2023年5月2日火曜日

アガサ・クリスティー作「ナイルに死す」<英国 TV ドラマ版>(Death ion the Nile by Agatha Christie )- その2

現在、エルサムパレスを管理しているイングリッシュヘリテージが
発行しているエルサムパレスのプログラムの表紙(筆者所有) -
英国 TV 版では、リネット・リッジウェイの屋敷の内部として、
エルサムパレスの内部が撮影に使用されており、
ジャクリーン・ド・ベルフォールが、
失業した婚約者のサイモン・ドイルのために、
リネットを訪問する場面が、
扉の奥にある部屋で撮影されている。


英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、「Agatha Christie’s Poirot」の第52話(第9シリーズ)として、2004年4月12日に放映されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「ナイルに死す(Death on the Nile)」(1937年)の TV ドラマ版の場合、原作対比、以下の差異が見受けられる。


(1)

<原作>

ジャクリーン・ド・ベルフォール(Jacqueline De Bellefort - 通称:ジャッキー(Jackie))が、学生時代の古い友人であるリネット・リッジウェイ(Linnet Ridgeway)に対して、「失業した婚約者のサイモン・ドイル(Simon Doyle)をリネットが住む屋敷の管理人にしてほしい。」と頼み込むのは、電話を介してである。

<英国 TV ドラマ版>

ジャッキーは、リネットの屋敷を訪問の上、リネットに頼み込んでいる。映像的には、電話経由での会話よりも、直接の会話の方が、印象が強いので、そのように変更したのではないかと思われる。

ジャッキーが単独でリネットの屋敷を訪問した際とジャッキーがサイモンを連れてリネットの屋敷を訪れた際の2回とも、リネットの横には、リネットの友人であるジョアナ・サウスウッド(Joana Southwood)が同席している。

なお、リネットの屋敷として、エルサムパレス(Eltham Palace → 2014年7月23日付ブログで紹介済)の外観と内部が、撮影に使用されている。


現在、エルサムパレスを管理しているイングリッシュヘリテージが
発行しているエルサムパレスのプログラムから抜粋
<Henry John Alexander Seely (1899 - 1963) and
 Paul Edward Paget (1901 - 1985)'s design for Eltham Hall,
drawn by the young artist Lawrence Wright in 1934> -
英国 TV 版では、リネット・リッジウェイの屋敷の外観として、
エルサムパレスの外観が撮影に使用されており、
この絵のアングルの外観が、画面上に現れる。


(2)

<原作>

物語の主な舞台となるのは、アスワン(Aswan)を出帆して、ナイル河を遡る遊覧船「Karnak」の船上である。

<英国 TV ドラマ版>

アガサ・クリスティーの原作と同様に、物語の主な舞台となるのは、遊覧船「Karnak」の船上であるが、実際の撮影に使用されたのは、「PS Sudan」と言う遊覧船である。ただし、遊覧船の横には、原作通り、「Karnak」の表示が施されている。


夕暮れの中、駐車場から遠方のエルサムパレスを望む

(3)

アガサ・クリスティーの原作の場合、遊覧船 Karnak の乗船客の数がかなり多いため、英国 TV 版の場合、時間の関係上、あまり重要ではない登場人物は、整理されている。

具体的には、以下の乗船客は、英国 TV ドラマ版には登場していない。


*バウァーズ(Miss Bowers - マリー・ヴァン・スカイラーの看護婦)

*ジム・ファンソープ(Jim Fanthorp - 弁護士)

*ギド・リケティ(Guido Richetti - 考古学者)


周囲の堀越しに、エルサムパレスを望む。
画面右端に見えるのは、駐車場から建物へと向かう North Stone Bridge。
英国 TV 版「ナイルに死す」に出てくるエルサムパレスの外観は、
掘に沿って、画面左の方向へかなり回り込んだところから撮影されている。

(4)

<原作>

遊覧船がアブ・シンベル(Abu Simbel)に停泊して、乗船客が現地を観光していた時、崖の上から落ちてきた大きな岩で、リネットとサイモンの二人は、危うく押し潰されそうになるが、なんとか命拾いする。

<英国 TV ドラマ版>

遊覧船がアブ・シンベルに停泊して、乗船客が神殿を観光していた時、神殿の上から落ちてきた大きな岩(=神殿の一部)で、リネットとサイモンの二人は、危うく押し潰されそうになるが、なんとか命拾いする。


(5)

<原作>

アブ・シンベルにおいて、リネットとサイモンの二人の命を狙った犯人として、ジャッキーが疑われるが、ジャッキーには、遊覧船に居たというアリバイがあり、彼女に対する疑いは晴れる。

<英国 TV ドラマ版>

アブ・シンベル神殿において、リネットとサイモンの二人の命を狙った犯人として、ジャッキーが疑われるが、ジャッキーは、リネットとサイモンの近辺に居り、エルキュール・ポワロも、彼女を目撃していた。従って、ジャッキーが、リネットとサイモンの二人の命を狙い、神殿の上から大きな岩を落とした後、直ぐに二人の近辺に姿を現わすことは、物理的に不可能なため、彼女に対する疑いは晴れる。


夕暮れが迫るエルサムパレス。
建物内の明かりが、妖しく浮かぶ。
画面中央のやや左側の部分が、建物への入口に該る。

(6)

<原作>

ワディ・ハルファ(Wadi Halfa)で、英国特務機関員で、ポワロの友人であるレイス大佐(Colonel Race )が、途中から遊覧船に乗り込んで来る。レイス大佐は、ポワロに対して、「遊覧船の乗船客の中に入り込んでいる殺人犯を捜索中だ」と伝える。

<英国 TV ドラマ版>

上記(3)でも述べた通り、遊覧船の乗船客をある程度整理したことに伴い、物語を複雑化させることを避けるためだと思われるが、レイス大佐が遊覧船に乗り込んで来たのは、「エジプトで休暇を楽しむ友人であるポワロと一緒に、単に遊覧を楽しむため」という説明に変更されている。


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