第52話「ナイルに死す」が収録された エルキュール・ポワロシリーズの DVD コレクション No. 5 の裏表紙 |
英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、「Agatha Christie’s Poirot」の第52話(第9シリーズ)として、2004年4月12日に放映されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「ナイルに死す(Death on the Nile)」(1937年)の TV ドラマ版の場合、原作対比、以下の差異が見受けられる。
(1)
<英国 TV ドラマ版>
アブ・シンベル(Abu Simbel)の神殿において、リネット・リッジウェイ(Linnet Ridgeway)とサイモン・ドイル(Simon Doyle)の二人が、神殿の上から落ちてきた大きな岩(=神殿の一部)で、危うく押し潰されそうになるが、なんとか命拾いする。
その日の夜、遊覧船内のラウンジにおいて、ジャクリーン・ド・ベルフォール(Jacqueline De Bellefort - 通称:ジャッキー(Jackie))が、サイモンとの間で、口論となる。そして、激怒したジャッキーが、携帯していたピストルで、サイモンの脚を撃ってしまう。
サイモンを撃って、ヒステリーを起こしたジャッキーを、ファーガスン(Ferguson - 社会主義者)とコーネリア・ロブスン(Cornelia Robson - マリー・ヴァン・スカイラー(Marie Van Schuyler)の従妹)の二人が、彼女の部屋へ連れて行くとともに、ファーガスンが呼んで来たベスナー医師(Dr. Bessner)が、サイモンを介抱する。
<原作>
アガサ・クリスティーの原作の場合、ヒステリーを起こしたジャッキーを、コーネリアと一緒に、彼女の部屋へ連れて行くのは、ファーガスンではなく、ジム・ファンソープ(Jim Fanthorp - 弁護士)である。また、サイモンを介抱するために、ベスナー医師を呼んで来るのも、ファーガスンではなく、ジム・ファンソープとなる。
(2)
<原作>
アガサ・クリスティーの原作の場合、バウァーズ(Miss Bowers - マリー・ヴァン・スカイラーの看護婦)がエルキュール・ポワロ達の元を訪れて、盗まれたリネットの真珠のネックレスを返す。そして、バウァーズは、マリー・ヴァン・スカイラーには、盗癖があることを伝える。ただし、返された真珠のネックレスは、イミテーションであることを、ポワロは見抜く。
<英国 TV ドラマ版>
英国 TV ドラマ版の場合、バウァーズは登場しないため、盗まれたリネットの真珠のネックレスを返しに来たのは、マリー・ヴァン・スカイラーの従妹であるコーネリア・ロブスンへ変更されている。
(3)
<原作>
アガサ・クリスティーの原作の場合、ポワロが最後の謎解きを行う場に同席するのは、レイス大佐(Colonel Race - 英国特務機関員で、ポワロの友人)、ベスナー医師、コーネリア・ロブスンとサイモン・ドイルの4名である。
<英国 TV ドラマ版>
英国 TV ドラマ版の場合も、アガサ・クリスティーの原作通りである。
(4)
<原作>
アガサ・クリスティーの原作の場合、レイス大佐は、追っていた殺人犯であるギド・リケティ(Guido Richetti - 考古学者)を逮捕する。
<英国 TV ドラマ版>
英国 TV ドラマ版の場合、ギド・リケティは登場しないため、レイス大佐に逮捕されることはない。
(5)
<原作>
アガサ・クリスティーの原作の場合、物語の最後に、ティム・アラートン(Tim Allerton - ミセス・アラートン(Mrs. Allerton)の息子)とロザリー・オッターボーン(Rosalie Otterbourne - サロメ・オッターボーン(Salome Otterbourne)の娘)の二人が、恋愛関係となる。
<英国 TV ドラマ版>
英国 TV ドラマ版の場合、ティム・アラートンとロザリー・オッターボーンの二人が、恋愛関係になることはない。より正確に言うと、物語の後半、ロザリーは、ティムに対して、自分の思いを伝えるが、ティムは、自分の母親のことを考えて、ロザリーの申し出をやんわりと断る。
最後になるが、英国 TV 版の物語全般を通して、ポワロとジャッキーの間で交わされる会話の内容は、なかなか重い。
(1)
ポワロ → ジャッキー
You must stop this now. Do not open your heart to evil. If you do, there will be no turning back.
(2)
ポワロ → ジャッキー
You have chosen a path that is most dangerous. I doubt that you would turn back now even if you could.
ジャッキー → ポワロ
One must follow one’s star.
ポワロ → ジャッキー
Love is not everything.
ジャッキー → ポワロ
Oh, but it is. It is.
(3)
ジャッキー → ポワロ
Do you remember when I said I must follow my star ? It’s finally burnt out, hasn’t it ?
また、物語の最後、リネット、ルイーズ・ブールジェ(Louise Bourget - リネット・リッジウェイのメイド)とサロメ・オッターボーン(ロマンス小説の作家)の3人を殺害した共犯者の一人であるジャッキーが、隠し持っていたピストルで、恋人のサイモンを撃った後、自殺を遂げるが、その際、ポワロとレイス大佐の間で、以下のような会話が交わされる。
レイス大佐:Where the devil did she get that ?
ポワロ:She had two of them. She slipped it into your handbag on the day of the search. And she retrieved it later when she visited your cabin.
(なお、この「your」は、サロメ・オッターボーンの娘であるロザリー・オッターボーンを指す。)
レイス大佐:You knew ?
ポワロ:It is not always that simple.
英国 TV ドラマ版の場合、いつもではないものの、「死者のあやまち(Dead Man’s Folly → 2023年3月25日 / 3月28日 / 3月31日付ブログで紹介済)」等で見受けられるように、ポワロなりの「絶対的な正義」の執行が、犯人の手によって行われていると思われる。後に紹介する予定であるが、「オリエント急行の殺人(Murder on the Orient Express)」において、彼の「絶対的な正義」は、大きく揺らぐことになる。この辺りについては、アガサ・クリスティーの原作とは、大きく異なる。
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