2025年5月14日水曜日

サー・ジョージ・バーンウェル(Sir George Burnwell)

英国で出版された「ストランドマガジン」
1892年5月号に掲載された挿絵(その9) -
アレクサンダー・ホールダーの衣装部屋からこっそり持ち出した緑柱石の宝冠を
メアリー・ホールダーから手渡されたサー・ジョージ・バーンウェルが立ち去ろうとした際、
アレクサンダー・ホールダーの一人息子であるアーサー・ホールダーが、
裸足のまま、邸から追いかけて来て、宝冠をめぐり、揉み合いとなる。
アーサーは、宝冠を取り戻すために、
サー・ジョージ・バーンウェルを殴って、顔に怪我をさせてしまう。
画面左側から、アレクサンダー・ホールダーの一人息子であるアーサー・ホールダー、
そして、サー・ジョージ・バーンウェル。

挿絵:シドニー・エドワード・パジェット
(Sidney Edward Paget:1860年 - 1908年)

英国の作家であるミシェル・バークビー(Michelle Birkby)作の長編「ベイカー街の女たち(The House at Baker Street → 2025年3月30日 / 4月2日 / 4月10日 / 4月26日付ブログで紹介済)」(2016年)の場合、他のパスティーシュとは異なり、シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンではなく、2人が下宿するベーカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)の家主であるハドスン夫人(Mrs. Hudson)と呼ばれているマーサ・ハドスン(Martha Hudson)と、「四つの署名(The Sign of the Four → 2017年8月12日付ブログで紹介済)を経てワトスン夫人(Mrs. Watson)となったメアリー・ワトスン(Mary Watson)の2人が主人公となり、ホームズとワトスンは脇役へとまわる。


マーサ・ハドスンとメアリー・ワトスンは、ホームズの元を訪れるものの、相談内容の詳細を明らかにできなかったため、依頼を断られてしまったローラ・シャーリー(Mrs. Laura Shirley)に対して、手を差し伸べるところから、物語が動き出す。


マーサ・ハドスンとメアリー・ワトスンの2人は、ホームズとは異なり、事件捜査の専門家ではないものの、ホームズの捜査手法をある程度理解しているので、


*ベーカーストリート不正規隊(Baker Street Irregulars)のリーダーであるウィギンズ(Wiggins)

*ベーカーストリート221B の給仕であるビリー(Billy)

*ホームズが「あの女性(ひと)」と呼ぶアイリーン・ノートン(Irene Norton - 旧姓:アドラー(Adler))


のサポートを受けつつ、調べを進めていく。

そして、最後に、彼女達は、事件の背後に潜む強請屋(ゆすりや)の正体を明らかにする。犯人の強請屋は、自分の立場を使って得た情報を利用して、金銭目的ではなく、自分の支配力を誇示したいがために、大勢の女性を食い物にしていた上に、自分の正体を知る人物達を殺害までしていたのである。


マーサ・ハドスンとメアリー・ワトスンの2人が、事件の背後に潜む強請屋の正体を調べていく過程で、容疑者の一人として、サー・ジョージ・バーンウェル(Sir George Burnwell)が登場する。


サー・ジョージ・バーンウェルは、元々、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「緑柱石の宝冠(The Beryl Coronet → 2025年4月29日 / 5月1日 / 5月8日 / 5月12日付ブログで紹介済)」に登場する人物である。

緑柱石の宝冠」は、シャーロック・ホームズシリーズの短編小説56作のうち、11番目に発表された作品で、英国の「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1892年5月号に掲載された。

同作品は、同年の1892年に発行されたホームズシリーズの第1短編集「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」に収録されている。


「緑柱石の宝冠」の場合、スレッドニードルストリート(Threadneedle Street → 2014年10月30日付ブログで紹介済)にあるホールダー&スティーヴンスン銀行(banking firm of Holder & Stevenson - シティー(City → 2018年8月4日 / 8月11日付ブログで紹介済)内では2番目に大きな民間銀行)の頭取を務めているアレクサンダー・ホールダー(Alexander Holder)が、5万ポンドの融資の担保として、「世界中にその名前が知られていて、英国で最も上流で、高貴で、かつ身分の高い方の一人(it was a name which is a household word all over the earth - one of the highest, noblest, most exalted names in England)」から預かった貴重な緑柱石の宝冠を、銀行からテムズ河(River Thames)の南岸のストリーサム地区(Streatham → 2017年12月2日付ブログで紹介済)内の自宅へと持ち帰ると、自分の寝室の隣りにある衣装部屋(dressing-room)の書き物机(bureau)の中に宝冠を入れて、鍵をかけ、保管した。


ところが、その夜の午前2時頃、家の中で何かの物音がして、目を覚ましたアレクサンダー・ホールダーは、隣りの衣装部屋で足音がするのを聞いた。彼がベッドからそっと抜け出して、衣装部屋を覗き込むと、そこには、シャツとズボンだけの格好で、靴も履いていない一人息子のアーサー・ホールダー(Arthur Holder)が、宝冠を両手に持って立っていたのである。アレクサンダー・ホールダーの目には、アーサーは、宝冠を捻るか、あるいは、曲げるかのような動作をしていた。

アレクサンダー・ホールダーが大声で咎めると、驚いたアーサーは、宝冠を手から取り落として、死人のように真っ青な顔で父親を振り返った。

アーサーが落とした宝冠を、アレクサンダー・ホールダーが急いで拾い上げ、確認したところ、緑柱石が3個付いていた金具ごと、折り取られていたのである。


英国で出版された「ストランドマガジン」
1892年5月号に掲載された挿絵(その10) -
メアリー・ホールダーを共犯者にして、
アレクサンダー・ホールダーの衣装部屋から緑柱石の宝冠を盗み出した
サー・ジョージ・バーンウェルの元を、
シャーロック・ホームズが訪れて、と、証拠を突き付けた。
ホームズの話を聞いたサー・ジョージ・バーンウェルは、
壁に掛かった護身用の棍棒を手にするが、
彼が殴りかかる前に、
ホームズは、素早く拳銃を彼の頭に押し付けて、彼の犯行を認めさせた。
画面右側から、シャーロック・ホームズ、
そして、サー・ジョージ・バーンウェル。

挿絵:シドニー・エドワード・パジェット

アレクサンダー・ホールダーによると、サー・ジョージ・バーンウェルは、一人息子であるアーサー・ホールダーの友人であるとのことだったが、アレクサンダー・ホールダーの兄の娘で、兄が亡くなった後、彼の養女となっているメアリー・ホールダー(Mary Holder)と密かに交際していたのだった。


養父であるアレクサンダー・ホールダーから緑柱石の宝冠のことを聞いたメアリーは、その夜に訪れて来たサー・ジョージ・バーンウェルに対して、宝冠の話をしてしまった。メアリーから話を聞いたサー・ジョージ・バーンウェルは、彼女を唆して、宝冠を盗ませたのである。


放蕩による借金のことが気になって眠れずに居たアーサーは、廊下の足音に気付き、ベッドから出たところ、メアリーが父親の衣装部屋から宝冠をこっそりと持ち出して、窓から男に手渡している現場を目撃することになった。そして、アーサーは、立ち去る男の後を追って、裸足のまま、邸の外へと飛び出す。

宝冠をめぐって揉み合っている際、アーサーは男を殴って、顔に怪我をさせてしまう。アーサーは、なんとか男から宝冠の本体を取り返したものの、緑柱石が3個付いていた金具部分が、男の手元に残った。

金具が折り取られていることに気付かなかったアーサーは、衣装部屋へと戻り、宝冠の状態を確かめていたところ、父親のアレクサンダー・ホールダーが起きてきて、大声で咎めたのだった。

アーサーとしては、

(1)男から宝冠を無事に取り返して、褒められると思っていたにもかかわらず、状況を誤解した父親に、逆に咎められて、大きなショックを受けたこと、

また、

(2)宝冠を盗んだのが、メアリーであることを指摘すると、家族である彼女を傷つけることになること

等から、父親に対して、真実を話すことができなかったのである。


ホームズがアレクサンダー・ホールダー邸の周囲を捜索した結果、ブーツの足跡、格闘の跡や血の跡等を発見したため、勾留中のアーサーの元を訪ねて、真相を聞き出した。

そして、ホームズは、サー・ジョージ・バーンウェルの元を訪れ、証拠を突き付けて、彼の犯行を認めさせたのである。サー・ジョージ・バーンウェルが600ポンドで売ってしまった宝冠を、ホームズは、故買屋から3000ポンドで買い戻して、アレクサンダー・ホールダーへ返したのだ。


事件を無事解決したホームズは、アレクサンダー・ホールダーに対して、濡れ衣を着せて警察に逮捕させたアーサーに十分詫びるように諭す。

更に、邸から居なくなってしまったメアリーのことを心配するアレクサンダー・ホールダーに、ホームズは、「彼女は、サー・ジョージ・バーンウェルが行くところには、どこへでも付いて行くでしょう。また、彼女の罪がどの程度のものであるにしろ、二人は直ぐに相応の罰を受けることになるでしょう。」と告げるのであった。


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