諮問探偵業から引退して、ロンドンからやって来たシャーロック・ホームズが居を構えたサセックス州(Sussex)のサウスダウンズ(South Downs)の海外において、フィッツロイ・マクファースン(Fitzroy McPherson)青年が謎の死を遂げてから、1週間が経過した。
検死陪審(inquest)は、新たな証拠が見つかるまで、延期されていた。シャーロック・ホームズ自身も、再度、フィッツロイ・マクファースン青年が怪死した現場を調べり、また、いろいろと考えたりしたものの、残念ながら、事態の進展はなかった。
その日、ホームズは、老齢の家政婦(ハドスン夫人と言う説あり)から、フィッツロイ・マクファースン青年の飼い犬の話を聞いた。
彼女によると、「フィッツロイ・マクファースン青年の飼い犬は、飼い主の死を悲しんで、1週間の間、何も食べていなかった。そして、飼い犬は、今日、海岸、それも、飼い主が亡くなったと同じ場所で死んでいるのが見つかった。」とのことだった。
家政婦から話を聞いて、興味が引かれたホームズは、ホームズの一軒家から半マイル程離れた場所において、「ザ・ゲイブルズ(The Gables)」と言う職業訓練学校を経営しているハロルド・スタックハースト(Harold Stackhurst)の元へと向かった。
ハロルド・スタックハーストから、フィッツロイ・マクファースン青年の飼い犬が死んでいることを発見したサドベリー(Sudbury)とブラント(Blount)と言う2人の青年を紹介したもらったホームズは、2人から、「フィッツロイ・マクファースン青年の飼い犬が死んでいた場所は、潮溜まりの端だった。」と言う証言を得た。
また、職業訓練学校のホールに置かれた犬の死体をホームズが調べると、体は堅く強張り、目は飛び出しており、足は捻じ曲がっていた。飼い主であるフィッツロイ・マクファースン青年と同じような苦悶の跡があったのである。
陽は既に沈んでいたが、ホームズは、職業訓練学校からフィッツロイ・マクファースン青年が亡くなった海岸まで歩いて行った。潮溜まりの近くで暫く佇んでいたが、真実に届きそうで届かなかった。
振り返って、家へとゆっくりと歩き出したホームズが、道の頂上まで来た時、真実が閃光のように閃いたのである。
翌朝、ホームズが紅茶を飲んで海岸へと向かおうとしていたところ、サセックス州警察(Sussex Constabulary)のバードル警部(Inspector Bardle)が訪れた。
バードル警部は、「フィッツロイ・マクファースンの殺害犯人として、(ハロルド・スタックハーストが経営している職業訓練学校の数学講師である)イアン・マードック(Ian Murdoch)を逮捕しようと考えている。」と話すが、ホームズは、「犯人は、イアン・マードックではない。」と言う意見だった。
ちょうどその時、当のイアン・マードックが、ハロルド・スタックハーストに伴われて、よろめきながら、ホームズの家へとやって来たのである。
ハロルド・スタックハーストによると、フィッツロイ・マクファースンが謎の死を遂げたのと同じ海岸において、瀕死の状態のイアン・マードックを発見したが、職業訓練学校はと遠いため、ホームズの家へと運んだ、とのことだった。驚くべきことに、イアン・マードックの肩には、フィッツロイ・マクファースンの背中と同じように、細い針金の鞭で強く打たれたようなみみず腫れの跡が残っていた。
イアン・マードックは、ブランディーとホームズの応急処置により、なんとか命をとりとめた。
イアン・マードックの命に別状がないことを確認したホームズは、ハロルド・スタックハーストとバードル警部を連れて、海岸へと向かった。それは、1週間前にフィッツロイ・マクファースンを殺害し、今日、イアン・マードックの命を奪いかけた真犯人を指摘するためだった。
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