2025年12月9日火曜日

そして誰もいなくなった」の世界 <ジグソーパズル>(The World of ‘And Then There Were None’ )- その21

英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に発行されている「「そして誰もいなくなった」の世界(The World of ‘And Then There Were None’)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」(1939年)の登場人物や同作品に関連した47個にわたる手掛かりについて、引き続き、紹介したい。


ジグソーパズルの下段の中央に、
首の後ろに右手を当てているエドワード・ジョージ・アームストロング医師が、赤枠で囲まれている。
<筆者撮影>

赤枠で囲まれたエドワード・ジョージ・アームストロング医師の右斜め上には、
兵隊島に建つ邸宅の玄関から外へと出て、テラスを降りた後、
彼が走り去る姿が見られる。
<筆者撮影>


エドワード・ジョージ・アームストロング(Edward George Armstrong / ロンドン・ハーリーストリート(Harley Street → 2015年4月11日付ブログで紹介済)の開業医  → 2025年10月31日付ブログで紹介済)に関連した3個の手掛かりが、その対象となる。


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に出ている
ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」(1000ピース)


(34)割れた窓ガラス(A broken window)


兵隊島(Soldier Island → 2025年10月19日付ブログで紹介済)に建つ邸宅の1階にある食堂の隣室に、
招待客8人と執事 / 料理人夫婦が過去に犯した罪を告発するレコードがセットされた蓄音機が置かれている。
そして、蓄音機が置かれている部屋の窓ガラスが割れている。

アガサ・クリスティーの原作によると、
蓄音機が置かれていたのは、厳密には、応接間の隣室である。
また、割れていたのは、食堂の窓ガラスである。
<筆者撮影>


応接間において、裁判官の服装をして、額に銃弾を受けていたローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave / 高名な元判事) → 2025年10月20日付ブログで紹介済)が発見された日の夜中、エドワード・ジョージ・アームストロングが自分の部屋から姿を消してしまう。

フィリップ・ロンバード(Philip Lombard / 元陸軍中尉 → 2025年10月28日付ブログで紹介済)とウィリアム・ヘンリー・ブロア(William Henry Blore / 元警部(Detective Inspector)→ 2025年11月2日付ブログで紹介済)の2人が、エドワード・ジョージ・アームストロングの行方を捜索するため、邸宅の外へ向かったものの、彼を発見することはできなかった。彼ら2人が見つけたのは、食堂の窓ガラスが1枚割れていたことと、テーブルの上の子供の兵隊人形(china soldier figurines → 2025年11月16日付ブログで紹介済)が3個に減っていたことだった。


ようやく足音は廊下に移ってきた。ロンバードの声がした。

「ヴェラ、大丈夫かい」

「ええ、どうでした」

「中に入れてもらえますか」と、ブロアの声が言った。

ヴェラはドアに行った。イスを動かしてカギを開け、掛け金をはずす。ドアを開けた。男性二人は荒い息づかいをしていた。足とズボンのすそがぐっしょり濡れている。

「どうでした」と、ヴェラは同じことをきいた。

ロンバードが答えた。

「アームストロングが消えた …」


「なんですって」ヴェラは大きな声を出した。

「島から、きれいさっぱり消えてしまった」と、ロンバード。

ブロアも同じことを言った。

「消えた - そう、そのとおり! まるで奇術だ」

ヴェラはじれったそうに言った。

「そんなばかな! どこかに隠れているのよ」

ブロアが言った。

「いや、ちがうね! この島には、隠れる場所なんてない。手のひらのようにつるりとして、なにもないところだ。外は月明かりで明るい。昼間みたいですよ。なのに、見つからない」

「家にもどってきたんでしょう」と、ヴェラ。

「われわれも、そう思った。屋敷の中も捜しました。音が聞こえたでしょう。ここにはいませんよ。いなくなった - あとかたもなく消えた、トンズラしちゃったんです」

「わたしには信じられないわ」

「本当なんだ」と、ロンバードが言った。

彼はちょっと言葉を切ってから、先を続けた。

「ちょっとしたことだけど、ほかにももう一つ。ダイニングルームの窓ガラスが、一枚割れていた - そしてテーブルの上の小さな兵隊さんが、三個になっている」

(青木 久惠訳)


(36)燻製の鰊(ニシン)(A red herring)


赤枠で囲まれたエドワード・ジョージ・アームストロング医師の右斜め下には、
兵隊島の海岸に打ち上げる波の名から、ニシンが姿を見せている
<筆者撮影>


エドワード・ジョージ・アームストロングは、童謡「10人の子供の兵隊(Ten Little Soldiers → 2025年11月15日付ブログで紹介済)」のうち、燻製の鰊(ニシン)が出てくる歌詞に準えて、溺死させられる。


なお、「red herring」とは、本来の問題点から皆の注意を他に逸らして、論点をすり替える論理的誤謬を指す用語で、推理小説においては、登場人物(警察や探偵等を含む)や読者を誤った結論へと導くために使用される虚偽の証拠や情報等のことを言う。


つまり、夜中に、エドワード・ジョージ・アームストロングが部屋から抜け出して、外へ出て行ったため、フィリップ・ロンバードとウィリアム・ヘンリー・ブロアの2人が、「エドワード・ジョージ・アームストロングが、一連の殺人を行った犯人だ。」と考えて、彼の後を追うが、これは、登場人物である彼らと読者を誤った結論へと導いていることを、作者であるアガサ・クリスティーが「red herring」と言う用語を使って、匂わせているものと思われる。


(43)エドワード・ジョージ・アームストロング医師のスーツケース(A doctor’s suitcase)


兵隊島に建つ邸宅の1階の一番右端が居間で、
招待客の一人であるアンソニー・ジェイムズ・マーストンが、
ソファーにリラックして座り、酒を楽しんでいる。
この居間の窓に、真っ赤なオイルシルクのカーテンが掛けられている。
厳密に言うと、原作の場合、
このカーテンが掛かっていたのは、居間ではなく、浴室である。
このカーテンの下の床に、
エドワード・ジョージ・アームストロング医師のスーツケースが置かれている。
<筆者撮影>


食堂において、エミリー・キャロライン・ブレント(Emily Caroline Brent / 信仰心の厚い老婦人 → 2025年10月29日付ブログで紹介済)が、青酸カリが入った皮下注射器を首筋に刺されて、5番目の犠牲者となった後、残された人達は、エドワード・ジョージ・アームストロング医師が持って来た注射器が使用されたのではないかと疑い、彼のスーツケースを調べるのであった。


「われわれにはまだ、筋道をたてて、ものを考える力があるんじゃないかな。この家に注射器を持ってきたものはいるだろうか」と、判事が静かに言った。

アームストロング医師が、身体を起こした。

「わたしは持ってきましたよ」と、彼は不安そうな声で答えた。

四対の目が、医者をじっと見つめた。敵意のこもった疑り深い視線を受けて、アームストロングは身体をこわばらせた。

「旅行にはいつも持っていくんです。医者なら、当たり前だ」

ウォーグレイヴ判事が、静かに言った。

「たしかに、そのとおりだな。先生、あんたの注射器は今どこにあるだろう」

「部屋に置いてあるスーツケースに入っていますよ」

「それを確かめようじゃないか」と、ウォーグレイヴ。

五人は、無言でぞろぞろと二階に上がっていった。

スーツケースの中身が出されて、床に並べられた。

注射器はなかった。


アームストロングが声を尖らせた。

「盗まれたんだ!」

誰もなにも言わなかった。

(青木 久惠訳)


1930年代後半の8月のこと、英国デヴォン州の沖合いに浮かぶ兵隊島に、エドワード・ジョージ・アームストロングを含め、年齢も職業も異なる8人の男女が招かれる。彼らを島で迎えた執事と料理人の夫婦は、エリック・ノーマン・オーウェン氏(Mr. Ulick Norman Owen)とユナ・ナンシー・オーウェン夫人に自分達は雇われていると招待客に告げる。しかし、彼らの招待主で、この島の所有者であるオーウェン夫妻は、いつまで待っても、姿を現さないままだった。


招待客が自分達の招待主や招待状の話をし始めると、皆の説明が全く噛み合なかった。その結果、招待状が虚偽のものであることが、彼らには判ってきた。招待客の不安がつのる中、晩餐会が始まるが、その最中、招待客8人と執事 / 料理人夫婦が過去に犯した罪を告発する謎の声が室内に響き渡る。

エドワード・ジョージ・アームストロングは、アルコールを摂取した後、患者のルイーザ・メアリー・クリース(Louisa Mary Clees)の手術を執刀して、死に至らせたと告発された。


招待客が兵隊島に到着した日の晩餐会において、
謎の声(オーウェン氏)による告発により、招待客8人と執事 / 料理人夫婦が戦慄する場面 -

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」の
グラフィックノベル版(→ 2020年9月13日付ブログで紹介済)から抜粋。


そして、物語が進み、童謡「10人の子供の兵隊」に準えて、エドワード・ジョージ・アームストロングは、6番目の被害者となる。


兵隊島に建つ邸宅の2階にある
ヴェラ・エリザベス・クレイソーンの部屋の壁(画面左側)には、
童謡「10人の子供の兵隊」が書かれた額が掛けられている。
<筆者撮影>


Four little soldier boys going out to sea; A red herring swallowed one and then there were Three.

(4人の子供の兵隊さんが、海へ出かけた。一人が燻製の鰊(ニシン)に呑みれて、残りは3人になった。)


原作の場合、

夜中、邸宅から外へ出て行ったエドワード・ジョージ・アームストロングの追跡が失敗に終わり、

屋敷に戻って来たフィリップ・ロンバードとウィリアム・ヘンリー・ブロアの2人は、

食堂へ行って、兵隊人形の数が3個に減っていることを確認。-

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。


*被害者:エドワード・ジョージ・アームストロング

*告発された罪状:アルコールを摂取した後、患者のルイーザ・メアリー・クリースの手術を執刀して、死に至らせたと告発された。

*犯罪発生時期:1925年3月14日

*死因:溺死


原作の場合、海岸の二つの岩の間に、
エドワード・ジョージ・アームストロングの溺死体が挟まれているのが、
フィリップ・ロンバードとヴェラ・エリザベス・クレイソーンの2人によって発見されている。
エドワード・ジョージ・アームストロングの溺死体は、満ち潮で打ち上げられたのである。-

HarperCollins Publishers 社から出ている

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。


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