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| ジグソーパズルの下段の中央に、 首の後ろに右手を当てているエドワード・ジョージ・アームストロング医師が、赤枠で囲まれている。 <筆者撮影> |
英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に発行されている「「そして誰もいなくなった」の世界(The World of ‘And Then There Were None’)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」(1939年)の登場人物や同作品に関連した47個にわたる手掛かりについて、引き続き、紹介したい。
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| 英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に出ている ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」(1000ピース) |
(7)(21)エドワード・ジョージ・アームストロング(Edward George Armstrong)
ロンドン・ハーリーストリート(Harley Street → 2015年4月11日付ブログで紹介済)の開業医のエドワード・ジョージ・アームストロングは、高名な元判事のローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave → 2025年10月20日付ブログで紹介済)、体育教師(games mistress)のヴェラ・エリザベス・クレイソーン(Vera Elizabeth Claythorne → 2025年10月21日付ブログで紹介済)、元陸軍中尉(Lieutenant)のフィリップ・ロンバード(Philip Lombard → 2025年10月28日付ブログで紹介済)、信仰心の厚い老婦人のエミリー・キャロライン・ブレント(Emily Caroline Brent → 2025年10月29日付ブログで紹介済)や退役した老将軍(General)のジョン・ゴードン・マッカーサー(John Gordon Macarthur → 2025年10月30日付ブログで紹介済)とは異なり、列車ではなく、車で現地へと向かう途中だった。
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| ハーリーストリート60番地を示す 非常に凝った外壁の装飾 <筆者撮影> |
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| ハーリーストリート沿いの建物 <筆者撮影> |
| その建物外壁のアップ写真 <筆者撮影> |
エドワード・ジョージ・アームストロング医師の車モーリス(Morris)は、サマーセット州(Somerset)の東隣りに位置するウィルトシャー州(Wiltshire)のソールズベリー(Salisbury)平野を走っていた。
エドワード・ジョージ・アームストロング医師は、オーウェン氏(Mr. Owen)なる人物から、びっくりするような金額の小切手が同封された手紙を受け取っていた。オーウェン氏によると、妻の健康を心配しているのだが、彼女は神経が過敏な上に、医者の診察を嫌がっているため、彼女に気付かれないように、病気の診断をしてほしい、とのことだった。
エドワード・ジョージ・アームストロング医師の経験では、自分が診察する女性の半分は、退屈しているだけで、身体はどこも悪くなく、今回のオーウェン氏の依頼は仕事として悪くなかった。彼としては、8月の朝にロンドンを離れて、デヴォン州海岸の沖合いの島である兵隊島(Solidier Island → 2025年10月19日付ブログで紹介済)で何日か過ごせるのは、嬉しかった。
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| 兵隊島は、 ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」の左下の角に置かれている。 <筆者撮影> |
十年前、いや、十五年前だったか、あの事件のあと何とか立ち直れたのは、ラッキーだった。あのときは本当にあぶなかった! もう少しで、なにもかも失うところだったじゃないか。ショックで目が覚めた。酒は、きっぱりやめた。いやはや、それにしても本当にあぶなかった…。
耳をつんざかんばかりのクラクションの音が響きわたり、大型スーパー・スポーツカー、ダルメインが、時速八十マイルの猛スピードで追い抜いていった。アームストロング医師は、あやうく垣根に突っこむところだった。いなか道をむこうみずに突っぱしる、暴走族の若者だ。アームストロングは、ああいう若者が大きらいだった。またも、あぶないところだったじゃないか。いまいましいったらない!
(青木 久惠訳)
ジグソーパズルの下段の中央に、首の後ろに右手を当てているエドワード・ジョージ・アームストロング医師が、赤枠で囲まれている。また、その右斜め上には、兵隊島に建つ邸宅の玄関から外へと出て、テラスを降りた後、エドワード・ジョージ・アームストロング医師が走り去る姿が見られる。
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| 赤枠で囲まれたエドワード・ジョージ・アームストロング医師の右斜め上には、 兵隊島に建つ邸宅の玄関から外へと出て、テラスを降りた後、 彼が走り去る姿が見られる。 <筆者撮影> |
1930年代後半の8月のこと、英国デヴォン州の沖合いに浮かぶ兵隊島に、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンを含め、年齢も職業も異なる8人の男女が招かれる。彼らを島で迎えた召使と料理人の夫婦は、エリック・ノーマン・オーウェン氏(Mr. Ulick Norman Owen)とユナ・ナンシー・オーウェン夫人に自分達は雇われていると招待客に告げる。しかし、彼らの招待主で、この島の所有者であるオーウェン夫妻は、いつまで待っても、姿を現さないままだった。
招待客が自分達の招待主や招待状の話をし始めると、皆の説明が全く噛み合なかった。その結果、招待状が虚偽のものであることが、彼らには判ってきた。招待客の不安がつのる中、晩餐会が始まるが、その最中、招待客8人と召使夫婦が過去に犯した罪を告発する謎の声が室内に響き渡る。
エドワード・ジョージ・アームストロング医師は、アルコールを摂取した後、患者のルイーザ・メアリー・クリース(Louisa Mary Clees)の手術を執刀して、死に至らせたと告発された。
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| 招待客が兵隊島に到着した日の晩餐会において、 謎の声(オーウェン氏)による告発により、招待客8人と召使夫婦が戦慄する場面 - HarperCollins Publishers 社から出ている アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版(→ 2020年9月13日付ブログで紹介済)から抜粋。 |
そして、物語が進み、童謡「10人の子供の兵隊(Ten Little Soldiers → 2025年6月26日付ブログで紹介済)」に準えて、エドワード・ジョージ・アームストロング医師は、6番目の被害者となる。
Four little soldier boys going out to sea; A red herring swallowed one and then there were Three.
(4人の子供の兵隊さんが、海へ出かけた。一人が燻製の鰊(ニシン)に呑みれて、残りは3人になった。)
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原作の場合、 夜中、屋敷から外へ出て行ったエドワード・ジョージ・アームストロングの追跡が失敗に終わり、 屋敷に戻って来たフィリップ・・ロンバードとウィリアム・ヘンリー・ブロアの2人は、 食堂へ行って、兵隊人形の数が3個に減っていることを確認。- HarperCollins Publishers 社から出ている アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。 |
*被害者:エドワード・ジョージ・アームストロング
*告発された罪状:アルコールを摂取した後、患者のルイーザ・メアリー・クリースの手術を執刀して、死に至らせたと告発された。
*犯罪発生時期:1925年3月14日
*死因:溺死
なお、「red herring」とは、本来の問題点から皆の注意を他に逸らして、論点をすり替える論理的誤謬を指す用語で、推理小説においては、登場人物(警察や探偵等を含む)や読者を誤った結論へと導くために使用される虚偽の証拠や情報等のことを言う。
つまり、夜中に、エドワード・ジョージ・アームストロング医師が部屋から抜け出して、外へ出て行ったため、フィリップ・・ロンバードとウィリアム・ヘンリー・ブロア(William Henry Blore - 元警部)の2人が、「エドワード・ジョージ・アームストロングが、一連の殺人を行った犯人だ。」と考えて、彼の後を追うが、これは、登場人物である彼らと読者を誤った結論へと導いていることを、作者であるアガサ・クリスティーが「red herring」と言う用語を使って、匂わせているものと思われる。










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