英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から 2022年に出版された デイヴィッド・ステュアート・デイヴィーズ作 「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 墓場からの復讐」の表紙 |
読後の私的評価(満点=5.0)
(1)事件や背景の設定について ☆☆☆☆(4.0)
1891年5月4日、シャーロック・ホームズと彼の宿敵で、「犯罪界のナポレオン(Napoleon of crime)」と呼ばれるジェイムズ・モリアーティー教授(Professor James Moriarty)の2人は、スイスのマイリンゲン(Meiringen)にあるライヘンバッハの滝(Reichenbach Falls)にその姿を消して、彼らは死亡したものと思われていたが、3年後の1894年4月、ホームズは、無事にロンドンへと帰還し、「空き家の冒険(The Empty House)」事件において、ジョン・H・ワトスンやスコットランドヤードのレストレード警部(Inspector Lestrade)と協力の上、モリアーティー教授の片腕であるセバスチャン・モラン大佐(Colonel Sebastian Moran)の捕縛に成功した。
ところが、その翌日の夜、何者かの手助けにより、折角、捕縛したモラン大佐が、スコットランドヤードの牢屋から逃亡してしまう。それに続いて、モリアーティー教授の後継者と名乗る人物が、モリアーティー教授が残した組織を再興するとともに、亡くなったモリアーティー教授のため、シャーロック・ホームズへの復讐に着手する。やがて、その魔の手は、兄であるマイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)にまで及ぶ。
作者であるデイヴィッド・ステュアート・デイヴィーズ(David Stuart Davies:1946年ー)が2022年に発表した本作品では、「最後の事件」/「空き家の冒険」に続くシャーロック・ホームズ対モリアーティー教授の後継者と名乗る人物との戦いが展開する。
(2)物語の展開について ☆☆☆半(3.5)
モリアーティー教授の後継者と名乗る人物は、モリアーティー教授の復讐のため、シャーロック・ホームズの命を奪うべく、次々といろいろな罠を仕掛けてくる。シャーロック・ホームズは、教会の爆破に巻き込まれるものの、辛くも、助かるが、モリアーティー教授の後継者と名乗る人物を捕まえるべく、ワトスン / マイクロフト・ホームズ / スコットランドヤードのレストレード警部(Inspector Lestrade)と連携の上、自らを「死亡」扱いにする。ここまでは、物語の前半部分である。
シャーロック・ホームズへの復讐に成功したと思ったモリアーティー教授の後継者と名乗る人物は、次のステップとして、モリアーティー教授が残した組織を再興すべく、銀行の金庫から、英国王室 / 英国政府がフランス政府から一時的に預かったあるものを盗む計画に着手するのであるが、シャーロック・ホームズは、ある人物に変装の上、この計画の遂行を阻止するとともに、モリアーティー教授の後継者と名乗る人物を捉えようとする。この話が、物語の後半部分で展開する。
物語の前半部分は、展開がスピーディーで、なかなか面白いが、後半部分に入ると、物語の性格上、じっくりと話を進めざるを得ないことは判るものの、急に話が停滞してしまったように感じてしまうのが、やや難点である。
(3)ホームズ / ワトスンの活躍について ☆☆☆(3.0)
モリアーティー教授の後継者と名乗る人物は、モリアーティー教授の復讐のため、シャーロック・ホームズの命を奪うべく、次々といろいろな罠を仕掛けてくるが、その罠には、ある程度まで自分の正体に迫れるような手掛かりを残していく。ホームズは、それらの手掛かりを辿るものの、必ず、途中で断ち切れしまう。そういった意味では、物語の前半部分においては、モリアーティー教授の後継者と名乗る人物の方が、ホームズよりも、頭脳戦では、優位である。ホームズ側は、どうしても、受け身になる関係上、仕方がないのであるが、個人的には、ホームズに、もう少し頑張ってほしかった。
物語の後半部分で、逆に、ホームズは、モリアーティー教授の後継者と名乗る人物を罠にはめようとするが、モリアーティー教授の後継者と名乗る人物は、ホームズによる罠とある程度判った上で、計画を進めているところがあり、ここでも、残念ながら、ホームズは、優位に立てていない。
ワトスンの場合、本作品では、完全に物語の記録者に徹していて(厳密に言うと、物語の全てが、ワトスンによる記録ではなく、特に、物語の後半部分は、3人称による記述が多く展開する)、大きな活躍はできていない。
(4)総合評価 ☆☆☆半(3.5)
作者であるデイヴィッド・ステュアート・デイヴィーズによる作品は、基本的に、どれも非常に読みやすく、話の展開も面白い。
本作品に関して言うと、どうしても、受け身になるという点を差し引いたとしても、物語全体を通じて、ホームズは、モリアーティー教授の後継者と名乗る人物に対して、頭脳戦で優位に立てていないのは、少々不満が残る。
物語の冒頭において、パリにおいて、強盗、脅迫や殺人等を実行する、小規模ながらも非常に有能な犯罪集団を組織するデファージュ夫人(Madame Defarge)なる人物が出てくるが、彼女が物語にどのように関わってくるのか、また、モリアーティー教授の後継者と名乗る人物とは、一体、何者かなのかという点について、作者であるデイヴィッド・ステュアート・デイヴィーズには、隠す意図はあまりなかったのかもしれないが、慣れた読者であれば、物語の前半部分のかなり早い段階で、その正体が直ぐに判ってしまう。個人的には、その正体について、もう少し、あるいは、最後の方まで引っ張った方が良かったのではないかと思う。
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