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日本の出版社である東京創元社から、 創元推理文庫として出版されている イーデン・フィルポッツ作「赤毛のレドメイン家」(旧訳版)の表紙 カバー: 日下 弘 |
主にデヴォン州(Devon)を舞台にした田園小説、戯曲や詩作で既に名を成した英国の作家であるイーデン・ヘンリー・フィルポッツ(Eden Henry Phillpotts:1862年ー1960年 → 2022年2月6日 / 2月13日付ブログで紹介済)が、1921年に発表した最初の推理小説である「灰色の部屋(The Grey Room → 2022年3月13日 / 3月27日付ブログで紹介済)」に続き、1922年に発表した推理小説である「赤毛のレドメイン家(The Red Redmaynes)」の場合、ダートムーア(Dartmoor)から、その物語が始まる。
勇気、機転、勤勉さ、想像力や洞察力等に恵まれたスコットランドヤードの刑事であるマーク・ブレンドン(Mark Brendon - 35歳)は、これまでに数々の実績(第一次世界大戦中には、国際的な事案を解決)を積み上げ、既に警察の犯罪捜査部門で頭角を現し、警部補への昇進辞令を待つばかりだった。彼は、10年後には宮仕えを離れ、以前からの希望でもある私立探偵事務所の開設を視野に入れていた。
過酷な勤務に明け暮れて、いささか疲れが溜まっていたマーク・ブレンドンは、休息と健康のために、ダートムーアで休暇中で、趣味のトラウト釣りに興じたり、宿泊先であるプリンスタウン(Princetown)のダッチーホテルの常連客との旧交を温めたりして、休暇を過ごしていた。
6月半ばの日暮れ時、マーク・ブレンドンは、トラウト釣りのため、フォギンター採石場跡内にある小川が流れ込む深い淵を目指して、ダートムーアを抜ける近道を進んでいた。
その時、西の燃えるような陽を背景にして、籠を手にした人影が、彼の方へ向かって歩いて来た。トラウトのことをぼんやりと考えていた彼が、近づいて来る軽やかな足音に顔をあげると、そこには、これまで目にしたことがないような絶世で鳶色の髪の美女が居たのである。
美女は、そのまま彼の脇を通り過ぎて行ったが、彼女のあまりの美しさに驚いた彼は、それまで考えていたことが、全て頭から吹き飛んでしまった。
一目見て、彼女のことが頭から離れなくなってしまったマーク・ブレンドンは、それから2度、フォギンター採石場跡を訪れたものの、彼女に再会することはできなかった。
ただし、間もなく、ある殺人事件の関係で、彼女、即ち、ジェニー・ペンディーン(Jenny Pendean)に再会することになるのであった。
その4日後の真夜中近く、マーク・ブレンドンがそろそろ部屋へ引き上げようとしていた時、ホテルの従業員であるウィル・ブレイクが、「お客さんの専門に関係がありそうな事件が起きたそうです。」と告げた。
ウィル・ブレイクによると、フォギンター近くのバンガローに住むペンディーン氏が義理の叔父に殺された、とのことだった。
マーク・ブレンドンとしては、ロンドンからダートムーアまでわざわざやって来たのは、殺人犯を捕まえるためではなく、趣味のトラウト釣りに興じるためだった。それ故に、その時点では、マーク・ブレンドン自身は、その話に興味を全く感じなかった。
翌朝、釣りに出かけるために、マーク・ブレンドンがホテルをあとにしようとしたところ、従業員のウィル・ブレイクから手紙を渡される。
その手紙は、プリンスタウンのステーションコテージ3号に住むジェニー・ペンディーンからで、彼が昨日話を聞いた事件について、手助けを求めるものだった。
手紙を読んで困ったマーク・ブレンドンは、従業員のウィル・ブレイクに対して、「30分程でお訪ねしますと伝えてくれ。」と依頼する。実は、ホテル内では、この事件のことが持ち切りになっていて、従業員も、宿泊客も、休暇中とは言え、有名な刑事であるマーク・ブレンドンがこの事件にいつ乗り出すのかを、皆期待していたのである。
マーク・ブレンドンは、気は進まないながらも、釣り道具を置くと、地元の警察署へ向かい、そこで巡査から事件にかかる簡単な説明を受けた。
その後、電話を借りると、スコットランドヤードの上司であるハリソン警部補と話をする。幸いなことに、上司のハリソン警部補とプリンスタウン警察のハーフヤード署長(警部補)は、旧知の仲だった。
生憎、ハーフヤード署長は不在だったため、正午に事件の詳細を教えてもらうことを巡査に依頼すると、マーク・ブレンドンは、ジェニー・ペンディーンの元を先に訪れることにした。
この時点では、ジェニー・ペンディーンが、フォギンター採石場跡で出会った絶世で赤毛の美女であることを、マーク・ブレンドンは、まだ知らなかったのである。

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