サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「孤独な自転車乗り(The Solitary Cyclist → 2022年12月11日 / 12月21日および2023年1月5日 / 1月8日付ブログで紹介済)」では、1895年4月23日(土)の晩、ヴァイオレット・スミス嬢(Miss Violet Smith)が、ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)のシャーロック・ホームズの元を、相談のために訪れるところから、物語が始まる。
一方、英国のグラナダテレビ(Granada Television Limited)が制作した「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1984年ー1994年)において、TV ドラマとして映像化され、英国で1984年5月15日に放映された「孤独な自転車乗り」の場合、毎週末、ロンドンの母親の元へ戻るため、そして、ホームズの元を相談のために訪れるため、ファーナム駅(Farham Station)へと向かうヴァイオレット・スミスが乗る自転車が、謎の男が乗った自転車に、後をつけられる場面から、話が始まる。
コナン・ドイルの原作の場合、ヴァイオレット・スミスがホームズの元を訪れる時刻は、土曜日の「晩(late in the evening)」となっているが、英国 TV 版の場合、映像的には、土曜日の「午後」で、「晩」にまではなっていないようである。また、事件の依頼人であるヴァイオレット・スミスは、音楽の家庭教師をしているチルタン屋敷(Chiltern Grange)からファーナム駅まで乗って来た自転車を、更にロンドンまで一緒に運んで来たようで、ベイカーストリート221Bの建物の前まで、自転車で乗り付けている。
ヴァイオレット・スミスが、ホームズに対して、自分がボブ・カラザース氏(Bob Carruthers)の娘の音楽の家庭教師をすることに至った経緯につき、説明を行った際、コナン・ドイルの原作と英国 TV 版では、次のような差異が見られる。
(1)
コナン・ドイルの原作の場合、ヴァイオレット・スミスは、「(自分の)父親であるジェイムズ・スミス(James Smith)は、旧帝国劇場(Imperial Theatre)において、オーケストラの指揮者を務めていたが、既に亡くなっている。」という説明をしているが、彼がいつなくなったのかにかかる具体的な言及はない。
一方、英国 TV 版の場合、ヴァイオレット・スミスは、「父親は、数年前に亡くなった。」と発言しており、彼女の説明の内容が、より具体的になっている。
(2)
コナン・ドイルの原作の場合、ヴァイオレット・スミスは、「自分と母親にとって、親類は、叔父に該るラルフ・スミス(Ralph Smith)ただ一人で、彼は、25年前にアフリカへと行き、それ以降、消息不明のままだ。」と説明している。
一方、英国 TV 版の場合、ヴァイオレット・スミスは、「叔父のラルフ・スミスは、15年前に南アフリカへと行き、それ以降、消息不明のままだ。」と説明しており、叔父のラルフ・スミスが行った場所が、「南アフリカ」と
より特定されている上に、そこへ出かけた時期が、「25年前」から「15年前」へと変更されている。
(3)
コナン・ドイルの原作の場合、ヴァイオレット・スミスは、「4ヶ月前の昨年(1894年)12月のある日、タイムズ紙(The Times)上に自分達の所在を尋ねる広告が掲載されているのを見て、誰かが自分達に遺産を残してくれたものと喜び、直ぐに弁護士のところへと出かけた。」と説明している。
一方、英国 TV 版の場合、ヴァイオレット・スミスが弁護士のところへ出かけた時期が、「4ヶ月前の2月」に変更されている。
(4)
コナン・ドイルの原作の場合、タイムズ紙(The Times)上に自分達の所在を尋ねる広告が掲載されているのを見て、弁護士のところへと出かけたのは、ヴァイオレット・スミスと彼女の母親の2人(原作上、「We」という単語が使用されている)である。
一方、英国 TV 版の場合、登場人物をできるだけ整理するため、また、俳優 / 女優の出演料をなるべく使わないためもあるかとは思うが、弁護士のところへと出かけたのは、ヴァイオレット・スミス本人のみとなっている。従って、ヴァイオレット・スミスの母親のことは、彼女による説明上、言及はされているものの、映像的には、出てこない。
(5)
コナン・ドイルの原作の場合、ボブ・カラザース氏の娘について、10歳であることは記載されているものの、名前に関しては、全く言及されていない。
一方、英国 TV 版の場合、ボブ・カラザース氏の娘について、具体的に、「サラ(Sarah)」と設定されている。偶然ではあるが、彼女を演じる子役の名前も、「Sarah (Altchison)」である。
(6)
コナン・ドイルの原作の場合、ヴァイオレット・スミスは、ホームズに対して、彼女の方から、
・既に婚約していること
・婚約者は、電気技師(electrical engineer)であるシリル・モートン(Cyril Morton)であること
・今年の夏の終わりに結婚する予定であること(to marry at the end of summer)
を説明しているが、婚約者であるシリル・モートンの勤務先については、ホームズの問いに答える形で、「コヴェントリー(Coventry)にあるミッドランド電気会社(Midland Electric Company)」だと説明している。
一方、英国 TV 版の場合、時間の制約の観点からだと推測するが、ヴァイオレット・スミスは、ホームズに対して、婚約者であるシリル・モートンの勤務先を含めて、上記の内容を全て、彼女の方から、まとめて説明している。
そして、ヴァイオレット・スミスからホームズへの説明は、いよいよ、核心部分へと入る。
ヴァイオレット・スミスが、土曜日(チルタン屋敷 → ファーナム駅)と月曜日(ファーナム駅 → チルタン屋敷)、謎の男に後をつけられるようになったのは、2週間前からで、これは、コナン・ドイルの原作も、英国 TV 版も、同じである。
ただし、毎週土曜日、ヴァイオレット・スミスが、ファーナム駅からロンドン行きの12時22分発列車に乗るために、チルタン屋敷を自転車に乗って出るのが、コナン・ドイルの原作の場合、「forenoon(午前の後半である正午前)」と発言しているが、英国 TV 版の場合、「morning(朝)」と説明している。ヴァイオレット・スミスによると、チルタン屋敷からファーナム駅までの道のりは、約6マイル(10㎞弱)とのことなので、実際のところ、彼女が自転車でチルタン屋敷を出るのは、「morning」では、やや早過ぎるので、やはり、コナン・ドイルの原作通り、「forenoon」の方が妥当ではないかと思われる。
コナン・ドイルの原作の場合、ヴァイオレット・スミスは、謎の男に後をつけられた際、一度、あるカーブの途中で急に停まって、自分の後をつける謎の男をやり過ごそうと試みたことがあるが、その男はやって来なかったことがあったという記述がある。一方、英国 TV 版の場合、ヴァイオレット・スミスからホームズへの説明上、このような話は出てこなかった。
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