2025年5月13日火曜日

ロンドン ギルドホールアートギャラリー (Guildhall Art Gallery)- その1

ギルドホールアートギャラリーの建物正面外壁


米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が1935年に発表した推理小説で、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)が登場するシリーズ第5作目に該る「死時計(Death-Watch → 2025年4月30日 / 5月4日付ブログで紹介済)」の場合、9月4日、風が吹くひんやりした夜の12時近く、ギディオン・フェル博士とメルスン教授(Professor Melson - 歴史学者で、ギディオン・フェル博士の友人)が、ホルボーン通り(Holborn → 2025年5月6日付ブログで紹介済)を歩いていところから、その物語が始まる。


ギルドホールアートギャラリーの建物正面外壁の右端に設置されている看板

2人は、劇場で映画を観た帰りで、メルスン教授が宿泊する予定のリンカーンズ・イン・フィールズ(Lincoln’s Inn Fileds → 2016年7月3日付ブログで紹介済)へと向かっていた。メルスン教授は、当初、ブルームズベリー地区(Bloomsbury)に宿泊しようとしたが、生憎と、どこも満員だったため、居心地が悪そうではあったものの、リンカーンズ・イン・フィールズ15番地(15 Lincoln’s Inn Fields)に寝室兼居間を見つけていた。

その日の午後、メルスン教授は、フォイルズ書店(Foyles → 2025年5月7日 / 5月9日付ブログで紹介済)において、中世ラテン語の写本辞書を見つけており、これは正真正銘の掘り出し物のため、ギディオン・フェル博士は、メルスン教授の宿でそれを見せてもらおうと考えていたのである。


ギルドホールが建つ広場への入口(南西部分)の横に設けられている池

隣りを歩くギディオン・フェル博士の様子を見たメルスン教授は、彼に対して、「何か新しい犯罪事件が起こったのですか?」と尋ねた。すると、ギディオン・フェル博士は、ハッキリとはしない口振りながらも、スコットランドヤードのディヴィッド・ハドリー主任警部(Chief Inspector David Hadley)から聞いた話を語り始める。

それは、1週間程前に、ガムリッジデパートの貴金属宝石売場において発生した事件で、売場監督が突然何者かの片腕を掴むと、辺りには混乱、乱闘、そして、喚き声が満ちた。そして、売場監督がバッタリと倒れて、彼の身体の下に血が流れ始めた。彼の身体をひっくり返してみると、刃物で腹部を大きく切り裂かれているのが判った。残念ながら、売場監督は既に死亡していた。

周囲の証言から、売場監督は万引き犯を捕まえようとして、それを逃れようとする万引き犯に殺害されたものと思われた。厄介なことに、万引き犯が女性だったと言うこと以外には、手掛かりもない上に、彼女の人相も全く判らなかった。


広場への入口(南部分)から見たところ -
画面左側に建つ建物が古いギルドホールで、
画面右側の建物がギルドホールアートギャラリー 。


「何か貴重なものでも盗られたんですか?」と尋ねるメルスン教授に対して、ギディオン・フェル博士は、「懐中時計が1個だ。」と告げる。ギディオン・フェル博士の声は、妙な響きを帯びていた。更に、メルスン教授が尋ねると、ギディオン・フェル博士の答えは、彼を驚かせるものだった。

売場監督を殺害した上に、万引き犯の女性がガムリッジデパートの貴金属宝石売場から盗んだ懐中時計は、有名な時計師(clockmaker)であるジョハナス・カーヴァー(Johannus Carver)が所蔵していたもので、彼はリンカーンズ・イン・フィールズ16番地(16 Lincoln’s Inn Fields)に住んでいる、とのこと。なんと、リンカーンズ・イン・フィールズ16番地は、メルスン教授の宿であるリンカーンズ・イン・フィールズ15番地の隣りの建物なのだ。


現在、シティー・オブ・ロンドンの行政業務は、新しいギルドホールで行われており、
古いギルドホールは、式典での利用の他、
イヴェントスペースとしても貸し出されている。

「ふむ、すると、君の泊まっている家は、わしがいささか関心を持っている男の家の隣にちがいない。その男、どうも変わり者らしいのだ、みんなの言うところによると。カーヴァーという名前でな。時計師で、それもなかなか有名なんだ。そうなんだよ。ところで、君は時計の製作についてなにか知っているかね?なかなかおもしろいテーマなんだ。カーヴァーは所蔵している時計のうち、さほど貴重でない品をいくつか、デパートに貸したんだ ー そのうちの一つが盗まれたんだがね。デパート側はギルドホール博物館からも少しはかりだしていたんだろう。ただ、どうもよくわからんのはー」(吉田 誠一訳)


ギルドホールアートギャラリー の入口左側に設置されている石像(その1)-
リチャード・ウィッティントン(Richard Whittington:1354年頃ー1423年 /
中世の商人 / 政治家で、生涯を通じて、
シティー・オブ・ロンドンの市長を4回務めた。)

ギルドホールアートギャラリー の入口左側に設置されている石像(その2)-
サミュエル・ピープス(Samuel Pepys:1633年ー1703年 /
17世紀の政治家 / 官僚 / 作家で、
1660年の王政復古(Restoration)の時流に乗って、
一平民から英国海軍の最高実力者まで出世し、
「英国海軍の父」と呼ばれている。)


ギルドホールアートギャラリー の入口左側に設置されている石像(その3)-

オリヴァー・クロムウェル(Oliver Cromwell:1599年ー1658年 /

清教徒革命(Puritan Revolution:1642年ー1649年)時に、

議会派(Parliamentarians)を率いて、王党派(Royalists)を破り、

時の英国王チャールズ1世(Charles I:1600年-1649年 在位期間:1625年ー1649年

→ 2017年4月29日付ブログで紹介済)を処刑した英国の政治家 / 軍人で、

イングランド共和国(Commonwealth of England:1649年ー1660年)の

初代護国卿( Lord Protector))


ギディオン・フェル博士からメルスン教授への説明の中に出てきた「ギルドホール博物館」、即ち、「ギルドホールアートギャラリー (Guildhall Art Gallery)」は、金融街として知られるシティー・オブ・ロンドン(City of London → 2018年8月4日 / 8月11日付ブログで紹介済)のモーゲートエリア(Moorgate area)内に所在する実在の美術館である。

なお、シティー・オブ・ロンドンは、ロンドンの中心部に位置する地区であり、ロンドンのみならず、英国における経済活動の中心地である。

シティー・オブ・ロンドンは、単純に「シティー(the City)」とも、あるいは、その広さが約1マイル四方であることから、「スクエアマイル(the Square Mile)」とも呼ばれている。また、英国の金融業界全体を指す意味としても使われている。


ギルドホールアートギャラリー の入口右側に設置されている石像(その1)-
ウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare:1564年ー1616年 /
イングランドの劇作家 / 詩人)

ギルドホールアートギャラリー の入口右側に設置されている石像(その2)-
サー・クリストファー・マイケル・レン(Sir Christopher Michael Wren:
1632年ー1723年 / 建築家 / 天文学者で、英国王室の建築家を務め、
セントポール大聖堂(St. Paul's Cathedral → 2018年8月18日 / 8月25日付ブログで紹介済)、
グリニッジ天文台(Royal Greenwich Observatory)や
旧王立海軍学校(Old Royal Naval College)等を設計)

ロンドン市長(Mayor of London)とは別に、もう一人のロンドン市長、つまり、自治権を有するシティーの市長(Lord Mayor of London)による行政の拠点となるのが、市庁舎「ギルドホール(Guildhall)」である。

このギルドホールが建つ広場内に、ギルドホールアートギャラリーもあり、シティー・オブ・ロンドンが所有する約4000点に及ぶ絵画や彫刻作品等を所蔵 / 展示している。 


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