2024年5月22日水曜日

切り裂きジャック(Jack the Ripper)

筆者が土産物屋で購入した絵葉書
「Jack the Ripper Map」-
絵葉書上に、「切り裂きジャック」が5人の売春婦達を惨殺した場所を含めた
ロンドン東部のホワイトチャペル地区の地図が描かれている。


スコットランドのダンディー(Dundee)出身の学者 / 作家であるロバート・J・ハリス(Robert. J. Harris:1955年ー)が2020年に発表した「深紅色の研究(A Study in Crimson → 2024年5月6日 / 5月12日 / 5月16日付ブログで紹介済)」の場合、第二次世界大戦(1939年-1945年)中の1942年、ロンドンを舞台にして、「切り裂きジャック(Jack the Ripper)」の再来と思われる「血塗れジャック(Crimson Jack)」による女性惨殺事件が連続して発生する。


「切り裂きジャック」事件とは、ヴィクトリア朝時代の1888年に、ロンドン東部のホワイトチャペル地区(Whitechapel)において、5人の売春婦が連続して殺害された、英国犯罪史上最も猟奇的な事件で、130年以上が経過した現在でも、犯人の正体も、また、その動機も、謎に包まれたままとなっている。


一般に、切り裂きジャックによる被害者達と考えられているのは、以下の通り。


<第1の被害者>

*氏名:メアリー・アン・ニコルズ(Mary Ann Nichols)/ 通称:ポリー

*日時:1888年8月31日(金) 午前3時40分頃

*場所:バックスロウ(Buck’s Row - 現在のダーウォードストリート(Durward Street))


<第2の被害者>

*氏名:アニー・チャップマン(Annie Chapman)

*日時:1888年9月8日(土) 午前6時頃

*場所:ハンバリーストリート29番地(29 Hanbury Street)


<第3の被害者>

*氏名:エリザベス・ストライド(Elizabeth Stride)/ 通称:ロングリズ

*日時:1888年9月30日(日) 午前1時頃

*場所:バーナーストリート(Berner Street - 現在のヘンリクエスストリート(Henriques Street))


<第4の被害者>

*氏名:キャサリン・エドウズ(Catherine Eddowes)

*日時:1888年9月30日(日) 午前1時35分以降

*場所:ミトルスクエア(Mitre Square)


<第5の被害者>

*氏名:メアリー・ジェーン・ケリー(Mary Jane Kelly)

*日時:1888年11月9日(金) 未明

*場所:ドーセットストリート(Dorset Street)近くのミラーズコート13番地(13 Miller’s Court)


現在、ホワイトチャペル地区内の「切り裂きジャック」事件にかかる5つの事件現場を巡る観光ツアーが行われているので、このツアーに入ると、解説付きで事件現場を巡ることが可能である。


2024年5月21日火曜日

ニコラス・サーコム作「ボヘミアの混乱」(A Balls-up in Bohemia by Nicholas Sercombe)- その1

英国の Harry King Films Limited から、Eva Books として
2019年に刊行されている
 ニコラス・サーコム
作「ボヘミアの混乱」の表紙
Cover illustration by Emily Snape)-
物語の舞台は、セントジョンズウッド地区(St. John's Wood)内にある
ブライオニーロッジ(Briony Lodge)の居間で、
手前の左側の人物がアイリーン・アドラー(Irene Adler)、
そして、手前の右側の人物が牧師に変装したシャーロック・ホームズ。
本のタイトルの左側に居る人物がジョン・H・ワトスンで、
ホームズの合図に従って、発煙筒を放り投げている。

ヴィクトリア朝時代は、いろいろと制約があり、事件の記録者であるジョン・H・ワトスン、著者であるサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)、そして、出版社である「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」も、事件の内容について、不適切な箇所を削除せざるを得ず、事実通りには発表できなかった。

そこで、作家で、映画 / テレビのプロデューサーでもあるニコラス・サーコム(Nicholas Sercombe)が、シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンが解決した事件に関して、実際に起きた通りに執筆の上、発表すると言う形式を採ったのが、本作品である。

そして、ロンドン在住のイラストレーターであるエミリー・スネイプ(Emily Snape)が、イラストを描いている。


英国の Harry King Films Limited から、Eva Books として
2019年に刊行されている
 ニコラス・サーコム
作「ボヘミアの混乱」の裏表紙
Cover illustration by Emily Snape

ニコラス・サーコムによるシリーズは、2019年から、以下の作品が発表されている。


<シャーロック・ホームズの不適切な箇所が削除されていない冒険(The Unexpurgated Adventures of Sherlock Holmes)>

(1)「A Balls-up in Bohemia」→ 原作の「ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia → 2022年12月18日+2023年8月6日 / 8月9日 / 8月19日付ブログで紹介済)」をベースにしている。

(2)「The Mysterious Case of Mr. Gingernuts」→ 原作の「赤毛組合(The Red-Headed League → 2022年9月25日 / 10月9日 / 10月11日 / 10月16日付ブログで紹介済)」をベースにしている。

(3)「The Case of the Randy Stepfather」→ 原作の「A Case of Identity(花婿失踪事件)」をベースにしている。

(4)「My First Proper Rural Murder」→ 原作の「ボスコム谷の謎(The Boscombe Valley Mystery)」をベースにしている。

(5)「The Oranges of Death」→ 原作の「五つのオレンジの種(The Five Orange Pips)」をベースにしている。

(6)「The Man with the Hairy Face」→ 原作の「唇のねじれた男(The Man with the Twisted Lip)」をベースにしている。

(7)「A Gander at the Blue Carbuncle」→ 原作の「青いガーネット(The Blue Carbuncle)」をベースにしている。

(8)「The Speckled Band Speculation」→ 原作の「まだらの紐(The Speckled Band)」をベースにしている。

(9)「The Adventure of the Engineer’s Tongue」→ 原作の「技師の親指(The Engineer’s Thumb)」をベースにしている。

(10)「The Mysterious Marriage of the Gay Bachelor」→ 原作の「独身貴族(The Noble Bachelor)」をベースにしている。

(11)「The Secret Predicament of the Stupid Banker」→ 原作の「緑柱石の宝冠(The Beryl Coronet)」をベースにしている。

(12)「The Adventure of the Psychedelic Trees」→ 原作の「ぶな屋敷(The Copper Beeches → 2022年7月31日 / 8月15日 / 8月21日 / 8月25日付ブログで紹介済)」をベースにしている。


<シャーロック・ホームズの不適切な箇所が削除されていない回想(The Unexpurgated Memoirs of Sherlock Holmes)>

(13)「The Relish of Rampant Rod」→ 原作の「シルヴァーブレイズ(Silver Blaze)」をベースにしている。

(14)「The Memoir of the Gruesome Packet」→ 原作の「ボール箱事件(The Cardboard Box)」

(15)「The Terror of the Yellow Face」→ 原作の「黄色い顔(The Yellow Face)」をベースにしている。


今回は、ニコラス・サーコムによる第1作目に該る「ボヘミアの混乱(A Balls-up in Bohemia)」(2019年)について、紹介したい。


2024年5月20日月曜日

P・D・ジェイムズ作「女には向かない職業」(An Unsuitable Job for a Woman by P. D. James)- その2

英国の Faber and Faber Limited から
2020年に刊行されている
 
P・D・ジェイムズ作「女には向かない職業」の裏表紙
Cover design by Faber and Faber Limited /
Cover illustration by Ms. Angela Harding


コーデリア・グレイ(Cordelia Gray)は、22歳の若輩ながら、バーナード・G・プライド(Bernard G. Pryde)と一緒に、地下鉄オックスフォードサーカス駅(Oxford Circus Tube Station)の近くにあるプライド探偵事務所(Pryde’s Detective Agency)の共同パートナーを務めていた。

バーナード・G・プライドは、元警察官で、スコットランドヤードのアダム・ダリグリッシュ警視(Superintendent Adam Dalgliesh)の部下でもあった。


1972年6月のある朝、地下鉄のトラブルにより、いつもより30分程遅れて、探偵事務所に着いたコーデリア・グレイは、パートナーのバーナード・G・プライドが自殺している現場に遭遇して、驚く。

実は、バーナード・G・プライドは、癌に罹っており、手首を切って、事務所内で自殺していたのである。


共同パートナーのバーナード・G・プライドを失って、途方に暮れるコーデリア・グレイであったが、いろいろと考えた末に、一人で探偵稼業を続けていくことに決めた。

そんな最中、探偵事務所の単独代表となった彼女の元に、最初の依頼者が訪れる。


最初の依頼者の名前は、エリザベス・レミング(Elizabeth Leaming)と言う女性で、天然資源保護論者(conservationist)/ 微生物学者(microbiologist)であるサー・ロナルド・カレンダー(Sir Ronald Callender)の秘書を務めていた。エリザベス・レミング曰く、サー・ロナルド・カレンダーがコーデリア・グレイに対して依頼したい件があるのので、今から一緒にケンブリッジ(Cambridge)まで来てほしい、とのことだった。

そこで、コーデリア・グレイは、エリザベス・レミングと一緒に、セントラルライン(Central Line)で地下鉄オックスフォード駅から地下鉄リヴァプールストリート駅(Liverpool Street Tube Station)へ、そして、午後5時36分発の1等車に乗って、リヴァプールストリート駅(Liverpool Street Station)からケンブリッジ駅(Cambridge Station)へと向かった。


サー・ロナルド・カレンダーの実験アシスタントで、運転手も務めるクリス・ルン(Chris Lunn)が運転する車で、ケンブリッジ駅からガーフォースハウス(Garforth House)へと到着したコーデリア・グレイは、サー・ロナルド・カレンダーに紹介される。

コーデリア・グレイに面会したサー・ロナルド・カレンダーは、彼女に対して、ある事件の調査を依頼する。

それは、18日前に、彼の子息で、ケンブリッジ大学(University of Cambridge)の学生だったマーク・カレンダー(Mark Callender)が自殺を遂げた事件で、サー・ロナルド・カレンダーとしては、コーデリア・グレイに、マークが自殺をしたのか、その原因を調査してほしい、とのことだった。


2024年5月19日日曜日

H・G・ウェルズ作「宇宙戦争」<グラフィックノベル版>(The War of the Worlds by H. G. Wells

フランスの Editions Glenat 社から、
「La guerre des mondes」というタイトルを以って、
2016年と2017年に2分冊で出版された後、
2018年に米国の Insight Editions 社から英訳版が発行された
H・G・ウェルズ作「宇宙戦争」のグラフィックノベル版の表紙


米国の作家であるマンリー・ウェイド・ウェルマン(Manly Wade Wellman:1903年ー1986年)と息子のウェイド・ウェルマン(Wade Wellman)の共作による SF 小説「シャーロック・ホームズの宇宙戦争(Sherlock Holmes’s War of the Worlds → 2024年5月8日 / 5月10日 / 5月14日付ブログで紹介済)」(1975年)は、シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンの2人が、英国の作家であるハーバート・ジョージ・ウェルズ(Herbert George Wells:1866年ー1946年)が1898年に発表した SF 小説「宇宙戦争(The War of the Worlds → 2024年5月x日付ブログで紹介済)」に遭遇した事件が描かれている。


フランスの Editions Glenat 社から、
「La guerre des mondes」というタイトルを以って、
2016年と2017年に2分冊で出版された後、
2018年に米国の Insight Editions 社から英訳版が発行された
H・G・ウェルズ作「宇宙戦争」のグラフィックノベル版の裏表紙

今回は、H・G・ウェルズ作「宇宙戦争」のグラフィックノベル版について、紹介したい。


「宇宙戦争」のグラフィックノベル版は、元々、Dobbs が構成を、そして、スペイン人のイラストレーターである Vicente Cifuentes(1979年ー)が作画を担当し、フランスの Editions Glenat 社から、「La guerre des mondes」というタイトルを以って、2016年と2017年に2分冊で出版された後、2018年に米国の Insight Editions 社から英訳版が発行されている。


左側の人物が、主人公の「私」で、
右側の人物が、天文学者であるオーグルビー教授(Professor Ogilvy)。

当該グラフィックノベル版の場合、基本的に、H・G・ウェルズ作「宇宙戦争」の内容に忠実に、物語が展開しており、非常に良くまとまっているが、以下の差異が見受けられる。


天文学者であるオーグルビー教授は、火星から落下して来た
金属製の巨大な円筒を発見する。

(1)

<原作>

火星人による地球侵略に危険を感じた主人公の「私」は、近くの店で馬車を借りると、妻を連れて、彼女の従兄弟が住むレザーヘッド(Leatherhead - サリー州(Surrey)内に所在)へと逃げる。妻を彼女の従兄弟に預けた「私」は、借りた馬車を返しに戻る途中、第三の円筒が地面に落下。円筒の中から姿を現した3本脚の戦闘機械(tripod)は、破壊の限りを尽くし、「私」が馬車を借りた店の主人も亡くなり、出動して来た英国軍も全滅してしまった。

<グラフィックノベル版>

借りた馬車を返しに戻る途中だった「私」は、突如現れた3本脚の戦闘機械に襲われて、馬車が炎に包まれた。「私」は、川に飛び込んで、難を逃れる。更に、戦闘機械は、川を横切る陸橋を破壊して、走って来た機関車が川へと転落して、兵士や一般人を問わず、全員が命を落とす。ただ、「私」が馬車を借りた店の主人が亡くなる場面はない。


地球征服を開始した火星人の姿。

(2)

<原作>

なんとか自宅へと辿り着いた「私」であったが、3本脚の戦闘機械によって全滅させられた英国軍の生き残りの砲兵が、「私」の自宅へと逃げ込んで来た。

翌朝、「私」と砲兵の2人は、ロンドン方面へと避難を始める。途中、テムズ河(River Thames)畔に、戦闘機械5体が現れるが、増援の英国軍による砲撃で1体を撃破して、一時的に撃退に成功。その戦闘の混乱の中、「私」は砲兵と逸れてしまう。

<グラフィックノベル版>

「私」はなんとか自宅へと辿り着くが、英国軍の生き残りの砲兵は登場しない。

自宅を出た「私」は、増援の英国軍に合流する。増援の英国軍は、砲撃により、戦闘機械1体を撃破するが、そこに現れた戦闘機械2体が、増援の英国軍を全滅させ、更に、避難民達を虐殺した。


地面に落下した金属製の巨大な円筒から姿を現した3本足の戦闘機械は、
天文学者であるオーグルビー教授を初めとする代表団の3人を
熱線により焼き払ってしまった。


(3)

<原作>

火星人のロンドン侵攻情報を聞いたロンドン市民は、パニック状態に陥る。

ロンドン在住の「私」の弟も避難を始める。途中、彼は、暴漢に襲われた女性達を助け、一緒に馬車で英仏海峡を目指した。

彼らが乗った蒸気船が出港すると、3体の戦闘機械が出現。沖合いに居た英国の駆逐艦であるサンダーチャイルド(HMS Thunder Child)は、砲撃により、1体目の戦闘機械を撃破する。サンダーチャイルドは、2体目の戦闘機械の熱線を受けて、大爆発をするが、体当たりを行い、2体目も撃破。それを見た3体目の戦闘機械は逃げ去ったため、「私」の弟達は、無事に英国から脱出できた。

<グラフィックノベル版>

原作通り、ロンドン在住の「私」の弟によるロンドン脱出行が描かれており、暴漢に襲われた女性達を助ける顛末も、原作通り。なお、グラフィックノベル版の場合、彼が「私」の弟であることは、特に言及されていない。

また、原作の場合、英国の駆逐艦と火星人の戦闘機械の戦闘は、英仏海峡で展開されるが、グラフィックノベル版の場合、この戦闘は、テムズ河において、行われている。原作の場合、英国の駆逐艦と戦う火星人の戦闘機械は「3体」であるが、グラフィックノベル版の場合、「1体」のみ。

更に言うと、原作の場合、英仏海峡を目指して出港した蒸気船に、「私」の弟達が乗っているが、グラフィックノベル版の場合、テムズ河を下る蒸気船に、「私」の弟達が乗船できたのか否かは、描かれていない。


2024年5月18日土曜日

エドワード・B・ハナ作「ホワイトチャペルの恐怖」(The Whitechapel Horrors by Edward B. Hanna)- その2

日本の出版社である扶桑社から、1996年3月に
扶桑社ミステリーシリーズとして刊行されている
エドワード・B・ハナ作「ホワイトチャペルの恐怖」の
文庫版(上巻)の表紙
<カバーデザイン> 辰巳 四郎


スコットランドのダンディー(Dundee)出身の学者 / 作家であるロバート・J・ハリス(Robert. J. Harris:1955年ー)作「深紅色の研究」(A Study in Crimson → 2024年5月6日 / 5月12日 / 5月16日付ブログで紹介済)の場合、第二次世界大戦(1939年ー1945年)中のロンドンを舞台にして、「切り裂きジャック(Jack the Ripper)」の再来と思われる「血まみれジャック(Crimson Jack)」による連続殺人事件に対して、シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンの2人が挑んでいる。


日本の出版社である扶桑社から、1996年3月に
扶桑社ミステリーシリーズとして刊行されている
エドワード・B・ハナ作「ホワイトチャペルの恐怖」の
文庫版(上巻)の裏表紙
<カバーデザイン> 辰巳 四郎

2014年4月20日付ブログで紹介した米国の作家であるエドワード・B・ハナ(Edward B. Hanna:1935年ー)作「ホワイトチャペルの恐怖(The Whitechapel Horrors)」(1992年)の場合、ヴィクトリア朝時代のロンドンを舞台にして、ホワイトチャペル地区(Whitechapel)内で発生した「切り裂きジャック」による残虐な連続殺人事件に対して、ホームズとワトスンがその謎を挑んだ。


日本の出版社である扶桑社から、1996年3月に
扶桑社ミステリーシリーズとして刊行されている
エドワード・B・ハナ作「ホワイトチャペルの恐怖」の
文庫版(下巻)の表紙
<カバーデザイン> 辰巳 四郎

1992年に発表されたエドワード・B・ハナ作「ホワイトチャペルの恐怖」は、日本の翻訳家である日暮雅通(ひぐらし まさみち:1954年ー)により翻訳されて、日本の出版社である扶桑社から、扶桑社ミステリーシリーズとして、1996年に上下巻で刊行されている。


エドワード・B・ハナは、30年以上にわたって、放送ジャーナリストとして活躍しており、シャーロック・ホームズの研究家でもある。

また、日暮雅通は、日本推理作家協会会員、日本 SF 作家クラブ会員や日本文藝家協会会員であり、日本シャーロック・ホームズクラブ会員でもあるので、エドワード・B・ハナ作「ホワイトチャペルの恐怖」の翻訳について、白羽の矢が立ったものと思われる。


日本の出版社である扶桑社から、1996年3月に
扶桑社ミステリーシリーズとして刊行されている
エドワード・B・ハナ作「ホワイトチャペルの恐怖」の
文庫版(下巻)の裏表紙
<カバーデザイン> 辰巳 四郎


扶桑社が刊行したエドワード・B・ハナ作「ホワイトチャペルの恐怖」のカバーには、「(同作品は、)絶賛を浴びた。」と書かれているが、2014年4月20日付ブログにおいて既に述べた通り、筆者としては、個人的には、全く評価できない内容である。

何故ならば、今尚その正体が謎に包まれたままとなっている伝説の猟奇殺人鬼である「切り裂きジャック」を、ホームズとワトスンの2人が突き止めようとするが、大英帝国の命運を左右しかねない一大スキャンダルのために、ホームズが「切り裂きジャック」の正体を明らかにすることを躊躇い、その結果、「匂わし」だけで、切り裂きジャック」の正体は、全く解明されないまま、物語は終わりを迎えるからである。


そう言った意味では、筆者としては、エドワード・B・ハナ作「ホワイトチャペルの恐怖」を読むことはあまりお勧めしないが、日本シャーロック・ホームズクラブ会員でもある翻訳家の日暮雅通による編注120件(上巻 - 66件+下巻 -54件)が約60ページにわたって付されており、「流石、シャーロック・ホームズの研究家による編注だ。」と思わせる内容である。なので、個人的には、本編よりも、日暮雅通による編注の方が、読んで遥かに為になると言える。


2024年5月17日金曜日

H・G・ウェルズ作「宇宙戦争」<小説版>(The War of the Worlds by H. G. Wells

H・G・ウェルズ作「宇宙戦争」のフランス語版が
1906年に刊行された際に付された挿絵をベースにした絵葉書
(筆者が大英図書館(British Library)で購入)-
なお、フランス語版のタイトルは、「La Guerre des Mondes」で、
挿絵については、ブラジル出身のイラストレーターである
エンリケ・アルヴィン・コレア(Henrique Alvim Correa:1876年ー1910年)が
担当している。


米国の作家であるマンリー・ウェイド・ウェルマン(Manly Wade Wellman:1903年ー1986年)と息子のウェイド・ウェルマン(Wade Wellman)の共作による SF 小説「シャーロック・ホームズの宇宙戦争(Sherlock Holmes’s War of the Worlds → 2024年5月8日 / 5月10日 / 5月14日付ブログで紹介済)」(1975年)は、シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンの2人が、英国の作家であるハーバート・ジョージ・ウェルズ(Herbert George Wells:1866年ー1946年)が1898年に発表した SF 小説「宇宙戦争(The War of the Worlds)」に遭遇した事件が描かれている。


「宇宙戦争」は、H・G・ウェルズによって、1895年から1897年にかけて執筆された後、1897年に、英国では、雑誌「Pearson’s Magazine」に、そして、米国では、雑誌「Cosmopolitan」に連載された。その後、1898年に、英国のウィリアム・ハイネマン社(William Heinemann)から単行本が刊行されている。


原題の「The War of the Worlds」とは、「世界同士の戦争」、つまり、「地球人の世界」と「火星人の世界」の2つの世界が争うことを意味している。


「宇宙戦争」の場合、20世紀初めに火星人(Martians)が地球に襲来して武力で侵略する様子が、英国人男性である「私」による回顧録と言う形で書かれている。


それは、20世紀初めの夏のことだった。


金曜日の未明、イングランドのウィンチェスター(Winchester)上空で緑色の流れ星が観測され、天文学者であるオーグルビー教授(Professor Ogilvy)は、ロンドン南西のサリー州(Surrey)にあるウォーキング(Woking)付近に落下したことを発見する。地面に落下した流れ星は、約30メートル程の金属製の巨大な円筒だった。


金曜日の夕方、「私」を含めた見物人達が見守る中、オーグルビー教授、王立天文官のステント、そして、新聞記者のヘンダーソンの3人が代表団を結成して、円筒へと近づいて行く。すると、円筒の蓋が突然開いて、醜悪な姿をした火星人が、その姿を現した。

火星人が醜悪な外見をしていたとしても、何らかの知性を有しているものと考えた代表団は、白旗(white flag)を掲げて、火星人への接触を試みようとしたが、突如、目に見えない熱線で、彼らは焼き払われてしまった。恐るべき威力を見せた火星人が発する熱線によって、円筒の周囲で見守る人間や動物、更に、樹々や家屋等も、一瞬のうちに炎に包まれる。


金曜日の夜、英国軍が出動するが、真夜中には、第二の円筒が地面に落下して来る。


土曜日の午後、火星人に対する英国軍の攻撃が始まったが、全く歯がたたず、同日の夕方には、「私」の自宅付近も、火星人の熱線の射程内に入った。

危険を感じた「私」は、近くの店で馬車を借りると、妻を連れて、彼女の従兄弟が住むレザーヘッド(Leatherhead - サリー州内に所在)へと逃げる。

妻を彼女の従兄弟に預けた「私」は、借りた馬車を返しに戻る途中、第三の円筒が地面に落下。すると、円筒の中から、3本脚の戦闘機械(tripod)が姿を現して、破壊の限りを尽くす。

3本脚の戦闘機械による攻撃を受けて、「私」が馬車を借りた店の主人も亡くなり、出動して来た英国軍も全滅してしまったのである。


H・G・ウェルズ作「宇宙戦争」は、SF 作品の古典的な名作と位置付けられており、当該作品を原作した映画や TV ドラマ等が何度も制作されており、米国の映画制作者であるスティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg:1946年ー)が監督を務め、米国の俳優 / 映画プロデューサーであるトム・クルーズ(Tom Cruise:1962年ー)が主演した米国映画「宇宙戦争(War of the Worlds)」(2005年)は、世界中で大ヒットした。


2024年5月16日木曜日

ロバート・J・ハリス作「深紅色の研究」(A Study in Crimson by Robert. J. Harris)- その3

英国の Birlinn Ltd から、Polygon Book として
2022年に刊行されている
 ロバート・J・ハリス
作「深紅色の研究」の
ペーパーバック版表紙(部分)

Cover design by Abigail Salvesen


読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆半(3.5)


本作品の場合、第二次世界大戦(1939年ー1945年)中の1942年9月から10月にかけて、ロンドンにおける「血塗れジャック(Crimson Jack)」による女性惨殺事件が描かれる。

これらの事件は、ヴィクトリア朝時代の1888年8月から11月にかけて、ロンドン東部のホワイトチャペル地区(Whitechapel)内で発生した「切り裂きジャック(Jack the Ripper)」事件の再来と思わせ、シャーロック・ホームズ対「切り裂きジャック」の再来である「血塗れジャック」と言う図式であり、読者側の期待を非常に高まらせる。


(2)物語の展開について ☆☆半(2.5)


物語の冒頭、ホームズとジョン・H・ワトスンの2人は、陸軍省(War Office)からの依頼に基づき、秘密裡に軍事開発を行っていたスコットランド内のある城へと赴き、そこで新しい空雷(aerial torpedo)の研究をしていた女性科学者のエルスペス・マックレディー博士(Dr. Elspeth Mac Ready)が行方不明になった事件を捜査する。この事件について、ホームズはあっさりと解決してしまうが、物語全体で約300ページのうち、約40ページを費やしてしまう。この事件が、後の「血塗れジャック」事件に関連するのかと思ったが、実際には、そんなことはなく、残念ながら、あくまでも、前振りの事件に過ぎず、ホームズの諮問探偵としての優秀さを読者に対して印象付けるだけだった。著者としては、いきなり「血塗れジャック」事件から物語を始めるのではなく、前振りの事件を以って、ホームズの凄さを見せたかったのかもしれないが、物語全体の15%近くを使ってしまい、肝心な話である「血塗れジャック」事件に割けるページ数がかなり少なくなってしまったことが難点と言える。

また、「血塗れジャック」事件が始まってから、「切り裂きジャック」事件における有力な容疑者だった医師(実名から仮名に変更されている)の甥や不自然な行動をとる画家等が、容疑者として登場するものの、著者の筆があまりのっていないためなのか、読者に対して、単なる煙幕を張っているだけにしか、思えない。

途中から、ホームズとワトスンの協力者として、米国の女性ラジオジャーナリストであるゲイル・プレストン(Gail Preston)やマイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)から派遣されたフィリップ・レイナー中佐(Command Philip Rayner)も登場するが、「血塗れジャック」事件とは関係のない前振りの事件でページ数を少なくされた残りのページ数の中では、残念なことに、読者に印象付けるだけの活躍はできていない。


(3)ホームズ / ワトスンの活躍について ☆☆半(2.5)


1942年と言えば、ホームズとワトスンの両名は、かなりの高齢に達している筈なので、仕方ないことではあるものの、スコットランドから戻って来て、「血塗れジャック」事件に取り組み始めた途端、何故か、ホームズは活動的ではなくなり、基本的に、ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)内に閉じ籠って、思索に耽ってしまい、ワトスン、ゲイル・プレストンやフィリップ・レイナー中佐等に対して、指示を出すだけにとどまっている。最終的には、ホームズ自身が「血塗れジャック」事件を解決してはいるが、前振りの事件では、スコットランドまでわざわざ赴いているにもかかわらず、本作品のメインとなる「血塗れジャック」事件になると、急に表立った捜査をしなくなるのは、なんとも納得がいかない。

一方、ワトスンも、ホームズと同じく、かなりの高齢の筈であるが、ホームズの指示に基づいて、ゲイル・プレストンとペアを組んで、容疑者達を訪れて、いろいろと捜査を進めているので、ホームズ対比、遥かに活動的である。そう言った意味では、ワトスンとゲイル・プレストンのペアによる捜査が物語の主要な部分を占めて、ホームズの出番は、あまりなく、前振りの事件を除くと、活躍の場面は少ない。


(4)総合評価 ☆☆半(2.5)


本作品における「血塗れジャック(Crimson Jack)」事件は、「切り裂きジャック(Jack the Ripper)」事件の再来と思わせつつ、物語は進んでいくが、実は、その真相は・・・、と言う展開である。

本作品の場合、第二次世界大戦中の現実的な展開であり、正直ベース、推理小説としては、あまり面白味がない。個人的には、「血塗れジャック」事件は「切り裂きジャック」事件の再来と言う方向性のままで、物語を決着させてほしかった。

ただし、前述の通り、結果的に、「血塗れジャック」事件とは関係のない前振りの事件を以って、物語全体の15%近くを使ってしまい、肝心な話である「血塗れジャック」事件に割けるページ数がかなり少なくなってしまっているため、残りのページ数では、「切り裂きジャック」事件の再来と言う方向性のまま、物語を進めていくには、かなり難しかったと言える。