2025年5月29日木曜日

ミシェル・バークビー作「ベイカー街の女たちと幽霊少年団」(The Women of Baker Street by Michelle Birkby)- その3

英国の Pam Macmillan 社から2017年に出版された
ミシェル・バークビー作「ベイカー街の女たちと幽霊少年団」
ペーパーバック版の裏表紙
(Cover Images : Roy Bishop / Arcangel Images & Shutterstock)

腹部の閉塞症のために倒れて、セントバーソロミュー病院(St. Bartholomew's Hospital → 2014年6月14日付ブログで紹介済)において緊急手術を受けたハドスン夫人(Mrs. Hudson - マーサ・ハドスン(Martha Hudson))は、寝たふりを更に続け、特別病棟の患者全員の観察を行った。

午後の面会時間になると、見舞客達がやって来た。

一番乗りは、ベティー・ソランド(Betty Soland - ハドスン夫人の二つ右隣りの患者 / 階段から落ち、脚を骨折して入院中 / 編み物や縫い物で、始終手を動かしている)の6人姉妹(8歳から20歳)で、ベティー・ソランドは、娘達をベッドの前に並ばせると、できたばかりのへんてこりんな服を手渡していた。

二番目は、70代の背の高い軍人風の男性で、エリナー・ランガム(Eleanor Langham -  ベティー・ソランドの正面に居る患者 / 心臓病のため、最近手術を受けたばかり / ベッドの脇にある椅子が定位置で、大抵の時間は、ただ椅子に腰掛けて、周りの様子を眺めている)の元を訪れていた。

また、エマ・フォーダイス(Emma Fordyce - ミランダ・ローガン(Miranda Logan)の正面に居る患者 / 歳を召していて、あちこち悪いところがあるみたいだが、老いを楽しんでいる様子 / 過去に非凡な面白い体験をしていて、思い出話を他の人に聞かせるのが大好き)のところにも、スーツ姿の男性が見舞いに来ていた。

英国の Pam Macmillan 社から2017年に出版された
ミシェル・バークビー作「ベイカー街の女たちと幽霊少年団」
ペーパーバック版内に付されている
セントバーソロミュー病院の特別病棟の見取り図

少し遅れて、ワトスン夫人(Mrs. Watson)となったメアリー・ワトスン(Mary Watson - 旧姓:モースタン(Morstan))が、大慌てでやって来た。何故か、帽子は歪んでいる上に、ジャケットのボタンもかけ違えているし、服と靴もちぐはぐだった。

「何か心配事でも?」と尋ねるハドスン夫人に対して、メアリー・ワトスンは、「(ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)の給仕のビリー(Billy)経由、ベイカーストリート不正規隊(Baker Street Irregulars)のウィギンズ(Wiggins)から聞いた話が気になっている。」と答えた。


ウィギンズによると、ロンドンの街角から、少年達が忽然と姿を消している、とのこと。また、それは、もう数年前から起きていることで、誰も不審には思っていないらしい。

ベイカーストリート不正規隊の子供達のことを心配するハドスン夫人であったが、メアリー・ワトスンは、「ベイカーストリート不正規隊の面々には、そう言ったことは起きていない。」と言って、安心させた。

不思議なことに、突然に姿を消すのは、路上で生活している浮浪児だけではなく、様々な場所で発生していることだった。

ある日、いつも交差点で働いていた掃除係の少年(crossing sweeper)が見当たらないことに、ウィギンズが気付いた。その数日後には、ちゃんと家があり、母親と一緒に暮らしていた別の少年も、姿を消した。

彼ら2人は未だに帰ってこないし、行方も全く判らない。ウィギンズが方々の知り合いにあたって捜したものの、警察にも、救貧院にも居らず、彼らの足取りは全くつかめなかった。まるで、地面に飲み込まれたような姿の消し方なのだ。


メアリー・ワトスンは、更に話を続ける。

ウィギンズは、捜索の範囲をホワイトチャペル(Whitechapel)や波止場、また、高級住宅街であるメイフェア地区(Mayfair)まで広げたところ、方々で少年達が拐われていると言う噂に行き当たった。10年程前から、20人位が居なくなっているらしい。


ウィギンズが行き当たった噂は、もう一つあった。それは、「幽霊少年団(The Pale Boys)」のことだった。

(1)夜間だけ、街角に姿を見せる。

(2)街灯の明かりには決して近付かない。

(3)往来の激しい大通りには、足を踏み入れない。

(4)全員、青白い顔をして、闇に溶け込みそうな黒づくめの服装をしている。

(5)薄暗い道端や人気の無い路地を彷徨く。

(6)何年経っても、歳をとらないし、飲んだり食べたりもしない。

(7)彼らの姿を見た者は、死んでしまう。

(She told me the tale of the Pale Boys. Boys who came onto the street only at night. They never came into the light. They never went onto the Main Street. They had pale faces, and all black clothes, and they melted into the shadows. They walked in dark corners and deserted alleyways. They never grew old, and never ate or drank and if you saw them, you would die.)


まるで怪談話(ghost story)だと思ったハドスン夫人ではあったが、「手始めに、一番新しい失踪事件である交差点掃除係の少年の件について、更に聞き込みを進めてはどうか?」と助言すると、メアリー・ワトスンは、嬉しそうに笑って、帰って行った。


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