2024年3月30日土曜日

横溝正史作「本陣殺人事件」(The Honjin Murders by Seishi Yokomizo)- その4

英国のプーシキン出版(Pushkin Press)から
2019年に刊行されている
 Pushkin Vertigo シリーズの一つである

横溝正史作「本陣殺人事件」の内扉
(Cover design by Anna Morrison)


1937年(昭和12年)11月25日、岡山県の旧本陣の末裔に該る一柳家(The Ichiyanagi Family)の屋敷において、

長男の一柳賢蔵(Kenzo Ichiyanagi)と小作農の出で、女学校の教師である久保克子(Katsuko Kubo)の婚礼が執り行われていた。

婚礼の式が午後9時半頃に終わると、続いて、婚礼の宴が始まった。午前1時頃に、婚礼の宴がお開きになると、新郎新婦の賢蔵と克子は、寝屋である離れ家(Annexe House)へと下がった。


明け方に近くなった時、新郎新婦の寝屋である離れ家から、悲鳴と琴を掻き鳴らす音が、突然、聞こえてきたのである。母屋で寝ていた久保銀造(Ginzo Kubo)が驚いて目を覚ますと、時計を見た。時刻は、午前4時15分だった。

久保克子の父親である久保林吉(Rinkichi Kubo)は既に亡くなっており、彼の弟で、果樹園の経営者(fruit farmer)である久保銀造(Ginzo Kubo)が、亡き兄の娘の克子を育て上げ、亡き兄に代わって、姪の克子の婚礼に出席していたのである。


雨戸を壊して、久保銀造達が離れ家の中へ入ると、賢蔵と克子の2人が、寝室の布団の上で、血塗れになって、死んでいたのである。状況が飲み込めない久保銀造達であったが、離れ家内には、布団の上で血塗れになって死んでいる賢蔵と克子の2人以外には、誰も居なかった。

不思議なことに、庭の石灯籠(stone lantern)の側の地面には、賢蔵と克子の殺害に使用したと思われる血に染まった凶器の日本刀(katana)が、突き刺さっていた。

更に、奇妙なことは、新郎新婦の賢蔵と克子が寝屋である離れ家へと下がる際に降り出して、離れ家の周囲に積もった雪の上には、賢蔵と克子の2人を殺害した犯人が逃げ出した足跡がなかったことである。


新郎新婦の賢蔵と克子の身に、一体、何が起きたのか?


久保銀造は、名探偵と見込み、自らが出資して、パトロンとなっている新進の私立探偵である金田一耕助(Kosuke Kindaichi)を呼び寄せて、事件の解明にあたらせることにした。

久保銀造は、金田一耕助が米国の大学に留学した際、その学資を出したり、日本へ戻って来た金田一耕助が探偵業を始めるにあたり、事務所の設備費や当面の生活費等を負担したりして、資金的な援助を行っていたのである。


一柳賢蔵と久保克子の殺害現場に駆け付けた磯川警部(Detective Inspector Isokawa)による指揮の下、岡山県警が捜査した結果、


(1)一柳賢蔵と久保克子の婚礼の直前に、顔を隠した上に手袋をした「3本指の男(Three-Fingered Man)」が一柳家を訪れて、一柳賢蔵宛に復讐を示唆した手紙を残したこと

(2)また、その手紙には、「君の所謂生涯の仇敵」と記してあったこと

(3)一柳賢蔵所有するアルバムの中に、「生涯の仇敵」と書かれた男の写真があったこと

(4)庭の石灯籠の側の地面に突き刺さっていた日本刀に付いていた指紋と事件の2日前に3本指の男が駅前で水を飲んだ際に使ったコップに付いていた指紋が一致したこと


等から、事件前に一柳家を訪れた3本指の男が、一柳賢蔵の「生涯の仇敵」であり、一柳賢蔵と久保克子を殺害した犯人であると考えられた。

しかし、夢遊病が疑われる次女の一柳鈴子(Suzuko Ichiyanagi - 17歳)が、一柳賢蔵と久保克子の婚礼の前夜に、死んだ愛猫の墓に参った時に、3本指の男に遭遇したと証言したが、それ以降、3本指の男の足取りは、杳としてしれなかったのである。


久保銀造に呼ばれて、一柳家へとやって来た金田一耕助は、三男の一柳三郎(Saburo Ichiyanagi - 28歳)が自分の本棚を探偵小説で一杯にしていることに非常に興味を持ち、三郎と一緒に、探偵小説における密室殺人について、議論を交わした。


奇しくも、その夜の同刻、一柳賢蔵と久保克子が殺害された離れ家で、琴の音が再び鳴り響き、重傷を負った一柳三郎が発見される。更に、一柳賢蔵と久保克子が殺害された時と同じように、庭のに、日本刀がまたもや突き立っていたのである。

離れ家から助け出された一柳三郎によると、「金田一耕助との探偵小説の談義の後、一柳賢蔵と久保克子が殺害された密室殺人の謎を解明するために、離れ家にやって来たところ、不審な男に日本刀で斬りつけられた。」とのことだった。


またしても、3本指の男による仕業なのだろうか?


日本の推理作家である横溝正史(Seishi Yokomizo:1902年ー1981年)による長編推理小説で、金田一耕助(Kosuke Kindaichi)シリーズの第1作目に該る「本陣殺人事件(The Honjin Murders)」は、1946年(昭和21年)4月から同年12月にかけて、雑誌「宝石」に連載された。

その後、明智小五郎シリーズや少年探偵団シリーズ等で有名な日本の推理作家である江戸川乱歩(1894年ー1965年)による評論の中で、「殺人の動機について、読者を納得させるところが不十分である。」との指摘を受ける。作者の横溝正史自身も、その点に関して、不満を感じていたので、江戸川乱歩による指摘部分を加筆し、現在の版が決定稿となっている。


「本陣殺人事件」は、降り積もった雪で周りを囲まれた日本家屋での密室殺人をテーマにしており、それまでは日本家屋では難しいと考えられてきた密室殺人を初めて描いた作品である。

そして、同作品は、1948年に第1回探偵作家クラブ賞を受賞している。


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