2025年2月18日火曜日

アガサ・クリスティー作「杉の柩」<英国 TV ドラマ版>(Sad Cypress by Agatha Christie )- その2

第51話「杉の柩」が収録された
エルキュール・ポワロシリーズの DVD コレクション No. 5 の裏表紙


英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、「Agatha Christie’s Poirot」の第51話(第9シリーズ)として、2003年12月26日に放映されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作杉の柩(Sad Cypress)」(1940年)の TV ドラマ版の場合、原作対比、以下のような差異が見受けられる。


(1)

<原作>

物語の冒頭、匿名の手紙を受け取ったエリノア・カーライル(Elinor Carlisle - ローラ・ウェルマン(Mrs. Laura Welman - 富豪の未亡人)の姪)は、ロディー・ウェルマン(Roddy Welman - ローラ・ウェルマンの亡き夫の甥 / エリノア・カーライルの従兄で、彼女の婚約者)に対して、謎の手紙を見せたところ、ロディー・ウェルマンは、その手紙をその場で燃やしてしまう。

<英国 TV ドラマ版>

物語の冒頭、匿名の手紙を受け取ったエリノア・カーライルは、婚約者であるロディー・ウィンター(Roddy Winter)に対して、謎の手紙を見せるが、手紙はその場では燃やされない。

2人は、叔母のローラ・ウェルマンが住むハンターベリー邸(Hunterbury)へ持参する。そして、ロディー・ウィンターは、屋敷の暖炉で、その手紙を燃やしてしまう。


(2)

<原作>

ロディー・ウェルマンが大人になったメアリー・ジェラード(Mary Gerrard - ウェルマン家の門番の娘)と再会する場所は、屋敷の庭である。

<英国 TV ドラマ版>

エリノア・カーライルとロディー・ウィンターの2人がハンターベリー邸を訪れた際、ロディー・ウィンターは、ローラ・ウェルマンの部屋から出てきたメアリー・ジェラードと再会する。

ただし、後にエリノア・カーライルとロディー・ウィンターの間で行われた会話において、ロディー・ウィンターは、エリノア・カーライルに対して、何故か、「メアリー・ジェラードには、屋敷の庭で再会した。」と話している。

もしかすると、これは、脚本上のミスなのかもしれない。


(3)

<原作>

ジェシー・ホプキンズ(Jessie Hopkins - ローラ・ウェルマンの看護婦)とアイリーン・オブライエン(Eileen O’Brien - ローラ・ウェルマンの看護婦)の2人は、「雑誌『タトラー(Tatler)』に、エリノア・カーライルと彼女の友人がニューマーケット(New Market)に居る写真が載っていた。」と話している。

<英国 TV ドラマ版>

ジェシー・ホプキンズとアイリーン・オブライエンの2人は、「雑誌『タトラー(Tatler)』に、エリノア・カーライルとロディー・ウィンターの2人がキスをしている写真が載っていた。」と話している。


(4)

<原作>

ロディー・ウェルマンは、メアリー・ジェラードに対して、自分の想いを伝えるが、メアリー・ジェラードは、エリノア・カーライルのことを考えて、ロディー・ウェルマンの申し出をやんわりと拒絶する。

そして、メアリー・ジェラードは、「第一部(事件編)」の終盤に、モルヒネにより毒殺されるまで、ロディー・ウェルマンからの申し出を受け入れることはなかった。

<英国 TV ドラマ版>

再会した途端、ロディー・ウィンターとメアリー・ジェラードの2人は、非常に打ち解けた関係へと発展していく。

更に、ローラ・ウェルマンが危篤に陥った夜、屋敷の居間において、2人がキスを交わしているいる現場を、エリノア・カーライルは、目撃してしまう。


(5)

<英国 TV ドラマ版>

ハンターベリー邸において、エリノア・カーライルとロディー・ウィンターの婚約パーティーが開催され、ピーター・ロード医師(Dr. Peter Lord - ローラ・ウェルマンの主治医)とエルキュール・ポワロに加えて、多くの人達が招待される。

<原作

原作には、そのような場面はない。


(6)

<原作>

「第一部(事件編)」に、エルキュール・ポワロ は登場しない。

彼が登場するのは、「第二部(捜査編)」からで、エリノア・カーライルの無実を信じるピーター・ロード医師から事件解決の依頼を受けて、事件の関係者達を一人一人訪ねて行く。

<英国 TV ドラマ版>

原作の「第一部(事件編)」に相当する場面から、エルキュール・ポワロ は登場する。

ある事件のため、ポワロは現地に滞在しており、原作とは異なり、メアリー・ジェラードの毒殺事件以前から、ピーター・ロード医師とは既に知り合いになっている。

物語の冒頭に出てきた匿名の手紙について、まず最初に、エリノア・カーライルはピーター・ロード医師に相談して、その後、ピーター・ロード医師がポワロに相談する流れとなっている。匿名の手紙にかかる相談を受けたポワロは、犯罪が起きることを予感したが、手紙の差出人を特定することは難しく、また、捜査していた事件が無事解決したため、手紙の件がまだ未解決ではあったものの、心残りながらも、一旦、ポワロはロンドンへと戻る。


(7)

<英国 TV ドラマ版>

1937年9月16日にローラ・ウェルマン(1882年-1937年)が亡くなったことを、エルキュール・ポワロ は、大英図書館(British Library → 2014年5月31日付ブログで紹介済)へと向かうタクシーの中で、新聞を読んで知る。

ポワロは、再度、現地へと赴き、ピーター・ロード医師と一緒に、ローラ・ウェルマンの葬儀に立ち会う。

<原作>

原作には、そのような場面はない。


(8)

<原作>

エリノア・カーライルは、ローラ・ウェルマンの遺産から、メアリー・ジェラードに対して、2000ポンドを譲ることを確約する。

<英国 TV ドラマ版>

上記の金額は、2000ポンドから7000ポンドへと増額されている。


(9)

<原作>

メアリー・ジェラードは、アイリーン・オブライエン看護婦に言われて、門番小屋において、遺言書を作成。そして、エリノア・カーライルは、窓の外から、それを見かける。

<英国 TV ドラマ版>

エリノア・カーライルが、ローラ・ウェルマンの遺産から、メアリー・ジェラードに対して、7000ポンドを譲ることを確約した際、メアリー・ジェラードは、エリノア・カーライルに対して、遺言書を作成したことを伝える。


(10)

<原作>

エリノア・カーライルは、自分からロディー・ウェルマンを奪ったメアリー・ジェラードに対して、恨みや妬みの気持ちを抱くが、物語の最後まで、自分の思いを表に出すことはなかった。

<英国 TV ドラマ版>

エリノア・カーライルは、屋敷の近くの森で出会ったエルキュール・ポワロに対して、メアリー・ジェラードへの恨みや妬みの気持ちを全てぶちまけ、「メアリー(・ジェラード)が死んでしまえば、良いのに!」と、自分の思いを表に出している。


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