2023年9月22日金曜日

映画「名探偵ポワロ:ヴェネチアの亡霊」(A Haunting in Venice)- その3

イタリアのヴェネツィアの運河に浮かぶゴンドラの上に、
サー・ケネス・ブラナーが演じる名探偵エルキュール・ポワロが立っている。
<筆者撮影>


英国の俳優 / 映画監督 / 脚本家 / プロデューサーであるサー・ケネス・ブラナー(Sir Kenneth Branagh:1960年ー)が監督と主演を務め、2023年9月15日に公開された映画「名探偵ポワロ:ヴェネチアの亡霊(A Haunting in Venice)」のストーリーは、アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1969年に発表したエルキュール・ポワロシリーズの長編「ハロウィーンパーティー(Hallowe’en Party)」をベースにしているが、原作の内容とは、大きく異なっているので、引き続き紹介したい。


(4)

イタリアのヴェネツィア(Venice)にある元オペラ歌手のロウィーナ・ドレイク(Rowena Drake)の屋敷において、大勢の子供達を招いたハロウィーンパーティーが終わった。その後、「私は、死者の声を話せる。」と断言する謎めいた霊能者のジョイス・レイノルズ(Joyce Reynolds)による降霊会(seance)が開催されることになった。

超常現象を全否定するエルキュール・ポワロは、降霊会に参加して、霊能者ジョイス・レイノルズのトリックを見破ることになった。


<注9>

原作の場合、このような展開はない。

ロウィーナ・ドレイクについては、原作の場合、ルウェリン=スマイス夫人(Mrs. Llewellyn-Smythe - 富豪の未亡人)の姪で、ウッドリーコモン(Woodleigh Common)の中心的な存在である。なお、子供は居ない。一方、映画版の場合、元オペラ歌手で、アリシアと言う娘が居たと言う設定に変更されている。


(5)

霊能者のジョイス・レイノルズが開催した降霊会に参加したポワロは、彼女がロウィーナ・ドレイクの娘アリシア・ドレイク(Alicia Drake)の声で「自分はバルコニーから投げ落とされた」ことを話し始める前に、煙突内に隠れていたアシスタントの2人である姉のデズデモーナ・ホーランド(Desdemona Holland)と弟のニコラス・ホーランド(Nicholas Holland)を見つけ出して、降霊会の参加者達に明らかにした。


<注10>

映画版のデズデモーナ・ホーランド(姉)は、原作の場合、デズモンド・ホーランド(Desmond Holland)と言う名前で、 ロウィーナ・ドレイクが催したハロウィーンパーティーに参加した16歳の少年である。また、映画版のニコラス・ホーランド(弟)は、原作の場合、ニコラス・ランサム(Nicholas Ransom)と言う名前で、 ロウィーナ・ドレイクが催したハロウィーンパーティーに参加した18歳の少年である。


(6)

ポワロに降霊会のトリックを見破られたため、アリシア・ドレイクをバルコニーから投げ落とした人物の名前を特定することができなかったジョイス・レイノルズは、降霊会を中止せざるを得なかった。

ジョイス・レイノルズは、後にバルコニーから転落して、中庭の像に身体を串刺しにされて、死亡する。


<注11>

原作の場合、ジョイス・レイノルズは、ウッドリーコモンに住む13歳の少女で、ロウィーナ・ドレイクの家で開催されたハロウィーンパーティーの準備をしている際に、「以前、殺人事件を見たことがある。」と言い出す。そして、ハロウィーンパーティーが終わった後、ロウィーナ・ドレイクの家の図書室において、リンゴが浮かべられたバケツに頭を入れた溺死体で発見される。


(7)

嵐が近づき、ロウィーナ・ドレイクの屋敷が外界から孤立する中、ポワロは、屋敷の玄関扉を閉ざすと、降霊会に参加した面々の尋問を開始する。

元軍医で、現在は、ドレイク家の主治医を務めているレスリー・フェリアー医師(Dr. Leslie Ferrier)の息子であるレオポルド・フェリアー(Leopold Ferrier - 10歳)は、ポワロに対して、「黒死病(ペスト)がヴェネツィアを襲った際、この屋敷内に閉じ込められて亡くなった子供達の亡霊の声が聞こえる。」と告げる。

それに呼応するように、ポワロも、1年前に亡くなったアリシア・ドレイクの亡霊を何度も見かけるようになった。そして、ハロウィーンパーティーの後、そのまま残されていた洗面器に入った水に浮かべられていたリンゴを、ポワロが口で咥えて持ち上げようとしていた際、黒い覆いを被った何者かによって、突然、背後から顔を洗面器の水の中に押し付けられて、危うく殺されそうになった。


<注12>

原作とは大きく異なり、次第にオカルトめいた場面が増えてくる。

レオポルド・フェリアーは、原作の場合、ロウィーナ・ドレイクの家の図書室において、リンゴが浮かべられたバケツに頭を入れた溺死体で発見されたジョイス・レイノルズの弟(レオポルド・レイノルズ / Leopold Reynolds)で、何故か、金回りが良くなっていた彼も、後に何者かに殺害される。一方、映画版の場合、レスリー・フェリアー医師の10歳の息で、非常に賢く、父親想いで、子供ながらに、精神的に不安定な父親を一所懸命支えていると言う設定に変更されている。


(8)

降霊会に参加した面々を尋問する過程で、ポワロは、旧友のミステリー作家であるアリアドニ・オリヴァー(Ariadne Oliver)と元警察官で、現在は、ポワロのボディーガードを務めるヴィターレ・ポルトフォリオ(Vitale Portfoglio)の2人も、降霊会のトリックに深く関与していたことを明らかにする。

ヴィターレ・ポルトフォリオは、ジョイス・レイノルズに対して、アリシア・ドレイクが亡くなった事件の情報を渡していたのである。一方、アリアドニ・オリヴァーは、ポワロが降霊会のトリックを見破ることができないものと期待しており、このことを自分の次の推理小説に使おうとしていた。何故かと言うと、彼女が直近で出版した3作の評判が今一つで、次回作でなんとかそれから脱却したいと考えていたのである。


<注13>

当然のことながら、原作の場合、このような展開はない。

アリアドニ・オリヴァーについては、原作と映画版で、人物設定自体の差異はないが、原作では、映画版のように、ポワロを落とし入れるようなことはしない。

また、ヴィターレ・ポルトフォリオに関しては、原作上、登場していない。


(9)

そんな最中、レスリー・フェリアー医師が、ロウィーナ・ドレイクの屋敷内にある音楽室において、背中から刺されて、死亡しているのが発見される。

精神的に不安定な彼は、マキシム・ジェラード(Maxime Gerard - 若きシェフで、亡くなったアリシア・ドレイクと婚約していた)と諍いになり、マキシム・ジェラードを殴りつけて、怪我を負わせたため、気持ちが落ち着くまでの間、音楽室に閉じ込めていたのである。しかも、音楽室の鍵は、ポワロ自身が保管していたのであった。


<注14>

レスリー・フェリアー医師については、原作の場合、ウッドリーコモンにある法律事務所の事務員として働いていたが、何者かに背中を刺されて死亡している。一方、映画版の場合、軍医として従軍した結果、心を病み、ロウィーナ・ドレイクに請われて、現在は、ドレイク家の主治医を務めていると言う設定に変更されている。


(10)

果たして、ジョイス・レイノルズの転落死は、事故なのか、それとも、殺人なのか?

また、密室状況でレスリー・フェリアー医師を殺害したのは、人間なのか、それとも、謎めいたロウィーナ・ドレイクの屋敷内に巣食う亡霊なのか?

更に、1年前に起きたアリシア・ドレイクの死は、ヴェネツィア警察が判断を下した通りの自殺なのか、それとも、殺人なのか?

ポワロが何度も目撃するようになったアリシア・ドレイクの亡霊は、本当に存在しているのか?


水上の都市ヴェネツィアを舞台にして、名探偵ポワロが、超常現象の謎に挑む。


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