英国の作家であるミシェル・バークビー(Michelle Birkby)作の長編「ベイカー街の女たち(The House at Baker Street → 2025年3月30日 / 4月2日 / 4月10日 / 4月26日付ブログで紹介済)」(2016年)の場合、他のパスティーシュとは異なり、シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンではなく、2人が下宿するベーカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)の家主であるハドスン夫人(Mrs. Hudson)と呼ばれているマーサ・ハドスン(Martha Hudson)と、「四つの署名(The Sign of the Four → 2017年8月12日付ブログで紹介済)を経てワトスン夫人(Mrs. Watson)となったメアリー・ワトスン(Mary Watson)の2人が主人公となり、ホームズとワトスンは脇役へとまわる。
なお、ハドスン夫人のファーストネームが「マーサ」となっているのは、コナン・ドイル作「最後の挨拶(His Last Bow → 2021年6月3日付ブログで紹介済)」に登場する老婦人のマーサは、ハドスン夫人であると言う作者ミシェル・バークビーによる想定に基づいている。
マーサ・ハドスンとメアリー・ワトスンは、ホームズの元を訪れるものの、相談内容の詳細を明らかにできなかったため、依頼を断られてしまったローラ・シャーリー(Mrs. Laura Shirley)に対して、手を差し伸べるところから、物語が動き出す。
マーサ・ハドスンとメアリー・ワトスンの2人は、ホームズとは異なり、事件捜査の専門家ではないものの、ホームズの捜査手法をある程度理解しているので、
*ベーカーストリート不正規隊(Baker Street Irregulars)のリーダーであるウィギンズ(Wiggins)
*ベーカーストリート221B の給仕であるビリー(Billy)
*ホームズが「あの女性(ひと)」と呼ぶアイリーン・ノートン(Irene Norton - 旧姓:アドラー(Adler))
のサポートを受けつつ、調べを進めていく。
そして、最後に、彼女達は、事件の背後に潜む強請屋(ゆすりや)の正体を明らかにする。犯人の強請屋は、自分の立場を使って得た情報を利用して、金銭目的ではなく、自分の支配力を誇示したいがために、大勢の女性を食い物にしていた上に、自分の正体を知る人物達を殺害までしていたのである。
犯人に強請られていたのが、ローラ・シャーリー一人ではないと考えたマーサ・ハドスンとメアリー・ワトスンの2人は、ウィギンズとビリーから、ホワイトチャペル地区(Whitechapel)に住む「ホワイトチャペルレディー(Whitechapel Lady)」と呼ばれる貴婦人の存在を知り、彼女の元を訪れる。
ウィギンズとビリーによると、「ホワイトチャペルレディー」は、身を落として、場末であるイーストエンド(East End)に流れ着いたのではなく、上流階級の奥方で、誰でも診察してくれる無料の診療所を開いたり、薬や食べ物を渡す等の慈善活動を行っている、とのこと。
ウィギンズとビリーの2人は、更に、「ホワイトチャペルレディー」について、
*夜でも、日曜日でも、ホワイトチャペル地区から外へは一歩も出ない。
*黒いヴェールでいつも顔を覆っていて、表情が見えない。
*誰にも名前を明かさない。
と告げ、「顔も名前もない人なんです。」(駒月 雅子訳)と付け加えた。
サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「覆面の下宿人(The Veiled Lodger)」には、「ホワイトチャペルレディー(Whitechapel Lady)」と呼ばれる貴婦人のように、顔をヴェールで隠した婦人が登場する。
「覆面の下宿人」は、シャーロック・ホームズシリーズの短編小説56作のうち、55番目に発表された作品で、英国の「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1927年2月号に、また、米国の「リバティー(Liberty)」の1927年1月22日号に掲載された。
同作品は、同年の1927年に発行されたホームズシリーズの第5短編集「シャーロック・ホームズの事件簿(The Case-Book of Sherlock Holmes)」に収録されている。

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