2023年3月29日水曜日

ジョン・ディクスン・カー作「嘲る者の座」(The Seat of the Scornful by John Dickson Carr)- その3

日本の東京創元社から
創元推理文庫として1981年に出版されている
ジョン・ディクスン・カー作「猫と鼠の殺人」の表紙
(カバー:村山潤一氏)-

米国で出版された際のタイトルは、
「死は形勢を逆転する(Death Turns the Table)」で、
英国で出版された際のタイトルは、
「嘲る者の座(The Seat of the Scornful)」。

問題の1936年4月28日(土)の午前中、ホレース・アイアトン判事(Judge Horace Ireton)は、ロンドンへと出かけ、5年前にアントニー・モレル(Anthony Morell)への殺人未遂罪で告発された裕福な有力者の娘シンシア・リー(Cynthia Lee)の弁護を担当したサー・チャールズ・ホウリー(Sir Charles Hawley)と早い昼食をとると、午後2時15分ロンドン発の列車で、デヴォン州(Devon)のトーニッシュ(Tawnish)にある海岸沿いのバンガロー「デューン荘(The Dune)」へと戻って来た。

なお、デューン荘は一軒家で、半マイル以内には、他に人家はなく、出歩く人も全く見かけない、非常に静かな場所に所在していた。


一方、アントニー・モレルは、午後4時5分ロンドン発の汽車に乗り、トーニッシュに午後8時に着くと、マーケットスクエア(Market Square)において、デューン荘へと向かう海岸道路への道順を尋ねた。

アントニー・モレルは、駅からデューン荘まで、海岸沿いの道路を歩いて行くつもり(徒歩で30分程の道のり)だったが、列車の到着が遅れたため、会見の時刻である午後8時は、既に過ぎていたのである。


ホレース・アイアトン判事の一人娘で、アントニー・モレルの婚約者であるコンスタンス・アイアトン(Constance Ireton)は、デューン荘での二人の会見のことが非常に気になり、密かにデューン荘の近くまで来ていた。

丁度その時、アントニー・モレルが、道の向かうから姿を現して、デューン荘の中へと入って行くのが、コンスタンス・アイアトンには見えた。時刻は、午後8時25分だった。


電話交換手のフローレンス・スワン(Florence Swan)が、俗悪な実話雑誌を読んでいると、電話交換台のブザーが鳴り、赤いランプが点灯した。応答したフローレンス・スワンが、壁の時計をみると、時刻は午後8時半を刺していた。

相手は男性で、ひどく狼狽した声で、囁くように告げた。

「デューン荘。アイアトンのバンガローだ。助けてくれ!(The Dunes. Ireton’s cottage. Help!)」

その直後、銃声が聞こえると、呻き声、格闘の物音、そして、ガチャンと言う音が続いた後、ひっそりとなった。


驚いた電話交換手のフローレンス・スワンは、トーニッシュ警察署(Tawnish police station)で夜勤をしている恋人のアルバート・ウィームズ巡査(Constable Albert Weems)へと連絡した。

アルバート・ウィームズ巡査は、上司の巡査部長へ報告すると、自転車に飛び乗ると、警察署からデューン荘へと向かった。

海岸沿いの道路を急ぐアルバート・ウィームズ巡査は、前方にデューン荘の灯りを認めたところで、通行車線の反対側に、ライトを点けた自動車が停まっていることに気付いた。その自動車の運転手は、彼もよく知っている、そして、尊敬の念を抱いている王室弁護士のフレデリック・バーロウ(Frederick Barlow)だった。

事情を話すアルバート・ウィームズ巡査に対して、フレデリック・バーロウは、同行を申し出る。


デューン荘へと駆けつけたアルバート・ウィームズ巡査とフレデリック・バーロウは、デューン荘の門のすぐ内側の暗闇の中に居たコンスタンス・アイアトンと一緒に、デューン荘の中に入った。

居間のデスクの前の床に、男性がうつ伏せに倒れていた。その男性はアントニー・モレルで、後頭部の右耳の後ろを撃たれて、その穴から血が少し流れているのが見えた。回転椅子はひっくり返っていて、電話機はデスクから払い落とされ、アントニー・モレルの傍に転がっていた。


3人が戦慄したのは、アントニー・モレルの死体ではなかった。アントニー・モレルの死体から3m程離れた安楽椅子に腰を下ろしているホレース・アイアトン判事と、彼が手にしていた回転拳銃だったのである。


ホレース・アイアトン判事は、英国の高等法院(高等裁判所)の判事で、猫が鼠をいたぶるように、冷酷無比に被告人を裁くことで、世間によく知られた法の番人である。法の番人であるホレース・アイアトン判事が、彼のバンガローにおいて発生した奇々怪界な殺人事件の唯一の容疑者になるという逆説的な設定で、事件の幕が上がった。

常識的には、法の番人たるホレース・アイアトン判事が、このように明白な状況下で、殺人を行うとは、到底考えられなかった。ホレース・アイアトン判事は、自身の身の潔白を主張するものの、情況証拠は、彼にとって、どんどん不利になるばかりであった。

果たして、ホレース・アイアトン判事が、自分のバンガローのデューン荘において、アントニー・モレルを殺害したのであろうか?それとも、ホレース・アイアトン判事以外の第三者なのか?


トーニッシュのエスプラネードホテル(Esplanade Hotel)に滞在していた、ホレース・アイアトン判事の知人でもあるギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)は、トーニッシュ警察署のグレアム警部(Inspector Graham)からの依頼を受けて、事件の解明にあたり、意外な真犯人を明らかにする。


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