英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から 2016年に出版された スティーヴン・サヴィル&ロバート・グリーンバーガー作 「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / ソローズクラウンでの殺人」の表紙(部分) |
読後の私的評価(満点=5.0)
(1)事件や背景の設定について ☆☆☆半(3.5)
シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンの二人が、ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)において、共同生活を始めた後に遭遇した最初の事件「緋色の研究(A Study in Scarlet → 2016年7月30日付ブログで紹介済)」(事件発生年月:1881年3月)の後に来る事件が、本作品「ソローズクラウンでの殺人(Murder at Sorrow’s Crown)」という設定になっている。
また、本作品で取り扱う事件(ノーベルト・ウィンター大尉(Lieutenant Nobert Wynter)の行方不明)の背景には、同年3月に終結した第一次ボーア戦争(First Anglo-Boer War:1880年12月16日ー1881年3月23日)があり、英国の史実を本作品の中にうまく取り込んでいる。
(2)物語の展開について ☆☆☆☆(4.0)
ハーマイオニー・フランセス・サラ・ウィンター(Mrs. Hermione Frances Sara Wynter)と名乗る老女からの依頼を受けて、第一次ボーア戦争中に行方不明となり、英国に帰還しなかった彼女の息子であるノーベルト・ウィンター大尉を捜すホームズとワトスンの二人。
彼らが海軍省(Admiralty)を訪ねた直後、事件の背後に潜む敵の反応は早く、ホームズ達に迫る脅威。それらにもめげず、捜索を続けるホームズ達に向けて、次々と放たれる刺客が、彼らの命をつけ狙う。
物語の終盤まで、割合とテンポ良く進み、全く飽きさせない。
(3)ホームズ / ワトスンの活躍について ☆☆☆半(3.5)
他の作品でもそうだが、英国政府の中に事件の犯人達が潜んでいる場合、ホームズが彼らの存在 / 正体等を突き止めたとしても、決定的な証拠を挙げることができず、有耶無耶のまま、中途半端な解決にしか至らないことが多い。
本作品の場合は、他の作品とは異なり、英国政府の中に潜む犯人達をホームズは突き止め、スコットランドヤードに逮捕させる。ただし、英国政府からの圧力もあって、事件を公にすることはできなかったが、他の作品と比べると、一定の成果を得ている。
(4)総合評価 ☆☆☆半(3.5)
ウィンター夫人からの依頼を受けて、ホームズとワトスンの二人は、第一次ボーア戦争中に行方不明となり、英国に帰還しなかった彼女の息子であるノーベルト・ウィンター大尉を捜すことを始め、物語の終盤、第一次ボーア戦争終結を望まなかった犯人達が行った犯罪という衝撃の事実が明らかにされる。
本作品の犯人達が命を狙ったある政治家(実在の人物)が体調を崩すのが、1881年3月22日で、第一次ボーア戦争を終結するプレトリア条約が締結されたのが、同年3月23日となっており、史実的には、本作品の内容通りであり、本作品の筋と整合性がとれている。
ただし、実際のところ、その政治家が体調を崩したのは、確かに、1881年3月22日であるが、体調を崩す要因となったのは、帰宅途中に雨に濡れて風邪をひいたためである。その後、病状がなかなか回復せず、胸部疾患の権威によって「気管支炎」と診断され、24時間体制での看護が行われたが、その甲斐もなく、同年4月19日に入った深夜、危篤状態に陥り、同日の午前4時半頃、息を引き取っている。
公式には、「病死」であるが、彼の死去があまりにも突然だったこと、そして、彼が亡くなった日が1881年4月19日で、第一次ボーア戦争が終結した同年3月23日と非常に近かったこともあって、作者であるスティーヴン・サヴィル(Steven Savile:1969年ー / スウェーデンに住む英国出身の作家兼編集者)とロバート・グリーンバーガー(Robert Greenberger:1958年ー / 米国の作家兼編集者)は、本作品のようなストーリーを創り上げたものと思われる。従って、本作品の内容は、あくまでもフィクションであって、本作品の犯人達が命を狙った結果、その政治家が体調を崩した訳ではないので、誤解がなきようにお願いしたい。
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