2023年2月28日火曜日

パイプを咥えたシャーロック・ホームズ - その3

サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-1930年)が執筆したシャーロック・ホームズシリーズにおいて、パイプを咥えたシャーロック・ホームズの挿絵について、引き続き、紹介したい。


今回も、ホームズシリーズの第2短編集である「シャーロック・ホームズの回想(The Memoirs of Sherlock Holmes)」に収録されている挿絵に関して、紹介する。

今回も、挿絵を担当しているのは、挿絵画家であるシドニー・エドワード・パジェット(Sidney Edward Paget:1860年ー1908年)である。

また、当時、柄が真っ直ぐになったパイプが一般的に使用されていたことを示すために、ホームズに加えて、他の登場人物の挿絵も掲載する。


(10)「入院患者(The Resident Patient)」


英国で出版された「ストランドマガジン」
1893年8月号に掲載された挿絵 -
パーシー・トレヴェリアン博士(Dr. Percy Trevelyan)からの依頼を受けて、
シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンは、
彼が医院を開業している
ブルックストリート403番地(403 Brook Street)を訪ねる。
すると、出資者で、上階に住む裕福なブレシントン氏(Mr Blessington)が亡くなっていた。
ホームズは、ブレシントン氏のコートのポケットにあった
葉巻入れを開けて、
一本だけ残っていた葉巻の臭いを嗅いだ。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット(1860年 - 1908年)

「入院患者」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、21番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1893年8月号に、また、米国でも、「ハーパーズ ウィークリー(Harper’s Weekly)」の1893年8月12日号に掲載された。

同作品は、1893年に発行されたホームズシリーズの第2短編集である「シャーロック・ホームズの回想」に収録されている。


(11)「ギリシア語通訳(The Greek Interpreter)」


英国で出版された「ストランドマガジン」
1893年9月号に掲載された挿絵 -
ある夏の午後、シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンが
取り留めのない会話をしていると、
突然、ホームズは、自分の祖先や兄のマイクロフトの話をし始める。
画面左側の人物がワトスンで、画面右側の人物がホームズ。
ホームズは、柄が真っ直ぐになったパイプを右手に持っている。

挿絵:シドニー・エドワード・パジェット(1860年 - 1908年)

「ギリシア語通訳」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、22番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン」の1893年9月号に、また、米国でも、「ハーパーズ ウィークリー(Harper’s Weekly)」の1893年9月16日号に掲載された。

同作品は、ホームズシリーズの第2短編集である「シャーロック・ホームズの回想」(1893年)に収録されている。


英国で出版された「ストランドマガジン」
1893年9月号に掲載された挿絵 -
シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンが
パル・マル通り(Pall Mall)にあるディオゲネスクラブ(Diogenes Club)から
ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 
2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)に戻ると、
先程会ったマイクロフト・ホームズが、肘掛け椅子に座って、
煙草を吹かしているところに出くわした。
マイクロフト・ホームズは、馬車に使って、
ホームズとワトスンの2人を追い越したのである。
画面左側から、シャーロック・ホームズ、ワトスン、
そして、マイクロフト・ホームズ。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット(1860年 - 1908年)

なお、本作品において、ジョン・H・ワトスンは、シャーロック・ホームズの兄であるマイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)に初めて出会う。


(12)「海軍条約文書(The Naval Treaty)


英国で出版された「ストランドマガジン」
1893年9月号に掲載された挿絵 -
シャーロック・ホームズは、ジョン・H・ワトスンと
ワトスンの古い学友で、事件の依頼人であるパーシー・フェルプス(Percy Phelps)の2人を前にして、
盗まれた海軍条約文書を取り戻した経緯につき、説明を行う。
画面左側から、パーシー・フェルプス、ワトスン、そして、ホームズ。
ホームズは、柄が真っ直ぐになったパイプを右手に持っている。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット(1860年 - 1908年)

「海軍条約文書」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、23番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン」の1893年10月号に、また、米国でも、「ハーパーズ ウィークリー」の1893年10月14日号 / 10月21日号に掲載された。

同作品は、ホームズシリーズの第2短編集である「シャーロック・ホームズの回想」(1893年)に収録されている。


2023年2月27日月曜日

アガサ・クリスティーの世界<ジグソーパズル>(The World of Agatha Christie )- その17

英国の Orion Publishing Group Ltd. から出ている「アガサ・クリスティーの世界(The World of Agatha Christie)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の生涯や彼女が執筆した作品等に関連した90個の手掛かりについて、前回に続き、紹介していきたい。


今回も、アガサ・クリスティーが執筆した作品に関連する手掛かりの紹介となる。


(55)テニス用のラケット(tennis racquet)


アガサ・クリスティーが座る椅子の手前にある大テーブルの右斜め上の床に、
テニス用のラケットとテニスボールが転がっている。

(56)宝石(jewels)


画面左下にある丸テーブルの上に設置された蓄音機の右斜め上に、
ラマット王国の王家に伝わる宝石が入った入れ物が置かれている。

本ジグソーパズル内において、アガサ・クリスティーが腰掛けている椅子の手前に、大テーブルがあり、その大テーブルの右斜め上の床に、テニス用のラケットが、テニスボールと一緒に、置かれている。また、一番左下にある丸テーブルの上に、蓄音機が設置されているが、その右斜め上には、宝石が入った入れ物が置かれている。

これらから連想されるのは、アガサ・クリスティーが1959年に発表したエルキュール・ポワロシリーズ作品「鳩のなかの猫(Cat Among the Pigeons)」である。本作品は、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第28作目に該っている。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「鳩のなかの猫」のペーパーバック版の表紙

中東のラマット王国(Ramat)では、若き国王であるアリ・ユースフ(Prince Ali Yusuf)は民主化を進めていたが、国王に対する革命が勃発する。

自身に迫る危機を事前に察したアリ・ユースフ国王は、彼の親友で、彼のお抱え飛行士でもあるボブ・ローリンスン(Bob Rawlinson)に対して、数十万ポンドの価値にもなる王家に伝わる宝石を密かに国外へ運び出すことを依頼した。アリ・ユースフ国王からの依頼を受けたボブ・ローリンスンは、咄嗟に姉のジョアン・サットクリフ(Joan Sutcliffe)と姪のジェニファー・サットクリフ(Jennifer Sutcliffe)が滞在しているホテルの部屋を訪ねたが、生憎と、彼女達は留守だった。そこで、ボブ・ローリンスンは、姪のジェニファーが使っているテニス用のラケットの握り部分に宝石が入った包みを隠すと、ホテルの部屋を出た。ボブ・ローリンスンとしては、自分の行動を誰にも見られていないつもりでいたが、実際には、彼の行動は、何者かに見られていたのである。

母親のジョアン・サットクリフと娘のジェニファーは、数十万ポンドにものぼる宝石が自分達の目と鼻の先にあるとは夢にも思わず、ジェニファーの学校入学に合わせて、ラマット王国から英国へと帰国した。

その後、アリ・ユースフ国王は、ボブ・ローリンスンと一緒に、飛行機でラマット王国を脱出しようと試みたが、途中で事故により墜落した結果、2人とも亡くなってしまう。


それから3ヶ月後、ボブ・ローリンスンの姪であるジェニファー・サットクリフは、ロンドンにある有名な私立女子校であるメドウバンク校(Meadowbank School)へと通っていた。メドウバンク校は、英国屈指の名門校で、王族の子女達が学ぶ一方で、革新的な教育システムも採り入れていた。亡くなったアリ・ユースフ国王の従姉妹で、彼の婚約者でもあったラマット王国のシャイスタ王女(Princess Shaista)も、新入生として、メドウバンク校に入学していた。


メドウバンク校の創設者で、校長も務めるオノリア・バルストロード(Honoria Bulstrode)は、夏季学期の始業日の行事を滞りなく進める中、引退と自分の後継者の選定を考えていた。

オノリア・バルストロードにとって、数学の教師であるミス・チャドウィック(Miss Chadwick)は、メドウバンク校創設以来の彼女の盟友であったが、学校を率いるタイプではないと考えており、事実上、彼女の後継者候補からは外されていた。そのため、彼女は、歴史とドイツ語の教師であるエレノア・ヴァンシッタート(Eleanor Vansittart)を、後継者の最有力候補として考えていたのである。


そんな最中、夏季学期が始まる前に完成したばかりの室内競技場(Sports Pavilion)において、深夜、銃声が鳴り響き、体育の教師であるグレイス・スプリンガー(Grace Springer)が殺害される。

後日、ラマット王国のシャイスタ王女が誘拐される事件が発生すると、更に、オノリア・バルストロードの後継者の最有力候補であるエレノア・ヴァンシッタートが、後頭部を砂袋で強打され、第2の被害者となると、続いて、フランス語の教師であるアンジェール・ブランシュ(Angele Blanche)も、後頭部を砂袋で強打され、第3の被害者となった。


こうして、一見関係ないように見えたラマット王国での出来事とメドウバンク校の出来事の2つが、次第に深く絡み合って行くのであった。


なお、本作品の場合、推理小説と言うよりは、サスペンス小説に近く、探偵役を務めるエルキュール・ポワロは、物語の終盤に入ってから(全体の 2/3 辺りを過ぎたあたりから)登場して、事件を解決する役目を担うにとどまっている。


2023年2月26日日曜日

ドラキュラの世界<ジグソーパズル>(The World of Dracula )- その13

英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より2021年に出ているジグソーパズル「ドラキュラの世界(The World of Dracula)」のイラスト内には、アイルランド人の小説家であるブラム・ストーカー(Bram Stoker)こと、エイブラハム・ストーカー(Abraham Stoker:1847年ー1912年)が1897年に発表したゴシック小説 / ホラー小説「吸血鬼ドラキュラ(Dracula → 2017年12月24日 / 12月26日付ブログで紹介済)」の物語に関して、基本的に、左下から左上へ、そして、右上へと進み、最終的には、右下で完結するように、各場面が散りばめられているので、前回と同様に、順番に紹介していきたい。


<再び、トランシルヴァニアへ(Back to Transylvania)>


今回は、「その2」となる。


(28)


ドラキュラ伯爵がトランシルヴァニアのドラキュラ城へと戻る前に追い付いた
アーサー・ホルムウッド達は、ドラキュラ伯爵が眠る棺の蓋を開けて、
ドラキュラ伯爵の首を切り落とすとともに、
ドラキュラ伯爵の心臓に杭を打ち込んで、怪物を退治した。
画面左側の人物がクウィンシー・モリスで、
画面右側の人物がアーサー・ホルムウッド。

血を吸われて、ドラキュラ伯爵(Count Dracula)と意識が繋がっているウィルへルミナ・ハーカー(Wilhelmina Harker - 愛称:ミナ(Mina))に対して、エイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授(Professor Abraham Van Helsing)は、催眠療法を施して、彼女から、ドラキュラ伯爵が身を休める棺を乗せた船が、ロンドンからヴァルナ(Varna - 現在のブルガリア北東部の黒海(Black Sea)沿岸にある都市)へと向かっているという情報を得た。ドラキュラ伯爵は、一旦、英国からトランシルヴァニア(Transylvania)のドラキュラ城(Castle Dracula)へと退却しようとしていたのだ。

ドラキュラ伯爵に血を吸われたミナ・ハーカーの身を救うべく、ヴァン・ヘルシング教授、アーサー・ホルムウッド(Arthur Holmwood)、ジャック・セワード医師(Dr. Jack Seward)とクウィンシー・モリス(Quincey Morris)の4人は、ジョナサン・ハーカー(Jonathan Harker)とミナ・ハーカーを伴うと、トランシルヴァニアへと戻ろうとするドラキュラ伯爵を追撃することに決めた。


017年に英国の出版社 Usborne Publishing Ltd. から発刊された
「吸血鬼ドラキュラ」のグラフィックノベル版から抜粋 -
グラフィックノベル版では、ジョナサン・ハーカーが、
ドラキュラ伯爵の心臓に杭を打ち込むと、
怪物は塵とかしたのである。


ドラキュラ伯爵が身を休める棺がドラキュラ城に到達する前に追い付いたアーサー・ホルムウッド達は、棺内に眠るドラキュラ伯爵を退治することができた。
しかし、残念なことに、クウィンシー・モリスは、その戦いの中で、命を落とすことになった。


(29)


別行動をとったエイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授は、
ドラキュラ城へと潜入して、3人の女性吸血鬼を退治した。

一方、アーサー・ホルムウッド達とは別行動をとったヴァン・ヘルシング教授は、ドラキュラ城へと潜入して、ジョナサン・ハーカーの滞在時に彼を襲おうとした3人の女性吸血鬼を対峙することに成功した。


017年に英国の出版社 Usborne Publishing Ltd. から発刊された
「吸血鬼ドラキュラ」のグラフィックノベル版から抜粋 -
ドラキュラ城に滞在したことがあるジョナサン・ハーカーからの情報を得て、
エイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授は、3人の女性吸血鬼が眠る場所を突き止めると、
彼女達の心臓に杭を打ち込んだ。

ドラキュラ伯爵と3人の女性吸血鬼を退治したことにより、ヴァン・ヘルシング教授達は、ミナ・ハーカーがルーシー・ウェステンラ(Lucy Westenra)と同じ末路を辿ることを防いだのである。


2023年2月25日土曜日

綾辻行人作「十角館の殺人」<小説版>(The Decagon House Murders by Yukito Ayatsuji )- その2

英国のプーシキン出版から2020年に出ている
綾辻行人作「十角館の殺人」の英訳版に掲載されている
「角島」の地図(青屋敷の焼失跡と十角館等を含む)


1986年3月26日(水)、大分県O市K大学の推理小説研究会(Mystery Club)の一行が、S半島のJ岬の沖合いに浮かぶ角島(Tsunojima)と呼ばれる無人の孤島を訪れた。一行のメンバーは、以下の通り。


(1)ポウ(Poe)- 医学部4回生

(2)カー(Carr)- 法学部3回生

(3)エラリイ(Ellery)- 法学部3回生で、会誌「死人島(Dead Island)」の現編集長

(4)ヴァン(Van)- 理学部3回生

(5)アガサ(Agatha)- 薬学部3回生

(6)オルツィ(Orczy)- 文学部2回生

(7)ルルウ(Leroux)- 文学部2回生で、会誌「死人島」の次期編集長


彼らは、欧米の有名な推理作家達に因んだニックネームで呼ばれている。


角島には、半年前の1985年9月20日に、凄惨な四重殺人事件が発生の上、全焼した「青屋敷(Blue Mansion)」の跡と十角形という奇妙なデザインの「十角館(Decagon House)」が残るだけだった。

事件後、不動産業者である(ヴァンの)伯父が角島を購入したことを聞いたヴァンが、自分が所属する推理小説研究会に話を伝え、会誌「死人島」の次期編集長であるルルウが、角島に唯一残っている「十角館」での1週間の合宿を提案したのである。


角島を訪れた推理小説研究会の一行の頭上には、以下のような暗雲が垂れこめていた。


(1)

1985年1月、推理小説研究会によって開催された新年会の三次会において、当時、文学部1回生だった中村千織(Chiori Nakamura)が、急性アルコール中毒が要因となって引き起こされた心臓麻痺により急死したのである。


(2)

合宿の約半年前に該る1985年9月20日の早朝、亡くなった中村千織の両親である中村青司 / 中村和枝夫妻が住む角島の「青屋敷」が全焼するという事件が発生。

「青屋敷」の焼け跡から、建築家で、「青屋敷」/「十角館」の設計者でもある中村青司(Seiji Nakamura:46歳)、彼の妻である中村和枝(Kazue Nakamura)、そして、住み込みの使用人である北村夫妻と思われる計4名の遺体が発見されたのである。

検死解剖の結果、中村青司は焼死、中村和枝は、ロープのようなもので絞殺されていたことが判明。また、使用人の北村夫妻は、2人とも、椅子にロープで縛りつけられた後、斧で頭を叩き割られていたことが判った。なお、死亡時刻には、大きな開きがあり、中村和枝、使用人の北村夫妻、そして、中村青司の順だった。更に言うと、4人全員の体内から、多量の睡眠薬が検出された。

驚くべきことに、何故か、中村和枝の左手首が、彼女の遺体から切断されており、警察による現場検証にもかかわらず、「青屋敷」の焼失現場からは発見されなかった。


「青屋敷」が全焼した当時、庭師である吉川誠一(Seiichi Yoshikawa:46歳)が、角島を訪れていた筈であった。彼は、月に1回、角島に数日間滞在して、庭の手入れをしており、今回も、庭の手入れのために、角島にやって来ていたのである。

ところが、吉川誠一の遺体は、「青屋敷」の焼失現場からは見つからず、行方不明とされた。

そのため、当時の警察は、吉川誠一が、中村和枝に横恋慕した結果、中村青司、中村和枝、そして、使用人の北村夫妻の4人を殺害した後、角島から逃亡したのではないかと結論付けていた。


そして、角島を訪れた推理小説研究会の一行に対して、惨劇の幕があがることになる。


2023年2月24日金曜日

パイプを咥えたシャーロック・ホームズ - その2

サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-1930年)が執筆したシャーロック・ホームズシリーズにおいて、パイプを咥えたシャーロック・ホームズの挿絵について、引き続き、紹介したい。


前回、1892年に発行されたホームズシリーズの第1短編集「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」に収録されている挿絵を紹介したが、今回は、ホームズシリーズの第2短編集である「シャーロック・ホームズの回想(The Memoirs of Sherlock Holmes)」に収録されている挿絵に関して、紹介する。

今回も、挿絵を担当しているのは、挿絵画家であるシドニー・エドワード・パジェット(Sidney Edward Paget:1860年ー1908年)である。

また、当時、柄が真っ直ぐになったパイプが一般的に使用されていたことを示すために、ホームズに加えて、他の登場人物の挿絵も掲載する。


(6)「黄色い顔(The Yellow Face)」


英国で出版された「ストランドマガジン」
1893年2月号に掲載された挿絵 -

シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンがハイドパークへ散歩に出かけている間に、
ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 
2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)を訪れた依頼人が忘れて行った
古いブライヤー製で、煙草愛好家が琥珀と呼ぶ上等な長い柄があるパイプを、
ホームズは、手の平の上でひっくり返しながら、
依頼人のひととなりを推理する。
画面左側の人物がワトスンで、画面右側の人物がホームズ。
ホームズが手にしているパイプは、柄が真っ直ぐになっている。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット(1860年 - 1908年)

「黄色い顔」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、15番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1893年2月号に、また、米国でも、「ハーパーズ ウィークリー(Harper’s Weekly)」の1893年2月11日号に掲載された。

同作品は、1893年に発行されたホームズシリーズの第2短編集である「シャーロック・ホームズの回想」に収録されている。


(7)「株式仲買店員(The Stockbroker’s Clerk)」


英国で出版された「ストランドマガジン」
1893年3月号に掲載された挿絵 -

勤めていたドイレパーズガーデンズ(Drapers' Gardens)にある
コクソン・アンド・ウッドハウス商会(Coxon & Woodhouse's)が倒産したことに伴い、
株式仲買店員であるホール・パイクロフト(Hall Pycroft)は、
ロンバードストリート(Lombard Street)にある
大手株式仲買店モーソン・アンド・ウィリアムズ商会(Mawson & Willaims's)に
欠員を1名見つけた。
そんな彼の自宅を「財務外交員(Financial Agent)」の
「アーサー・ピナー(Arthur Pinner)」と名乗る人物が訪ねて来た。
画面左側の人物がアーサー・ピナーで、画面右側の人物がホール・パイクロフト。
ホール・パイクロフトが、柄が真っ直ぐになったパイプを左手に持っている。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット(1860年 - 1908年)

「株式仲買店員」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、16番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン」の1893年3月号に、また、米国でも、「ハーパーズ ウィークリー(Harper’s Weekly)」の1893年3月11日号に掲載された。

同作品は、ホームズシリーズの第2短編集である「シャーロック・ホームズの回想」(1893年)に収録されている。


(8)「グロリア・スコット号事件(The Gloria Scott → 2021年9月25日 / 10月3日 / 10月10日付ブログで紹介済)


英国で出版された「ストランドマガジン」
1893年4月号に掲載された挿絵 -
大学在籍時、ヴィクター・トレヴァー(Victor Trevor)の飼い犬が
シャーロック・ホームズの足首に噛み付いたことが切っ掛けとなり、二人は知り合う。
ヴィクターがホームズを見舞ううちに、二人は親友になる。
ヴィクターは、ホームズが大学に居た2年間にできた唯一の友人であった。
画面左側の人物がホームズで、画面右側の人物がヴィクター・トレヴァー。
ヴィクター・トレヴァーが、柄が真っ直ぐになったパイプを口に咥えている。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット(1860年 - 1908年)

「グロリア・スコット号事件」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、17番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン」の1893年4月号に、また、米国でも、「ハーパーズ ウィークリー」の1893年4月15日号に掲載された。

同作品は、ホームズシリーズの第2短編集である「シャーロック・ホームズの回想」(1893年)に収録されている。


(9)「マスグレイヴ家の儀式書(The Musgrave Ritual)」


英国で出版された「ストランドマガジン」
1893年5月号に掲載された挿絵 -
シャーロック・ホームズと同じ大学で、顔見知り程度に過ぎなかった
レジナルド・マスグレイヴ(Reginald Musgrave)が、
指紋探偵業を始めたホームズが住む
モンタギューストリート(Montague Street)を訪れる。
大学を卒業して以来、4年ぶりの再会だった。
レジナルド・マスグレイヴは、火がついた煙草を右手に持っている。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット(1860年 - 1908年)

「マスグレイヴ家の儀式書」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、18番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン」の1893年5月号に、また、米国では、「ハーパーズ ウィークリー」の1893年5月13日号に掲載された

同作品は、ホームズシリーズの第2短編集である「シャーロック・ホームズの回想」(1893年)に収録されている。


2023年2月23日木曜日

アガサ・クリスティーの世界<ジグソーパズル>(The World of Agatha Christie )- その16

英国の Orion Publishing Group Ltd. から出ている「アガサ・クリスティーの世界(The World of Agatha Christie)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の生涯や彼女が執筆した作品等に関連した90個の手掛かりについて、前回に続き、紹介していきたい。


今回も、アガサ・クリスティーが執筆した作品に関連する手掛かりの紹介となる。


(53)ペトラ(Petra)


左側の窓の上には、ヨルダンの古都ペトラにある遺跡の絵が入った額が架けられている。

(54)皮下注射針(hypodermic needle)


右側にある本棚の一番上の段には、
皮下注射針が置かれている。

本ジグソーパズル内において、アガサ・クリスティーが腰掛けている椅子の左側の窓の上に、ヨルダン(Jordan)の古都ペトラ(Petra)にある遺跡の絵(写真)が入った額が架けられている。また、アガサ・クリスティーが座っている椅子の右側にある本棚の一番上の段に、皮下注射針が置かれている。

これらから連想されるのは、アガサ・クリスティーが1938年に発表したエルキュール・ポワロシリーズ作品「死との約束(Appointment with Death → 2021年3月13日付ブログで紹介済)」である。本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第23作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第16作目に該っている。また、本作品は、「メソポタミヤの殺人(Murder in Mesopotamia)」(1936年)と「ナイルに死す(Death on the Nile)」(1937年)に続く中近東を舞台にした長編第3作目でもある。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「死との約束」のペーパーバック版の表紙

エルキュール・ポワロは、休暇を兼ねて、エルサレム(Jerusalem)のキングソロモンホテル(King Solomon Hotel)に滞在していた。エルサレムは、三大宗教にとっての聖地であり、ユダヤ教文化、キリスト教文化、そして、イスラム教文化が入り混じる魅惑の地であった。


「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ。(You do see, don’t you, that she’s got to be killed ?)」

ポワロがホテルに宿泊した最初の晩、開け放った窓から、夜の静けさをぬって、男女の危険な囁き声をポワロは耳にした。どこへ行こうとも、彼には、犯罪が付いて回るのだろうか?


同じホテルに滞在しているボイントン一家は、行く先々で皆の注目を集めていた。家族の行動は、全て、母親であるボイントン夫人(Mrs. Boynton)中心に回っていて、全ての面において、彼女は家族の行動を監視するとともに、厳しい批判を行っていた。ボイントン夫人は、残酷な仕打ちそのものに非常な喜びを見出す精神的なサディストであり、可哀想なことに、彼女の家族全員がそのはけ口となっていたのである。


ヨルダンの古都ペトラにある遺跡等を見物するため、ボイントン一家が旅行に出かけた際、彼らが滞在しているキャンプ地において、殺人事件が発生する。家族が見物に行かせて、キャンプ地に一人残ったボイントン夫人が、洞窟の入口近くで、多量のジギトキシンを注射器で投与され、殺害されているのが見つかったのである。


現地の警察署長で、ポワロの旧友でもあるカーバリー大佐(Colonel Carbury)は、偶然にも、現地に居合わせたポワロに助力を求める。


エルキュール・ポワロとカーバリー大佐を除く主な登場人物は、以下の通り。


(1)ボイントン夫人: 一家を支配する金持ちの老婦人

(2)レノックス・ボイントン(Lennox Boynton): ボイントン夫人の(義理の)長男

(3)ネイディーン・ボイントン(Nadine Boynton): レノックスの妻

(4)レイモンド・ボイントン(Raymond Boynton): ボイントン夫人の(義理の)次男

(5)キャロル・ボイントン(Carol Boynton): ボイントン夫人の(義理の)長女

(6)ジネヴラ・ボイントン(Ginevra Boynton): ボイントン夫人の次女

(7)ジェファーソン・コープ(Jefferson Cope): ネイディーンの友人(米国人)

(8)サラ・キング(Sarah King): 女医

(9)テオドール・ジェラール(Theodore Gerard): 心理学者(フランス人)

(10)ウェストホルム卿夫人(Lady Westholme): 英国下院議員

(11)アマベル・ピアス(Amabel Pierce): 保母


アガサ・クリスティーの小説版は、2部構成になっており、第一部については、ボイントン夫人が殺害されるまでが、そして、第2部においては、ボイントン夫人が殺害された後の顛末が描かれている。

ポワロは、全編にわたって登場する訳ではなく、キングソロモンホテルにおいて男女の危険な囁き声を耳にするプロローグと第2部のみである。


なお、ペトラは、ボイントン夫人が殺害されたキャンプ地がある場所で、皮下注射針は、ボイントン夫人を殺害するべく、多量のジギトキシンを投与するのに使用された凶器である。


2023年2月22日水曜日

ドラキュラの世界<ジグソーパズル>(The World of Dracula )- その12

英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より2021年に出ているジグソーパズル「ドラキュラの世界(The World of Dracula)」のイラスト内には、アイルランド人の小説家であるブラム・ストーカー(Bram Stoker)こと、エイブラハム・ストーカー(Abraham Stoker:1847年ー1912年)が1897年に発表したゴシック小説 / ホラー小説「吸血鬼ドラキュラ(Dracula → 2017年12月24日 / 12月26日付ブログで紹介済)」の物語に関して、基本的に、左下から左上へ、そして、右上へと進み、最終的には、右下で完結するように、各場面が散りばめられているので、前回と同様に、順番に紹介していきたい。


<再び、トランシルヴァニアへ(Back to Transylvania)>


今回は、「その1」となる。


(27)


アーサー・ホルムウッドの婚約者であるルーシー・ウェステンラに加えて、
ドラキュラ伯爵は、
ジョナサン・ハーカーと結婚したウィルへルミナ・ハーカーに対しても、
その魔手を伸ばしてきたのである。


経緯は前後するが、トランシルヴァニア(Transylvania)にあるドラキュラ城(Castle Dracula)に囚われの身となっていた新人事務弁護士(solicitor)であるジョナサン・ハーカー(Jonathan Harker)は、命からがらドラキュラ城から逃げ出すと、列車に乗って、なんとかブダペスト(Budapest)まで辿り着いた。しかし、彼は、あまりにも衰弱していたため、現地の病院に入院する破目となった。そして、病院において看病を受ける間中ずーっと、彼は他の人達には理解できない意味不明のうわ言を言い続けていたのである。

現地の病院から連絡を受けた婚約者のウィルへルミナ・マレー(Wilhelmina Murray - 愛称:ミナ(Mina))は、急遽、ブダペストへと向かった。


017年に英国の出版社 Usborne Publishing Ltd. から発刊された
「吸血鬼ドラキュラ」のグラフィックノベル版から抜粋 -
ドラキュラ城から命からがら逃げ出したジョナサン・ハーカーは、
非常に衰弱したまま、ブダペストに着くと、
そのまま病院へ入院することになる。
一番最初のコマにおいて、左側の人物がミナ・マレーで、
右側の人物がルーシー・ウェステンラ。


体力を回復したジョナサン・ハーカーは、ミナ・マレーと結婚し、新婚の2人は、英国へと戻って来た。

自宅があるエクセター(Exeter)へと向かおうとした2人であったが、ロンドンの街中において、ジョナサン・ハーカーは、ドラキュラ伯爵(Count Dracula)の姿を見かけて、恐怖する。


017年に英国の出版社 Usborne Publishing Ltd. から発刊された
「吸血鬼ドラキュラ」のグラフィックノベル版から抜粋 -
体調が回復し、ミナ・マレーと結婚して、ブダペストから英国へと帰国したジョナサン・ハーカーは、
ロンドンの街中で、ドラキュラ伯爵の姿を見かけ、恐怖に襲われる。
一番最初のコマにおいて、左側の人物がミナ・ハーカーで、
右側の人物がジョナサン・ハーカー。


エクセターへと戻って来たミナ・ハーカー(Mina Harker)の元へ、エイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授(Professor Abraham Van Helsing)から、彼女の親友であるルーシー・ウェステンラ(Lucy Westenra)が亡くなったという知らせが入った。

ミナ・ハーカーの元を訪れたヴァン・ヘルシング教授に対して、彼女は、夫であるジョナサン・ハーカーがドラキュラ城において遭った恐ろしい体験について、話をするのであった。


017年に英国の出版社 Usborne Publishing Ltd. から発刊された
「吸血鬼ドラキュラ」のグラフィックノベル版から抜粋 -
ルーシー・ウェステンラの死去を伝えたエイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授は、
エクセターのミナ・ハーカーを訪れると、詳しい話を始める。
一番最初のコマにおいて、左側の人物がミナ・ハーカーで、
右側の人物がジョナサン・ハーカー。


ドラキュラ伯爵によって吸血鬼(vampire)にされたルーシー・ウェステンラを本当の永遠の眠りにつかせたヴァン・ヘルシング教授、彼女の婚約であるアーサー・ホルムウッド(Arthur Holmwood)、ジャック・セワード医師(Dr. Jack Seward)とクウィンシー・モリス(Quincey Morris)の4人は、ジョナサン・ハーカーから情報を得て、ドラキュラ伯爵が潜んでいると思われるロンドン近郊にあるカーファックス屋敷(Carfax)へと向かった。

そこで、彼らは、ドラキュラ伯爵が身を休めるための棺を49個発見した。これらの中には、ドラキュラ伯爵がロシア船「デメテール号(Demeter)」を使ってトランシルヴァニアから運ばせた現地の土が入っていた。ドラキュラ伯爵は、トランシルヴァニアの土が入った棺がないと、自分の身を休めることができないのだった。


017年に英国の出版社 Usborne Publishing Ltd. から発刊された
「吸血鬼ドラキュラ」のグラフィックノベル版から抜粋 -
ジョナサン・ハーカーの情報に基づいて、
ドラキュラ伯爵が潜むカーファックス屋敷にやって来たエイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授達は、
ドラキュラ伯爵がトランシルヴァニアから運んできた
現地の土が入った棺を大量に発見した。
最後のコマにおいて、画面左側より、
クウィンシー・モリス、ジャック・セワード医師、
ヴァン・ヘルシング教授、そして、アーサー・ホルムウッド。


49個の棺を処分するヴァン・ヘルシング教授達であったが、本来であれば、50個ある筈にもかかわらず、残りの1個を見つけることができなかった。

一旦、4人がジャック・セワード医師の家へと戻ったところ、彼らの帰りを待っていたジョナサン・ハーカーは眠らせたドラキュラ伯爵が、ミナ・ハーカーを襲っている現場に出くわした。ドラキュラ伯爵は、一旦、退却する。


017年に英国の出版社 Usborne Publishing Ltd. から発刊された
「吸血鬼ドラキュラ」のグラフィックノベル版から抜粋 -
ヴァン・ヘルシング教授達がカーファックス屋敷へと赴いている間に、
その隙に乗じて、ドラキュラ伯爵は、ミナ・ハーカーに対して、その牙を剥いたのである。
画面手前から、ジョナサン・ハーカー、ミナ・ハーカー、ドラキュラ伯爵、
ジャック・セワード医師、そして、アーサー・ホルムウッド。


血を吸われて、ドラキュラ伯爵と意識が繋がっているミナ・ハーカーに対して、ヴァン・ヘルシング教授は、催眠療法を施して、彼女から、ドラキュラ伯爵が身を休める棺を乗せた船が、ロンドンからヴァルナ(Varna - 現在のブルガリア北東部の黒海(Black Sea)沿岸にある都市)へと向かっているという情報を得た。ドラキュラ伯爵は、一旦、英国からトランシルヴァニアのドラキュラ城へと退却しようとしているのだ。

ドラキュラ伯爵に血を吸われたミナ・ハーカーの身を救うべく、ヴァン・ヘルシング教授、アーサー・ホルムウッド、ジャック・セワード医師とクウィンシー・モリスの4人は、ジョナサン・ハーカーとミナ・ハーカーを伴うと、トランシルヴァニアへと戻ろうとするドラキュラ伯爵を追撃することに決めた。


2023年2月21日火曜日

綾辻行人作「十角館の殺人」<小説版>(The Decagon House Murders by Yukito Ayatsuji )- その1

英国のプーシキン出版(Pushkin Press)から
2020年に刊行されている
Pushkin Vertigo シリーズの一つである
綾辻行人作「十角館の殺人」の英訳版の表紙
(Cover design & illustration by Jo Walker)


「十角館の殺人(The Decagon House Murders)」は、日本の小説家 / 推理作家である綾辻行人(Yukito Ayatsuji:1960年ー)の作家デビュー作品に該る長編推理小説である。

本作品は、「館シリーズ」の第1作目に該り、アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1939年に発表したノンシリーズ作品「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」と同様に、角島(Tsunojima)と呼ばれる無人の孤島に建つ十角館(Decagon House)において、1週間の合宿のためにやって来た大学の推理小説研究会(Mystery Club)の一行が、謎の連続殺人に巻き込まれ、一人、そして、一人と殺害されていく筋立てになっている。


「十角館の殺人」は、1987年9月5日、講談社の講談社ノベルスとして出版されると、日本のミステリー界に大きな影響を与えるとともに、新本格推理小説ブームを巻き起こしたのである。

本作品は、1991年9月15日に文庫化(講談社文庫)され、そして、2007年10月16日に、文庫の新装改訂版が出ている。更に、2017年9月6日には、限定愛蔵版が出版されている。


英国では、プーシキン出版(Pushkin Press)から、2020年に英訳版が出版されている。

なお、プーシキン出版からは、本作品以外に、日本の推理作家である横溝正史(1902年ー1981年)による金田一耕助シリーズ作品や日本の推理小説家 / 小説家である島田荘司氏(1948年ー)による御手洗潔シリーズ作品等の英訳版も出ている。


1986年3月26日(水)、大分県O市K大学の推理小説研究会の一行が、S半島のJ岬の沖合いに浮かぶ角島と呼ばれる無人の孤島を訪れた。一行のメンバーは、以下の通り。


(1)ポウ(Poe)- 医学部4回生

(2)カー(Carr)- 法学部3回生

(3)エラリイ(Ellery)- 法学部3回生で、会誌「死人島(Dead Island)」の現編集長

(4)ヴァン(Van)- 理学部3回生

(5)アガサ(Agatha)- 薬学部3回生

(6)オルツィ(Orczy)- 文学部2回生

(7)ルルウ(Leroux)- 文学部2回生で、会誌「死人島」の次期編集長


彼らは、欧米の有名な推理作家達に因んだニックネームで呼ばれている。


角島には、半年前の1985年9月20日に、凄惨な四重殺人事件が発生の上、全焼した「青屋敷(Blue Mansion)」の跡と十角形という奇妙なデザインの「十角館(Decagon House)」が残るだけだった。

事件後、不動産業者である(ヴァンの)伯父が角島を購入したことを聞いたヴァンが、自分が所属する推理小説研究会に話を伝え、会誌「死人島」の次期編集長であるルルウが、角島に唯一残っている「十角館」での1週間の合宿を提案したのである。


2023年2月20日月曜日

パイプを咥えたシャーロック・ホームズ - その1

サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-1930年)が執筆したシャーロック・ホームズシリーズにおいて、パイプを咥えたシャーロック・ホームズの挿絵について、紹介したい。


ジグソーパズル「シャーロック・ホームズの世界(The World of Sherlock Holmes)」において、
クリケット場の芝生の上に、
ホームズのトレードマークである吸い口が大きく曲がったパイプが置かれている。

ホームズと言うと、吸い口が大きく曲がった「キャラバッシュ型パイプ(curved pipe)」を咥えているイメージが強い。ただし、この型のパイプは、ホームズが活躍した19世紀には、まだ存在していなかった。そのため、挿絵画家であるシドニー・エドワード・パジェット(Sidney Edward Paget:1860年ー1908年)が挿絵で描いている通り、ホームズは、柄が真っ直ぐになったパイプを愛用していた筈である。


キャラバッシュ型パイプは、米国の舞台俳優 / 演出家であるウィリアム・ジレット(William Gillette:1853年ー1937年)が、舞台でホームズを演じる際、舞台上の効果(この型のパイプだと、咥えたままで、台詞を言い易い)から考案されたもので、その後、この型のパイプが、ホームズのトレードマークとなったのである。


(1)「ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia)」


英国で出版された「ストランドマガジン」
1891年7月号に掲載された挿絵 -

ボヘミア国王に依頼され、
シャーロック・ホームズは、
酔いどれ馬丁(drunken-looking groom)に変装して、
アイリーン・アドラーが住むブライオニーロッジを調べた後、
セントジョンズウッド地区から戻って来た。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット(1860年 - 1908年)

「ボヘミアの醜聞」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、最初(1番目)に発表された作品で、英国の「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1891年7月号に掲載された。

同作品は、1892年に発行されたホームズシリーズの第1短編集「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」に収録されている。


(2)「赤毛組合(The Red-Headed League → 2022年9月25日 / 10月9日 / 10月11日 / 10月16日付ブログで紹介済)」


英国で出版された「ストランドマガジン」
1891年8月号に掲載された挿絵 -

フリートストリートにある「赤毛組合」の事務所が突然解散した件について、
ザクセンーコーブルクスクエアにおいて質屋を営むジェイベス・ウィルスンが
相談を持ち込んだ後、
シャーロック・ホームズは、
「この問題を解明するには、優にパイプ三服分は必要だ。」と言うと、
椅子の上で身体を丸めると、考え込んだ。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット(1860年 - 1908年)

「赤毛組合」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、2番目に発表された作品で、英国の「ストランドマガジン」の1891年8月号にに掲載された。

同作品は、ホームズシリーズの第1短編集である「シャーロック・ホームズの冒険」(1892年)に収録されている。


(3)「唇のねじれた男(The Man with the Twisted Lip)


英国で出版された「ストランドマガジン」
1891年12月号に掲載された挿絵 -

シャーロック・ホームズは、古いイバラのパイプを咥えると、
ボンヤリとした目で天井の隅をじっと見つめながら、
徹夜で考え事を続けた。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット(1860年 - 1908年)


唇のねじれた男」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、6番目に発表された作品で、英国の「ストランドマガジン」の1891年12月号に掲載された。

同作品は、ホームズシリーズの第1短編集である「シャーロック・ホームズの冒険」(1892年)に収録されている。


(4)「独身の貴族(The Noble Bachelor)」


英国で出版された「ストランドマガジン」
1892年4月号に掲載された挿絵 -

スコットランドヤードのレストレード警部は、
ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 
2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)を訪れると、
シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンに対して、
サーペンタイン湖(The Serpentine → 2015年3月15日付ブログで紹介済)を浚った結果を見せる。
ホームズは、パイプではなく、葉巻を吸っている。
画面左側から、レストレード警部、ワトスン、そして、ホームズ。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット(1860年 - 1908年)

「独身の貴族」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、10番目に発表された作品で、英国の「ストランドマガジン」の1892年4月号に掲載された。

同作品は、ホームズシリーズの第1短編集である「シャーロック・ホームズの冒険」(1892年)に収録されている。


スコットランドヤードのレストレード警部が、
セント・サイモン卿夫人(Lady St. Simon)の遺体を捜索するために浚ったサーペンタイン湖は、
ハイドパーク(Hyde Park → 2015年3月14日付ブログで紹介済)と
ケンジントンガーデンズ(Kensington Gardens)を二つに分けている湖である。


(5)「ぶな屋敷(The Copper Beeches → 2022年7月31日 / 8月15日 / 8月21日 / 8月25日付ブログで紹介済))」


英国で出版された「ストランドマガジン」
1892年6月号に掲載された挿絵 -
ベイカーストリート221B(221B Baker Street)において、
シャーロック・ホームズは、ジョン・H・ワトスンに対して、
「最近、自分のところに持ち込まれる依頼の質が落ちた。」と嘆く。
画面左側の人物がホームズで、画面右側の人物がワトスン。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット
(1860年 - 1908年)


「ぶな屋敷」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、12番目に発表された作品で、英国の「ストランドマガジン」の1892年6月号に掲載された。

同作品は、ホームズシリーズの第1短編集である「シャーロック・ホームズの冒険」(1892年)に収録されている。