本作品「背中合わせの殺人(The Back to Front Murder)」は、英国のヨーク(York)出身の作家で、フリーランスの編集者でもあるティム・メージャー(Tim Major)によって、2021年に発表された。
1898年5月のある日、ジョン・H・ワトスンが外出から戻ると、シャーロック・ホームズが、事件の依頼人と思われる35歳前後の女性と話をしている最中だった。
彼女の名前はアビゲイル・ムーン(Miss Abigail Moone)で、職業は推理作家だった。彼女は、「ダミアン・コリンボーン(Damien Collinbourne)」と言う男性のペンネームを用いて、推理小説を執筆しており、ワトスンの場合も、彼女が執筆した推理小説が、少なくとも2冊は本棚にあった。
彼女がホームズの元に訪れたのは、タイムズ紙に載っていたロナルド・バイザウッド(Ronald Bythewood)と言う60代の男性が、不可解な状況で毒殺された事件について、相談するためだった。
推理作家としてのアビゲイル・ムーンの生活習慣は、一風変わっていた。
午前中は、戸外で人間観察をし(to watch people)、その中から被害者として最適の人物を選び出して(to select a likely looking victim)、その人物を殺害する手段を考え出す(to conjure a method of killing them)作業を行うと、自宅へと戻り、午後は、執筆作業に集中する(to work at my desk)と言う毎日を繰り返していた。
この日常ルーティンが、彼女を推理作家としての大成功へと導いたのである。
アビゲイル・ムーンの説明は、愈々、核心部分へと入る。
彼女は、最近、National Gallery of British Art <テイト・ブリテン美術館(Tate Britain → 2018年2月18日付ブログで紹介済)>を人間観察を行う場所として使っていた。美術館は、1年程前の1897年の夏に開館していたが、ワトスンは、まだ訪れたことがなかった。一方、「テイト・ブリテン美術館を訪れたことがあるか?」と言うアビゲイル・ムーンの問いに対して、ホームズは、無言を貫いた。
テイト・ブリテン美術館の正面玄関へと向かう階段の左脇の支柱 |
テイト・ブリテン美術館の建物正面を階段下から見上げたところ - 建物正面が、本作品における南側の入口に該る。 巻末において、作者のティム・メージャーも言及しているが、 実際のところ、建物正面には、水飲み場は存在していない。 |
National Gallery of British Art での人間観察を通して、アビゲイル・ムーンが今回の被害者役として選んだのは、ロナルド・バイザウッドだった。
彼女によると、ロナルド・バイザウッドは、月曜日から木曜日の午前10時15分頃、National Gallery of British Art を訪れ、いくつかの部屋に展示された絵画を観てまわると、美術館を出ると言う習慣だった。そして、ロナルド・バイザウッドは、美術館の南側の入口の前にある水飲み場において、毎日、水を飲むのだが、彼女が観察していた限りでは、彼以外に、水飲み場を利用するような人は居なかった。水を飲み終わったロナルド・バイザウッドは、ヴォクスホール橋(Vauxhall Bridge → 2017年9月16日付ブログで紹介済)を渡り、テムズ河(River Thames)の南岸にあるヴォクスホール公園(Vauxall Park)まで歩いて行くのであった。アビゲイル・ムーンは、National Gallery of British Art からヴォクスホール公園まで、彼の後をつけて行った。
ヴォクスホール橋の中央辺りからテムズ河南岸を見たところー 中央奥に見えるのは、テムズ河南岸沿いに並ぶ高級フラット群 |
アビゲイル・ムーンは、次回作のために、National Gallery of British Art の南側の入口の前にある水飲み場を使って、ロナルド・バイザウッドを毒殺する実験を思い付く。勿論、本当の毒を使用する訳ではない。
彼女の実験は、非常にうまく行ったのだが、何故か、水飲み場の水を飲んだロナルド・バイザウッドが、暫くすると、倒れて、死亡してしまうと言う事件が発生したのである。
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