2022年10月23日日曜日

コナン・ドイル作「赤毛組合」<英国 TV ドラマ版>(The Red-Headed League by Conan Doyle )- その2

英国で出版された「ストランドマガジン」
1891年8月号に掲載された挿絵(その8) -

City and Suburban Bank の頭取である
メリーウェザー氏(Mr. Merryweather)は、
シャーロック・ホームズ、ジョン・H・ワトスンと
スコットランドヤードのピーター・ジョーンズ(Peter Jones)を、
フランス金貨が保管されている地下金庫室へと案内する。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット
(Sidney Edward Paget 1860年 - 1908年)

英国のグラナダテレビ(Granada Television Limited)が制作した「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1984年ー1994年)において、TV ドラマとして映像化され、第2シリーズ(The Adventures of Sherlock Holmes)の第5エピソード(通算では第12話)として、英国で1985年9月22日に放映された「赤毛組合(The Red-Headed League)」の場合、City and Suburban Bank の映像から始まる。

銀行を狙う一味の一人(後に、ジェイムズ・モリアーティー教授(Professor James Moriarty)の部下の一人だと判明)が、銀行を見張っている。ちょうどその時、馬車が銀行の裏口へと向かい、あるもの(後に、フランス金貨だと判明)が、そこから銀行内へと運び込まれる。

サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)の原作には、そのような場面は描かれていない。

また、原作のタイトルは、「The Red-Headed League」となっているが、英国 TV ドラマ版のタイトルは、「The Red Headed League」となっており、「Red」と「Headed」の間には、「-(ハイフン)」がない。


そして、映像は、ジョン・H・ワトスンが外出から帰って来ると、シャーロック・ホームズが、ロンドンの経済活動の中心地であるシティー(City → 2018年8月4日 / 8月11日付ブログで紹介済)近くにあるザクセンーコーブルクスクエア(Saxe-Coburg Square → 2016年1月1日付ブログで紹介済)において質屋(pawnbroker)を営む赤毛の初老の男性ジェイベス・ウィルスン(Jabez Wilson)から相談を受けている最中という場面へと変わる。

コナン・ドイルの原作の冒頭、ワトスンが「I had called upon my friend Mr Sherlock Holmes one day in the afternoon of last year and …(昨年の秋、友人のシャーロック・ホームズのフラットを訪ねた時のことだ。)」と言っているように、事件発生時の1890年10月時点で、結婚しているかどうかは明確ではないものの、ワトスンは、ホームズと同居していたベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)を出て、彼とは別に生活しているように考えられる。

一方、英国 TV ドラマ版の場合、ワトスンは、ベイカーストリート221B において、ホームズと同居している。


英国 TV ドラマ版のホームズが、ジェイベス・ウィルスンの容貌や服装から、彼の経歴(特に、中国へ行ったこと)について、推理を披露する流れは、概ね、コナン・ドイルの原作に準拠している。


ジェイベス・ウィルスンがホームズとワトスンの二人に対して見せた「赤毛組合の新規会員募集」にかかる広告が掲載されている新聞について、コナン・ドイルの原作では、「Morning Chronicle」紙(実在の新聞であるが、実際には、この時点で既に廃刊済)であるが、英国 TV ドラマ版では、「Evening Standard」紙(現在も、実在の新聞)という差異がある。


また、「赤毛組合の新規会員募集」にかかる広告が新聞紙上に掲載された日付については、コナン・ドイルの原作も、また、英国 TV ドラマ版も、「1890年4月27日」となっている。

一方、赤毛組合が解散となった日付に関しては、コナン・ドイルの原作の場合、「1890年10月9日」となっていて、「1890年4月27日」付の新聞を見たワトスンの「Just two months ago.(ちょうど2ヶ月前だ。)」と言う発言や、赤毛組合の新規会員として採用された後、ジェイベス・ウィルスンが赤毛組合の事務所で8週間しか働いていないこと等を考慮すると、日付の整合性がとれていないが、英国 TV ドラマ版の場合、「1890年6月28日」となっていて、日付の不整合が解消されている。


英国 BBC が制作した TV ドラマ「シャーロック(Sherlock)」の
放映10周年を記念して発行された6種類の切手に加えて、
4種類のシャーロック・ホームズシリーズの記念切手が、
2020年8月18日に発行された。
そのうちの一つが、「赤毛組合」。


コナン・ドイルの原作において、突然の赤毛組合解散に驚いたジェイベス・ウィルスンは、赤毛組合が入居していた建物の家主(ー同じ建物の1階に住む会計士)のところへ行き、赤毛組合に何が起きたのかを尋ねた。ところが、家主は、ジェイベス・ウィルスンに対して、「赤毛組合については何も知らないし、赤毛組合を管理していたダンカン・ロス(Duncan Ross)という名前も初めて聞く名前だ。」と告げる。その上、家主は「(赤毛組合が入居していた)問題の部屋を借りていたのは、事務弁護士(solicitor)のウィリアム・モリス(William Morris)で、新しいオフィスが出来るまでの一時的な賃借だ。」と付け加えた。家主からウィリアム・モリスの移転先(17 King Edward Street near St. Paul's → 2014年9月28日付ブログで紹介済)を聞いたジェイベス・ウィルスンが早速そこを訪ねてみると、そこは膝当ての製造工場(manufactory of artificial kneecaps)で、ウィリアム・モリスのオフィスはどこにもなかったのである。

英国 TV ドラマ版では、膝当ての製造工場について、映像上、「BIRKETT and SON」と言う名前まで表示している。


ジェイベス・ウィルスンの話に興味を覚えたホームズは、彼が質屋の店員として雇っているヴィンセント・スポールディング(Vincent Spaulding)のことについて質問した。彼の説明を聞いたホームズには、何か思い当たる節があるようだった。

コナン・ドイルの原作の場合、ホームズの「Thus assistant of yours who first called your attention to the advertisement - how long had he been with you?(貴方がその新聞広告に興味を持つ最初の切っ掛けをつくった店員ですが、どの位の期間、貴方のところで働いているのですか?)」とジェイベス・ウィルスンの「About a month then.(その時点で、1ヶ月位です。」という会話から考えると、ヴィンセント・スポールディングは、現時点で、3ヶ月間、ジェイベス・ウィルスンの質屋で働いていることになる。

一方、英国 TV ドラマ版では、ジェイベス・ウィルスンは、「彼は、2ヶ月前に来た。」と発言しているので、ヴィンセント・スポールディングは、新聞広告が掲載される少し前から、ジェイベス・ウィルスンの質屋で働き始めたことになり、原作とは、やや異なっている。


コナン・ドイルの原作の場合、ベイカーストリート221B から辞去した後、ジェイベス・ウィルスンは、物語の最後まで、全く登場しない。

一方、英国 TV ドラマ版では、店員のヴィンセント・スポールディングの勧めに従い、ジェイベス・ウィルスンは、バーキング(Barking)に住む妹のところで、週末を過ごすことになっており、一旦、物語から退場するが、事件が解決した後に、再登場することになる。


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