2023年3月31日金曜日

アガサ・クリスティー作「死者のあやまち」<英国 TV ドラマ版>(Dead Man’s Folly by Agatha Christie )- その3

エルキュール・ポワロシリーズの DVD コレクション No. 9 のうち、
第68話「死者のあやまち」が収録された DVD 本体


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「死者のあやまち(Dead Man’s Folly)」(1956年)をベースにして、英国の TV 会社 ITV 社が制作した「Agatha Christie’s Poirot」の第68話(第13シリーズ)の結末は、原作とは大きく異なる。


<原作>

エルキュール・ポワロは、地元警察のブランド警部(Inspector Bland)に対して、事件の真相を、次のように明らかにする。


*犯人探しゲームの被害者役を務めるマーリン・タッカー(Marlene Tucker)とジョン・マーデル(John Merdell - 村の老人で、マーリン・タッカーの祖父)の2人を殺害したのは、資産家で、ナス屋敷(Nasse House)の現所有者であるサー・ジョージ・スタッブス(Sir George Stubbs)と彼の妻のレディー・ハティー・スタッブス(Lady Hattie Stubbs)。

*サー・ジョージ・スタッブスは、ナス屋敷の前の持ち主であるエミー・フォリアット(Amy Folliat)の次男ジェイムズ・フォリアット(James Folliat)で、イタリアで戦死した訳ではなく、脱走して、生き延びていた。

*厳密に言うと、レディー・ハティー・スタッブスは、本人ではなく、偽者が化けていた。

ジェイムズ・フォリアットは、陸軍から脱走した後、イタリア人の女性と既に結婚していた。その事実を知らない母親のフォリアット夫人は、息子のジェイムズを裕福なハティーと結婚させ、更生させようとしたが、ジェイムズは、ハティーと結婚した後、ハティーを殺害し、既に結婚していたイタリア人の妻が、ハティーと入れ替わった。その時点で、フォリアット夫人は、上記の事実を知ったが、今まで黙っていた。

*ジェイムズ・フォリアットは、サー・ジョージ・スタッブスと名前を変え、母親のフォリアット夫人からナス屋敷を購入すると、現地へとやって来たのである。

*しかし、ジョン・マーデルに、自分の正体を見破られ、また、祖父のジョン・マーデルから話を聞いたマーリン・タッカーから強請られたため、2人を殺害せざるを得ない破目となった。

*偽者のハティー・スタッブスは、イタリア人の女性旅行者に変装して、現地へと潜入、ナス屋敷で催される慈善パーティーにも出没。一方で、ハティー・スタッブスの格好で、ボート小屋に居るマーリン・タッカーに近付き、彼女を殺害した後、ハティー・スタッブスの服装を脱ぎ、イタリア人の女性旅行者へと戻ると、現地から立ち去った。


アガサ・クリスティーの原作では、マーリン・タッカーとジョン・マーデルの2人を殺害したサー・ジョージ・スタッブスとレディー・ハティー・スタッブスは逮捕されたのか、また、彼らの正体を知っていたフォリアット夫人も罪を負ったのかについては、言及されていない。

原作は、本物のハティー・スタッブスの死体が埋められている阿房宮(folly)の地面を、警察が掘り進める場面で、物語が終わっている。


第68話「死者のあやまち」が収録された
エルキュール・ポワロシリーズの DVD コレクション No. 9 の内側(その2)-
アガサ・クリスティー作「死者のあやまち」をベースにした
コンピューターゲームの広告となっている。

<英国 TV ドラマ版>

事件の真相は、基本的には、アガサ・クリスティーの原作と同じである。


*物語の舞台が、原作における「第2次世界大戦後」から、英国 TV 版では、他の作品と同様に、「1930年代後半」に設定されている関係上、フォリアット夫人の次男であるジェイムズ・フォリアットが行方不明になったのが、原作における「イタリアでの戦死」から「飛行機を操縦して、アフリカのナイロビ(Nairobi)へと向かう途中、墜落」と言うように変更されている。

*英国 TV 版では、マーリン・タッカーが殺されたボート小屋において、ポワロは、フォリアット夫人に対して、事件の真相を説明する。その後、ポワロは、フォリアット夫人に、事件の終息を委ねるのである。

ポワロから事件の真相説明を聞いたフォリアット夫人は、「息子のジェイムズ(サー・ジョージ・スタッブス)には、もう逃げ場は何処にも無い」ことを悟り、猟銃を持つと、一人ナス屋敷へと向かい、ポワロは、彼女を見送る。

フォリアット夫人がナス屋敷内へ入った後、銃声が2回聞こえる。画面上、ナス屋敷の外観しか撮影されていないが、おそらく、フォリアット夫人は、息子のジェイムズ(サー・ジョージ・スタッブス)を猟銃で撃った後、自分も撃って、自殺したのではないかと思われる。ナス屋敷内から2回の銃声を聞いたポワロは、「Bon.」と一言告げる中、地元警察がナス屋敷へと駆けつける場面で、物語が終了する。ポワロにとって、彼なりの「正義」が為されたと言うことなのだろう。

2014年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された
「エルキュール・ポワロとグリーンショア屋敷の阿房宮」のハードカバー版内の
グリーンウェイの挿絵
(By Mr. Tom Adams)


第68話「死者のあやまち」の2話後には、最終話である第70話「カーテン:ポワロ最後の事件(Curtain : Poirot’s Last Case)」が控えている関係上、前シリーズである第12シリーズの第64話「オリエント急行の殺人(Murder on the Orient Express)」辺りから、「罪と罰」、「正義」、「神への信仰」、そして、「贖罪」と言った非常に重いテーマが打ち出されている。

これらのテーマは、第66話「象は忘れない(Elephants Can Remember)」と第68話「死者のあやまち」を経て、第70話「カーテン:ポワロ最後の事件」で結実していると言える。


第68話「死者のあやまち」は、シリーズ13の5エピソードのうち、3番目に放送された作品ではあるが、実際には、本作品の撮影は、一番最後に行われている。

また、撮影は、作者であるアガサ・クリスティーが毎年夏の休暇を過ごしたデヴォン州(Devon)のグリーンウェイ(Greenway)で行われた。


0 件のコメント:

コメントを投稿