サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「覆面の下宿人(The Veiled Lodger)」は、シャーロック・ホームズシリーズの短編小説56作のうち、55番目に発表された作品で、英国の「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1927年2月号に、また、米国の「リバティー(Liberty)」の1927年1月22日号に掲載された。
同作品は、同年の1927年に発行されたホームズシリーズの第5短編集「シャーロック・ホームズの事件簿(The Case-Book of Sherlock Holmes)」に収録されている。
コナン・ドイル作「覆面の下宿人」の場合、1896年の終わり頃のある午前中から、その物語が始まる。
ジョン・H・ワトスンは、シャーロック・ホームズから「ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)へ来て欲しい。」と言う速達を受け取る。
ワトスンが急いでホームズの元を訪れると、そこには、ホームズの他に、年配で母親を思わせる女家主タイプの女性が座っていた。
その女性は、サウスブリクストン(South Brixton)のメリロウ夫人(Mrs Merrilow)で、ある相談のために、ホームズを訪ねて来たのである。
メリロウ夫人によると、彼女の相談の対象は、彼女の家に7年前から下宿しているロンダー夫人(Mrs Ronder)で、いつもヴェールで顔を覆っていて、自分の素顔を見せようとはしなかった。
メリロウ夫人は、一度だけ、偶然にロンダー夫人の顔を見かけたことがあり、その顔は恐ろしく傷付いた状態で、ロンダー夫人が素顔のままで上階の窓から外を見ているのを、牛乳配達人がちらっと目にしたため、牛乳の缶を落として、全部前の庭にぶちまけてしまった程だった。
メリロウ夫人は、ロンダー夫人の過去を全く知らなかったが、知りたいとは思わなかった。
メリロウ夫人の家に下宿する際、ロンダー夫人は紹介状を持っていなかったものの、3ヶ月分の家賃を前金として現金で支払った上に、入居条件については、何も口を挟まなかった。ロンダー夫人以上に物静かで、いざこざを起こさない下宿人を見つけることは無理なので、メリロウ夫人は、現状に満足していた。
ところが、ここのところ、ロンダー夫人が次第に弱っており、メリロウ夫人としては、ロンダー夫人の健康を気にかけていた。
更に、夜になると、ロンダー夫人は、「人殺し!(Murder!)」とか、「この酷いケダモノ!この怪物!(You cruel beast! You monster!)」と叫び、それが家中に響き渡り、メリロウ夫人は全身震え上がった。
ロンダー夫人の健康状態に加えて、彼女の精神状態を心配したメリロウ夫人は、ロンダー夫人に対して、聖職者や警察への相談を打診したが、ロンダー夫人は、その申し出を拒否。
メリロウ夫人が諮問探偵のホームズの話をすると、ロンダー夫人は、その話に飛び付いた。そして、ロンダー夫人は、メリロウ夫人に対して、「ホームズさんが来てくれなそうであれば、自分は、野獣ショー(beast show)のロンダー(Ronder)の妻だと伝えて下さい。それに加えて、ホームズさんには、アッバス パルヴァ(Abbas Parva)の名前を言って下さい。」と告げた。
メリロウ夫人の話を聞いたホームズは、「午後3時頃、お宅にお伺いします。」と答えると、彼女はホームズの元を辞去した。
メリロウ夫人が帰った後、ホームズは、部屋の隅にある備忘録の山へと突進する。ホームズは、探していたものを見つけたようで、仏像のように足を交差させ、辺り一面に備忘録を散らかして、そのうちの1冊を膝の上で広げるのであった。
ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett:1933年ー1995年)を主人公のシャーロック・ホームズ役に据えて、英国のグラナダテレビ(Granada Television Limited)が TV ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1984年ー1994年)を制作しているものの、残念ながら、「覆面の下宿人」に関しては、映像化されていない。
