2025年5月19日月曜日

ニコラス・サーコム作「愚かな銀行家の公にできない苦境」(The Secret Predicament of the Stupid Banker)- その2

英国の Harry King Films Limited から、Eva Books として
2021年に刊行されている
 ニコラス・サーコム
作「愚かな銀行家の公にできない苦境」の挿絵(その1)
(I
llustrations by Juliet Snape)-
画面奥の人物は、ジョン・ワトスン(左側)と
シャーロック・ホームズ(右側)。
画面手前の人物は、銀行の頭取であるアレクサンダー・ホールドアップ。

作家で、映画 / テレビのプロデューサーでもあるニコラス・サーコム(Nicholas Sercombe)による第11作目「愚かな銀行家の公にできない苦境(The Secret Predicament of the Stupid Banker)」(2021年)の場合、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)による原作「緑柱石の宝冠(The Beryl Coronet → 2025年4月29日 / 5月1日 / 5月8日 / 5月12日付ブログで紹介済)」(1892年)に比べると、以下のような差異が見受けられる。


(1)

<原作>

前日に降った雪がまだ地面に厚く積もっているものの、冬の日差しに輝く、そして、明るく爽やかな2月の朝(It was a bright, crisp February morning, and the snow of the day before still lay deep on the ground, shimmering brightly in the wintry sun.)に、その物語が始まる。コナン・ドイルの原作上、年は言及されていない。

<本作品>

前日に降った季節外れの雪がまだ地面に厚く積もっているものの、冬の日差しに輝く、そして、明るく爽やかな1891年3月の朝(It was a bright, crisp March morning in 1891 and the unseasonal snow of the day before still lay deep on the ground, shimmering brightly in the wintry sun.)に、その物語が始まる。本作品の場合、1891年と具体的な年が言及されている。


(2)

<原作>

シャーロック・ホームズが出窓から通りを見下ろしていたところ、スレッドニードルストリート(Threadneedle Street → 2014年10月30日付ブログで紹介済)にあるホールダー&スティーヴンスン銀行(banking firm of Holder & Stevenson - シティー(City → 2018年8月4日 / 8月11日付ブログで紹介済)内では2番目に大きな民間銀行)の頭取を務めているアレクサンダー・ホールダー(Alexander Holder)と名乗る紳士が、ベーカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)のホームズの元を訪れる。

<本作品>

前日、プロの女性達による出張サービス(Fanny by Gaslight)を呼んで、楽しい一夜を過ごしたシャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンの2人がまだガウン姿で居るところへ、スレッドニードルストリートにあるホールドアップ&スティーヴンスン銀行(banking firm of Holdup & Stevenson)の頭取であるアレクサンダー・ホールドアップ(Alexander Holdup)が駆け込んで来る。


(3)

<原作>

アレクサンダー・ホールダーは、ホームズの元を訪れたのは、「(スコットランドヤードの)警部(police inspector)から提案を受けたからだ。」と述べている。

<本作品>

アレクサンダー・ホールドアップは、ホームズの元を訪れたのは、「(スコットランドヤードの)グレッグスン警部(Inspector Gregson)から提案を受けたからだ。」と述べている。


(4)

事件の主要な関係者は、以下の4人であるが、原作と本作品の間で、異なっている。


(a)

<原作>

アレクサンダー・ホールダー(ホールダー&スティーヴンスン銀行の頭取)

<本作品>

アレクサンダー・ホールドアップ(ホールドアップ&スティーヴンスン銀行の頭取)


(b)

<原作>

アーサー・ホールダー(Arthur Holder - アレクサンダー・ホールダーの一人息子)

<本作品>

アーサー・ホールドアップ(Arthur Holdup - アレクサンダー・ホールドアップの一人息子)


(c)

<原作>

メアリー・ホールダー(Mary Holder - アレクサンダー・ホールダーの兄の娘で、父親の死後、アレクサンダー・ホールダーの養女となっている)

<本作品>

メアリー・ホールドアップ(Mary Holdup - アレクサンダー・ホールドアップの兄の娘で、父親の死後、アレクサンダー・ホールドアップの養女となっている)


(d)

<原作>

サー・ジョージ・バーンウェル(Sir George Burnwell → 2025年5月14日付ブログで紹介済 - アーサー・ホールダーの友人)

<本作品>

サー・ゲイロン・シュウィンガー(Sir Gaylon Schwinger - アーサー・ホールドアップの悪友)


(5)

事件の経緯については、原作も、本作品も、ほぼ同じである。


英国の Harry King Films Limited から、Eva Books として
2021年に刊行されている
 ニコラス・サーコム
作「愚かな銀行家の公にできない苦境」の挿絵(その2)
(I
llustrations by Juliet Snape)-
画面左側から、
サー・ゲイロン・シュウィンガー、
シャーロック・ホームズ、ジョン・H・ワトスン、
そして、マイクロフト・ホームズ。


(6)

<原作>

ホームズとワトスンの2人は、アレクサンダー・ホールダーの自宅があるテムズ河(River Thames)の南岸のストリーサム地区(Streatham → 2017年12月2日付ブログで紹介済)へと赴くが、どのようなルートで向かったのかについては、具体的には言及されていない。

<本作品>

ホームズとワトスンの2人が、アレクサンダー・ホールドアップの自宅があるテムズ河の南岸のストリーサム地区へと向かったルートは、以下の通り。


*馬車:ベーカーストリート221B → ウォータールー駅(Waterloo Station → 2014年10月19日付ブログで紹介済)

*列車:ウォータールー駅 → ストリーサム駅

*徒歩:ストリーサム駅 → フェアバンク(Fairbank)


(7)

<原作>

アレクサンダー・ホールダーの自宅に到着したホームズは、2階へと上がり、アレクサンダー・ホールダーから鍵を借り受けると、衣装部屋の書き物机の中から問題の緑柱石の宝冠を取り出す。ホームズが、宝冠の金具が折り取られていた部分に力を入れて曲げようとしたが、指の力が強いホームズを持ってしても、相当手間がかかりそうだった。ホームズは、「宝冠の金具を折り取ると、拳銃を撃ったような音がする筈。そうだとすると、衣装部屋の隣りの部屋で居て、眠りが浅いあなた(アレクサンダー・ホールダー)に全然聞こえなかったと言うのは、説明がつかない。」と告げた。

<本作品>

アレクサンダー・ホールドアップ邸において、ワトスンが、緑柱石の宝冠から宝石が飾られた金具を引きちぎることができるかどうかを実践したところ、本当に一部を折り取ってしまい、それを見たホームズ、アレクサンダー・ホールドアップとメアリー・ホールドアップが呆然とする。


(8)

<原作>

アレクサンダー・ホールダー邸からベーカーストリート221B への戻ったホームズは、自分の部屋へ入り、数分後に、浮浪者の身なりでに出て来ると、何処かへ出かけて行った。後に、ホームズは、サー・ジョージ・バーンウェル邸へ向かったことが判る。

<本作品>

アレクサンダー・ホールドアップ邸からベーカーストリート221B への戻ったホームズは、ワトスンを連れて、ディオゲネスクラブ(Diogenes Club)へと向かった。


(9)

<原作>

ホームズは、単独で、サー・ジョージ・バーンウェル邸において、彼に会い、奪われた緑柱石の宝冠の一部を取り戻すべく、対決する。

<本作品>

ディオゲネスクラブに着いたホームズとワトスンは、そこでマイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)に会い、サー・ゲイロン・シュウィンガーをクラブへと呼び出して、奪われた緑柱石の宝冠の一部を取り戻すべく、対決する。


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