2022年9月17日土曜日

ポール・W・ナッシュ作「シャーロック・ホームズの遺稿」(The Remains of Sherlock Holmes by Paul W. Nash) - その5

英国の Strawberry Books 社から2011年に出版された
ポール・W・ナッシュ作「シャーロック・ホームズの遺稿」の
カバーを外した本体の表紙(ハードカバー版)
(Dust-jacket design by Armand Dill /
Wood^engraving by Paul W. Nash)

読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆☆半(3.5)


いかにもサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)による原作としても通用しそうな事件をちりばめつつ、「サリー州の巨人の冒険(The Adventure of The Surrey Giant)」や「ドリアン・グレイの謎(The Mystery of Dorian Gray)」といったスケールの大きな謎も加えて、短編集全体のバランスをうまくとっていると思う。


(2)物語の展開について ☆☆☆☆(4.0)


事件によっては、最初の展開の必要性に疑問符が付く短編があるものの、全体的には、うまく流れている。

特に、「シャーロック・ホームズの遺稿(The Remains of Sherlock Holmes)」においては、コナン・ドイル原作の「赤毛組合(The Red-Headed League)」が大きく関わってくるストーリーになっていて、まあまあ面白い。

ただ、物語の最後に衝撃の展開となるが、シャーロック・ホームズにとって本当に最後の事件と言うには、やや唐突な印象を否めない。


(3)ホームズ / ワトスンの活躍について ☆☆☆☆(4.0)


全編を通して、コナン・ドイルの原作に比べ、ホームズは、読者に対して、より判りやすく合理的な推理を披露している。

特に、「ドリアン・グレイの謎」においては、オスカー・フィンガル・オフラハティ・ウィルス・ワイルド(Oscar Fingal O'Flahertie Wills Wilde:1854年ー1900年)による原作「ドリアン・グレイの肖像(The Picture of Dorian Gray)」(1890年)のようなホラー的な要素を全て排除して、非常に理論的かつ合理的な解決に導いていて、興味深い。


(4)総合評価 ☆☆☆☆(4.0)


今まで読んできたホームズのパスティーシュ作品のほとんどが長編ものであったが、余程面白い題材でない限りは、一つのテーマで最初から最後までずーっと長く話を展開していくのは、正直ベース、非常に難しく感じた。そういった意味では、ホームズ作品は、長編よりも、短編や中編に向いているのではないかと思われる。

本短編集は、一部を除き、うまくまとまっていて、割合と好印象。特に、「ドリアン・グレイの謎」については、短編ではなく、逆に、もう少し長い話で読んでみたい。



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