アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)によるミス・マープルシリーズの長編第6作目「ポケットにライ麦を(A Pocket Full of Rye)」(1953年)の場合、ロンドンにある投資信託会社の社長であるレックス・フォーテスキュー(Rex Fortescue)が、オフィスにおいて、朝の紅茶を飲んだ後、急逝したため、スコットランドヤードのニール警部(Inspector Neele)が、捜査に入るところから、物語が始まる。
検死解剖の結果、レックス・フォーテスキューの体内から、イチイの木(yew tree)から抽出される毒性のアルカロイド(toxic alkaloid)であるタキシン(taxine)が見つかり、死因は、タキシンによる中毒であることが判明した。レックス・フォーテスキューは、朝食でとったマーマレードと一緒に、タキシンを摂取したものと思われた。
更に、レックス・フォーテスキューの着衣を調べたところ、不思議なことに、上着のポケットから、大量のライ麦(rye)が出てきたのである。
レックス・フォーテスキュー社長が急死した際、タイピスト室の主任であるミス・グリフィス(Miss Griffith - 16年勤務)が給仕を呼んで、「誰でもいいから、近所の医者を連れて欲しい。」と言い付けた。
一方、レックス・フォーテスキュー社長の個人用アドレス帳には、かかりつけの医者として、ハーリーストリート(Harley Street → 2015年4月11日付ブログで紹介済)のサー・エドウィン・サンドマンの名前が出ていた。
ベスナルグリーンガーデンズ内で見かけた栗鼠(その1) |
「すこし経って、自動車が二台、ビルディングの前にとまって、ベスナル・グリーンのアイザック博士とエドウィン・サンドマン卿がエレベーターのなかでばったり出逢った。一人は電話で呼ばれ、一人は給仕が探しだしてきたのだった。」(宇野利泰訳)
ベスナルグリーンガーデンズ内で見かけた栗鼠(その2) |
このことから、レックス・フォーテスキューが社長を務める投資信託会社は、ベスナルグリーン地区(Bethnal Green)内、もしくは、当地区の近辺に所在していると推定される。
V&A 子供博物館の正面玄関(その1) |
ベスナルグリーン地区は、ロンドンの特別区であるタワーハムレッツ区(London Borough of Tower Hamlets)内にあり、ロンドン東部のイーストエンド(East End)の一部である。地理的に言うと、ベスナルグリーン地区は、シティー・オブ・ロンドン(City of London → 2018年8月4日 / 8月11日付ブログで紹介済)の北東方向に位置している。
V&A 子供博物館の正面玄関(その2) |
ベスナルグリーン地区は、小さな集落から次第に発展して、その場所の大部分は、現在、同地区を南北に縦断するケンブリッジヒースロード(Cambridge Heath Road)と東西に延びるローマンロード(Roman Road)が交差する南東部分に所在するベスナルグリーンガーデンズ(Bethnal Green Gardens)として残っている。
その後、田園地帯として発展したベスナルグリーン地区は、教区(Parish)、メトロポリタン自治区(Metropolitan Borough)となり、最終的には、近隣地域と合併して、ロンドンの特別区であるタワーハムレッツ区の北西部となった。
V&A 子供博物館の正面玄関(その3) |
ケンブリッジヒースロードとローマンロードが交差する北東部分には、ヴィクトリア&アルバート博物館(Victoria and Albert Museum)の文官である V&A 子供博物館(V&A Museum of Childhood)が建っている。
同博物館は、2023年に Young V&A へ名前を改称して、建物の改修後、リニューアル開館している。
V&A 子供博物館の正面と左側面 |
筆者の個人的な所見で言うと、ベスナルグリーン地区は、シティー・オブ・ロンドンのの北東方向に位置しているものの、現在、オフィス街や高級住宅街ではなく、また、治安が非常に良い地区とも決して言えない。
従って、レックス・フォーテスキューが社長を務める投資信託会社が、ベスナルグリーン地区内、もしくは、当地区の近辺に所在していると言うことには、個人的には、やや違和感がある。
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