2025年5月8日木曜日

コナン・ドイル作「緑柱石の宝冠」<小説版>(The Beryl Coronet by Conan Doyle )- その3

英国で出版された「ストランドマガジン」
1892年5月号に掲載された挿絵(その5) -
スレッドニードルストリートにあるホールダー&スティーヴンスン銀行の頭取を務めている
アレクサンダー・ホールダーが、
5万ポンドの融資の担保として、とある高貴な人物から預かった宝冠を
ストリーサム地内の自宅へと持ち帰ったその夜の
午前2時頃、
家の中でした何かの物音で目を覚ました彼は、隣りの衣装部屋で足音がするのを聞いた。

彼がベッドからそっと抜け出して、衣装部屋を覗き込んでみると、

なんと、そこには、シャツとズボンだけの格好で、

靴も履いていない一人息子のアーサーが、宝冠を両手に持って立っていたのである。

画面右側から、アレクサンダー・ホールダー、
そして、彼の一人息子であるアーサー・ホールダー。

挿絵:シドニー・エドワード・パジェット
(Sidney Edward Paget:1860年 - 1908年)

サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「緑柱石の宝冠(The Beryl Coronet)」の場合、アレクサンダー・ホールダー(Alexander Holder)と名乗る男性が、ベーカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)のシャーロック・ホームズの元を訪れて、緊急の相談事にかかる説明を始める。

スレッドニードルストリート(Threadneedle Street → 2014年10月30日付ブログで紹介済)にあるホールダー&スティーヴンスン銀行(banking firm of Holder & Stevenson - シティー(City → 2018年8月4日 / 8月11日付ブログで紹介済)内では2番目に大きな民間銀行)の頭取を務めているアレクサンダー・ホールダーは、5万ポンドの融資の担保として、世界中にその名前が知られていて、英国で最も上流で、高貴で、かつ身分の高い方の一人(it was a name which is a household word all over the earth - one of the highest, noblest, most exalted names in England)から預かった貴重な緑柱石の宝冠を、銀行からテムズ河(River Thames)の南岸のストリーサム地区(Streatham → 2017年12月2日付ブログで紹介済)内の自宅へと持ち帰ると、自分の寝室の隣りにある衣装部屋(dressing-room)の書き物机(bureau)の中に宝冠を入れて、鍵をかけ、更に、家の戸締りの確認も、自分自身で行った。

その前に、彼と一人息子であるアーサー・ホールダー(Arthur Holder)の間で、一悶着があった。

夕食後にコーヒーを飲むと、アーサーは、深刻な顔をして、父親に部屋までついて来ると、お金(200ポンド)の無心をした。アーサーによると、200ポンドがどうしても必要で、それがないと、クラブの敷居を二度と跨げない、とのことだった。

アレクサンダー・ホールダーとしては、(1)お金に関して、自分はアーサーを甘やかし過ぎてきたと感じていること、また、(2)アーサーによるお金の無心が、今月に入って、三度目だったこと等から、アーサーの申し出をスッパリと断る。

アーサーは、頭を下げると、何も言わないで、父親の部屋から出て行った。

そういったこともあり、アレクサンダー・ホールダーは、宝冠の保管に対して、万全の注意を払ったのである。


英国で出版された「ストランドマガジン」
1892年5月号に掲載された挿絵(その6) -
シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンは、
アレクサンダー・ホールダーと一緒に、
ストリーサム地区内にある彼の自宅へと赴いた。
ホームズが家の周辺を調べている間、
ワトスンと
アレクサンダー・ホールダーの2人は、
応接室において、ホームズの戻りを待っていた。
すると、そこに
アレクサンダー・ホールダーの養女である
メアリーが入って来ると、ワトスンの存在を気にかけず、
真っ直ぐに養父の元へ進み、
彼を優しく抱擁したのである。
画面右側から、アレクサンダー・ホールダー、
そして、彼の養女であるメアリー・ホールダー。


アレクサンダー・ホールダーは、元々、眠りが浅い方だったが、その夜の午前2時頃、家の中で何かの物音がして、目を覚ました彼は、隣りの衣装部屋で足音がするのを聞いた。

彼がベッドからそっと抜け出して、衣装部屋を覗き込むと、そこには、シャツとズボンだけの格好で、靴も履いていないアーサーが、宝冠を両手に持って立っていたのである。アレクサンダー・ホールダーの目には、アーサーは、宝冠を捻るか、あるいは、曲げるかのような動作をしていた。


アレクサンダー・ホールダーが大声で咎めると、驚いたアーサーは、宝冠を手から取り落として、死人のように真っ青な顔で父親を振り返った。

アーサーが落とした宝冠を、アレクサンダー・ホールダーが急いで拾い上げ、確認したところ、緑柱石が3個付いていた金具ごと、折り取られていたのである。


アレクサンダー・ホールダーとアーサーの言い争いを聞いて、起き出して来たメアリー(Mary - アレクサンダー・ホールダーの兄の娘で、兄が亡くなった後、彼の養女となっている)は、宝冠とアーサーの顔を一目見ると、何が起きたのかを悟り、悲鳴を上げた後、気絶して、床に倒れてしまった。


アレクサンダー・ホールダーは、メイドに指示して、警察を呼びに行かせた。そして、彼は、直ぐに全てを警察の手に委ねたのである。

アーサーは、父親に対して、「5分だけ時間をもらえれば、この件を解決できる。」と出張したが、アレクサンダー・ホールダーは、到着した警察(警部と巡査)に対して、一人息子のアーサーを、宝冠を壊した上、緑柱石3個を盗んだ犯人として告発し、逮捕させた。

警察がアレクサンダー・ホールダー邸の内外をしらみつぶしに捜索したが、アーサーが盗んだと思われる緑柱石3個は、どこにもなかったのである。


アレクサンダー・ホールダーの話を聞き終えたホームズは、暫くの間、眉をひそめると、暖炉をじっと見詰めて黙っていた。

その後、ホームズは、アレクサンダー・ホールダーに対して、「来客は多いですか?」と尋ねる。すると、アレクサンダー・ホールダーは、「共同経営者とその家族、そして、アーサーの友人であるサー・ジョージ・バーンウェル(Sir George Burnwell)だけです。」と答えた。

更に、ホームズは、アレクサンダー・ホールダーに対して、「息子さんが宝冠を両手に持っていたのは、それを直そうとしていた可能性があるとは思いませんか?」とも訊いた。


この後、ホームズとジョン・H・ワトスンは、アレクサンダー・ホールダーと一緒に、ストリーサム地区にある彼の自宅へと赴くことに決めたのである。


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