英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から 2020年に出版された サム・シチリアーノ作 「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 尊い虎」の裏表紙(部分) |
ある年の4月の火曜日の朝、ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)を訪れたイザベル・ストーン(Isabel Stone:21歳)は、懐から折り畳んだ書類を取り出すと、シャーロック・ホームズと彼の従兄弟で、友人でもあるヘンリー・ヴェルニール医師(Dr. Henry Vernier)に対して、それを見せた。彼女によると、つい最近、母親であるメーベル(Mabel)の遺品を整理していた際に、それらの中からこの書類を偶然見つけた、とのことだった。その書類には、驚くべき内容が書かれていた。
インドにおけるセポイの反乱の際、イザベルの実の父親であるヒューバート・ストーン少佐(Major Hubert Stone)と義理の父親であるグリムボルド・プラット大尉(Captain Grimbold Pratt)は、倒した相手兵士の胸元に隠されていたルビー、エメラルドとダイヤモンドを見つけて、二人で山分けにしたという内容だった。ヒューバート・ストーン少佐は、宝石を二人で山分けすることについて、非常に消極的だったが、戦友のグリムボルド・プラット大尉が、強引に山分けを納得させた、とのことだった。
その後、夫のヒューバート・ストーン少佐を亡くしたメーベル・ストーンと妻子を亡くしたグリムボルド・プラット大尉が再婚した際、グリムボルド・プラット大尉は、妻になったメーベルに対して、
・山分けした自分の分の宝石については、ギャンブルに費やして、全て使ってしまった。
・ヒューバート・ストーン少佐の分の宝石に関しては、自分に渡せば、ギャンブルには使わないで、大事に保管の上、義理の娘のイザベルが成人になった時に、キチンと渡す。
と誓ったことも、この書類に記されていたのである。
イザベルによると、彼女が、グリムボルド・プラット大尉に対し、この書類に書かれた内容について尋ねたところ、彼は大激怒して、「そんな宝石はない。再婚した時に、お前の母親(メーベル)は、無一文だった。」と答えた、とのことだった。
イザベルとしては、宝石はどこかにあるものと考えており、ホームズに対して、「その宝石を見つけて、自分に渡してほしい。」と依頼する。
更に、イザベルは、ホームズに対して、
・義理の父(グリムボルド・プラット大尉)は、「銀行にお金を預けるのは、愚か者がすることだ。」と話していたので、宝石を銀行の貸金庫に預けているとは考えられない。
・義理の父が引き出しの中に保管していたコンビネーション番号を使って、彼の書斎にある金庫を開けたが、その中に宝石はなかった。
と伝えた。
イザベルの話を聞いたホームズは、彼女の依頼を受諾した。
イザベル・ストーンがベイカーストリート221Bを辞去した後、グリムボルド・プラット大尉が、ホームズの居間に怒鳴り込んで来た。サーベルによる大きな傷痕が、彼の顔の左側に、額から頬の辺りまで走っていた。
グリムボルド・プラット大尉は、イザベルのことを散々と嘘吐き呼ばわりした後、暖炉の火搔き棒を左手に取って、ひん曲げようとしたが、急に胸を押さえて、崩れ折れた。顔を真っ赤にしたグリムボルド・プラット大尉の様子を見たヘンリー・ヴェルニール医師は、彼に対して、ソファーに座って落ち着くように諭した。心臓が弱いようだ。
グリムボルド・プラット大尉は、コートのポケットからニトログリセリン(nitroglycerin)の瓶を取り出すと、二錠を舌の上に乗せ、ヘンリー・ヴェルニール医師が渡したグラスの水で飲み込んだ。
落ち着いたグリムボルド・プラット大尉は、ホームズ達に対して、「自分のことには介入するな!」と言い残すと、帰って行ったのである。
グリムボルド・プラット大尉が帰った後、ホームズは、ヘンリー・ヴェルニール医師に対して、
・グリムボルド・プラット大尉は左利きのようなので、依頼人であるイザベル・ストーンの左手首に青痣があるのは、変だ。
・何故ならば、グリムボルド・プラット大尉がイザベルを虐待しているのであれば、彼女の右手首に青痣がある筈。
・と言うことは、イザベルの左手首に青痣を残したのは、右利きの人物だ。
と解説する。
果たして、宝石のことについて、イザベル・ストーンとグリムボルド・プラット大尉のどちらの言っていることが、正しいのであろうか?
イザベルの依頼通り、ホームズは、ヘンリー・ヴェルニール医師を伴って、サリー州(Surrey)レザーヘッド(Leatherhead)の近くのストークロイヤル(Stoke Royal)にある彼らの地所へと向かわざるを得なかった。
0 件のコメント:
コメントを投稿