2024年3月21日木曜日

横溝正史作「本陣殺人事件」(The Honjin Murders by Seishi Yokomizo)- その2

英国のプーシキン出版(Pushkin Press)から
2019年に刊行されている
 Pushkin Vertigo シリーズの一つである

横溝正史作「本陣殺人事件」の裏表紙
(Cover design by Anna Morrison)


日本の推理作家である横溝正史(Seishi Yokomizo:1902年ー1981年)による長編推理小説で、金田一耕助(Kosuke Kindaichi)シリーズの第1作目に該る「本陣殺人事件(The Honjin Murders)」(1946年ー1947年)は、岡山県(Okayama Prefecture)に疎開した作者が、人伝てに聞いた話を纏めたと言う形式を採っている。

作者の横溝正史が、事件の舞台として、岡山県に設定したのは、彼の両親(父:宜一郎 / 母:波摩)が岡山県出身であるためだと思われる。なお、横溝正史は、1902年5月24日、兵庫県神戸市に出生している。


「本陣殺人事件」は、1946年(昭和21年)4月から同年12月にかけて、雑誌「宝石」に連載された。

出版社宛に送った第1回の原稿において、作者の横溝正史は、「本陣殺人事件」と言うタイトルでは、一般読者に判りづらいのではないかと考え、当初、「妖琴殺人事件」と言うタイトルを付けた。ただ、「妖琴殺人事件」と言うタイトルでは、第二次世界大戦(1939年ー1945年)/ 太平洋戦争(1941年ー1945年)前における自己の作風が連想される可能性があると思い直し、戦後の新たな出発のために、原稿を送った後、横溝正史は、出版社に対して、電報でタイトルの変更を伝えたのである。

そう言った経緯もあって、物語の第1章である「3本指の男(The Three-Fingered Man)」の冒頭に、「妖琴殺人事件(The Koto Murder Case)」と言う表現が残っている。


また、物語の冒頭、作者が人伝てに「本陣殺人事件」の話を聞いた際、以下の推理小説に出てきた事件に類似していると述べている。


(1)フランスの小説家 / 新聞記者であるガストン・ルイス・アルフレッド・ルルー(Gaston Louis Alfred Leroux:1868年ー1927年)作「黄色い部屋の謎」(原題:Le Mystere de la Chambre Jaune / 英題:The Mystery of the Yellow Room → 2017年9月23日付ブログで紹介済)


(2)フランスの小説家であるモーリス・マリー・エミール・ルブラン(Maurice Marie Emile Leblanc:1864年ー1941年)作「虎の牙(原題:Les Dents Du Tigre / 英題:The Teeth of the Tiger)


(3)米国の推理作家である S・S・ヴァン・ダイン(S. S. Van Dine)作「カナリア殺人事件(The Canary Murder Case)」(1927年)と「ケンネル殺人事件(The Kennel Murder Case)」(1931年)


なお、S・S・ヴァン・ダインはペンネームで、本名は、美術評論家のウィラード・ハンティントン・ライト(Willard Huntington Wright:1888年ー1939年)である。


(4)米国の推理作家であるカーター・ディクスン(Carter Dickson)作「黒死荘の殺人」(The Plague Court Murders → 2018年5月6日 / 5月12日付ブログで紹介済)(1934年)


なお、カーター・ディクスンは、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)による別のペンネームである。


(5)米国の推理作家である ロジャー・スカーレット(Roger Scarlett)作「エンジェル家の殺人(Murder Among the Angells)」(1932年)


なお、ロジャー・スカーレットは、実は、イヴリン・ペイジ(Evelyn Page:1902年ー1977年)とドロシー・ブレア(Dorothy Blair:1903年ー1976年)と言う女性2人のペンネームである。


1937年(昭和12年)11月25日、岡山県の旧本陣の末裔に該る一柳家(The Ichiyanagi Family)の屋敷において、

長男の一柳賢蔵(Kenzo Ichiyanagi)と小作農の出で、女学校の教師である久保克子(Katsuko Kubo)の婚礼が執り行われていた。

久保克子の父親である久保林吉(Rinkichi Kubo)は既に亡くなっており、彼の弟で、果樹園の経営者(fruit farmer)である久保銀造(Ginzo Kubo)が、亡き兄の娘の克子を育て上げ、亡き兄に代わって、姪の克子の婚礼に出席していた。ただ、これから数時間後に、姪の克子の身に恐ろしい事件が発生するとは、久保銀造は、全く思ってもいなかったのである。

 

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