2022年9月30日金曜日

ウィリアム・ウィルキー・コリンズ作「月長石」(The Moonstone by William Wilkie Collins)- その1

Penguin Books Ltd. から
Penguin Classics シリーズの一つとして1998年に出版されている
ウィルキー・コリンズ作「月長石」の表紙
(Cover design : Detail from Moonrise by the Sea (1822)
by Caspar David Friedrich
in the Nationalgalerie Berlin
Photo : Staatliche Museen zu Berlin Preussischer Kulturbesitz /
Jorg P. Anders ) 

米国ユタ州ソルトレークシティー出身の作家であるサム・シチリアーノ(Sam Siciliano:1947年ー)が2017年に発表した「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 月長石の呪い(The further adventures of Sherlock Holmes / The Moonstone’s Curse → 2022年8月28日 / 9月28日付ブログで紹介済)」 がベースにしている「月長石(The Monnstone)」(1868年)は、ヴィクトリア朝時代(1837年-1901年)に活躍した英国の小説家 / 推理作家 / 劇作家であるウィリアム・ウィルキー・コリンズ(William Wilkie Collins:1824年ー1889年 → 2022年9月2日 / 9月4日付ブログで紹介済)が執筆した長編推理小説である。


ナショナルポートレートギャラリー(National Portrait Gallery)で販売されている
チャールズ・ジョン・ハファム・ディケンズ(1812年ー1870年)の写真の葉書
(by George Herbert Watkins / albumen print, arched top / 1858年 / 190 mm x 152 mm) -
チャールズ・ディケンズは、英国のヴィクトリア朝時代を代表する小説家で、
「クリスマスキャロル」、「大いなる遺産」、「オリヴァーツイスト」や
「二都物語」等で有名。


1851年3月、ウィリアム・ウィルキー・コリンズこと、ウィルキー・コリンズは、共通の友人(画家)の紹介で、彼と同じくヴィクトリア朝時代(1837年-1901年)を代表する英国の小説家であるチャールズ・ジョン・ハファム・ディケンズ(Charles John Huffam Dickens:1812年ー1870年)と知り合う。

彼は、チャールズ・ディケンズが出版する雑誌「暮らしの言葉(Household Works)」に定期的に寄稿したり、また、チャールズ・ディケンズや共通の友人達と一緒に、フランス、スイスやイタリアを旅行したりして、親交を深め、二人は生涯にわたる親友かつ協力者となった。

実際、「フローズンディープ(The Frozen Deep)」は、チャールズ・ディケンズによる指導の下、ウィルキー・コリンズが1857年に執筆した劇で、後に、小説として、「The Frozen Deep and Other Tales」(1874年)に収録されている。


Alma Books Ltd. から
Alma Classics シリーズの一つとして2018年に出版されている
ウィルキー・コリンズ作「フローズンディープ」の表紙
(Cover design by nathanburtondesign.com) 


「月長石」の場合、チャールズ・ディケンズが出版する週刊誌「All the Year Round」上に、1868年1月4日から同年8月8日の32週にわたって連載され、同年に3分冊として出版された。

現在、一般に流布しているのは、1871年に1冊にまとめられた版である。


ウィルキー・コリンズの代表作は、発表と同時に一大ブームを巻き起こした「白衣の女(The Woman in White)」(1860年)と英国小説界で絶大な人気を得た大ヒット作である「月長石」の2作品と評されている。

英国の詩人 / 劇作家 / 文芸評論家であるトマス・スターンズ・エリオット(Thomas Stearns Eliot:1888年ー1965年 → 日本では、一般に、T・S・エリオットと呼ばれている)は、「月長石」について、「最初の、最長の、最上の探偵小説(the first, the longest and the best of the modern English detective novel)」、また、「ウィルキー・コリンズの作品の中でも、最大にして、最良の推理小説(In its own time Collins’s thriller was an immediate best-seller, and one of his most popular novels.)」と称えている。


2022年9月29日木曜日

エリザベス2世(HM Queen Elizabeth II)- その6(在位60周年記念の肖像画切手)

022年9月8日にスコットランドのアバディーン州(Aberdeenshire)にあるバルモラル城(Balmoral Castle)で崩御された英国のウィンザー朝第4代女王であるエリザベス2世(HM Queen Elizabeth II:1926年–2022年 / 在位期間:1952年–2022年)の在位60周年(The Diamond Jubilee / The Sixtieth Anniversary)を記念して、2013年5月30日に英国のロイヤルメール(Royal Mail)から肖像画切手6種類が発行されているので、今回紹介したい。


study for The Coronation of Queen Elizabeth II
by Terence Cuneo (1953)
< Royal Collection Trust >

portrait by Nicky Philipps (2013)
< Royal Mail Group Ltd. >

portrait by Andrew Festing (1999)
< Royal Hospital Chelsea >

portrait by Pietro Annigoni (1955)
< Camera Press London / The Bridgeman Art Library >

portrait by Sergei Pavlenko (2000)
< The Drapers' Company >

Her Majesty Queen Elizabeth II by Richard Stone (1992)
< Colchester Borough Council > 

2022年9月28日水曜日

サム・シチリアーノ作「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 月長石の呪い」(The further adventures of Sherlock Holmes / The Moonstone’s Curse by Sam Siciliano)- その2

英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から
2017年に出版された
サム・シチリアーノ作
「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 月長石の呪い」の裏表紙

1866年7月の水曜日の午後、シャーロック・ホームズの従兄弟で、友人でもあるヘンリー・ヴェルニール医師(Dr. Henry Vernier)が、ベイカーストリート221B221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)に住むホームズの元を訪れると、そこには、従者のホッジェス(Hodges)を伴った貴族のチャールズ・ブロムリー(Charles Bromley - 1839年生まれ)が、事件の相談にやって来ていた。

チャールズ・ブロムリーは、男爵(Baron)であるロバート・ブロムリー(Robert Bromley)の次男で、イートン校(Eton)とケンブリッジ大学(Cambridge University)で教育を受けており、現在、27歳の青年だった。彼は、2年程前に、アリス・ブレイク(Alice Blake - 現在、25歳)と結婚しており、今回、彼がホームズの元に来たのは、彼の妻アリスの手元にある先祖代々伝わるダイヤモンド「月長石(Monnstone)」と彼女の身に迫る危険について相談するためであった。


チャールズ・ブロムリーから相談を受けたホームズとヘンリーの二人は、事件の捜査を引き受け、翌日(木曜日)の午前10時に、ケンジントン(Kensington)のブロムリー家を訪ねた。

ホームズとヘンリーに面会したチャールズの妻アリスは、心臓の動悸と眩暈の症状を訴えた。

アリスによると、彼女の祖父母を鉄道事故で亡くしている上に、彼女の母親(シャーロット(Charlotte))をアヘンチンキの過剰摂取により亡くしていた。そして、彼女の父親(ネヴィル(Neville))は、その2年後に亡くなっていた。



アリスは、少女の頃から、クイーン アン ストリート(Queen Anne Street → 2014年11月15日付ブログで紹介済)のデイヴィッド・コーウェン医師(Dr. David Cowen)の診察を受けていた。

その話を聞いたヘンリーは、アリスの友人であるレディー・ジェーン・アレキサンダー(Lady Jane Alexander)が自分の妻で、医師のミッシェル・ドゥデ・ヴェルニール(Dr. Michelle Doudet Vernier)を診察を受けていることを説明して、アリスにも、「女性同士の方が話しやすいだろうから、ミッシェルの診察を受けてはどうか?」と勧めた。

当初、アリスは、コーウェン医師による診察を継続することに固執したが、ヘンリーが「二人の医師に診察してもらうことは、全く問題ない。また、ミッシェルによる診察は、お試しということで。」と説明すると、アリスも、ミッシェルによる診察を了承した。


クイーン アン ストリートは、
病院、診療所や歯医者等が集中する
ハーリーストリート(Harley Street → 2015年4月11日付ブログで紹介済)の近くで、
現在は、家賃が高い住宅街が主になっているが、
医療関係の施設も点在している。


翌日(金曜日)の午後、ホームズとヘンリーの二人がコーウェン医師の診療所を訪ねるところ、コーウェン医師は、「アリスが窓に見かけたインド人は、彼女が創り出した幻だ。」と言い切った。

また、ヘンリーが、コーウェン医師に対して、「アリスが、自分の妻ミッシェル医師による診察を受けることに同意した。」と告げると、コーウェン医師は急に激怒して、「ミッシェル医師は、自分の女性患者をどんどん奪っている。」とクレームする。ヘンリーがいろいろととりなすものの、コーウェン医師は全く聞き入れず、一触即発な状況となっため、ホームズが間に入らざるを得なかった。


そして、問題の翌日(土曜日)の午後7時、ブロムリー家において、パーティーが開催された。

パーティーの出席者は、以下の通り。


(1)バートラム夫妻(Lord James Bartram / Lady Norah Bartram)- アリスの妹とその夫

(2)アレキサンダー夫妻(Lord Franklin Alexander / Lady Jane Alexander)- アリスの友人とその夫

(3)ハリスン夫妻(Jasper Harrison / Florence Harrison)- ロバートの友人とその妻

(4)デイヴィッド・コーウェン医師(Dr. David Cowen)

(5)ロバート・マースウェイト(Robert Murthwaite)- アリスの父親の友人

(6)シャーロック・ホームズ

(7)ヴェルニール夫妻(Dr. Henry Vernier / Dr. Michelle Doudet Vernier)

(8)ブロムリー夫妻(Lord Charles Bromley / Lady Alice Bromley)


なんと、パーティーのテーブルには、不吉な数字の13人が着席することになった。

その夜、今回、最後ということで、アリスが身に付けるダイヤモンド「月長石」が、何者かに奪われる事件が発生するのである。


2022年9月27日火曜日

エリザベス2世(HM Queen Elizabeth II)- その5(在位60周年記念切手)

2022年9月8日にスコットランドのアバディーン州(Aberdeenshire)にあるバルモラル城(Balmoral Castle)で崩御された英国のウィンザー朝第4代女王であるエリザベス2世(HM Queen Elizabeth II:1926年–2022年 / 在位期間:1952年–2022年)の在位60周年(The Diamond Jubilee / The Sixtieth Anniversary)を記念して、2012年5月31日に英国のロイヤルメール(Royal Mail)から記念切手8種類が発行されているので、今回紹介したい。 


Golden Jubilee(2002年)-
エリザベス2世の在位50周年記念式典の際に撮影されたもので、
奥の人物は、エリザベス2世の夫である

エディンバラ公爵フィリップ(Prince Philip, Duke of Edinburgh:1921年 –2021年)。

Trooping the Colour(1967年)-
英国陸軍の連隊により、毎年、ロンドンで行われる式典で、
実質的には、英国の国王 / 女王の誕生日を記念して開催される衛兵式である。

The Royal Welsh(2007年)

First Christmas TV Broadcast(1957年)-
毎年、エリザベス2世によるクリスマスメッセージが
BBC で放映されていたが、これは1957年に始まった。

Silver Jubilee Walkabout(1997年)-
エリザベス2世の在位25周年記念式典の際に撮影されたもの。

Garter Ceremony(1997年)

United Nations Address(1957年)

Commonwealth Games(1982年)

2022年9月26日月曜日

ジョン・ディクスン・カー作「血に飢えた悪鬼」(The Hungry Goblin by John Dickson Carr)

日本の東京創元社から
創元推理文庫として1980年に出版されている
ジョン・ディクスン・カー作「血に飢えた悪鬼」の表紙 -
ウィリアム・ウィルキー・コリンズの写真が使用されている。


「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)は、米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家である。彼は、シャーロック・ホームズシリーズで有名なサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)の伝記を執筆するとともに、コナン・ドイルの息子であるエイドリアン・コナン・ドイル(Adrian Conan Doyle:1910年ー1970年)と一緒に、ホームズシリーズにおける「語られざる事件」をテーマにした短編集「シャーロック・ホームズの功績(The Exploits of Sherlock Holmes)」(1954年)を発表しているが、推理小説「月長石(The Monnstone)」(1868年)の作者で、ヴィクトリア朝時代(1837年-1901年)に活躍した英国の小説家 / 推理作家 / 劇作家であるウィリアム・ウィルキー・コリンズ(William Wilkie Collins:1824年ー1889年 → 2022年9月2日 / 9月4日付ブログで紹介済)を探偵役にした推理小説も発表している。


彼が、ジョン・ディクスン・カー名義で発表した作品では、当初、パリの予審判事のアンリ・バンコラン(Henri Bencolin)が探偵役を務めたが、その後、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)が探偵役として活躍した。彼は、カーター・ディクスン(Carter Dickson)というペンネームでも推理小説を執筆しており、カーター・ディクスン名義の作品では、ヘンリー・メルヴェール卿(Sir Henry Merrivale)が探偵役として活躍している。


彼がウィリアム・ウィルキー・コリンズを探偵役にした推理小説は、1972年にジョン・ディクスン・カー名義で発表された歴史ミステリー「血に飢えた悪鬼(The Hungry Goblin - A Victorian Detective Novel)」である。


定期船(ニューヨーク → リヴァプール)と列車(リヴァプール → ユーストン(Euston Station → 2015年10月31日付ブログで紹介済))を乗り継いで、1869年10月29日(金)の夕方、ジャーナリストのクリストファー(キット)・ファレル(Christopher (Kit) Farrell)は、9年ぶりにロンドンへと戻って来た。


キット・ファレルは、ランガムホテル(Langham Hotel → 2014年7月6日付ブログで紹介済)に宿泊するのであるが、ロンドン到着早々に、奇怪な事態に次々と遭遇する。

彼が、ホテルの玄関前で四輪馬車から降りた際、ホテルの中から出て来た女性が、玄関前に横付けになった四輪馬車に乗り込むと、霧雨の中を走り去って行った。なんと、彼女は、米国で別れ別れになった彼の恋人パトリシア(パット)・デンビー(Patoricia (Pat) Denbigh)だった。米国に居る筈の彼女が、何故、ロンドンに居るのか?彼女の急いだ様子を見る限り、何か、彼には言えない秘密があるようだった。

また、彼の友人で、探検家のナイジェル・シーグレイヴ(Nigel Seagrave)は、キット・ファレルに対して、「妻のミュリエル(Muriel)を愛しているが、最近、全く同じ顔をした別人と入れ替わったみたいだ。」と告げる。

更に、銃弾がキット・ファレルの頭をかすめた。何者か、彼を殺害しようとしているのか?


そして、万聖節前夜(ハロウィーン)の夜、ユドルフォ荘の温室内において、ナイジェル・シーグレイヴが撃たれる事件が発生する。温室は、出入口には誰かが居る衆人環視の密室状況下にあり、ナイジェル・シーグレイヴを撃った犯人の姿は、どこにもなかった。


この謎に挑戦するのが、ジョン・ディクスン・カーが探偵役に据えたウィリアム・ウィルキー・コリンズその人である。


パリの予審判事のアンリ・バンコランが探偵役を務める処女作「夜歩く(It Walks by Night)」を1930年に発表した以降、不可能犯罪をテーマに取り組んできたジョン・ディクスン・カーによる最後の長編かつ遺作が、本作品である。


2022年9月25日日曜日

コナン・ドイル作「赤毛組合」<小説版>(The Red-Headed League by Conan Doyle )- その1

英国で出版された「ストランドマガジン」
1891年8月号に掲載された挿絵(その1) -
1890年の秋、ジョン・H・ワトスンが
ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 
2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)の
シャーロック・ホームズの元を訪れると、
彼は燃えるような赤毛の初老の男性ジェイベス・ウィルスンから相談を受けている最中であった。

挿絵:シドニー・エドワード・パジェット

(Sidney Edward Paget 1860年 - 1908年)

英国の歴史家、作家、作曲家で、ジョン・H・ワトスンと同じように、医師でもあるポール・W・ナッシュ(Paul W. Nash)が2010年に発表した短編集「シャーロック・ホームズの遺稿(The Remains of Sherlock Holmes → 2022年9月5日 / 9月8日 / 9月13日 / 9月15日 / 9月17日付ブログで紹介済)」に収録されている最後の短編「シャーロック・ホームズの遺稿」では、シャーロック・ホームズシリーズの作者であるサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)が発表した短編「赤毛組合(The Red-Headed League)」が大きく関与してくる。


「赤毛組合」は、ホームズシリーズの56ある短編小説のうち、2番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1891年8月号にに掲載された。そして、ホームズシリーズの第1短編集である「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1892年)に収録された。


本ブログの場合、邦題として、「赤毛組合」(ちくま文庫 / 光文社文庫)を使用しているが、日本語版において、他には、「赤毛連盟」(早川文庫)、「赤髪組合」(新潮文庫)や「赤髪連盟」(創元推理文庫)等の邦題が使用されている。


「ストランドマガジン」の1927年3月号において、コナン・ドイルは、ホームズシリーズの自選12編の中で、本作品「赤毛組合」を、第1位の「まだらの紐(The Speckled Band)」に続いて、第2位に推している。


英国で出版された「ストランドマガジン」
1891年8月号に掲載された挿絵(その2) -
燃えるような赤毛の初老の男性ジェイベス・ウィルスンは、
ロンドンの経済活動の中心地であるシティー近くにあるザクセンーコーブルクスクエアにおいて
質屋を営んでおり、非常に奇妙な体験をしたと、ホームズ達に訴えた。
画面左側から、ホームズ、ワトスン、そして、ジェイベス・ウィルスンの3人が描かれている。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット
(1860年 - 1908年)


1890年の秋、ジョン・H・ワトスンがベイカーストリート221B のホームズの元を訪れると、彼は燃えるような赤毛の初老の男性ジェイベス・ウィルスン(Jabez Wilson)から相談を受けている最中であった。

ジェイベス・ウィルスンは、ロンドンの経済活動の中心地であるシティー(City → 2018年8月4日 / 8月11日付ブログで紹介済)近くにあるザクセンーコーブルクスクエア(Saxe-Coburg Square → 2016年1月1日付ブログで紹介済)において質屋(pawnbroker)を営んでおり、非常に奇妙な体験をしたと言うので、ホームズとワトスンの二人は彼から詳しい事情を聞くことになった。


2022年9月24日土曜日

エリザベス2世(HM Queen Elizabeth II)- その4(80歳誕生日記念切手)

2022年9月8日にスコットランドのアバディーン州(Aberdeenshire)にあるバルモラル城(Balmoral Castle)で崩御された英国のウィンザー朝第4代女王であるエリザベス2世(HM Queen Elizabeth II:1926年–2022年 / 在位期間:1952年–2022年)の80歳誕生日(2006年4月21日)を記念して、2006年4月18日に英国のロイヤルメール(Royal Mail)から記念切手8種類が発行されているので、今回紹介したい。





右側は、エリザベス2世の母親である
エリザベス・アンジェラ・マーガレット・ボーズ=ライアン
(Elizabeth Angela Marguerite Bowes-Lyon:1900年ー2002年)で、
エリザベス2世の即位(1952年)後、
同名であることによる混乱を避けるために、
エリザベス王太后(HM Queen Elizabeth The Queen Mother)と呼ばれた。





左側は、エリザベス2世の夫である
エディンバラ公爵フィリップ(Prince Philip, Duke of Edinburgh:1921年 –2021年)。

2022年9月23日金曜日

デイヴィッド・ステュアート・デイヴィーズ作「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 死者の書」(The further adventures of Sherlock Holmes / The Scroll of the Dead by David Stuart Davies) - その3

英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から
2009年に出版された
デイヴィッド・ステュアート・デイヴィーズ作
「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 死者の書」の表紙(一部)

読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆半(3.5)


本作品は、「最後の事件(The Final Problem → 2022年5月1日 / 5月8日 / 5月11日付ブログで紹介済)」、3年間に及ぶ海外放浪、そして、「空き家の冒険(The Empty House → 2022年5月27日 / 7月1日 / 7月10日 / 7月17日 / 7月24日 / 7月29日 / 8月3日 / 8月6日付ブログで紹介済)」を経て、シャーロック・ホームズがロンドンに帰還した1894年4月から1年が経過した1895年5月初旬から、物語は始まる。

兄であるマイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)からの依頼を受けて、ホームズは、霊媒師を名乗るユーリア・ホークショー(Uriah Hawkshaw)のイカサマを見破り、英国政府の重要機密に通じているロバート・ハイザ卿(Sir Robert Hythe)が騙されるのを防いだ。

それから1週間後の深夜、同じ降霊会に参加していたセバスチャン・メルモス(Sebastian Melmoth)が、ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)のホームズの元を訪れる。彼は、ホームズに対して、「自分は、死後の世界(The life beyond living) / 不死(immortality)を研究している。自分は、死が最終だとは思っていない。(I don’t believe death is the end.)」という謎の言葉を残すと、ベイカーストリート221B を後にする。

そして、話は、1896年春へと移り、大英博物館(British Museum → 2014年5月26日付ブログで紹介済)に二人組の盗賊が侵入して、「死者の書(The Scroll of the Dead)」と呼ばれるパピルス(papyrus)が盗まれた事件について、スコットランドヤードのアモス・ハードキャッスル警部(Inspector Amos Hardcastle)が相談に訪れたことを契機として、「死後の世界 / 不死」の秘密を探ろうとするセバスチャン・メルモスとホームズの戦いの幕が、本格的に切って落とされる。


(2)物語の展開について ☆☆☆☆(4.0)


物語は、ケンジントン地区(Kensington)における死者と交信する降霊会から始まり、大英博物館に保管されていたパピルス「死者の書」の盗難事件、ノーフォーク州(Norfolk)にある友人の地所におけるセバスチャン・メルモスの事故死事件(銃の暴発)、そして、問題のパピルスをエジプトで発掘した考古学者であるジョージ・フェーヴァーショー卿(Sir George Favershaw)の殺害事件とアリステア・アンドリューズ卿(Sir Alistair Andrews)の行方不明事件と、次々と展開していき、なかなかスピーディーであり、面白い。そして、「死後の世界 / 不死」の秘密を探ろうとするセバスチャン・メルモスとホームズの二人は、それが隠されているジョージ・フェーヴァーショー卿の避暑地である湖水地方(Lake District)へと、最後に辿り着く。

本作品の場合、他のパスティーシュと比べると、約170ページと、どちらかと言うと、中編に近く、物語の展開も早いので、非常に読みやすい。


(3)ホームズ / ワトスンの活躍について ☆☆☆☆(4.0)


本作品の場合、推理要素はあるものの、内容的には、「死後の世界 / 不死」の秘密を探ろうとするセバスチャン・メルモスとホームズの戦いが中心であり、その過程で、大英博物館に保管されていたパピルス「死者の書」の盗難事件、ノーフォーク州にある友人の地所におけるセバスチャン・メルモスの事故死事件(銃の暴発)そして、問題のパピルスをエジプトで発掘した考古学者であるジョージ・フェーヴァーショー卿の殺害事件とアリステア・アンドリューズ卿の行方不明事件等が発生していく。

勿論、ホームズは、これらの謎を全て解き明かして、「死後の世界 / 不死」が隠されているジョージ・フェーヴァーショー卿の避暑地である湖水地方へと辿り着くが、そこへ至るまでのセバスチャン・メルモスとの競争というか、知恵比べが主体である。


(4)総合評価 ☆☆☆☆(4.0)


他のパスティーシュ作品の場合、300ページ近くの分量のものが多く、作品によっては、300ページを超えるものもある。長編になると、どうしても、1つのテーマだけで推し進めていくには、なかなか難しい。また、物語の展開に乏しいと、どうしても、読み進めていくには、厳しい。

それらに比べると、本作品は、約170ページの中編であり、物語の展開も早く、非常に読みやすいので、ガチガチの本格ものではないが、お勧めである。



2022年9月22日木曜日

キャロル・ブッゲ作「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / インドの星」(The further adventures of Sherlock Holmes / The Star of India by Carole Bugge) - その3

英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から
2011年に出版された
キャロル・ブッゲ作
「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / インドの星」の表紙(一部)


読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆☆(4.0)


1891年5月4日、シャーロック・ホームズと彼の宿敵で、「犯罪界のナポレオン(Napoleon of crime)」と呼ばれるジェイムズ・モリアーティー教授(Professor James Moriarty)の2人は、スイスのマイリンゲン(Meiringen)にあるライヘンバッハの滝(Reichenbach Falls)にその姿を消して、彼らは死亡したものと思われていたが、3年後の1894年4月、ホームズは、無事にロンドンへと帰還し、「空き家の冒険(The Empty House)」事件において、ジョン・H・ワトスンやスコットランドヤードのレストレード警部(Inspector Lestrade)と協力の上、モリアーティー教授の片腕であるセバスチャン・モラン大佐(Colonel Sebastian Moran)の捕縛に成功した。本作品は、興味を持てる事件がなく、ホームズは非常に退屈していた1894年10月に発生した事件である。

英国の作家であるデイヴィッド・ステュアート・デイヴィーズ(David Stuart Davies:1946年ー)が2022年に発表した「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 墓場からの復讐(The further adventures of Sherlock Holmes / Revenge from the Grave → 2022年5月4日 / 5月14日 / 5月24日付ブログで紹介済)」では、「最後の事件」/「空き家の冒険」に続くホームズ対モリアーティー教授の後継者と名乗る人物との戦いが展開する一方、本作品では、ホームズだけではなく、モリアーティー教授も生きており、ホームズ対モリアーティー教授の戦いの第2幕が始まる。


(2)物語の展開について ☆☆☆☆(4.0)


デイヴィッド・ステュアート・デイヴィーズ作「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 墓場からの復讐」では、ホームズ対モリアーティー教授の後継者と名乗る人物との戦いが展開するが、本作品では、スイスのマイリンゲンにあるライヘンバッハの滝壺から復活したモリアーティー教授が、ホームズの元を訪れたメリーウェザー嬢(Miss Merriweather)が保有する青いサファイアで、正当な持ち主ではない人物の手に渡ると、死をもたらすと言い伝えてられている「インドの星(The Star of India)」に狙いを定めたため、ホームズ対モリアーティー教授の戦いの第2幕が進んでいく。

序盤、物語の舞台は、ロンドンのロイヤルアルバートホール(Royal Albert Hall → 2016年2月20日付ブログで紹介済)やコヴェントガーデン(Covent Garden → 2016年1月9日付ブログで紹介済)、そして、コンウォール州(Cornwall)のティンタジェル城(Tintagel Castle → 2022年7月23日付ブログで紹介済)へと移り、展開がスピーディーとまでは言わないものの、非常に読みやすく、なかなか面白い。メリーウェザー嬢が持つ「インドの星」に狙いを定めたモリアーティー教授との戦いの第2幕をホームズが開始する本筋が始まった後も、最後まで一気に読み進められる。


(3)ホームズ / ワトスンの活躍について ☆☆☆半(3.5)


興味を持てる事件がなく、非常に退屈していたホームズは、モリアーティー教授の復活を知り、以前の姿を取り戻したかのように、活動的である。

本作品は、ホームズ対モリアーティー教授の戦いの第2幕が本筋かと思わせるが、「実は、…」という内容で、ホームズは、モリアーティー教授以外に、もう一人の敵を相手にする必要があり、やや苦戦するのである。


(4)総合評価 ☆☆☆☆(4.0)


本作品は、非常に読みやすく、話の展開も面白い。

また、モリアーティー教授の復活を知ったホームズは、とても生き生きしているように感じられる。

唯一の難点は、復活したモリアーティー教授自身が、物語の最後まで、ホームズに対して、その姿を見せず、闇に潜んだままで終わるところかなと思う。ただ、それが、「犯罪界のナポレオン」と呼ばれるモリアーティー教授らしいのかもしれないが。そうは言っても、ライヘンバッハの滝から共に生還したホームズとモリアーティー教授の二人が、実際に対面する場面を見たかった。



2022年9月21日水曜日

コナン・ドイル作「白面の兵士」<小説版>(The Blanched Soldier by Conan Doyle ) - その3

英国で出版された「ストランドマガジン」
1926年11月号に掲載された挿絵(その4) -
第二次ボーア戦争が終結した直後の1903年1月、
音信不通となった戦友のゴドフリー・エムズワースの居所を探し出そうとする
ジェイムズ・M・ドッドからの依頼を受けたシャーロック・ホームズは、
彼と一緒に、ゴドフリーの実家であるタクスベリーオールドパークへと赴き、
父親のエムズワース大佐と相対する。
(画面左側から、ジェイムズ・M・ドッド、ゴドフリー・エムズワース、
エムズワース大佐、そして、ホームズの4人が描かれている。)
挿絵:
ハワード・ケッピー・エルコック
(Howard Keppie Elcock:1886年ー1952年)

第二次ボーア戦争(Second Anglo - Boer War:1899年10月12日ー1902年5月31日 → 2022年8月8日付ブログで紹介済)が終結した直後の1903年1月、ジェイムズ・M・ドッド氏(Mr. James M. Dodd)が、ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)のシャーロック・ホームズの元を訪れるところから、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「白面の兵士(The Blanched Soldier)」の物語は始まる。


スロッグモートンストリート(Throgmorton Street → 2015年1月3日付ブログで紹介済)において、株式仲買人としていた彼は、1901年1月に義勇農騎兵団(Imperial Yeomanry)のミドルセックス連隊(Middlesex Corps)に入隊して、つい最近まで南アフリカに出向いていた。彼がミドルセックス連隊に入隊した際、既にその部隊に居たゴドフリー・エムズワース(Godfrey Emsworth)と知り合い、1年間にわたる戦闘の中で、友情を育んだ。


戦友のゴドフリー・エムズワースは、プレトリア(Pretoria)郊外のダイヤモンドヒル(Diamond Hill)近くの戦闘において、象撃ち銃に撃たれ、病院へと送られたが、ジェイムズ・M・ドッドは、南アフリカのケープタウン(Cape Town)の病院からと、英国のサザンプトン(Southampton)から、ゴドフリーの手紙を受け取ったものの、それ以降、彼からの便りが途絶えてしまい、6ヶ月以上も音信不通のままとなってしまった。

その後、1902年5月末に第二次ボーア戦争が終結して、英国に戻ったジェイムズ・M・ドッドが、ゴドフリーの父親であるエムズワース大佐(Colonel Emsworth - クリミア戦争で十字勲章を受賞)に対して、ゴドフリーの所在を訊ねる手紙を送ったところ、「息子は世界一周の航海に出かけたので、1年は戻ってこない。」と言う返事があったきりだった。


英国への帰国後、身辺の整理がやっと片付いたジェイムズ・M・ドッドは、ゴドフリーの実家であるベッドフォード(Bedford)近くのタクスベリーオールドパーク(Tuxbury Old Park)を訪れて、エムズワース大佐から、ゴドフリーの所在を聞き出そうとするが、逆に、大佐の怒りを買ってしまう。

ゴドフリーの実家は、非常に交通の便が悪いところにあり、どの場所からも5マイル離れていたため、その夜、ゴドフリーの実家に泊まることになったジェイムズ・M・ドッドが、割り当てられた部屋で友人のゴドフリーのことを考え込んでいた際、ふと顔を上げると、窓の外に、幽霊のように真っ白な顔をしたゴドフリーその人が立っているのが見えた。ジェイムズ・M・ドッドは、慌てて、ゴドフリーを追いかけるが、残念ながら、彼の姿を見失ってしまう。

翌日、ゴドフリーの姿を求めて、ジェイムズ・M・ドッドは、屋敷の中を探しまわろうとするが、エムズワース大佐に見つかって、彼は屋敷から追い出されてしまったので、ゴドフリーのことを案じる彼は、相談のため、ホームズの元を訪れたのであった。


生憎と、トルコのスルタン(the Sultan of Turkey)から依頼を受けていたホームズは、翌週の初め、ジェイムズ・M・ドッドと一緒に、馬車でユーストン駅(Euston Station)へと向かった。その途中、一人の紳士(後に、皮膚病の専門医サー・ジェイムズ・サンダーズ(Sir James Saunders)であることが判明)を拾って、同行者となった。

ジェイムズ・M・ドッドと謎の紳士を伴い、ゴドフリーの実家であるタクスベリーオールドパークに到着したホームズは、エムズワース大佐と会い、謎を解き明かすのであった。


本作品内で言及されている病気は、現在とは異なり、当時、伝染する不治の病と考えられていたため、このような謎の状況を招いたものと言える。


物語の終盤、ホームズは、「不可能な事柄を全て消去していった時、どんなにありそうもないことであっても、残ったもの、それこそが真実である。(when you have eliminated all which is impossible, then whatever remains, however improbable, must be the truth.)」と、皆に話している。

非常に有名な言葉であるが、コナン・ドイルの原作において、ホームズがこのセリフを口にするのは、「白面の兵士」の他には、以下の3作品だけである。


(1)長編「四つの署名(The Sign of the Four)」(1890年)

(2)短編「緑柱石の宝冠(The Beryl Coronet)」(1892年)→ 第1短篇集「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1892年)に収録。

(3)短編「ブルース・パーティントン型設計図(The Bruce-Partington Plans)」(1908年)→ 第4短編集「シャーロック・ホームズ最後の挨拶(His Last Bow)」(1917年)に収録。 

2022年9月20日火曜日

エリザベス2世(HM Queen Elizabeth II)- その3(戴冠式50周年記念切手)


 2022年9月8日にスコットランドのアバディーン州(Aberdeenshire)にあるバルモラル城(Balmoral Castle)で崩御された英国のウィンザー朝第4代女王であるエリザベス2世(HM Queen Elizabeth II:1926年–2022年 / 在位期間:1952年–2022年)の戴冠式(The Coronation)50周年を記念して、2003年6月2日に英国のロイヤルメール(Royal Mail)から記念切手10種類が発行されているので、今回紹介したい。

なお、エリザベス2世の戴冠式は、1953年6月2日にウェストミンスター寺院(Westminster Abbey)において実施されており、昨日(2022年9月19日)の国葬(state funeral)も、同所で行われている。