英国のプーシキン出版(Pushkin Press)から 2019年に刊行されている Pushkin Vertigo シリーズの一つである 横溝正史作「本陣殺人事件」の表紙 (Cover design by Anna Morrison) |
「本陣殺人事件(The Honjin Murders)」は、日本の推理作家である横溝正史(Seishi Yokomizo:1902年ー1981年)による長編推理小説で、金田一耕助(Kosuke Kindaichi)シリーズの第1作目に該る。
「本陣殺人事件」は、1946年(昭和21年)4月から同年12月にかけて、雑誌「宝石」に連載された。
その後、金田一耕助シリーズの第2作目に該る「獄門島(Death on Gokumon Island → 2024年3月4日 / 3月6日 / 3月8日 / 3月10日付ブログで紹介済)」が、1947年(昭和22年)1月から1948年(昭和23年)10月にかけて、雑誌「宝石」に連載されている。
「本陣殺人事件」は、作者である横溝正史にとって、第二次世界大戦(1939年ー1945年)/ 太平洋戦争(1941年ー1945年)後最初の長編推理小説で、雑誌「宝石」の編集長から連載の依頼を受けた横溝正史は、本格中の本格に該る(1)「密室殺人」、(2)「一人二役」、あるいは、(3)「顔のない死体」の3大トリックのうちのいずれかに取り組むことを考えていた。3大トリックのうち、「顔のない死体」について、横溝正史は、「神楽太夫」で既に使用していたので、米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が得意とする「密室殺人」をテーマにすることにした。
密室トリックに関しては、本作品中において、探偵役である金田一耕助が、推理の根拠として、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)によるシャーロック・ホームズシリーズの「ソア橋の謎(The Problem of Thor Bridge → 2021年6月5日 / 6月13日 / 6月27日付ブログで紹介済)」を引き合いに出しているが、作者の横溝正史自身は、「本陣殺人事件」を執筆する上で、米国の推理作家であるロジャー・スカーレット(Roger Scarlett)作「エンジェル家の殺人(Murder Among the Angells)」(1932年)に着想を得たと語っている。
また、探偵役である金田一耕助については、ロンドンのキルバーン(Kilburn)生まれのスコットランド人で、児童文学作家、劇作家、そして、詩人として有名なアラン・アレクサンダー・ミルン(Alan Alexander Milne:1882年ー1956年)作「赤い館の秘密(The Red House Mystery → 2024年2月25日 / 2月29日 / 3月2日付ブログで紹介済)」(1921年に発表+1922年に単行本化)に登場する素人探偵(private sleuthhound)のアントニー・ギリンガム(Antony Gillingham)を、作者の横溝正史がモデルにしたことで知られている。
実際、本作品中において、金田一耕助が、アントニー・ギリンガムに似ていると言う描写が出てくる。
作者の横溝正史によると、アントニー・ギリンガムが探偵役を務めるのは、「赤い館の秘密」の1作のみのため、金田一耕助の登場を、「本陣殺人事件」だけにする予定であった。
ところが、「本陣殺人事件」の執筆中に、雑誌「宝石」の編集長から「次の作品を書いてほしい。」と言う依頼があり、全く別の探偵を考えるのが面倒だったため、「本陣殺人事件」限りの予定だった金田一耕助をそのまま「獄門島」の探偵として使い続けた、とのこと。
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