2022年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された アガサ・クリスティー作「アクロイド殺し」の 愛蔵版(ハードカバー版)の表紙 (Cover design by Holly Macdonald / Illustrations by Shutterstock.com) |
アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1926年に発表した「アクロイド殺し(The Murder of Roger Ackroyd)」について、英国の HarperCollinsPublishers 社から、2022年に愛蔵版(ハードバック版)が出版されているので、紹介致したい。
アガサ・クリスティーの孫に該るマシュー・プリチャード(Mathew Prichard:1943年ー)が序文を寄せ、その中で、彼は、(1)本作品の「語り手」となるジェイムズ・シェパード医師(Dr. James Sheppard)について、結婚して、アルゼンチンへと移住してしまったアーサー・ヘイスティングス大尉(Captain Arthur Hastings)の役割を代わりに果たしていること、また、ジェイムズ・シェパード医師の噂好きな姉であるキャロライン・シェパード(Caroline Sheppard)に関して、「書斎の死体(The Body in the Library)」(1942年)で初登場するミス・ジェイン・マープルのモデルであること等を述べている。
「アクロイド殺し」は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第6作目に、そして、エルキュール・ポワロシリーズの長編としては、第3作目に該っている。
本作品の場合、元々、1925年7月16日から同年9月16日にかけて、「ロンドン イーヴニング ニュース(London Evening News)」紙上、「Who Killed Ackroyd?」というタイトルで、54話の連載小説として掲載され、その後、1冊の書籍として刊行された。
本作品の発表前の段階で、アガサ・クリスティーは、
(1)長編「スタイルズ荘の怪事件(The Mysterious Affairs at Styles)」(1920年):エルキュール・ポワロシリーズ第1作目
(2)長編「秘密機関(The Secret Adversary)」:トマス・ベレズフォード(Thomas Beresford - 愛称:トミー(Tommy))/ プルーデンス・カウリー(Prudence Cowley - 愛称:タペンス(Tuppence)シリーズ第1作目
(3)長編「ゴルフ場殺人事件(The Murder on the Links)」(1923年):エルキュール・ポワロシリーズ第2作目
(4)長編「茶色の服の男(The Man in the Brown Suit)」(1924年)
(5)短編集「ポワロ登場(Poirot Investigates)」(1925年)
(6)長編「チムニーズ館の秘密(The Secret of Chimneys)」(1925年)
長編5作と短編集1作を既に発表していたが、推理作家としての彼女の知名度は、今ひとつだった。しかしながら、彼女の長編第6作目に該る「アクロイド殺し」のフェア・アンフェア論争により、アガサ・クリスティーの知名度は大きく高まり、ベストセラー作家の仲間入りを果たした。
2022年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された アガサ・クリスティー作「アクロイド殺し」の 愛蔵版(ハードカバー版)の扉絵 - エルキュール・ポワロのトレードマークとなっている 帽子が描かれている。 |
一方で、同年、アガサ・クリスティーは、最愛の母親を亡くしたことに加えて、夫であるアーチボルド・クリスティー(Archibald Christie:1889年ー1962年)に、別に恋人が居ることが判明して、精神的に不安定な状態にあった。
当時、ロンドン近郊の田園都市であるサニングデール(Sunningdale)に住んでいたアガサ・クリスティーは、同年(1926年)12月3日、住み込みのメイドに対して、行き先を告げず、「外出する。」と伝えると、当時珍しかった自動車を自分で運転して、自宅を出たまま、行方不明となってしまう。
「アクロイド殺し」がベストセラー化したことにより、有名人となった彼女の失踪事件は、世間の興味を非常に掻き立てた。警察は、彼女の行方を探すとともに、彼女が事件に巻き込まれた可能性も視野に入れて、捜査を進め、夫のアーチボルドも疑われることになった。マスコミは格好のネタに飛び付き、シャーロック・ホームズシリーズの作者であるサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-193年)やピーター・デス・ブリードン・ウィムジイ卿(Lord Peter Death Bredon Wimsey)シリーズの作者であるドロシー・L・セイヤーズ(Dorothy Leigh Sayers:1893年ー1957年)等が、マスコミから求められて、コメントを出している。
11日後、彼女は、保養地(Harrogate)のホテル(The Swan Hydropathic Hotel)に別人(夫アーチボルドの愛人であるナンシー・ニール(Nancy Neele)と同じ姓のテレサ・ニール(Teresa Neele))の名義で宿泊していたことが判り、保護された。
上記の通り、1926年に、アガサ・クリスティーは、キャリア面において、ベストセラー作家の仲間入りを果たすとともに、プライベート面においても、失踪事件を起こして、世間からの脚光を浴びてしまうことになったのである。
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