2022年5月28日土曜日

ボニー・マクバード作「シャーロック・ホームズの冒険 / 不穏な蒸留酒」(A Sherlock Holmes Adventure / Unquiet Spirits by Bonnie MacBird) - その2

英国の HarperCollinsPublishers 社から
Collins Crime Club シリーズの1冊として
2018年に出版されたボニー・マクバード作
「シャーロック・ホームズの冒険 / 不穏な蒸留酒」(ペーパーバック版)の裏表紙の一部
Cover Design : HarperCollinsPublishers Ltd.
Cover Images (Figures) : Bonnie MacBird
Cover Images (Map) : Antiqua Print Gallery / Alamy Stock Photo
Cover Images (Textures) : Shutterstock.com


1889年12月、イスラ・マクラーレン(Isla McLaren)と名乗る28歳位の女性が、ベーカーストリート221B(221B Baker Street)のシャーロック・ホームズの元を訪れた。


イスラ・マクラーレンによると、


(1)彼女が居住するスコットランドのブレーデルン城(Braedern Castle - 彼女の義理の父であるサー・ロバート・マクラーレン(Sir Robert McLaren)が所有)には、サー・ロバート・マクラーレンの亡くなった妻であるレディーマクラーレン(Lady McLaren)の幽霊が出没する。


(2)先週の金曜日、メイドのフィオナ・ペイズリー(Fiona Paisley)が、城から一旦行方不明となったものの、その2日後に、腰まで届く長い赤髪がバッサリと切られて戻って来た。そして、その後、彼女は、城の管理人であるウーラン・モレイ(Ualan Moray)の長男であるイアン(Iain)を連れて、再度、行方が知れなくなった。


とのこと。


イスラ・マクラーレンは、これらの事情の詳細を調べてほしいと、ホームズに依頼する。ところが、不思議なことに、彼女の訪問当初から、何が気に入らないのか、不機嫌な態度を貫いていたホームズは、彼女の依頼をアッサリと拒絶してしまう。彼としては、翌朝の兄マイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)との約束の方が、遥かに気にかかっているようだった。


一方で、ホームズは、ここのところ、オーヴィル・セント・ジョン(Orville St. John)という男に、つけ狙われていた。直近の6日間で、3回も、ホームズを殺そうとしたのである。

ホームズによると、オーヴィル・セント・ジョンは、ノーサンバーランド州(Northumberland - イングランドの北東端に所在し、スコットランドとの国境に位置)の大地主という非常に裕福な家系の出身で、ホームズがスコットランドのキャムフォード(Camford - 実際には、架空の場所で、おそらく、本作品の作者であるボニー・マクバード(Bonnie MacBird)が、ケンブリッジ(Cambridge)とオックスフォード(Oxford)を組み合わせて、創り出したものと思われる)にある高校に寄宿していた際、同級生だった、とのこと。オーヴィル・セント・ジョンは、数学と科学において、トップの成績を修めていたが、ホームズの入学によって、トップの座を奪われてしまい、それ以来、ホームズのことを恨みに思っているのだと、ワトスンに対して、話す。

また、オーヴィル・セント・ジョンは、学生会の部長(President of the Union)でもあり、弁論に関しては、誰にも負けない位で、皆からは「The Silver Tongue」と呼ばれていた。ところが、現在、彼には、舌が全くなかったのである。

過去の経緯について尋ねるジョン・H・ワトスンであったが、そのことに関して、ホームズは、黙したまま、何も語ろうとしなかった。

ホームズとオーヴィル・セント・ジョンの過去に、一体、何があったのだろうか?


その翌日の午前9時半、シャーロック・ホームズは、ワトスンを伴って、約束通り、パル・マル通り(Pall Mall → 2016年4月30日付ブログで紹介済)にあるディオゲネスクラブ(Diogenes Club)へと赴き、兄マイクロフトに会った。

マイクロフトがシャーロックに話した内容は、以下の通り、驚くべき内容だった。

フランスのブドウ園に寄生虫がばら撒かれたため、フランスにおけるワインの生産が75%落ち込んでおり、関係者の間では、密かに、「ネアブラムシ醜聞(Phylloxera Scandal)」と呼ばれている、とのこと。また、フランスのブドウ園に、寄生虫をばら撒いた容疑者として、フランス農業省の政務次官(Le Sous Secretaire d’Etat a L’Agriculture)であるフィリッペ・レノー(Philippe Reynaud)は、スコットランドのウイスキー蒸留元3箇所を挙げられており、その中には、イスラ・マクラーレンの義理の父であるサー・ロバート・マクラーレンが経営するウイスキー蒸留所も含まれていたのである。

マイクロフトとしては、フランスのブドウ園に、寄生虫がばら撒き、フランスにおけるワインの生産を落ち込ませることにより、スコットランドのウイスキー蒸留元が、ウイスキーの販売網を拡大させようと暗躍している、と推測していた。このことが公になれば、英国政府としては、フランスとの関係が一気に緊張に陥るため、一大事であった。


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