2023年5月29日月曜日

コナン・ドイル作「恐怖の谷」<小説版>(The Valley of Fear by Conan Doyle )- その5

サセックス州(Sussex)バールストン(Birlstone)のバールストン館(Birlstone House)の玄関に一番近い部屋(書斎)において、館の主人であるジョン・ダグラス(John Douglas)らしき男性が、銃身が切り詰められた散弾銃で至近距離から射殺された事件現場を詳細に調べたシャーロック・ホームズは、食堂を使って、まず最初に、執事のエイムズ(Ames)による証言を聞いた。

国で出版された「ストランドマガジン」に掲載された挿絵 -
第1部第5章「事件の関係者達(The People of the Drama)」
サセックス州バールストンのバールストン館の書斎において、
ジョン・ダグラスらしき男性が殺害されているのを発見した
セシル・ジェイムズ・バーカーは、
階段を降りて来たダグラス夫人に対して、
自分の部屋へと戻るよう、懇願した。
画面左側の人物がダグラス夫人で、
画面右側の人物がセシル・バーカー。
挿絵:フランク・ワイルズ

エイムズの証言は、以下の通り。


ジョン・ダグラスがバールストン館を買い入れた5年前に、エイムズは執事として雇われた。

ジョン・ダグラスは、常日頃、バールストンを離れることは、ほとんどなかった。

・ジョン・ダグラスは、事件があった日(1月6日)の前日(1月5日)、タンブリッジウェルズ(Tunbridge Wells)へ買い物に出かけたが、戻って来ると、日頃の彼にしては珍しく、落ち着きを失って、イライラしているように見えた。

・事件があった当夜、館の裏にある食器室において、エイムズが銀食器の片付けをしていた際、玄関のベルが激しく鳴ったため、自分の部屋から出て来た家政婦のアレン夫人(Mrs. Allen)と一緒に、玄関へと向かった。特に、銃声は聞かなかった。

・書斎から出て来たセシル・ジェイムズ・バーカー(Cecil James Barker)が、階段を降りて来たダグラス夫人(Mrs. Douglas)を制止すると、アレン夫人に付き添わせて、彼女の部屋へと戻らせた。

・その後、セシル・バーカーとエイムズの二人は、書斎の中で、ジョン・ダグラスらしき男性が、銃身が切り詰められた散弾銃で至近距離から撃たれて、亡くなっているのを発見した。


家政婦のアレン夫人も、エイムズの証言を補強した。

また、セシル・バーカーに指示された通り、アレン夫人は、ダグラス夫人に付き添い、彼女の部屋へと戻ると、一晩中、その部屋に居た、とのこと。


次の証言者は、セシル・バーカーだった。


・セシル・バーカーは、米国カリフォルニア州(California)において、ジョン・ダグラスと知り合い、ベニート・キャニオン(Benito Canyon)と言う鉱山の共同経営者となって、非常に成功を収めた。この時点で、ジョン・ダグラスは、最初の妻とは死別していた。

・5年後(今から6年前)、ジョン・ダグラスは、突然、鉱山の権利を全て売却すると、英国へと向かった。

・その後(今から5年前)、セシル・バーカーも、資産を現金化すると、英国へと戻り、ジョン・ダグラスとの旧交を再び温めなおすこととなった。

・ジョン・ダグラスには、何か危険が付き纏っているような感じがあり、秘密結社か、執念深い組織に、彼は追われているのではないかと、セシル・バーカーには、思われた。

・バールストンに隠遁した後も、ジョン・ダグラスは、外出時、いつも武器を携帯していた。


スコットランドヤードのアレック・マクドナルド警部(Inspector Alec MacDonald)は、当初、ダグラス夫人の体調を考慮して、彼女の部屋で証言を聞こうとしたが、勇敢にも、ダグラス夫人は、食堂へと姿を見せた。


国で出版された「ストランドマガジン」に掲載された挿絵 -
第1部第5章「事件の関係者達(The People of the Drama)」
事件の捜査を進めるシャーロック・ホームズ達は、
バールストン館の食堂において、
ダグラス夫人の証言を聞くことになった。
画面左側から、ダグラス夫人、ジョン・H・ワトスン、
サセックス州刑事部長のホワイト。メイスン、ホームズ、
そして、スコットランドヤードのアレック・マクドナルド警部。
挿絵:フランク・ワイルズ

ダグラス夫人によると、ジョン・ダグラスと結婚して、5年になるが、彼から米国での出来事にかかる話を聞いたことはない、とのことだった。ただし、夫の身辺に付き纏っている危険については、感じていたと告げた。

ある時、ジョン・ダグラスが、「俺は、恐怖の谷に居たんだ。そこからまだ抜け出せていない。(I have been in the Valley of Fear. I am not out of it yet.)」と言う謎の言葉を発していた、と証言した。

また、3年前、狩猟中に事故に遭遇して、熱を出した際、ジョン・ダグラスは、怒りと恐怖が交じった表情をして、「マギンティー支部長(Bodymaster McGinty)」と言う名前を呟いていた、と付け加えた。


ダグラス夫人の美しさに感嘆するマクドナルド警部は、彼女に横恋慕したセシル・ベーカーが、彼の友人でもあるジョン・ダグラスを殺害したのではないかと推測しているようだ。


マクドナルド警部から意見を求められたホームズは、執事のエイムズを呼ぶと、書斎でジョン・ダグラスらしき男性の死体を発見した際、セシル・バーカーが何を履いていたのかを尋ねた。

エイムズによると、セシル・バーカーは、寝室の室内履き(a pair of bedroom slippers)を履いており、それは、玄関ホールの椅子の下にまだ置いてある、とのことだった。


国で出版された「ストランドマガジン」に掲載された挿絵 -
第1部第5章「事件の関係者達(The People of the Drama)」
食堂から書斎へと戻ったシャーロック・ホームズは、
事件発見時にセシル・ジェイムズ・バーカーが履いていた室内履きを
玄関ホールの椅子の下から持って来ると、
窓枠の血の跡に当てると、奇しくも、
それはぴたりと一致したのである。
挿絵:フランク・ワイルズ

エイムズの話を聞いたホームズは、ジョン・H・ワトスン、マクドナルド警部とサセックス州刑事部長(chief Sussex detective)のホワイト・メイスン(White Mason)の3人を伴うと、殺害現場である書斎へと向かった。

ホームズが、玄関ホールの椅子の下から持って来た室内履きの片方を、窓枠の血の跡に当てると、奇しくも、それはぴたりと一致したのである。


マクドナルド警部が推測した通り、美しいダグラス夫人に横恋慕したセシル・ベーカーが、彼の友人でもあるジョン・ダグラスを殺害したのであろうか?


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