英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から 2010年に出版された H・ポール・ジェファーズ作 「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 不屈の仲間」の表紙(部分) |
読後の私的評価(満点=5.0)
(1)事件や背景の設定について ☆☆☆半(3.5)
1879年12月、マイケル・ササノフ氏(Mr. Michael Sasanoff)が率いるササノフ・シェイクスピア・カンパニー(Sasanoff Shakespearen Company)のメンバーとして、米国の地を踏んだ26歳のシャーロック・ホームズ(本名:ウィリアム・シャーロック・スコット(William Sherlock Scott))が、1880年7月、ニューヨークの閑静な住宅街グラマーシーパーク(Gramercy Park)において発生した殺人事件の解明にあたる。
ホームズの相棒を務めるのは、1880年1月の事件で行動を共にしたニューヨーク市警察のウィルスン・ハーグリーヴ(Wilson Hargreave - 架空の人物)と米国の軍人 / 政治家で、第25代副大統領(1901年3月4日ー1901年9月14日)そして、ウィリアム・マッキンリー大統領の暗殺に伴い、第26代大統領(1901年9月14日ー1909年3月4日)に就任したセオドア・ルーズヴェルト(Theodore Roosevelt:1858年ー1919年)である。
本作品では、セオドア・ルーズヴェルトが、ニューヨーク市警察の公安委員長(President of the New York City Board of Police Commissioners:1895年-1897年)に就いて、市警察の腐敗と戦うことになる15年前の1880年の夏に発生した事件という設定になっている。
(2)物語の展開について ☆☆☆半(3.5)
本作品は、長編ではなく、全体で約150ページの中編である。「序文(Foreword)」、「前置き(Introduction)」と「後書き(Afterword)」を除くと、全部で16章に分かれており、1章毎のページ数があまり長くない上に、展開が割合と早いので、結構直ぐに読めてしまう。
「序文」、「前置き」と「後書き」の3つに40ページ近くが割かれているため、実質的には、本編の内容は110ページ位しかない。ホームズ達が事件現場に到着するのが、本編の30ページ目辺りなので、残りが80ページ位でしかない。
読んでいて、なかなか面白かったが、もう少し長めの作品にして、ホームズによる事件解明の部分をじっくりと見せてほしかった。
(3)ホームズ / セオドア・ルーズヴェルト / ウィルスン・ハーグリーヴの活躍について ☆☆☆半(3.5)
ホームズ、セオドア・ルーズヴェルトとウィルスン・ハーグリーヴの3人は、1880年1月の事件で既に顔見知りの上、ホームズの実績が判っているので、良いトリオを組んでいると言える。
物語の展開が割合と早いこともあって、米国特有の話の躍動感も感じられる。
ただ、前項において既に述べたように、ホームズによる事件解明の部分がじっくりと展開されていないところが、やや残念である。
(4)総合評価 ☆☆☆半(3.5)
ホームズ、セオドア・ルーズヴェルトとウィルスン・ハーグリーヴの3人が今回捜査するのは、グラマーシーパーク15番地の建物の前で発生した殺人事件である。この建物には、サミュエル・ジョーンズ・ティルデン(Samuel Jones Tilden:1814年ー1886年 / 実在の人物)が住んでいた。
サミュエル・ジョーンズ・ティルデンは、米国の弁護士 / 政治家で、ニューヨーク市知事を務めた後、1876年の大統領選挙に民主党候補として出馬したものの、19世紀の米国で最も多くの論争を巻き起こした選挙となり、選挙人投票において、僅か1票差で敗北した人物であった。その結果、共和党の候補者であるラザフォード・バーチャード・ヘイズ(Rutherford Birchard Hayes:1822年ー1893年)が、第19代大統領に就任したのである。なお、米国大統領選挙の歴史の中で、1票差で敗れた候補者は、サミュエル・ジョーンズ・ティルデンの他には居ない。
犯人達は、最終的には、大統領の殺害を計画しており、米国お得意の政治的な意図が背後にあった。
ただ、本編自体のページ数があまり長くない上に、物語の展開が割合と早いので、ホームズによる事件解明や殺人事件の動機等がじっくりと描かれていないため、もう少し長めの作品にしてほしい。非常に読みやすくて、なかなか面白かったので、その点がマイナス要因である。
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