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英国の Pam Macmillan 社から2016年に出版された ミシェル・バークビー作「ベイカー街の女たち」の ペーパーバック版の裏表紙 (Cover Images : Stephen Mulcahey / Arcangel, Bjanka Kadic / Getty Images & Shutterstock) |
19歳のミス・マーサ・グレイ(Miss Martha Grey)は、おっとりとした飾らない性格で、退屈な気分を持て余していた。そんな時、彼女は、軍服に身を包んだ背の高いハンサムなヘクター・ハドスン(Hector Hudson)に出会う。2人は、お互いに一目惚れだった。そして、僅か1週間のうちに、マーサ・グレイは、ヘクター・ハドスンから結婚の申し込みを受けた。
マーサ・グレイとヘクター・ハドスンの2人は直ぐに結婚したが、半年後、兵士であるヘクター・ハドスンは、マーサ・ハドスンが見たことも聞いたこともない土地の戦場で、命を落とした。お腹に赤ちゃんが居るマーサを残したまま。
不幸中の幸いに、戦死したヘクター・ハドスンは、ロンドンに数件の家を所有しており、それらの物件が全てマーサに遺されたため、彼女が生活に困ることはなかった。なお、それらの物件の中には、ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)の家も含まれていたのである。
無事、男の子を出産したマーサ・ハドスンは、息子と一緒に、田舎暮らしを続けたが、不幸なことは更に続いた。彼女の息子も早逝してしまったのである。
夫と息子を失ったマーサ・ハドスンは、田舎からロンドンへと移り住み、下宿の家主として、自分が所有する物件全てを管理すると、下宿人達の世話に精を出した。
年齢を重ねるに従い、ロンドン内に所有する物件を少しずつ処分した結果、最後に1軒だけが残る。それが、ベイカーストリート221B の家だった。
マーサ・ハドスンは、ベイカーストリート221B の家へ引っ越して、ここを終のすみかにしようと決める。
ある9月の雨の夜、呼び鈴を鳴らして、「空いている部屋はないですか?」と、マーサ・ハドスンの元を訪ねて来た一人の青年が居た。「世界でただ一人の諮問探偵(The only consulting detective)」と自分を呼称するシャーロック・ホームズ、その人だった。
家賃の額を心配するホームズに対して、マーサ・ハドスンは、気心の知れた友人と同居し、下宿代を分担することを勧める。その結果、ホームズが連れて来たのが、負傷してアフガニスタンから戻って来たジョン・H・ワトスン医師(Dr. John H. Watson)である。
こうして、シャーロック・ホームズ、ジョン・H・ワトスン、そして、マーサ・ハドスンと言う三つの迷える魂は出会い、互いを見出して、物語が始まった。
ホームズと一緒に、ベイカーストリート221B での同居生活を始めたワトスンは、「四つの署名(The Sign of the Four → 2017年8月12日付ブログで紹介済)を通じて出会ったメアリー・モースタン(Mary Morstan)と結婚。
そして、1889年4月のある日、ハドスン夫人は、ワトスン夫人となったメアリーと一緒に、ベイカーストリート221B の明るい地下の台所において、大きなテーブルに静かについていた。
その日、ホームズの元には、新しい依頼人がやって来ていた。それは、小柄で内気そうな若い女性だった。
実は、マーサ・ハドスンとメアリー・ワトスン(Mary Watson)の2人が居る台所の通気口は、2階にあるホームズの居間と繋がっており、通気口の蓋を開くと、ホームズの居間での会話を聞くことができたのである。マーサ・ハドスンとメアリー・ワトスンは、ホームズと新しい依頼人の会話に聞き耳を立てていた。

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