英国の MX Publishing 社から 2012年に出版されたティム・シモンズ作 「シャーロック・ホームズとスコットニー城のボーア人の死体」の表紙 |
読後の私的評価(満点=5.0)
(1)事件や背景の設定について ☆☆☆半(3.5)
大英帝国が推し進めた第二次ボーア戦争(Second Anglo-Boer War:1899年10月12日ー1902年5月31日)や人種差別・蔑視思想の持ち主であったとも言われ、当時、英国内において絶頂期を迎えていた小説家 / 詩人のジョーゼフ・ラドヤード・キップリング(Joseph Rudyard Kipling:1865年ー1936年 → 2018年12月16日 / 12月22日 / 12月30日付ブログで紹介済)等を背景にして、帝国主義の普及に務めるキップリング連盟(Kipling League)による犯罪を描いている。当時の英国の歴史をよく判った上で、本作品を読むと、なかなか興味深い。
実際のところ、ジョーゼフ・ラドヤード・キップリングは、1898年以降、1899年を除く毎年、冬期休暇で南アフリカを訪れて、第二次ボーア戦争を引き起こした南アフリカ長官(高等弁務官) / ケープ植民地総督の初代ミルナー子爵アルフレッド・ミルナー(Alfred Milner, 1st Viscount Milner:1854年ー1925年)等と親交を結び、大英帝国の立場を支持する詩作等を発表している。
(2)物語の展開について ☆☆(2.0)
キップリング連盟の会長で、で、本人も詩人 / 小説家 / ジャーナリスト / 評論家 / 歴史家でもあるデイヴィッド・ジョーゼフ・シヴィター(David Joseph Siviter)に招かれて、シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンの二人が、サセックス州(Sussex)にある彼の自宅クリックスエンド(Crick’s End)へと出向いて、犯罪学の講義を行うが、これだけで物語の半分弱を使ってしまう。
そして、物語の肝心要である事件、即ち、スコットニー城(Scotney Castle)の湖でボーア人の男性が死体で発見されるのが、中間辺りで、前振りの話がやや長過ぎて、展開としては、かなり遅い。事件に興味を覚えたホームズは、ロンドンへ戻ることを取り止めて、ワトスンと一緒に、現場へと向かう。
物語の後半のほとんどは、現地へと向かう馬車の中でのホームズとワトスンの会話劇(+ホームズによる推理)で構成されているため、変化に乏しく、面白味が全く感じられない。
(3)ホームズ / ワトスンの活躍について ☆☆(2.0)
物語の前半は、デイヴィッド・ジョーゼフ・シヴィターの招待を受けて、ホームズとワトスンの二人が、サセックス州へと赴いて、犯罪学の講義を行う話が中心となり、事件の背景となる情報は語られるものの、ホームズによる目立った推理 / 活躍は、全くない。
スコットニー城の湖からボーア人の男性の死体が発見したされる中間辺りから、やっと物語が動き始める。ただし、物語の後半のほとんどが、現場へと向かう馬車の中でのシーンで占められ、ホームズによる推理というか、推論だけが語られ、証拠固めのプロセスが全然描かれていない。従って、事件の真相としては、なかなか興味深いが、最終的な説得性に欠けている。
(4)総合評価 ☆☆半(2.5)
事件そのものやその背景の設定としては、英国の歴史的になかなか興味深い。ただし、他の作品でもそうであるが、ホームズ達の相手方が英国王室、英国政府やそれらの関係者である場合、物語の筋そのものは面白いかもしれないが、物語の最後までうまく持って行くのは、正直、非常に難しい。当然のことながら、ホームズ達の相手方は強大な権力を有しており、ホームズ達に自分達の尻尾を捕ませるような証拠を残したりはしない上、握り潰すことも可能。結局のところ、推測はできるが、玉虫色の中途半端な解決、つまり、有耶無耶な結論にしか至らず、物語としてのカタルシスを全く得られない。
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