サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia → 2022年12月18日 / 2023年8月6日 / 8月9日 / 8月19付ブログで紹介済)」をベースにして、英国のグラナダテレビ(Granada Television Limited)が制作した「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1984年ー1994年)の第1エピソード(通算では第1話)である「ボヘミアの醜聞」について、原作とは異なる部分がいくつか存在するので、引き続き、紹介したい。
(1)
<原作>
1888年3月20日の夜、ボヘミア国王(King of Bohemia)のカッセル・フェルシュタイン大公ウィルヘルム・ゴッツライヒ・ジギスモント・フォン・オルムシュタイン(Wilhelm Gottsreich Sigismond von Ormstein, Grand Duke of Cassel-Felstein)から、5年前、王太子だった彼が秘密裡に交際していたアイリーン・アドラー(Irene Adler)と一緒に撮影した写真を取り戻す依頼を引き受けたシャーロック・ホームズは、馬丁(groom)に変装すると、翌朝の8時過ぎに、セントジョンズウッド地区(St. John’s Woood → 2014年8月17日付ブログで紹介済)サーペンタインアベニュー(Serpentine Avenue)にあるブライオニーロッジ(Briony Lodge)へと向かった。ボヘミア国王によると、アイリーン・アドラーは、そこに住んでいる、とのことだった。
馬丁に変装したホームズが、ブライオニーロッジを見張ったり、周辺で情報を収集したところ、インナーテンプル(Inner Temple → 2014年8月25日付ブログで紹介済)の弁護士であるゴドフリー・ノートン(Godfrey Norton)と言う男性が、毎日、アイリーン・アドラーの元を訪れていることを知る。
<英国 TV 版>
基本的に、原作通りの展開であるが、ホームズは、アイリーン・アドラーが住むブライオニーロッジの使用人として採用されることまで成功している。
(2)
<原作>
ホームズが、引き続き、ブライオニーロッジを見張っていると、アイリーン・アドラーの元を訪れたゴドフリー・ノートンが、30分程して出て来て、馬車を拾うと、エッジウェアロード(Edgware Road → 2016年1月30日付ブログで紹介済)にあるセントモニカ教会(Church of St. Monica → 2014年8月24日付ブログで紹介済)へと走り去った。
続いて、アイリーン・アドラーもブライオニーロッジから姿を現わすと、馬車を呼び止めて、行き先として、セントモニカ教会の名前を告げた。
ホームズも、お金を奮発して、馬車で2人の後を追った。
ゴドフリー・ノートンがセントモニカ教会へ向かう際、馬車の御者に対して、「Drive like the devil, first to Gross & Hankey’s in Regent Street, and then to the Church of St. Monica in the Edgeware Road. Half a guinea if you do it in twenty minutes!」と叫んでいる。つまり、ゴドフリー・ノートンは、セントモニカ教会へ直行するのではなく、リージェントストリート(Regent Street)にある店経由で、向かっている。
<英国 TV 版>
ゴドフリー・ノートンがセントモニカ教会へ向かう際、馬車の御者に対して、「Drive like the devil, Church of St. Monica, Edgware Road. I must arrive before twelve. Half a guinea if you do it.」と声をかけている。つまり、原作とは異なり、ゴドフリー・ノートンは、セントモニカ教会へ直行しているのである。
(3)
<原作>
馬丁の変装を解き、牧師に変装し直したホームズは、ジョン・H・ワトスンを伴い、午後6時15分にベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)を出ると、ブライオニーロッジへと出発した。
ホームズとワトスンの2人が、ブライオニーロッジの前を行ったり来たりしていると、アイリーン・アドラーが馬車で戻って来た。彼女が馬車から降りようとした際、ブライオニーロッジの前でたむろしていて、彼女から小銭をせびろうとした浮浪者(loafing men / loafers)、衛兵(guardsmen)やハサミ研ぎ職人(scissors-grinder)の間で、喧嘩が勃発した。
彼らが喧嘩している現場の真っ只中に居て、巻き込まれそうになったアイリーン・アドラーを、牧師に変装したホームズが助けようとして、負傷を被ることになる。アイリーン・アドラーの指示により、顔から大量の血を流して倒れたホームズは、ブライオニーロッジ内へと運び込まれた。
ブライオニーロッジの居間で、負傷した牧師姿のホームズを介抱しようとするのは、アイリーン・アドラーのみである。
<英国 TV 版>
ブライオニーロッジの居間で、負傷した牧師姿のホームズを介抱しようと、アイリーン・アドラーの他に、彼女の使用人であるウィラード夫人(Mrs. Willard)も加わっている。
(4)
<原作>
これらの一部始終を見守っていたワトスンは、ホームズからの事前の指示通り、ホームズからの合図を受けて、発煙筒(rocket)をブライオニーロッジ内へ放り込んだ。そして、彼は、周囲に居た野次馬達と一緒に、「火事だ!」と叫ぶ。
外から聞こえた「火事だ!」と言う叫び声、そして、ブライオニーロッジ内に立ち込めた煙を目撃したアイリーン・アドラーは、咄嗟に問題の写真を取り出そうとして、近くに居た牧師姿のホームズに、その隠し場所を知られてしまった。
ブライオニーロッジ前で勃発した喧嘩、牧師に変装したホームズの負傷、更に、ブライオニーロッジの外で「火事だ!」と叫んだ野次馬達は、ホームズがアイリーン・アドラー宅内へと潜入するためのお芝居であり、全て、ホームズが手配していたのである。
ブライオニーロッジから逃げ出した牧師姿のホームズとワトスンの2人は、エッジウェアロード(Edgware Road → 2016年1月30日付ブログで紹介済)経由、ベイカーストリート221Bへと、徒歩で帰宅している。
<英国 TV 版>
ブライオニーロッジから逃げ出した牧師姿のホームズとワトスンの2人は、ベイカーストリート221Bへと、馬車で帰宅している。
(5)
<原作>
ブライオニーロッジから逃げ出した牧師姿のホームズとワトスンの2人を付けて来た青年姿のアイリーン・アドラーも、徒歩で後を追って来たものと考えられる。
<英国 TV 版>
青年姿に変装したアイリーン・アドラーも、馬車で、ブライオニーロッジから逃げ出した牧師姿のホームズとワトスンの2人を追って来ている。
(6)
<原作>
翌朝、ブライオニーロッジを訪れたホームズ、ワトスンとボヘミア国王の3人に応対したのは、「an elderly woman」とだけ記されている。
<英国 TV 版>
翌朝、ブライオニーロッジを訪れたホームズ、ワトスンとボヘミア国王の3人に応対したのは、アイリーン・アドラーの使用人であるウィラード夫人である。
(7)
<原作>
ホームズが隠し場所を調べたところ、そこには、「アイリーン・アドラー自身の写真」と「ホームズ宛の手紙」しか、なかった。
「ボヘミア国王とアイリーン・アドラーの2人が一緒に撮影された写真」について、アイリーン・アドラーは、「I keep it only to safeguard myself, and to preserve a weapon which will always secure me from any steps which he might take in the future.」と、ホームズ宛の手紙に記して、自分の身を守るために使用するつもりであることを示している。
<英国 TV 版>
アイリーン・アドラーは、ゴドフリー・ノートンが見守る中、英国を離れる船上から、ボヘミア国王と一緒に撮影した写真を、海へと投げ捨てる場面が挿入されている。
(8)
<原作>
ボヘミア国王は、報酬として、自分の指輪を渡そうとしたが、ホームズは、それを辞退して、その代わりに、アイリーン・アドラーの写真を貰い受けたところで、この物語は、終わりを迎える。
<英国 TV 版>
原作に加えて、ホームズが、ベイカーストリート221Bの部屋において、アイリーン・アドラーのことを思って、ヴァイオリンを弾く場面で、この物語は、終わりを迎えるのである。
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