1月6日の午後11時45分、バールストン館(Birlstone House)の主人であるジョン・ダグラス(John Douglas)の友人で、ハムステッド(Hampstead)のヘイルズ荘(Hales Lodge)に住むセシル・ジェイムズ・バーカー(Cecil James Barker)が、突然、地元の交番に駆け込んで来て、対応したサセックス州警察(Sussex Constabulary)のウィルスン巡査部長(Sergeant Wilson)に対して、「バールストン館において、ジョン・ダグラスが殺害された。(A terrible tragedy had occurred at the Manor House, and John Douglas had been murdered.)」と告げた。
バールストン館へと駆け付けたウィルスン巡査部長と開業医のウッド医師(Dr. Wood)は、玄関に一番近い部屋の真ん中に、男が手足を伸ばし、仰向けに倒れて、死んでいるのを発見した。
彼は、寝間着の上に、ピンク色のガウンを羽織っただけで、足には、室内用スリッパを履いていた。凶器は、男の胸の上に置かれており、それは、銃身が切り詰められた散弾銃で、至近距離から発射されたため、頭部がほとんど粉々に吹き飛んであり、判別の仕様がなかった。
死体の身元は不明だったが、状況的に、バールストン館の主人であるジョン・ダグラスであると思われた。
セシル・バーカー / ジョン・ダグラスの執事であるエイムズ(Ames)立会いの下、ウィルスン巡査部長とウッド医師が現場を調べたところ、不可解な点が、いくつかあった。
(1)死体の側の床の上に、「V.V. 341」と書かれたカードが落ちていたが、何を意味するのかは不明。
(2)死体の右前腕に、非常に奇妙な印(丸の中に三角がある焼き印)があった。
(3)死体の左手の小指から、金の結婚指輪が抜き取られていた。何故か、結婚指輪の上に嵌めていた天然金塊が付いた指輪と薬指に嵌めていたスネークリングは、盗まれず、そのままになっていた。
翌1月7日の午前3時、ウィルスン巡査部長からの緊急連絡を受けて、サセックス州刑事部長(chief Sussex detective)のホワイト・メイスン(White Mason)が、バールストン館に到着すると、午前5時40分の列車で、スコットランドヤード宛に救援を要請する手紙を送った。
そして、昼の12時、彼は、バールストン駅(Birlstone station)において、シャーロック・ホームズ、ジョン・H・ワトスンとスコットランドヤードのアレック・マクドナルド警部(Inspector Alec MacDonald)の3人を出迎えたのである。
ホワイト・メイスンは、ホームズ達3人が宿泊する予定の宿屋「ウェストヴィル アームズ(Westville Arms)」へ案内すると、事件の経緯について、3人に説明した。
ホワイト・メイスンから概略の説明を受けたホームズ達は、早速、バールストン館へと歩いて向かった。
殺害現場を調べたホームズは、以下の点に興味が引かれたようだった。
(1)死体の右前腕にある非常に奇妙な印(丸の中に三角がある焼き印)
(2)死体の顎のえらのところに貼ってある小さい絆創膏
(3)死体の側の床の上に落ちていた「V.V. 341」と書かれたカード
(4)殺害に使用された銃身が切り詰められた散弾銃
(5)死体の左手の小指から、金の結婚指輪のみが抜き取られて、他の指輪が盗まれていないこと
(6)地元警察による必死の捜索にもかかわらず、午後2時になっても、濡れ鼠の不審者が未だに見つからないこと
(7)窓枠にある血が付いた靴跡(扁平足)と床の隅に付いている泥に汚れた靴跡(バランスが取れた足)が一致していないこと
(8)サイドテーブルの下に、ダンベル(鉄亜鈴)が一つしかないこと
ホームズの話は、突然のノックによって中断され、セシル・バーカーが室内へと入って来た。
彼によると、犯人が乗って来たと思われる自転車が見つかった、とのこと。
それは、屋敷の玄関扉から100ヤードもない常緑樹の茂みの中に隠されていた。見つかった自転車は、泥だらけで、かなり使い古されたもので、スパナと油差しが入ったサドルバッグはあったものの、残念ながら、所有者が判るような手掛かりはなかったのである。
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