼く」は「活字の植字」を表し、ラテン語の聖書を翻訳した英語訳の聖書の出版を祝う内容と言う説
ケンブリッジ大学創立800周年を記念して、 英国の児童文学作家 / イラストレーターであるクェンティン・ブレイクが描いた ヘンリー8世とキングスカレッジ合唱団の絵葉書 <筆者がケンブリッジのフィッツウィリアム博物館(Fitzwilliam Museum → 2024年7月20日 / 7月24日付ブログで紹介済)で購入> |
(3)「王」は、テューダー朝(House of Tudor)の第2代イングランド王である「ヘンリー8世(Henry VIII:1491年ー1547年 在位期間:1509年ー1547年)」を、「女王」は、ヘンリー8世の最初の王妃である「キャサリン・オブ・アラゴン(Catherine of Aragon:1487年ー1536年 結婚:1509年 / 離婚:1533年)」を、そして、「メイド」は、ヘンリー8世の2番目の王妃である「アン・ブーリン(Anne Boleyn:1501年頃ー1536年 結婚:1533年 / 離婚:1536年)」を指し、ローマ教皇と争い、英国国教会を独立させた後、教皇庁の支配下にあった数百の修道院を解体の上、その財産を没収して蓄財していたヘンリー8世への当て付けの唄と解釈する説 - この場合、「パイで焼かれた黒鶫」が「ヘンリー8世によって解体された修道院の修道士」を表すことになる。
ナショナルポートレートギャラリーで販売されている アン・ブーリンの肖像画の葉書 (Unknown artist / 1535 - 1536年頃 / Oil on panel 543 mm x 416 mm) |
<1>
(王様お倉で 宝をかぞえ)
ビル・ブラッグ氏(Mr. Bill Bragg)が描く ミス・マープルシリーズの長編第6作目である 「ポケットにライ麦を」の一場面 |
投資信託会社の社長であるレックス・フォーテスキュー(Rex Fortescue)が、オフィスにおいて、朝の紅茶を飲んだ後、急逝する。
彼は、当日の朝、サリー州(Surrey)ベイドンヒース(Baydon Heath)にあるフォーテスキュー家の邸宅イチイ荘(Yewtree Lodge)において、「ベーコン、煎り卵(スクランブルエッグ)、マーマレード付きのトーストとコーヒー」の朝食をとったが、彼が食べたマーマレードの瓶(marmalade jar)の中に、イチイの木(yew tree)から抽出された毒性のアルカロイド(toxic alkaloid)であるタキシン(taxine)が、何者かによって、混入されていたのである。
マーマレードの瓶が、ジズソーパズルの左下に立つ ドリー・バントリー(Mrs. Dolly Bantry → 2024年8月14日付ブログで紹介済)と 夫のアーサー・バントリー大佐(Colonel Arthur Bantry → 2024年8月14日付ブログで紹介済)の 右手前にあるテーブルの上、左端近くに置かれている。- ジグソーパズル「ミス・マープルの世界」の一部 |
タキシンが仕込まれたマーマレードの瓶は、イチイ荘の庭にある植え込みの中から発見される。何者かが、タキシンが仕込まれたマーマレードの瓶をハンカチに包んで、裏窓から外へ放ったと思われた。その代わりに、タキシンが仕込まれていないマーマレードの瓶が、元の場所に戻されていたのである。
<2>
(女王は広間で パンに蜂蜜)
スコーンと蜂蜜が載った皿が、 ジズソーパズルの左下に立つドリー・バントリーと夫のアーサー・バントリー大佐の 右手前にあるテーブルの上、一番右端に置かれている。- ジグソーパズル「ミス・マープルの世界」の一部 |
タキシンで毒殺されたレックス・フォーテスキューの次男であるランスロット・ フォーテスキュー(Lancelot Fortescue - 愛称:ランス(Lance))がフォーテスキュー家の邸宅であるイチイ荘に到着した後、図書室において、彼は、アディール・フォーテスキュー(Adele Fortescue:レックス・フォーテスキューの後妻)、ジェニファー・フォーテスキュー(Jennifer Fortescue:レックス・フォーテスキューの長男であるパーシヴァル・フォーテスキュー(Percival Fortescue)の妻)とエレイヌ・フォーテスキュー(Elaine Fortescue:レックス・フォーテスキューの娘)の3人と一緒に、午後のお茶をとる。
暫くして、ランスロット・ フォーテスキューは、エフィー・ラムズボトム(Miss Effie Ramsbottom:レックス・フォーテスキューの先妻であるエルヴァイラ(Elvira)の姉)に挨拶をするため、また、ジェニファー・フォーテスキューは、手紙の続きを書くために、図書室を後にする。その後、エレイヌ・フォーテスキューも、図書室を去る。
午後6時少し前に、フォーテスキュー家の家政婦であるメアリー・ダヴ(Mary Dove)が図書室の様子を見に行ったところ、アディール・フォーテスキューが、ソファーのクッションに首を埋めたまま、死んでいるのが発見される。食べかけのスコーンが、蜂蜜を塗ったまま、彼女の側におちていた。半分残っていた紅茶を調べたところ、シアン化合物(青酸カリ(cyanide))が仕込まれていたのである。
<3>
(若い腰元 庭へ出て
乾しに並べた お召もの
そこへ小鳥が 飛んできて
可愛いお鼻を 突っついた)
ジズソーパズル内の左側の窓の手前の床には、 3番目の被害者となるメイドのグラディス・マーティンの鼻を挟んでいた 洗濯バサミが落ちている。- ジグソーパズル「アガサ・クリスティーの世界」の一部 |
アディール・フォーテスキューが紅茶に混入されたシアン化合物(青酸カリ)で毒殺された数時間後、フォーテスキュー家のメイドであるグラディス・マーティン(Gladys Martin)の絞殺死体が、庭で発見される。何故か、彼女の鼻は、洗濯バサミ(clothes peg)で挟まれていたのである。
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