2022年11月19日土曜日

アガサ・クリスティー作「青列車の謎」<小説版>(The Mystery of the Blue Train by Agatha Christie

英国の HarperCollinsPublishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作「青列車の謎」のペーパーバック版の表紙

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1928年に発表した「青列車の謎(The Mystery of the Blue Train)」は、彼女が執筆した長編としては第8作目に、そして、エルキュール・ポワロシリーズの長編としては第5作目に該っている。


1928年6月、フランスのパリにおいて、米国の大富豪であるルーファス・ヴァン・オールディン(Rufus Van Aldin)は、ロシア人の外交官から、悲劇と暴力の長い歴史に彩られた「炎の心臓(Heart of Fire)」と呼ばれる傷一つないルビーを手に入れた。

ルーファス・ヴァン・オールディンが、ロシア人の外交官からルビーを買い取ってから10分も経たないうちに、彼は2人の暴漢に襲われるが、なんとか事なきを得る。実は、2人の暴漢は、「侯爵(Monsieur Le Marquis)」と呼ばれる男が差し向けた手の者だった。この「侯爵」は、国際的な宝石泥棒で、英国人にしては、フランス語を非常に流暢に話すことができた。「侯爵」は、珍しい骨董品ばかりを取り扱うパポポラス(Papopolous)の店を訪れると、「暴漢による襲撃は失敗したが、次の計画は失敗する筈がない。」と豪語するのであった。


ルーファス・ヴァン・オールディンが、法外な値段にもかかわらず、不気味な伝説を伴うルビーを手に入れたのは、彼の人生で唯一愛する娘のルース・ケタリング(Ruth Kettering)のためだった。このルビーで、結婚に失敗した娘の気を紛らわせることができるのであれば、ルーファス・ヴァン・オールディンは、金に糸目を全くつけなかったし、如何なる危険も顧みなかったのである。

ルーファス・ヴァン・オールディンの娘のルースは、将来、レコンバリー卿(Lord Leconbury)となるデリク・ケタリング(Derek Kettering)と結婚していた。ルースと結婚する前のデリク・ケタリングは、派手なギャンブルや出鱈目な生活等で、一家の財産を食い潰してきたが、結婚を機にして、その暮らしぶりを改めるのではないかと思われた。ところが、周囲の期待とは裏腹に、デリク・ケタリングの暮らしぶりが改まることはなく、それに加えて、悪名高いダンサーであるミレーユ(Mirelle)を愛人にしていた。


パリからロンドンへと戻ったルーファス・ヴァン・オールディンは、早速、ルビーを娘のルースにプレゼントするとともに、ろくでなしの夫デリクとの離婚を勧めるのであった。当初、妙に躊躇うそぶりを見せるルースであったが、ルーファス・ヴァン・オールディンは、「デリクは、金目当てに、お前と結婚した」ことをルースに認めさせ、離婚の手続を進めることに同意させた。


ルースは、南フランスのリヴィエラ(Riviera)で冬のシーズンを過ごすため、近いうちに、ロンドンを発つ予定だった。ルーファス・ヴァン・オールディンは、ルースに対して、ルビーをリヴィエラへ持参するリスクは避けて、銀行の貸金庫に保管しておくよう、強く警告する。

しかしながら、残念なことに、ルーファス・ヴァン・オールディンの警告は、無視されることとなった。そして、それが、ルースにとって、悲劇を呼ぶことになる。ルースは、代償として、自分の命を落とすことになるのであった。


愛人のミレーユは、デリク・ケタリングに対して、「ルース・ケタリングは、リヴィエラで冬のシーズンを過ごすと言っているが、実際にはパリへ向かう予定で、そこでアルマン・ド・ラ・ローシュ伯爵(Arman, Comte de la Roche)と逢い引きする筈だ!」と話す。10年前、デリクと結婚するまで、ルースが女誑しの悪党であるローシュ伯爵と恋仲だったことを考えると、あり得る話だった。


ミレーユの話を聞いたデリク・ケタリングは、ミレーユのフラットを飛び出すと、ニース(Nice)行き青列車(Blue Train)の寝台を予約した。それは、妻のルースがリヴィエラへ向かう列車で、ミレーユの話が本当であれば、少なくとも、パリまでは乗って行く筈だ。


ニース行きの青列車は、リヴィエラで冬のシーズンを過ごす予定である英国の有閑階級の人達で満席だった。

ルース・ケタリングは、メイドのエイダ・メイスン(Ada Mason)を連れて、青列車に乗車する。父親のルーファス・ヴァン・オールディンに強く警告されたにもかかわらず、リースは、父親からプレゼントされたルビー「炎の心臓」を携えたままであった。


青列車の乗客の中には、英国の有閑階級の人達に初めて加わるキャサリン・グレイ(Katherine Grey)も居た。彼女は、ついこの前まで金持ちの話し相手(コンパニオン)を務めていて、彼女の雇い主が遺してくれた財産を相続したばかりだった。

彼女は、長い間、連絡の途絶えていた従姉妹のレディー・ロザリー・タンプリン(Lady Rosalie Tamplin)から、「数ヶ月間、リヴィエラで一緒に過ごさないか?」と招かれていた。レディー・タンプリンにとって、興味があるのは、自分が相続したばかりの財産だと気付いてはいたが、キャサリン・グレイは、自分に巡ってきた幸運を享受するつもりだった。


昼食をとるために、食堂車へと向かったキャサリン・グレイは、ルース・ケタリングと隣席になる。ルースは、「自分がこれからパリでしようとしている逢い引きについて、無謀だった。」と感じ始めており、キャサリンに対して、自分の気持ちを吐露するのであった。

通常、こういった打ち明け話をした場合、打ち明けた当人は、打ち明けた相手に対して、二度と会いたがらないものだ。実際、ルースは、自室内で夕食を取るようで、食堂車へ赴いたキャサリンは、別の人物と同席することになる。それは、他ならぬエルキュール・ポワロだった。


それ以降、キャサリン・グレイの身辺には、特に何も起きなかったが、青列車がニースに到着すると、彼女は恐ろしい事件に巻き込まれる。

昨日、昼食の席で隣席となったルース・ケタリングが、自室内において、就寝中、何者かによって、首を絞められて殺害された後、激しい一撃で、顔の見分けがつかない程になっているのが発見されたのである。そして、彼女が携えていた「炎の心臓」が紛失していた。

メイドのエイダ・メイスンも、その姿を消していたため、警察は、キャサリン・グレイに対して、身元の確認を依頼するが、顔の判別がつかず、それは難しかった。

そして、その場に居合わせたポワロが、警察に対して、捜査の協力を申し出るのであった。


「青列車の謎」は、1926年の失踪事件後、アガサ・クリスティーが精神的に不安定な時期に執筆した作品で、既に短編として発表されている「プリマス行き急行列車(The Plymouth Express)」を長編用に焼き直したものとして知られている。

アガサ・クリスティー自身、本作品を全く気に入っておらず、「アガサ・クリスティー自伝」において、「この時が、私にとって、アマチュアからプロへと転じた瞬間であった。プロの重荷を、私は身に付けたのである。それは、書きたくない時にも、書くこと、あまり気に入っていないものでも、書くこと、そして、特によく書けていないものでも、書くことだった。私は、「青列車の謎」がずーっと嫌で堪らなかったが、書かねばならなかった。そして、私は出版社へ届けた。「青列車の謎」は、この前の本と同じ位によく売れたのである。そのことで、私は満足しなければならなかった。そうは言っても、あまり自慢できるような話はない。」と回想している。


上記の通り、「青列車の謎」について、作者であるアガサ・クリスティー本人による評価は、あまり高くないが、実際のところ、「アクロイド殺し(The Murder of Roger Ackroyd → 2022年11月7日付ブログで紹介済)」(1926年)よりも、よく売れたのである。


「青列車の謎」に登場するキャサリン・グレイは、ロンドン郊外のセントメアリーミード(St. Mary Mead)に住んでいる設定になっている。

セントメアリーミードとは、アガサ・クリスティーが1930年に発表した「牧師館の殺人(The Murder at the Vicarage)」において、初登場したミス・ジェーン・マープル(Miss Jane Marple)が住んでいる場所でもある。


2022年11月18日金曜日

コナン・ドイル作「這う男」<小説版>(The Creeping Man by Conan Doyle )- その2

英国で出版された「ストランドマガジン」
1923年3月号に掲載された挿絵(その2) -
一昨日の夜(午前2時頃)、
プレスベリー教授の助手であるトレヴァー・ベネットが、
鈍いくぐもった音が気になって、自室の扉を開けると、
四つん這いではないものの、這うようにして、
教授が廊下を歩いている現場を、トレヴァーは目撃した。

1903年9月のある日曜日の晩、ジョン・H・ワトスンは、シャーロック・ホームズから「都合がよければ、直ぐに来てくれ。都合がつかなくても、直ぐに来てほしい。(Come at once if convenient - if inconvenient come all the same. S.H.)」という電報を受け取り、急いでベイカーストリート221B221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)へと駆け付けた。


ホームズの元に駆け付けて来たワトスンに対して、ホームズは、いきなり、疑問として、謎の言葉を投げかける。

「プレスベリー教授が飼っている忠実なウルフハウンド犬のロイは、何故、教授に噛み付こうとするのか?(Why does Professor Presbury’s faithful wolf-hound, Roy, endeavour to bite him?)」と。


プレスベリー教授(Professor Presbury)とは、ケンフォード大学(Camford University)の生理学者(physiologist)のことだった。

丁度、そこへ、事件の依頼人で、プレスベリー教授の助手であるトレヴァー・ベネット(Trevor Bennett)が、ホームズの元を訪れ、ホームズとワトスンの二人に対して、驚くべき話を始めるのであった。

「プレスベリー教授は、這っていたんです。」と。


プレスベリー教授は、生理学の分野において、欧州中で名声を獲得しており、醜聞の欠片もない人物だった。夫人に先立たれたプレスベリー教授は、現在、61歳で、娘のエディス(Edith Presbury)と暮らしていた。そして、教授の助手であるトレヴァー・ベネットは、教授の家に同居して、教授をサポートする一方、彼の娘であるエディスと婚約していた。


そのような静かで、学究の生活を送ってきたプレスベリー教授が、2、3ヶ月前に、婚約をしたのである。彼が婚約した相手は、なんと、同じ大学の同僚で、比較解剖学の議長を務めるモーフィー教授(Professor Morphy)の娘アリス(Alice Morphy)で、親と子程の年齢差があった。それに加えて、プレスベリー教授からアリス・モーフィーへの求婚の仕方が、年配の男性による理性的なものではなく、若者の男性による情熱的なものだったため、教授の周囲の人達を非常に驚かせた。


プレスベリー教授とアリス・モーフィーの婚約を契機に、教授の行動におかしなことが起き始めた。

プレスベリー教授は、突然、行き先を誰にも告げないまま、2週間の間、家を空けたのである。そして、彼は、げっそりと疲れた様子で、戻って来たが、どこへ行っていたのかについては、全く言及しなかった。

トレヴァー・ベネットは、プラハ(Praha)に居る仲間の手紙をもらい、その手紙に、「話をすることはできなかったが、プレスベリー教授をお見かけることができて、嬉しかった。(he was glad to have seen Professor Presbury there, although he had not been able to talk to him.)」と書かれていたため、教授の行き先がやっと判ったのである。


プレスベリー教授が旅行から戻って来てから、彼の奇行が更に激しくなる。


・トレヴァーに対して、ロンドンから届く手紙のうち、切手の下に十字の印が付いているものは、開封しないまま、別途、そのまま保管しておくよう、指示をした。それまでは、トレヴァーが、教授の秘書として、教授に届いた全ての手紙を処理していた。

・旅先から持ち帰った木の小箱に、トレヴァーが偶然触れだだけで、恐ろしい勢いで激怒した。

・教授が飼っている忠実なウルフハウンド犬のロイが、時折、教授に噛み付くようになった。

・真夜中、四つん這いではないものの、這うようにして、教授が廊下を歩いている現場を、トレヴァーは目撃した。

・教授は、61歳という年齢にもかかわらず、トレヴァーが知っている限り、以前よりも若々しく、かつ、壮健になってきた。


英国で出版された「ストランドマガジン」
1923年3月号に掲載された挿絵(その3) -
昨夜、プレスベリー教授の娘であるエディスが、
屋敷の3階にある自室で休んでいた際、
犬の吠え声に目を覚まして、窓の方を見ると、
窓の外に父親である教授の姿を認め、
驚きと恐怖で震え上がる。

上記のような不可解な話の数々をトレヴァーがホームズとワトスンに対してしていると、プレスベリー教授の娘で、トレヴァーの婚約者であるエディスがホームズの元を訪れて、更に驚くような話をし始めた。


彼女が、昨夜、屋敷の3階にある自室で眠っていた際、非常にけたたましく吠える犬の声に目を覚まして、窓の方を見ると、窓の外に父親であるプレスベリー教授が居て、窓ガラスに顔を押し付け、そして、片手を上げ、窓を押し上げようとしているように見えた。

驚きと恐怖でほとんど死にそうになった彼女は、窓の外をそれ以上見ることができず、朝が明けるまで、寒気に震えていた。


そして、彼女は、ロンドンへ出る口実をつくると、大急ぎでここまでやって来た、と言うのであった。


2022年11月17日木曜日

アガサ・クリスティー作「青列車の謎」<グラフィックノベル版>(The Mystery of the Blue Train by Agatha Christie )- その2

愛人のミレーユは、デリク・ケタリングに対して、
「ルースは、リヴィエラではなく、パリへ行って、
そこで元恋人のローシュ伯爵と逢い引きする筈だ。」と主張した。

愛人のミレーユ(Mirelle)は、デリク・ケタリング(Derek Kettering)に対して、「ルース・ケタリング(Ruth Kettering)は、リヴィエラ(Riviera)で冬のシーズンを過ごすと言っているが、実際にはパリへ向かう予定で、そこでアルマン・ド・ラ・ローシュ伯爵(Arman,  Comte de la Roche)と逢い引きする筈だ!」と話す。10年前、デリクと結婚するまで、ルースが女誑しの悪党であるローシュ伯爵と恋仲だったことを考えると、あり得る話だった。


ミレーユから話を聞いたデリク・ケタリングは、
妻のルースが乗車するニース行き青列車の寝台を予約する。


ミレーユの話を聞いたデリク・ケタリングは、ミレーユのフラットを飛び出すと、ニース(Nice)行き青列車(Blue Train)の寝台を予約した。それは、妻のルースがリヴィエラへ向かう列車で、ミレーユの話が本当であれば、少なくとも、パリまでは乗って行く筈だ。


ルーファス・ヴァン・オールディンは、
ニースへと向かう娘のルースの見送りにやって来る。
ルースは、メイドのエイダ・メイスンを伴っていた。

ニース行きの青列車は、リヴィエラで冬のシーズンを過ごす予定である英国の有閑階級の人達で満席だった。

ルース・ケタリングは、メイドのエイダ・メイスン(Ada Mason)を連れて、青列車に乗車する。父親のルーファス・ヴァン・オールディン(Rufus Van Aldin)に強く警告されたにもかかわらず、リースは、父親からプレゼントされたルビー「炎の心臓(Heart of Fire)」を携えたままであった。


キャサリン・グレイは、コンパニオンを務めた彼女の雇い主が遺してくれた財産を使って、
リヴィエラに住む従姉妹のレディー・タンプリンのところへ出かけるところだった。

青列車の乗客の中には、英国の有閑階級の人達に初めて加わるキャサリン・グレイ(Katherine Grey)も居た。彼女は、ついこの前まで金持ちの話し相手(コンパニオン)を務めていて、彼女の雇い主が遺してくれた財産を相続したばかりだった。

彼女は、長い間、連絡の途絶えていた従姉妹のレディー・ロザリー・タンプリン(Lady Rosalie Tamplin)から、「数ヶ月間、リヴィエラで一緒に過ごさないか?」と招かれていた。レディー・タンプリンにとって、興味があるのは、自分が相続したばかりの財産だと気付いてはいたが、キャサリン・グレイは、自分に巡ってきた幸運を享受するつもりだった。


昼食の際、キャサリン・グレイと同席となったルース・ケタリングは、
これからパリで行おうとしている逢い引きについて、キャサリンに相談する。


昼食をとるために、食堂車へと向かったキャサリン・グレイは、ルース・ケタリングと隣席になる。ルースは、「自分がこれからパリでしようとしている逢い引きについて、無謀だった。」と感じ始めており、キャサリンに対して、自分の気持ちを吐露するのであった。

通常、こういった打ち明け話をした場合、打ち明けた当人は、打ち明けた相手に対して、二度と会いたがらないものだ。実際、ルースは、自室内で夕食を取るようで、食堂車へ赴いたキャサリンは、別の人物と同席することになる。それは、他ならぬエルキュール・ポワロだった。


夕食の際、キャサリン・グレイは、
名探偵であるエルキュール・ポワロと同席になった。


それ以降、キャサリン・グレイの身辺には、特に何も起きなかったが、青列車がニースに到着すると、彼女は恐ろしい事件に巻き込まれる。

昨日、昼食の席で隣席となったルース・ケタリングが、自室内において、就寝中、何者かによって、首を絞められて殺害された後、激しい一撃で、顔の見分けがつかない程になっているのが発見されたのである。そして、彼女が携えていた「炎の心臓」が紛失していた。

メイドのエイダ・メイスンも、その姿を消していたため、警察は、キャサリン・グレイに対して、身元の確認を依頼するが、顔の判別がつかず、それは難しかった。

そして、その場に居合わせたポワロが、警察に対して、捜査の協力を申し出るのであった。


ニースに到着した青列車内において、
ルース・ケタリングの死体が発見されるとともに、
彼女が携えていたルビー「炎の心臓」が紛失していた。
偶然、青列車に乗り合わせていたポワロは、
警察に対して、捜査の協力を申し出る。

「青列車の謎」のグラフィックノベル版の場合、イラストレーターである Marc Piskic による作画が非常に細かい上に、丁寧に行われており、アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)による原作発表当時(1928年)における時代の雰囲気(アールデコ装飾等を含めて)をよく伝えている。


ポワロと同席となった夕食の際、
キャサリン・グレイは、F・W・クロフツ作「樽」を読んでいた。

また、ポワロと同席になった夕食時に、キャサリン・グレイが読んでいた推理小説が、アイルランド生まれの英国の推理作家であるフリーマン・ウィルス・クロフツ(Freeman Wills Crofts:1879年ー1957年)の処女作で、かつ、代表作の一つである「樽(The Cask)」(1920年)となっていて、とても興味深い。実際には、何故か、「The Craft」と描かれてはいるが。


2022年11月16日水曜日

競作短編集「マープル」(Marple)- その1

英国の HarperCollinsPublishers 社から今年(2022年)出版された
競作短編集「マープル」のハードカバー版の表紙

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1930年に発表した「牧師館の殺人(The Murder at the Vicarage)」に初登場したミス・ジェーン・マープル(Miss Jane Marple)を主人公にして、現代の女性作家12名が競作した短編集「マープル(Marple)」が、アガサ・クリスティーの作品を出版している英国の HarperCollinsPublishers 社から今年(2022年)に出ているので、今回、御紹介したい。


本作品「マープル」には、以下の短編12作が収録されている。


(1)Lucy Foley 作「Evil in Small Places」

(2)Val McDermid 作「The Second Murder at the Vicarage」

(3)Alyssa Cole 作「Miss Marple Takes Manhattan」

(4)Natalie Haynes 作「The Unravelling」

(5)Ruth Ware 作「Miss Marple’s Christmas」

(6)Naomi Alderman 作「The Open Mind」

(7)Jean Kwok 作「The Jade Empress」

(8)Dreda Say Mitchell 作「A Deadly Wedding Day」

(9)Elly Griffiths 作「Murder at the Villa Rosa」

(10)Karen M. McManus 作「The Murdering Sort」

(11)Kate Mosse 作「The Mystery of the Acid Soil」

(12)Leigh Bardugo 作「The Disappearance」


次回以降、上記の12作品について、個別に紹介する予定。


上記の通り、本作品「マープル」には、短編12作品が収められているが、ミス・マープルシリーズの第1短編集である「The Thirteen Problems(ミス・マープルと13の謎)<米題: The Tuesday Club Murders(火曜クラブ)」(1930年)に倣って、


・現代の女性作家12名ではなく、13名による競作短編集とする


あるいは、


・現代の女性作家12名による競作短編集に、ミス・マープルが登場するアガサ・クリスティーによる短編1作を加えて、全部で13作品とする


のいずれかの方法を採った方が、短編集としては、出版する意味がより増したのではないかと思う。


2022年11月15日火曜日

アガサ・クリスティー作「ゴルフ場の殺人」<英国 TV ドラマ版>(The Murder on the Links by Agatha Christie )- その1

第44話「ゴルフ場の殺人」が収録された
エルキュール・ポワロシリーズの DVD コレクション No. 4 の表紙

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「ゴルフ場の殺人(The Murder on the Links)」(1923年)の TV ドラマ版が、英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、「Agatha Christie’s Poirot」の第44話(第6シリーズ)として、1996年2月11日に放映されている。英国の俳優であるサー・デイヴィッド・スーシェ(Sir David Suchet:1946年ー)が、名探偵エルキュール・ポワロを演じている。ちなみに、日本における最初の放映日は、1996年12月31日である。


英国 TV ドラマ版における主な登場人物(エルキュール・ポワロを除く)と出演者は、以下の通り。


(1)アーサー・ヘイスティングス大尉(Captain Arthur Hastings - ポワロの友人):Hugh Fraser

(2)エロイーズ・ルノー(Eloise Renauld - ポール・ルノーの妻):Diane Fletcher

(3)ポール・ルノー(Paul Renauld - ジュネヴィエーヴ荘(Villa Genevieve)の主人で、南米で富を築いた大富豪):Damien  Thomas

(4)ジャック・ルノー(Jack Renauld - ポール・ルノーの義子で、エロイーズ・ルノーの実子):Benjamin Pullen

(5)ベルナデッテ・ドーブルーユ(Bernadette Daubreuil - ジュネヴィエーヴ荘の隣家であるマルグリット荘(Villa Marguerite)の主人):Kate Fahy

(6)マルト・ドーブルーユ(Marthe Daubreuil - ドーブルーユ夫人の娘で、ジャック・ルノーの恋人):Sophie Linfield

(7)ベラ・デュヴィーン(Bella Duveen - ポワロとヘイスティングス大尉が宿泊した Hotel Du Golf の歌手で、ジャック・ルノーの元恋人):Jacinta Mulcahy

(8)ゲイブリエル・ストーナー(Gabriel Stonor - ポール・ルノーの秘書):Terence Beesley

(9)ジロー(Monsieur Giraud - 名刑事の呼び声が高いパリ警察の刑事):Bill Moody

(10)リュシアン・ベー(Lucien Bex - 地元警察の署長):Bernard Latham

(11)オート医師(Dr. Hautet - 警察医):Andrew Melville

(12)レオニー・オーラード(Leonie Oulard - ジュネヴィエーヴ荘のメイド):Henrietta Voigts


(1)アガサ・クリスティーの原作の場合、ヘイスティングス大尉が恋心を抱く相手は、シンデレラ(Cinderella)と自称する双子姉妹のうち、ダルシー・デュヴィーン(Dulcie Duveen)であるが、英国 TV ドラマ版の場合、その相手は、もう一人のベラ・デュヴィーンに変更されている。

(3)アガサ・クリスティーの原作の場合、ポール・ルノーがベロルディー氏(Mr. Beroldy)の殺害に関与したのは、22年前になっているが、英国 TV ドラマ版の場合、10年前に変更されている。また、ポール・ルノーの正体について、アガサ・クリスティーの原作の場合、フランス風の「Georges Conneau」となっているが、英国 TV ドラマ版の場合、英国風の「George Connor」へと変更されている。

(4)アガサ・クリスティーの原作の場合、ジャック・ルノーは、ポール・ルノーの実子になっているが、英国 TV ドラマ版の場合、ポール・ルノーがベロルディー氏の殺害に関与したのが、22年前ではなく、10年前に変更されている関係上、ジャック・ルノーは、エロイーズ・ルノーの実子ではあるものの、ポール・ルノーの義子に変更されている。

(6)母親であるドーブルーユ夫人(本名:Jeanne Beroldy - アガサ・クリスティーの原作通り)が、ポール・ルノー(本名:Geroge Connor)と共謀して、夫の殺害に関与したのが、22年前ではなく、10年前に変更されている関係上、娘のマルト・ドーブルーユは、母親の裁判にも出廷している設定が追加されている。

(7)アガサ・クリスティーの原作の場合、ベラ・デュヴィーン(事件当夜、ルノー家を訪れたと思しき謎の女性)とだるシー・デュヴィーン(ヘイスティングス大尉が恋心を抱く相手)の双子の姉妹という設定になっていたが、英国 TV ドラマ版の場合、双子の姉妹という設定は全くなくなり、二人の設定が一人に集約され、ベラ・デュヴィーンのみが残り、ジャック・ルノーの元恋人で、かつ、ヘイスティングス大尉が恋心を抱く相手という設定になっている。

(11)アガサ・クリスティーの原作の場合、オート氏(Monsieur Hautet)は、予審判事という設定になっていて、事件現場にも同席しているが、英国 TV ドラマ版の場合、ポワロとジロー刑事の推理対決の構図を強めるため、また、事件捜査には、ポワロ、ヘイスティングス大尉、ジロー刑事とベー署長が既に携わっているので、登場人物を整理するためだと思うが、警察医へと変更されており、登場するのは、検視の場面に限られ、出番は極めて少ない。

(12)アガサ・クリスティーの原作の場合、ポール・ルノー殺害事件が発生した際、ジュネヴィエーヴ荘には、レオニー・オーラード以外にも、フランソワーズ・アリチェット(Francoise Arrichet)とデニス・オーラード(Denise Oulard - レオニーとは姉妹)の2人のメイドが居たが、英国 TV ドラマ版の場合、登場人物を整理するためだと思われるが、登場するのは、レオニー・オーラード1人だけである。


2022年11月14日月曜日

アガサ・クリスティー作「ゴルフ場の殺人」<小説版>(The Murder on the Links by Agatha Christie

英国の HarperCollinsPublishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作「ゴルフ場の殺人」のペーパーバック版の表紙


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1923年に発表した「ゴルフ場の殺人(The Murder on the Links)」は、彼女が執筆した長編としては第3作目に、そして、エルキュール・ポワロシリーズの長編としては第2作目に該っている。

なお、アガサ・クリスティーは、「ゴルフ場の殺人」の前に、


(1)長編「スタイルズ荘の怪事件(The Mysterious Affair at Styles)」(1920年):エルキュール・ポワロシリーズ第1作目

(2)長編「秘密機関(The Secret Adversary)」(1922年):トマス・ベレズフォード(Thomas Beresford - 愛称:トミー(Tommy))/ プルーデンス・カウリー(Prudence Cowley - 愛称:タペンス(Tuppence)シリーズ第1作目


を発表している。


1923年のある日、エルキュール・ポワロは、朝食の席で郵便物に目を通していたが、名探偵としての彼の興味を引くものは皆無で、残念ながら、取るに足らない陳腐な依頼ばかりであった。その結果、次から次へと、届いた手紙は、彼によって放り投げられることとなった。

その時、ある手紙に、ポワロは手をとめた。それは、フランス、ノルマンディー海岸のメルランヴィル(Merlinville-sur-Mer)にあるジュネヴィエーヴ荘(Villa Genevieve)に住むポール・ルノー(Paul Renauld)からで、「急ぎのお越しを請う!」という内容だった。手紙によると、彼には、命の危険が迫っているようだったが、絶対に明らかにはできない重大な秘密があるため、フランスの地元警察へは行けず、「ベルギー警察に、その人あり。」と言われたポワロに対して、助けを求めてきたのである。


ポール・ルノーからの手紙に興味を覚えたポワロは、急いで出発の準備を整えると、友人で、かつ、相棒でもあるアーサー・ヘイスティングス大尉(Captain Arthur Hastings)を伴い、英仏海峡を渡り、英国(ドーヴァー(Dover))からフランス(カレー(Calais))へと向かった。


翌日、ポワロとヘイスティングス大尉の二人は、メルランヴィルのジュヌヴィエーヴ荘に到着するが、別荘の門のところで、地元警察の巡査によって、行く手を遮られる。

驚いたことに、ジュヌヴィエーヴ荘の主人で、南米で富を築いた富豪であるポール・ルノーは、今朝、既に殺害されていたのである。残念なことに、ポワロは間に合わなかったのだ。


ポール・ルノーの妻であるエロイーズ・ルノー(Eloise Renauld)によると、前の晩、二人組の暴漢が夫妻の寝室に侵入して来て、ルノー夫人は、縛り上げられた上に、猿轡(さるぐつわ)をかまされた。そして、彼女の夫(ポール・ルノー)は、下着の上にコートを羽織っただけという格好で、犯人達によって、無理やり戸外へと連れ出された、とのこと。

翌日の早朝、彼女の夫は、短剣で背中を刺されて、ジュネヴィエーヴ荘のすぐ隣りにあるゴルフ場(来月オープン予定)に掘られた墓穴に倒れているのを、ゴルフ場の従業員が発見したのである。二人組の暴漢は、わざわざ、墓穴を掘りながらも、ポール・ルノーの死体を埋めずに、そのまま放置するという非常に不可解な行動をとっていた。


間に合わなかったものの、英国からフランスまで遥々やって来たポワロは、自らの手で犯人達を見つけ出すことを誓った。幸いなことに、地元警察のリュシアン・ベー署長(Lucien Bex / Commissionary of Police for Merlinville-sur-Mer)は、彼の到着を歓迎してくれたので、早速、ポワロは捜査を開始する。

まもなく、オート予審判事(Monsieur Hautet / Examining Magistrate)による要請に基づき、パリ警察から名刑事としての呼び声が高いジロー刑事(Monsieur Giraud / Detective of the Paris Surete)が現場に派遣されることになり、ポワロとジロー刑事による推理合戦の火蓋が切って落とされることとなった。


アガサ・クリスティーは、彼女の自伝の中で、本作品について、次のように述べている。


「ゴルフ場の殺人」は、この種におけるまずまずの実例だと思っている。

もっとも、少しばかりメロドラマ的であるが。

今回は、ヘイスティングス(大尉)に対して、恋愛事件を用意してあげた。

正直に言うと、私は、少しばかり、彼(ヘイスティングス大尉)にウンザリしていたのである。


2022年11月13日日曜日

アガサ・クリスティー作「アクロイド殺し」<英国 TV ドラマ版>(The Murder of Roger Ackroyd by Agatha Christie )- その2

第46話「アクロイド殺し」が収録された
エルキュール・ポワロシリーズの DVD コレクション No. 5 の裏表紙

英国の TV 会社 ITV 社が「Agatha Christie’s Poirot」の第46話(第7シリーズ)として制作したアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「アクロイド殺し(The Murder of Roger Ackroyd)」(1926年)の TV ドラマ版は、アガサ・クリスティーの原作と比べると、物語の構成が大きく異なっている。


物語の冒頭、エルキュール・ポワロが、銀行の貸金庫室に入って来るシーンから始まる。ポワロが契約している貸金庫の中には、ジェイムズ・シェパード医師(Dr. James Sheppard - キングスアボット村(King’s Abbot)の医師)の日記帳(Journal)が入っている。そして、ポワロは、その日記帳を読み始めると、物語の舞台は、キングスアボット村へと移る。

アガサ・クリスティーの原作は、シェパード医師の独白(モノローグ)から始まるし、ポワロが登場するのは、物語の冒頭からではなく、中盤からである。


舞台がキングスアボット村へと移った後、同村に移住したポワロが、うまく育てられなかったカボチャを投げ捨てていると、そこにジェイムズ・シェパード医師とジョン・パーカー(John Parker - アクロイド家の執事)が登場する。ジョン・パーカーは、ポワロをロジャー・アクロイド(Roger Ackroyd - 化学工場の経営者)が経営する化学工場へと連れて行く約束だった。

英国 TV ドラマ版では、物語の冒頭から、ポワロは、ジェイムズ・シェパード医師やロジャー・アクロイドと既に知り合いになっているが、アガサ・クリスティーの原作では、ポワロがジェイムズ・シェパード医師と知り合いになるのは、物語の中盤の上、ポワロが登場する段階で、ロジャー・アクロイドは既に殺害されていたので、二人の間に面識はなかったものと思われる。

また、英国 TV ドラマ版の場合、ロジャー・アクロイドは、化学工場の経営者という設定になっているが、アガサ・クリスティーの原作の場合、ロジャー・アクロイドは、キングスアボット村に住む大富豪という設定が為されているのみである。


化学工場内の見学が終わったポワロが辞去するのと入れ替わりに、ラルフ・ペイトン(Ralph Paton - ロジャー・アクロイドの義子)が、ロジャー・アクロイドの元を訪れる。ラルフ・ペイトンの訪問中に、ドロシー・フェラーズ夫人(Mrs. Dorothy Ferrars - キングスパドック荘の未亡人)からの電話が、ロジャー・アクロイドに掛かってくる。

電話の後、その夜、ロジャー・アクロイド宛に手紙を出してから、ドロシー・フェラーズ夫人は、睡眠薬を過剰摂取して、自殺する。

アガサ・クリスティーの原作の場合、物語の開始時点で、ドロシー・フェラーズ夫人は、既に自殺を遂げており、それが、キングスアボット村における大きな噂を呼んでいたという風に異なっている。


デイヴィス警部(Inspector Davis - キングスアボット警察の警察官)から呼び出されて、ジェイムズ・シェパード医師は、検視のため、ドロシー・フェラーズ夫人のキングスパドック荘をやって来る。検視が終わって、ジェイムズ・シェパード医師がキングスパドック荘を出ようとする際、そこへロジャー・アクロイドが車で駆け付けて来て、ジェパード医師に対して、「今日の午後7時半に、フェルンリーパーク(Fernly Park - ロジャー・アクロイドの屋敷)へ来てくれ!」と頼まれる。

アガサ・クリスティーの原作の場合、ジェイムズ・シェパード医師が、ロジャー・アクロイドから、フェルンリーパークでの食事に誘われるのは、キングスアボット村のハイストリートにおいてである。


ジェイムズ・シェパード医師が自宅に戻ったところ、そこにポワロが訪れて、シェパード医師に対して、時計の修理を依頼する。

アガサ・クリスティーの原作の場合、このような場面はないが、原作の内容をよく判っていると、非常に意味深な場面が挿入されていると言える。


ジェイムズ・シェパード医師よりも前に、ポワロがフェルンリーパークに呼び出されていて、ロジャー・アクロイドから、「自分は、数年間にわたって、ドロシー・フェラーズ夫人と恋愛関係にあった。昨日、彼女から電話があり、驚くべきことを聞かされた。彼女は、1年前に、夫のアシュリー(Ashley)を毒殺したことを告白した。そのことが誰かに知られて、巨額なお金を脅し取られていた。」という話を聞かされる。

アガサ・クリスティーの原作の場合、ロジャー・アクロイドから、この話を聞かされるのは、ポワロではなく、ジェイムズ・シェパード医師である。また、この話を聞かされるタイミングは、フェルンリーパークでの食事が終わった後で、場所は、ロジャー・アクロイドの書斎である。


ジェイムズ・シェパード医師がフェルンリーパークに到着した際、ポワロが、丁度、辞去するところで、時刻は、午後7時36分だった。

(1)ロジャー・アクロイド、(2)ヴェラ・アクロイド夫人(Mrs. Vera Ackroyd - ロジャー・アクロイドの義妹)、(3)フローラ・アクロイド(Flora Ackroyd - ヴェラ・アクロイド夫人の娘)、(4)ジェフリー・レイモンド(Geoffrey Raymond - ロジャー・アクロイドの秘書)と(5)ジェイムズ・シェパード医師の5人での食事が始まる。

自宅に戻ったポワロであったが、ロジャー・アクロイドのことが心配になり、フェルンリーパークに電話を掛けるが、執事のジョン・パーカーに「彼は、現在、食事中です。」と言われたので、折り返しの電話を頼む。

食事後、夕方の便で届いた手紙5通を、ジョン・パーカーがロジャー・アクロイドに渡す。その中に、ドロシー・フェラーズ夫人からの手紙も入っていた。

ジェイムズ・シェパード医師は、ヴェラ・アクロイド夫人とフローラ・アクロイドの二人にいとまを告げると、フェルンリーパークを出る。時刻は、午後9時だった。

ロジャー・アクロイドからの折り返しの電話がないため、不安になったポワロは、自宅を出て、歩いてフェルンリーパークへと向かう。

ジェフリー・レイモンドがロジャー・アクロイドの書斎をノックしようとすると、中から話し声が聞こえたので、止める。時刻は、午後9時半。

ジョン・パーカーが、ロジャー・アクロイドに飲み物を持って来るが、彼の書斎から出て来たフローラ・アクロイドが、邪魔しないようにと伝える。時刻は、午後10時10分。

自宅に戻ったジェイムズ・シェパード医師に電話があり、姉のキャロライン・シェパードに対して、「フェルンリーパークのジョン・パーカーから、「ロジャー・アクロイドが殺された。」という連絡だった。」と伝える。時刻は、午後10時15分。

フェルンリーパークに駆け付けたジェイムズ・シェパード医師は、「そんな電話を掛けた覚えはない。」と主張するジョン・パーカーと一緒に、書斎内で刺殺されたロジャー・アクロイドを発見する。そして、そこにポワロも到着するのである。

英国 TV ドラマ版の場合、フェルンリーパークでの出来事は、概ね、アガサ・クリスティーの原作通りであるが、原作とは大きく異なって、ロジャー・アクロイドが刺殺される前から、ポワロが事件に関与している。

アガサ・クリスティーの原作には、他に、


*ヘクター・ブラント少佐(Major Hector Blunt - ロジャー・アクロイドの旧友)

*エリザベス・ラッセル(Elizabeth Russell - アクロイド家の家政婦)

*チャールズ・ケント(Charles Kent - 事件当日、アクロイド家を訪ねて来た正体不明の男で、後に、カナダから来たエリザベス・ラッセルの息子で、薬物中毒者であることが判明)


等の登場人物が居るが、英国 TV ドラマ版では、時間の関係上、物語の本筋にはあまり関係ないとの判断で、割愛されたものと思われる。


その後、フローラ・アクロイドが、ポワロの元を訪れて、「窓の外に残されていた靴跡が一致したため、警察は、婚約者のラルフ・ペイトンが、叔父を殺したものと疑っている。」と伝えると、事件の捜査を依頼する。

そこで、ポワロがデイヴィス警部の元を訪れる。デイヴィス警部は、元々、ポワロのことは全く評価しておらず、ポワロの捜査協力には否定的だったが、そこにジャップ主任警部(Chief Inspector Japp - スコットランドヤードの警察官)が登場して、助けに入る。

アガサ・クリスティーの原作の場合、ジャップ主任警部は登場しないが、英国 TV ドラマ版では、レギュラーとして登場。その代わりに、原作に登場する州警察本部長(Chief Constable)のメルローズ大佐(Colonel Melrose)は、英国 TV ドラマ版には登場しない。


(1)ロジャー・アクロイド宛に夕方の便で届いた手紙5通のうち、4通しか、殺害現場に残っていないこと

(2)ロジャー・アクロイドの刺殺体を発見した時点と検視の時点で、書斎内の椅子が動かされていること


の2点について、ジョン・パーカーは証言するが、これに危険を感じた犯人は、パーカーがパブで飲んで、酔っ払って帰る途中、車で轢き殺す手段に及ぶ。

アガサ・クリスティーの原作の場合、ジョン・パーカーが殺害されることはない。


物語の終盤、ポワロは、事件の謎解きを、化学工場内のロジャー・アクロイドの部屋で行う。その後、逃亡しようする犯人とジャップ主任警部の間で、銃撃戦となる。


アガサ・クリスティーは、物語の中で、読者に対して、あるトリックを仕掛けているが、トリックの内容故に、映画、TV やグラフィックノベル等の「視覚化」が、非常に困難である。

従って、英国 TV ドラマ版の場合も、丁寧には制作しているとは思うが、残念ながら、本当の意味でのアガサ・クリスティーの原作の面白さを体現できておらず、普通の推理ドラマになっているという感じが、個人的にはする。

また、最後、犯人は、残った拳銃の1発を、自分の頭に向けて撃ち、自殺を遂げるが、ある人物(=犯人が、自分が犯人であることを隠し通したかった人物)が、その場面を目撃してしまう。

アガサ・クリスティーの原作の場合、犯人が、自白の上、今までの内容を記録に残すことを条件として、ポワロや警察は、ある人物に対して、その事実を秘匿するが、やはり、原作通りの方が、物語上、しっくりくるように思える。英国 TV ドラマ版だと、最後が、普通の犯罪ドラマのようになってしまっていて、少し残念である。