サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-1930年)が執筆したシャーロック・ホームズシリーズにおいて、パイプを咥えたシャーロック・ホームズの挿絵について、引き続き、紹介したい。
今回は、ホームズシリーズの4番目で、かつ、最後の長編である「恐怖の谷(The Vallery of Fear)」に収録されている挿絵に関して、紹介する。
ホームズシリーズの第1短編集「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1892年)、第2短編集「シャーロック・ホームズの回想(The Memoirs of Sherlock Holmes)」(1893年)、第3長編「バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskervilles)」(1901年8月ー1902年4月)、そして、第3短編集「シャーロック・ホームズの帰還(The Return of Sherlock Holmes)」(1905年)まで挿絵を担当していた挿絵画家であるシドニー・エドワード・パジェット(Sidney Edward Paget:1860年ー1908年)は、1908年1月28日に亡くなったため、第4長編「恐怖の谷」の挿絵は、他のイラストレーターによる挿絵となっている。
当時、柄がまっすぐとなったパイプが一般的に使用されていたことを示すために、ホームズに加えて、他の登場人物の挿絵も掲載する。
(24)「恐怖の谷」
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英国で出版された「ストランドマガジン」 1914年9月号に掲載された挿絵 - 第1部第1章「警告(The Warning)」 1880年代の終わりに差し掛かる頃の朝、 シャーロック・ホームズは、 ジェイムズ・モリアーティー教授の組織内に居る 情報提供者であるフレッド・ポーロック(Fred Porlock)から、 数字が羅列された暗号文を受け取った。
ホームズは、柄が真っ直ぐになったパイプを右手に持って、 フレッド・ポーロックから受け取った 暗号文を見つめている。 挿絵:フランク・ワイルズ |
「恐怖の谷」は、ホームズシリーズの長編小説4作のうち、最後に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1914年9月号から1915年5月号まで掲載された。また、米国でも、「ニューヨーク トリビューン(The New-York Tribune)」の日曜版に連載された。
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英国で出版された「ストランドマガジン」 1914年9月号に掲載された挿絵 - 第1部第1章「警告(The Warning)」 シャーロック・ホームズは、年鑑(Almanac)を使って、 ジェイムズ・モリアーティー教授の組織内に居る 情報提供者であるフレッド・ポーロックから受け取った 数字が羅列された暗号文を解読する。 ホームズが解読した暗号文は、 「バールストン館のダグラスと言う男に、 危険が差し迫っている。」という内容だった。 画面左側の人物がジョン・H・ワトスンで、 画面右側の人物がホームズ。 ホームズは、柄が真っ直ぐになったパイプを右手に持って、
フレッド・ポーロックから受け取った暗号文を解読している。 挿絵:フランク・ワイルズ |
「恐怖の谷」は、第1長編「緋色の研究(A Study in Scarlet)」(1887年)や第2長編「四つの署名(The Sign of the Four)」(1890年)と同様に、2部構成を採っており、第1部には、サセックス州(Sussex)バールストン(Birlstone)のバールストン館(Birlstone Manor House)に住むジョン・ダグラス(John Douglas)と思われる男性が、銃身を切り落として短くした散弾銃によって、至近距離から頭を撃ち抜かれて、惨殺された事件の発生から、ホームズの推理により、事件の解決に至るまでが含まれて、また、第2部では、事件の背景となった「恐怖の谷」と呼ばれる米国ペンシルヴァニア州ヴァーミッサ峡谷(Vermissa Valley)にある炭鉱街で発生した事件が語られている。
第1部において発生した事件の黒幕として、ホームズの終生のライヴァルで、「犯罪界のナポレオン(Napoleon of crime)」と呼ばれるジェイムズ・モリアーティー教授(Professor James Moriarty)が暗躍している。
第2部において語られる事件について、コナン・ドイルは、米国ペンシルヴァニア州の炭鉱で起きた労働闘争とピンカートン探偵社(Pinkerton agent)の活躍を描いた「モリー・マグワイヤーズと探偵達(The Mollie Maguires abd the Detectives)」(1877年)を題材にしている可能性が高いと言われている。
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英国で出版された「ストランドマガジン」 1915年5月号に掲載された挿絵 - 第2部エピローグ(Epilogue) 事件が解決した後、 シャーロック・ホームズの提言に従い、 ダグラス夫妻は、船で南アフリカへと向かった。 ところが、ダグラス夫妻の友人であるセシル・パーカー(Cecil Parker)が、 ホームズの元へ、悪い知らせを持って来た。 昨夜、ケープタウンに着いたダグラス夫人から受け取った電報によると、 彼女の夫のジョン・ダグラスは、 セントヘレナ沖において、強風のため、船から行方不明になった、とのことだった。 ホームズとセシル・パーカーは、 ジョン・ダグラスが殺害されたことを確信した。 画面左側から、セシル・パーカー、ホームズ、 そして、ジョン・H・ワトスン。 ホームズは、柄が真っ直ぐになったパイプを左手に持って、
セシル・パーカーの話を聴いている。 挿絵:フランク・ワイルズ |
第1部 / 第2部ともに、人物の入れ替わりトリックが鍵となるが、本作品がベースとなり、人物の入れ替わりトリックは、ミステリー用語として、「バールストン ギャンビット(Birlstone Gambit)」と呼ばれるようになった。
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