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パディントン駅からオークブリッジ駅へと向かう列車の一等喫煙車内において、 ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ元判事は、右手に持った葉巻を燻らせ、 コンスタンス・カルミントンと署名された手紙を左手に持ち、その内容を読んでいる。 <筆者撮影> |
英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に発行されている「「そして誰もいなくなった」の世界(The World of ‘And Then There Were None’)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」(1939年)の登場人物や同作品に関連した47個にわたる手掛かりについて、引き続き、紹介したい。
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英国の Orion Publishing Group Ltd. から2025年に出ている ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」(1000ピース) |
(2)(18)ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave)
ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、高名な元判事である。
物語の冒頭、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴから登場する。
ウォーグレイヴ判事は、一等喫煙車の隅の席で葉巻をくゆらせていた。少し前に公職を退いた判事の目は、<<タイムズ>>紙の政治記事を追っている。判事は新聞をおいて、窓の外を眺めた。列車はイギリス南西部のサマーセット州を走っている。判事は時計を見た - あと二時間か。
(中略)
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兵隊島は、 ジグソーパズル「「そして誰もいなくなった」の世界」の左下の角に置かれている。 <筆者撮影> |
ウォーグレイヴ判事は、ポケットから手紙を一通取りだした。手書きの文字はひどく読みにくかった。だが、ところどころ、いやにはっきり読みとれるところがある。”ロレンスさま … あなたさまのお噂を、最後に耳にしたのは、いつのこと … ぜひとも兵隊島(Solidier Island → 2025年10月19日付ブログで紹介済)においで … こんなすばらしい所は、ほかには … 積もる話が、たんと … なつかしいあの頃 … 自然に囲まれて … 日光浴 … ロンドンのパディントン駅(Paddington Station → 2014年8月3日付ブログで紹介済)十二時四十分発 … オークブリッジ(Oakbridge)で、お目にかかり …” そして最後に、きどった飾り文字で、”コンスタンス・カルミントン”と署名があった。
(青木 久惠訳)
パディントン駅のコンコースとそれを覆うガラス屋根 <筆者撮影> |
ジグソーパズルの右下の方にあり、赤枠で囲まれているローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ判事の場合、上記の場面が描かれていると言える。
テラスのイスに、年配の紳士が座っていた。アームストロング医師(Dr. Armstrong)はその顔に、なんとなく見おぼえがあった。あのカエル顔、どこで見たんだっけなあ。あのカメのような首に、それに、猫背の背中。そして、そう、あの射抜くように鋭い、色の薄い、小さな目 - そう、そうだよ、あれは、ウォーグレイヴ判事じゃないか。アームストロングは、ウォーグレイヴ判事の法廷で一度、証人になったことがある。いつも半分眠っているような人だが、こと法律となると、あれほど鋭い人はめったにいない。ウォーグレイヴ判事は、陪審員に強い影響力を持っていた。どんな場合であろうと、陪審員を思い通りに操作できると言われている。首を傾げるような有罪の評決を出させたことも、一度や二度はある。死刑好きな判事、と呼び人もいた。
こんなところで、あの人に会うとはな … こんな遠く離れたところで …
(青木 久惠訳)
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ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ元判事は、 兵隊島に建つ邸宅の玄関右脇のテラスにおいて、 左手に眼鏡を持ち、椅子に腰掛けている。 <筆者撮影> |
ジグソーパズルの中央やや右側、兵隊島に建つ邸宅の玄関の右脇にあるテラスにおいて、左手に眼鏡を持ち、椅子に座っているローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ判事の場合、上記の場面が描かれていると言える。
1930年代後半の8月のこと、英国デヴォン州(Devon)の沖合いに浮かぶ兵隊島に、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ判事を含め、年齢も職業も異なる8人の男女が招かれる。彼らを島で迎えた召使と料理人の夫婦は、エリック・ノーマン・オーウェン氏(Mr. Ulick Norman Owen)とユナ・ナンシー・オーウェン夫人(Mrs. Una Nancy Owen)に自分達は雇われていると招待客に告げる。しかし、彼らの招待主で、この島の所有者であるオーウェン夫妻は、いつまで待っても、姿を現さないままだった。
招待客が自分達の招待主や招待状の話をし始めると、皆の説明が全く噛み合なかった。その結果、招待状が虚偽のものであることが、彼らには判ってきた。招待客の不安がつのる中、晩餐会が始まるが、その最中、招待客8人と召使夫婦が過去に犯した罪を告発する謎の声が室内に響き渡る。
ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、皆が無実の被告だと確信していたエドワード・シートン(Edward Seton)に対して、陪審員達を巧みに誘導し、不当な死刑判決出したと告発されたのである。
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招待客が兵隊島に到着した日の晩餐会において、 謎の声(オーウェン氏)による告発により、招待客8人と召使夫婦が戦慄する場面 - HarperCollins Publishers 社から出ている アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版(→ 2020年9月13日付ブログで紹介済)から抜粋。 |
そして、物語が進み、童謡「10人の子供の兵隊(Ten Little Soldiers → 2025年6月26日付ブログで紹介済)」に準えて、ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴは、6番目の被害者となる。
Five little soldier boys going in for law; One got in chancery and then there were Four.
(5人の子供の兵隊さんが、法律を志した。一人が大法官府(裁判所)に入って、残りは4人になった。)
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厳密に言うと、アガサ・クリスティーの原作の場合、 ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴが見つかったのは、応接間(1階)で、 兵隊人形が置かれているのは、食堂(1階)なので、この場面は正しくない。- HarperCollins Publishers 社から出ている アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版から抜粋。 |
*被害者:ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ
*告発された罪状:皆が無実の被告だと確信していたエドワード・シートンに対して、陪審員達を巧みに誘導し、不当な死刑判決出したと告発された。
*犯罪発生時期:1930年6月10日
*死因:裁判官の服装をして、額に銃弾を受けていた。なお、裁判官が被るカツラは、エミリー・キャロライン・ブレント(Emily Caroline Brent - 信仰心の厚い老婦人)が失くしたグレーの毛糸からできており、また、身体に纏っている真っ赤なガウンは、トマス・ロジャーズ(Thomas Rogers - 執事)が「浴室から無くなった。」と言っていた真っ赤なカーテンで代用されていた。
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