2022年11月26日土曜日

アガサ・クリスティー マープル 2023年カレンダー(Agatha Christie - Marple - Calendar 2023)- 「牧師館の殺人(The Murder at the Vicarage)

ビル・ブラッグ氏が描く
ミス・マープルシリーズの長編第1作目「牧師館の殺人」の一場面


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の作品を出版している英国の HarperCollinsPublishers 社から出ているミス・ジェーン・マープル(Miss Jane Marple)シリーズのペーパーバック版の表紙を使った2023年カレンダーのうち、2番目を紹介したい。


(2)「牧師館の殺人(The Murder at the Vicarage)」


「牧師館の殺人」は、1930年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第1作目である。


本作品の語り手を務めるのは、ロンドン郊外のセントメアリーミード(St. Mary Mead)という小さな村にある教会の司祭(vicar)であるレナード・クレメント牧師(Reverend Leonard Clement)。

ある水曜日の午後、牧師館において、クレメント牧師は、若き妻のグリゼルダ(Griselda)と甥のデニス(Dennis)と一緒に、昼食をとっていたが、その際、彼らの話題は、ルシアス・プロセロウ大佐(Colonel Lucius Protheroe)のことでもちきりだった。プロセロウ大佐は、治安判事かつセントメアリーミード村の教区委員で、次の日の午後、牧師館にやって来て、教会の献金袋から盗まれた1ポンド紙幣の件について、クレメント牧師と話し合うことになっていた。

プロセロウ大佐は、クレメント牧師を困らせることを何よりも至上の楽しみにしていたので、昼食の席上、クレメント牧師は、思わず、「誰でもいいから、プロセロウ大佐をあの世へ送ってくれたら、世の中は随分と良くなるだろう。」と口走ってしまう。


昼食後、クレメント牧師は、セントメアリーミードに滞在中の肖像画家であるローレンス・レディング(Lawrence Redding)のアトリエへと出向く。牧師館の庭の一画に小屋があり、彼は、この小屋をアトリエとして使用していた。

クレメント牧師は、このアトリエ内でローレンス・レディングとプロセロウ大佐の妻であるアン・プロセロウ(Anne Protheroe)の二人が情熱的なキスを交わしている現場を、偶然見かけてしまう。クレメント牧師の跡を追って、牧師館の書斎まで追いかけてきたアン・プロセロウに対して、クレメント牧師は、軽はずみな関係はできる限り早く終わらせるよう、諭す。


その夜、ローレンス・レディングは、牧師館の夕食に招かれていた。

夕食後、牧師館の書斎において、クレメント牧師は、ローレンス・レディングに対して、厳しく叱責するとともに、できるだけ早く村を立ち去るよう、忠告する。ところが、ローレンス・レディングは、クレメント牧師の忠告を全く受け入れず、「プロセロウ大佐が死んでくれれば、いい厄介払いになる。」とうそぶくと、「自分は、25口径のモーゼル銃を持っている。」と、恐ろしいことを口にする。


翌朝、セントメアリーミードのハイストリートにおいて、クレメント牧師は、プロセロウ大佐と偶然出会った際、耳が遠くなりかけている人にありがちで、自分以外の人間も耳が遠いと思い込んでいるプロセロウ大佐は、当日の午後の約束を大声で念押ししつつ、約束の時間も午後6時15分へと変更された。

クレメント牧師が牧師館に戻ると、ローレンス・レディングが立ち寄って、「(プロセロウ大佐の妻である)アンとの不倫関係を清算して、明日、村を去るつもりだ。」と、クレメント牧師に告げる。


その日の午後5時半頃、クレメント牧師は電話を受け、「ロウワーファーム(Lower Farm)のアボット氏(Mr. Abbott)が危篤状態なので、側に居てほしい。」と頼まれる。クレメント牧師は、今からロウワーファームまで出かけると、プロセロウ大佐との約束の午後6時15分までに牧師館へ戻ることは難しいと判断して、プロセロウ大佐には書斎で待っていてもらうよう、メイドに頼むと、急いでロウワーファームへと向かった。


クレメント牧師がロウワーファームのアボット氏の元を訪れると、驚くことに、本人は全くピンピンとしていて、先程の電話は悪戯であったことが判明する。

午後7時頃、クレメント牧師が牧師館へと戻った際、非常に取り乱した様子のローレンス・レディングが大慌てで牧師館から立ち去るところだった。不思議に思ったクレメント牧師が書斎に入ると、プロセロウ大佐が拳銃で後頭部を撃たれて、牧師の書き物机の上に突っ伏してたまま、息絶えているのを発見したのである。


メルチェット大佐(Colonel Melchett)とスラック警部(Inspector Slack)が率いる地元警察が捜査を進める中、ローレンス・レディングとアン・プロセロウの二人がそれぞれに、プロセロウ大佐の殺害を自供した。

ところが、ローレンス・レディングは、正確ではない犯行時刻を主張する一方、アン・プロセロウの場合、犯行時刻の頃、彼女が牧師館を訪れるのを、隣りに住むミス・マープルが見かけており、アン・プロセロウは、拳銃のような大きさのものが入ったバッグ等を持っていなかったと、ミス・マープルは明言する。

地元警察は、不倫関係のため、プロセロウ大佐の殺害動機があると疑われたローレンス・レディングとアン・プロセロウの二人が、お互いに庇い合っているものと考えて、一旦、二人を無罪放免とし、他に容疑者を求めることになった。


果たして、クレメント牧師の牧師館の書斎において、プロセロウ大佐の後頭部を拳銃で撃って、彼を殺害した犯人は、一体、誰なのか?



カレンダーには、レナード・クレメント牧師が司祭を務める牧師館の書斎において、何者かに後頭部を拳銃で撃たれて殺害されたルシアス・プロセロウ大佐から流れ出た血が、クレメント牧師の机の上に広がり、そして、床へと滴り落ちる場面が描かれている。

背後の窓の右側の壁には、ミス・マープルと思われる人物の影が映っている。それとも、プロセロウ大佐を殺害した真犯人の影であろうか?


HarperCollinsPublishers 社から出版されている「牧師館の殺人」のペーパーバック版の表紙には、ビル・ブラッグ氏(Mr. Bill Bragg)によるイラストが、プロセロウ大佐の殺害に使用された拳銃の形に切り取られているものが使用されている。


2022年11月25日金曜日

ロバート・ルイス・スティーヴンスン作「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件」<グラフィックノベル版>(The Strange Case of Dr. Jekyll and Mr. Hyde by Robert Louis Stevenson )- その1

英国の Metro Media Ltd. から、
Self Made Hero シリーズの一つとして、2009年に出版されている
ロバート・ルイス・スティーヴンスン作
「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件」のグラフィックノベル版の表紙

日本の推理小説家 / 小説家である島田荘司氏(1948年ー)が2015年に発表した長編推理小説「新しい十五匹のネズミのフライ- ジョン・H・ワトソンの冒険(New 15 Fried Rats - The Adventures of John H. Watson → 2022年10月28日 / 11月2日 / 11月5日 / 11月8日付ブログで紹介済)の「第三章 狂った探偵」では、「赤毛組合」事件が解決した後、興味を持てる事件が無くなってしまったシャーロック・ホームズは、再度、麻薬を皮下注射する悪癖に溺れていく。そして、事件解決後の二日目の深夜、遂に薬物中毒になってしまったホームズが、居間の中で暴れ始めて、家具や実験器具等を粉々にするとともに、暖炉の石炭をペルシャ絨毯の上にばら撒いて、火をつける。止めに入ったジョン・H・ワトスンは、ホームズとの大格闘の末、彼をなんとか取り押さえることに成功したが、左足の太ももに、ガラス片が深々と突き刺さり、大怪我を負ってしまう。また、家主のハドスン夫人も、怪我を負った。大怪我を負ったワトスンは、ロンドンの軍病院に収容されて、1ヶ月間、ベッドから動くことができなかった。一方、薬物中毒になったホームズは、コンウォール州(Cornwall)ランズエンド( Land’s End)にあるモーティーマー・トリジェニス精神病院へと送られてしまった。


「第四章 這う人」において、なんとかロンドンの軍病院から退院したワトスンは、「スイフトマガジン」編集部の担当者であるサミュエル・ディッシャーから、「約束していた短編を10日以内に仕上げてくれないと、私と家族は、この下の歩道で物乞いをしていることになる。」と督促され、大いに困った末、机の奥に立ててあるロバート・ルイス・スティーヴンスン作「ジキル博士とハイド氏」に目を止め、それに着想を得て、「這う人」を書き始める。

筆が早いと言われるワトスンとしても、1日半という驚異的な速さで「這う人」を書き上げるも、編集者のサミュエル・ディッシャーから、「これは、暫くの間、発表しない方がよい。ストックとして、当面、寝かせておく方が得策。」と言われるような出来だった。


島田荘司氏作「新しい十五匹のネズミのフライ - ジョン・H・ワトソンの冒険」において、ワトスンが「這う人(The Creeping Man → 2022年11月6日 / 11月18日 / 11月23日付ブログで紹介済)」を執筆する着想を得た「ジキル博士とハイド氏」とは、エディンバラ(Edinburgh)生まれの英国の小説家、詩人で、かつ、エッセイストであるロバート・ルイス・スティーヴンスン(Robert Louis Stevenson:1850年ー1894年)作「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件(The Strange Case of Dr. Jekyll and Mr. Hyde)」(1886年)のことである。


英国の Metro Media Ltd. から、
Self Made Hero シリーズの一つとして、2009年に出版されている
ロバート・ルイス・スティーヴンスン作
「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件」のグラフィックノベル版の裏表紙


「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件」のグラフィックノベル版が、サー・アーサー・イグナティス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-1930年)作「緋色の研究(A Study in Scarlet → 2016年7月30日付ブログで紹介済)」のグラフィックノベル版(→ 2021年5月11日 / 5月19日付ブログで紹介済)やオスカー・フィンガル・オフラハティ・ウィルス・ワイルド(Oscar Fingal O’Flahertie Wills Wilde:1854年ー1900年)作「ドリアン・グレイの肖像(The Picture of Dorian Gray → 2022年9月18日 / 10月8日付ブログで紹介済)」のグラフィックノベル版(→ 2022年10月10日付ブログで紹介済)と同じように、英国の Metro Media Ltd. から、Self Made Hero シリーズの一つとして、2009年に出版されている。

本作品のグラフィックノベル版は、Andrzej Klimowski (Mr.)と Danusia Schejbal (Ms.) の両名が、構成と作画を担当している。

両名の紹介によると、Andrzej Klimowski (Mr.)は、Saint Martins School of Art(ロンドン)と Warsaw Academy of Fine Arts で学んだ後、ポーランドにおいて、劇場や映画のポスターを、また、英国において、ほ本のカバーや雑誌のイラストを担当。現在、ロンドンにある Royal College of Art の教授、とのこと。

また、ロンドン出身の Danusia Schejbal (Ms.) は、Ealing School of Art(ロンドン)と Warsaw Academy of Fine Arts で学んだ後、ポーランドにおいて、大手劇場の作品を担当し、その後、英国へ戻り、画家として、英国や欧州において、展覧会を開催している、とのこと。


2022年11月24日木曜日

アガサ・クリスティー作「チムニーズ館の秘密」<グラフィックノベル版>(The Secret of Chimneys by Agatha Christie )- その1

HarperCollinsPublishers 社から出ている
アガサ・クリスティー作「チムニーズ館の秘密」の
グラフィックノベル版の表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)-
事件の舞台となるチムニーズ館と
画面の左上には、ジェイムズ・マグラスより、
アンソニー・ケイドが預かった
ヴァージニア・レヴェル本人宛に返す手紙が描かれている。


19番目に紹介するアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)による長編作品のグラフィックノベル版は、「チムニーズ館の秘密(The Secret of Chimneys)」(1925年)である。


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第5作目に該るが、シリーズ探偵のエルキュール・ポワロ、トマス・ベレズフォード(Thomas Beresford - 愛称:トミー(Tommy))/ プルーデンス・カウリー(Prudence Cowley - 愛称:タペンス(Tuppence)やミス・ジェーン・マープル等は登場しない。所謂、ノンシリーズの長編としては、「茶色の服の男(The Man in the Brown Suit)」(1924年)に続く作品である。


本作品のグラフィックノベル版は、元々、フランスの作家であるフランソワ・リヴィエール(Francois Riviere:1949年ー)が構成を、そして、スイスの SF 作家兼グラフィックアーティストであるローレンス・スーナー(Laurence Suhner:1968年ー)が作画を担当して、2002年にフランスの Heupe SARL から「Le Secret de Chimneys」というタイトルで出版された後、2007年に英国の HarperCollinsPublishers 社から英訳版が発行されている。


HarperCollinsPublishers 社から出ている
アガサ・クリスティー作「チムニーズ館の秘密」の
グラフィックノベル版の裏表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)-
事件の舞台となるチムニーズ館のどこかに隠されている
宝石が描かれている。


南アフリカの町ブラワヨ(Bulawayo - 現在のジンバブエ共和国南西部に所在する都市)にある旅行社に案内役として勤務しているアンソニー・ケイド(Anthony Cade - 愛称:トニー(Tony))は、旧友のジェイムズ・マグラス(James McGrath - 愛称:ジミー(Jimmy))に、偶然、再会する。その際、アンソニー・ケイドは、ジェイムズ・マグラスから、2つの依頼を受けた。


南アフリカの町ブラワヨにある旅行社に案内役として勤務するアンソニー・ケイドは、
旧友のジェイムズ・マグラスに、偶然、再会した。

(1)

4年前、ジェイムズ・マグラスが、パリの人気のない辺りを一人で歩いていた際、無力な老紳士が暴漢達に襲われている現場に出くわした。ジェイムズは、老紳士を助けるべく、暴漢達を叩きのめして、追い払った。

その後、ジェイムズが助けた老紳士が、ヘルツォスロヴァキア(Herzoslovakia)の元総理であるスティルプティッチ伯爵(Count Stylptitch)であることが判明する。スティルプティッチ伯爵は、偉大な外交家の上、影の実力者で、「バルカンの長老」と呼ばれている人物であった。

ヘルツォスロヴァキアは、バルカン半島にある小国で、7年前に、国王のニコライ4世(King Nicholas IV)が、パリの演劇場に芸人として出ていた素性の知れない女性であるアンジェル・モリー(Angele Mory)をロマノフ王朝の末裔であると、国民に信じ込ませ、彼女と結婚して、ヴァラガ女王(Queen Varaga)として公布した。このニコライ4世による国民への策略が契機となり、革命が起こり、国王夫妻は王座から追われただけでなく、宮殿の階段において暗殺され、共和制へと移行したが、最近、王政復古の機運が高まっていた。また、同国内において、油田が発見されたという噂がありその情報の真偽について、英国政府も注目していた。

ジェイムズは、2週間前に、スティルプティッチ伯爵がパリで死去したという新聞記事を読んだが、その直後、伯爵の回顧録の入った小包が彼宛に送られてきた。同封されていた手紙によると、ロンドンのある出版社に、伯爵の回顧録を届ければ、1千ポンドの報酬を支払うという提案が為されていたのである。

ジェイムズは、アンソニーに対して、「スティルプティッチ伯爵の話によると、彼を襲っていた暴漢達は、有名な宝石泥棒であるキングヴィクター(King Victor)が雇った手先だ。なお、キングヴィクターは、パリ警視庁に逮捕されて、数年間、刑務所に入っていたが、最近出所したらしい。」と語るとともに、「自分の代わりに、伯爵の回顧録をロンドンの出版社に届けてほしい。」と頼むのであった。


アンソニー・ケイドは、旧友のジェイムス・マグラスより、
パリにおいて暴漢達から助けた
ヘルツォスロヴァキアの元総理であるスティルプティッチ伯爵から、
彼の死後、託された彼の回顧録をロンドンのある出版社に届けると、
1千ポンドの報酬が得られる話を聞かされる。

(2)

それに加えて、ジェイムズは、アンソニーに対して、ヴァージニア・レヴェル(Virginia Revel)という女性に、彼女自身のスキャンダル絡みの手紙を返してほしいと依頼する。その手紙は、ジェイムズがウガンダに居た頃に助けた人物が持っていたもので、彼の死に際に渡されたもの、とのことだった。


更に、事情を訪ねるアンソニーであったが、ジェイムズは、「信頼すべき情報に基づいて、アフリカ奥地のある地域へ金鉱探しに出かける。金鉱に比べたら、1千ポンド等、取るに足らない。ただ、うまみのある話をみすみす失うのは、勿体無い気がするので、アンソニーに自分の代わりを務めてほしい。」との返事であった。


1千ポンドの報酬のうち、250ポンドの分け前をもらう条件で、
旧友のジェイムズ・マグラスからの依頼を引き受けた
アンソニー・ケイドは、ロンドンへと旅立つ。

アンソニーとしては、伯爵の回顧録が入った小包をパリからロンドンへと送るのに、何故、わざわざアフリカを経由するのか、疑問を感じたが、ジェイムズに劣らぬ冒険家であった彼は、ジェイムズの申し出には、興味を唆られるだけの謎を秘めていたので、取引に応じることに決めた。

1千ポンドの報酬のうち、250ポンドの分け前をもらう条件で、ジェイムズからの依頼を引き受けたアンソニーは、ロンドンへと向かい、旅立ったのである。 


2022年11月23日水曜日

コナン・ドイル作「這う男」<英国 TV ドラマ版>(The Creeping Man by Conan Doyle )- その2

英国で出版された「ストランドマガジン」
1923年3月号に掲載された挿絵(その5) -
プレスベリー教授の屋敷の厩舎の近くで、
首輪がスッポリと抜けたウルフハウンド犬のロイが、
プレスベリー教授の喉元に噛み付く場面が描かれている。
画面後方の人物は、左側から、
トレヴァー・ベネット、シャーロック・ホームズ、
そして、ジョン・H・ワトスンである。


英国のグラナダテレビ(Granada Television Limited)が制作した「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1984年ー1994年)において、第5シリーズ(The Casebook of Sherlock Holmes)の第6エピソード(通算では第32話)として TV ドラマ化されたサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「這う男(The Creeping Man → 2022年11月6日 / 11月18日 / 11月20日付ブログで紹介済)」は、コナン・ドイルの原作とは異なり、類人猿の売買業者であるウィルコックス(Wilcox)とジェンキンス(Jenkins)、そして、類人猿の場面から始まる。


続いて、ある日の深夜、ケンフォード大学(Camford University)の生理学者(physiologist)であるプレスベリー教授(Professor Presbury)の娘エディス(Edith Presbury)が寝室で眠っていると、何者かが彼女の寝室の窓に張り付く場面へと移る。窓の外に何者かの影を認めたエディスは、気絶してしまう。

翌朝、エディスが、プレスベリー教授の助手で、彼女の婚約者でもあるトレヴァー・ベネット(Trevor Bennett)に対して、昨夜のことを話した結果、トレヴァーが、ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)のシャーロック・ホームズのところへ事件の相談を持ち込むことに繋がって行く。

コナン・ドイルの原作の場合、トレヴァー・ベネットは、プレスベリー教授にかかる奇行の数々を心配して、ホームズの元に事件の相談を持ち込んだ後、何者かがエディスの寝室の窓の外に張り付く事件が発生するが、英国 TV ドラマ版の場合、順番が逆になっている。

また、コナン・ドイルの原作の場合、エディスの寝室の窓の外に張り付いたのが、彼女の父親であるプレスベリー教授であることが判明しているが、英国 TV ドラマ版の場合、エディスの寝室の窓の外に張り付いたのが、何者であるかについては、この時点において、ハッキリしていない。


その後、コナン・ドイルの原作通り、ジョン・H・ワトスンが、ホームズからの電報を受け取り、ベイカーストリート221B へと呼び出される場面へとなる。

ただし、コナン・ドイルの原作の場合、ワトスンは、ホームズからの電報を受け取った後、文句の一つも言わず、ベイカーストリート221B へと駆け付けているが、英国 TV ドラマ版の場合、ワトスンは、ベイカーストリート221B へとやって来るが、ホームズに対して、「ホームズ、私には、非常に重要な手術をあるんだ。(I have a full surgery, Holmes.)」と、不平を漏らしている。


コナン・ドイルの原作の場合、トレヴァー・ベネットとエディス・プレスベリーの依頼に基づき、ホームズとワトスンは、直接、プレスベリー教授に面会を申し入れて、追い返されているが、英国 TV ドラマ版の場合、トレヴァー・ベネットとエディス・プレスベリーの依頼に基づき、ホームズとワトスンは、プレスベリー教授の外出中に、エディスの寝室を調べていると、教授が戻って来て、追い返されるという展開になっている。


コナン・ドイルの原作の場合、プレスベリー教授が飼っている忠実なウルフハウンド犬のロイが、教授に噛み付いた日付は、「7月2日」、「7月11日」および「7月20日」となっているが、英国 TV ドラマ版の場合、ホームズとトレヴァー・ベネットの間の会話からすると、「9月2日」と「9月15日(「1回目から13日後。」と、ホームズが話している)」となっており、日付がかなり異なっている。


コナン・ドイルの原作の場合、スコットランドヤードのレストレイド警部(Inspector Lestrade)は登場しないが、英国 TV ドラマ版の場合、ホームズとワトスンが本件に関与することを好まないプレスベリー教授からの要請を受けて、レストレイド警部が、ベイカーストリート221B を訪れて、ホームズに対して、本件から手を引くよう、要請を行う。


英国 TV ドラマ版では、その後、トレヴァー・ベネットは、深夜、プレスベリー教授の屋敷の階段において、黒い影を見かけるが、何者であるかについては、判らなかった。

コナン・ドイルの原作の場合、トレヴァーは、深夜、教授が這うようにして廊下を歩き、そして、トレヴァーと一悶着あった後、階段を降りて行ったので、この点についても、異なっている。また、この場面に関しては、コナン・ドイルの原作の場合、トレヴァーがホームズに事件の相談を持ち込む前の出来事であるが、英国 TV ドラマ版の場合、トレヴァーがホームズに事件の相談を持ち込んだ後の出来事へと変更されている。


コナン・ドイルの原作にはないが、(1)ホームズが、新聞で類人猿盗難事件の記事を見つける場面、(2)プレスベリー教授の同僚で、比較解剖学の議長を務めるモーフィー教授(Professor Morphy)の娘で、プレスベリー教授の婚約者であるアリス・モーフィー(Alice Morphy)が、プレスベリー教授の元を訪れて、年齢差を理由に、婚約指輪を返す場面、そして、(3)ホームズとワトスンの2人が、コマーシャルロード(Commercial Road)にあるA・ドーラック(A. Dorak)の店へ侵入する場面が、ここで追加されている。


コナン・ドイルの原作の場合、事件のクライマックスは、プレスベリー教授の屋敷の厩舎の近くで、ウルフハウンド犬のロイは、首輪がスッポリと抜けた後、教授の喉元に喰らいつく場面に訪れるが、英国 TV ドラマ版の場合、プレスベリー教授が、元婚約者となってしまったアリスの部屋へと侵入して、彼女を襲おうとするが、放たれたウルフハウンド犬のロイが、教授に襲い掛かるという場面に変更されている。


コナン・ドイルの原作の場合、事件のクライマックスの日付について、明確に特定されていないものの、(1903年)9月の中旬から下旬にかけての日付だと思われるが、英国 TV ドラマ版の場合、「10月21日」と言及されている。


コナン・ドイルの原作の場合、事件のクライマックスの後、プレスベリー教授の書斎において、ホームズは、ワトスンとトレヴァー・ベネットに対して、事件の真相を語るが、英国 TV ドラマ版の場合、ベイカーストリート221B において、ホームズは、ワトスンとレストレイド警部に対して、事件の真相を語る。レストレイド警部が辞去した後、ワトスンは、ホームズに対して、「If I may say so, you went too far in allowing Lestrade all the credit.」と言って、事件解決の手柄をレストレイド警部に譲ることに異を唱えるが、ホームズは、「Not at all, Watson. You can file it away in our archives. One day, the entire truth can be fold.」と返事して、意に介さなかったのである。


2022年11月22日火曜日

アガサ・クリスティー マープル 2023年カレンダー(Agatha Christie - Marple - Calendar 2023)- 「書斎の死体(The Body in the Library)」

ビル・ブラッグ氏が描く
ミス・マープルシリーズの長編第2作目「書斎の死体」の一場面

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の作品を出版している英国の HarperCollinsPublishers 社から、ミス・ジェーン・マープル(Miss Jane Marple)シリーズのペーパーバック版の表紙を使った2023年カレンダーが出ているので、順番に紹介したい。


2023年カレンダーに使用されているミス・マープルシリーズのペーパーバック版の表紙は、英国のイラストレーターであるビル・ブラッグ(Bill Bragg)氏が担当している。


なお、カレンダーの順番は、長編・短編集を含めて、ミス・マープルシリーズの発表順にはなっていない。


(1)「書斎の死体(The Body in the Library)」


「書斎の死体」は、1942年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第2作目である。


「奥様、奥様!書斎に死体があります!」

メイドのメアリーが発するヒステリックな第一声で、ドリー・バントリー(Mrs. Dolly Bantry)は目を覚ますと、退役軍人である夫のアーサー・バントリー大佐(Colonel Arthur Bantry)を起こす。こうして、邸宅ゴシントンホール(Gossington Hall)における平和で穏やかな秋の朝は、メイドの叫び声で打ち破られるのであった。


バントリー大佐が書斎に駆け付けてみると、暖炉の前の敷物の上に、銀色のスパンコールを散りばめたイヴニングドレス姿の、背の高いプラチナブロンドの若い女性の絞殺死体が横たわっていた。ところが、大佐には、殺されている女性の身元に心当たりがなかった。

バントリー大佐は、直ぐに警察に連絡を行い、メルチェット大佐(Colonel Melchett)とスラック警部(Inspector Slack)が派遣されてくる。

一方、妻のバントリー夫人は、人間の本質を鋭く見抜く眼力を持つ旧友のミス・マープルに、助けを求める。


何故、閑静な屋敷に、それも、書斎に、若い女性の死体が突然現れたのか?彼女の身元は?何故、彼女は絞殺されることになったのか?そして、彼女は、どこからここまでやって来たのか?

様々な噂や憶測が、セントメアリーミード村(St. Mary Mead)の中を駆け巡るのであった。



カレンダーには、邸宅ゴシントンホールに住むアーサー・バントリー大佐が、書斎の暖炉の前の敷物の上に、若い女性の絞殺死体が横たわっているのを発見する場面が描かれている。あるいは、ある人物が、酔っ払って真夜中に帰宅した際、自宅の部屋の敷物の上で発見した女性の死体を、以前から気に入らないバントリー大佐の邸宅へと運び、書斎の暖炉の前の敷物の上に放置した場面だろうか?


HarperCollinsPublishers 社から出版されている「書斎の死体」のペーパーバック版の表紙には、ビル・ブラッグ氏によるイラストが、卓上ランプの形に切り取られているものが使用されている。


2022年11月21日月曜日

コナン・ドイル作「這う男」<英国 TV ドラマ版>(The Creeping Man by Conan Doyle )- その1

英国のグラナダテレビが制作した「シャーロック・ホームズの冒険」として放映された
「這う男」の一場面 -
画面左側から、エドワード・ハードウィックが演じるジョン・H・ワトスン、
コリン・ジェボンズが演じるスコットランドヤードのレストレイド警部、
そして、ジェレミー・ブレットが演じるシャーロック・ホームズ。

サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「這う男(The Creeping Man → 2022年11月6日 / 11月18日 / 11月20日付ブログで紹介済)」は、シャーロック・ホームズシリーズの短編小説56作のうち、47番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1923年3月号に、また、米国では、「ハースイ インターナショナル」の1923年3月号に掲載された。

また、同作品は、1927年に発行されたホームズシリーズの第5短編集「シャーロック・ホームズの事件簿(The Casebook of Sherlock Holmes)」に収録された。


本作品は、英国のグラナダテレビ(Granada Television Limited)が制作した「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1984年ー1994年)において、TV ドラマとして映像化された。具体的には、第5シリーズ(The Casebook of Sherlock Holmes)の第6エピソード(通算では第32話)として、英国では、1991年に放映されている。


配役は、以下の通り。


(1)シャーロック・ホームズ → ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett:1933年ー1995年)

(2)ジョン・ワトスン → エドワード・ハードウィック(Edward Hardwicke:1932年ー2011年)


(3)プレスベリー教授(Professor Presbury:ケンフォード大学(Camford University)の生理学者(physiologist))→ Charles Kay

(4)トレヴァー・ベネット(Trevor Bennett:プレスベリー教授の助手で、教授の娘エディスの婚約者)→ Adrian Lukis

(5)エディス・プレスベリー(Edith Presbury:プレスベリー教授の娘で、トレヴァー・ベネットの婚約者)→ Sarah Woodward

(6)アリス・モーフィー(Alice Morphy:プレスベリー教授の同僚で、比較解剖学の議長を務めるモーフィー教授( Professor Morphy)の娘で、プレスベリー教授の婚約者)→ Anna Mazzotti

(7)マクフェイル(Macphail:プレスベリー家の御者)→ James Tomlinson

(8)ウィルコックス(Wilcox:類人猿の売買業者)→ Peter Guinness

(9)ジェンキンス(Jenkins:類人猿の売買業者)→ Steve Swinscoe

(10)レストレイド警部(Inspector Lestrade:スコットランドヤードの警部)→ Colin Jeavons

(11)動物学協会の秘書(Secretary of the Zoological Society:固有名詞はなし)→ Anthony Havering

(12)類人猿(Great Ape)→ Peter Elliott


(4)

コナン・ドイルの原作上、トレヴァー・ベネットが正式名であるが、婚約者のエディスが「Jack」と愛称で呼び掛けていることもあり、英国 TV ドラマ版の場合、物語の終わりに出る役名は、「ジャック・ベネット(Jack Bennett)」となっている。


(7)・(8)

コナン・ドイルの原作の場合、H・ローウェンスタイン(H. Lowenstein:プラハ在住の生理学者)とA・ドーラック(A. Dorak:ロンドンにおけるH・ローウェンスタインの代理人)が出てくるが、英国 TV ドラマ版の場合、H・ローウェンスタインについては、名前の言及を含めて、全く登場しない。また、A・ドーラックに関しては、原作と同様に、名前だけが言及されるのみで、画面上には、姿を見せない。彼らの代わりに、類人猿の売買業者であるウィルコックスとジェンキンスの2人が登場する。


(10)

コナン・ドイルの原作の場合、レストレイド警部は登場しないが、英国 TV ドラマ版の場合、ホームズとワトスンが本件に関与することを好まないプレスベリー教授からの要請を受けて、レストレイド警部が、ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)を訪れて、ホームズに対して、本件から手を引くよう、要請を行う。


(11)

英国 TV ドラマ版のみのキャラクターであり、コナン・ドイルの原作には、登場しない。


(12)

物語の冒頭や途中に出てくる類人猿(ゴリラ?)は、多分、人間が着ぐるみを着て演じているものと思われる。


2022年11月20日日曜日

コナン・ドイル作「這う男」<小説版>(The Creeping Man by Conan Doyle )- その3

英国で出版された「ストランドマガジン」
1923年3月号に掲載された挿絵(その4) -
プレスベリー教授の助手であるトレヴァー・ベネットの依頼に基づいて、
教授の屋敷を訪れたシャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンであったが、
話をしている間に、
教授は、途方も無い敵意を顔に浮かべて、
甲高い悲鳴のような声で叫ぶと、怒り狂ったように、両手を振った。
更に、教授は、顔を痙攣させ、歯を剥き出しにすると、
ホームズとワトスンの二人に対して、訳の分からない言葉を発した。
助手のトレヴァー・ベネットが、慌てて間に入らざるを得なかった。

1903年9月のある日曜日(→後のホームズの発言から、9月6日であることが判る)の晩、ジョン・H・ワトスンは、シャーロック・ホームズからの電報を受け取り、急いでベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)へと駆け付ける。

丁度、そこへ、事件の依頼人であるトレヴァー・ベネット(Trevor Bennett)が、ホームズの元を訪れ、ホームズとワトスンの二人に対して、自分が助手を務めるプレスベリー教授(Professor Presbury)にかかる驚くべき話を始めるのであった。


プレスベリー教授(Professor Presbury)は、ケンフォード大学(Camford University)の生理学者(physiologist)で、欧州中で名声を獲得しており、醜聞の欠片もない人物だった。夫人に先立たれたプレスベリー教授は、現在、61歳で、娘のエディス(Edith Presbury)と暮らしていた。そして、教授の助手であるトレヴァー・ベネットは、教授の家に同居して、教授をサポートする一方、彼の娘であるエディスと婚約していた。


そのような静かで、学究の生活を送ってきたプレスベリー教授が、2、3ヶ月前に、同じ大学の同僚で、比較解剖学の議長を務めるモーフィー教授(Professor Morphy)の娘で、親と子程の年齢差があるアリス(Alice Morphy)と婚約下のを契機に、教授の行動におかしなことが起き始めた。

プレスベリー教授は、突然、行き先を誰にも告げないまま、2週間の間、家を空けたのである。そして、彼は、げっそりと疲れた様子で、戻って来たが、どこへ行っていたのかについては、全く言及しなかった。


プレスベリー教授が旅行から戻って来てから、彼の奇行が更に激しくなる。


・トレヴァーに対して、ロンドンから届く手紙のうち、切手の下に十字の印が付いているものは、開封しないまま、別途、そのまま保管しておくよう、指示をした。

・旅先から持ち帰った木の小箱に、トレヴァーが偶然触れだだけで、恐ろしい勢いで激怒した。(7月2日)

・教授が飼っている忠実なウルフハウンド犬のロイが、時折、教授に噛み付くようになった。(7月2日、7月11日および7月20日)

・真夜中、四つん這いではないものの、這うようにして、教授が廊下を歩いている現場を、トレヴァーは目撃した。(一昨日(9月4日)の夜)

・教授は、61歳という年齢にもかかわらず、トレヴァーが知っている限り、以前よりも若々しく、かつ、壮健になってきた。


上記のような不可解な話の数々をトレヴァーがホームズとワトスンに対してしていると、プレスベリー教授の娘で、トレヴァーの婚約者であるエディスがホームズの元を訪れて、更に驚くような話をし始めた。


彼女が、昨夜(9月5日)、屋敷の3階にある自室で眠っていた際、非常にけたたましく吠える犬の声に目を覚まして、窓の方を見ると、窓の外に父親であるプレスベリー教授が居て、窓ガラスに顔を押し付け、そして、片手を上げ、窓を押し上げようとしているように見えた。

屋敷の庭に、長い梯子等はないため、誰であっても、3階にある彼女の部屋の窓まで登ることは不可能だった。

驚きと恐怖でほとんど死にそうになった彼女は、窓の外をそれ以上見ることができず、朝が明けるまで、寒気に震えていた。


そして、彼女は、ロンドンへ出る口実をつくると、大急ぎでここまでやって来た、と言うのであった。


トレヴァー・ベネットとエディス・プレスベリーからの話を聞いたホームズは、翌日の月曜日(9月7日)の朝、ワトスンを伴い、ケンフォードへと向かい、「チェッカーズ(Chequers)」という宿に旅行鞄を預けると、プレスベリー教授の調査を開始する。

ホームズとワトスンは、午前11時の講義が終わって、屋敷で休憩するプレスベリー教授を訪問した。「私は、別の人物を通じて、ケンフォード大学のプレスベリー教授が、私の手助けを必要としていると伺いました。(I heard through a second person that Professor Presbury of Camford had need of my services.)」と語るホームズに対して、教授は、途方も無い敵意を顔に浮かべて、甲高い悲鳴のような声で叫び、怒り狂ったように、両手を振った。更に、教授は、顔を痙攣させ、歯を剥き出しにすると、後先を考えない怒りの下、ホームズとワトスンの二人に対して、訳の分からない言葉を発した。助手のトレヴァー・ベネットが間に入らなければ、一騒動が起きるところだった。


プレスベリー教授の屋敷から退散したホームズ達であったが、ホームズは、教授の奇行が激しくなる日付から、9日間毎に、教授が何か非常に強い薬物を摂取していると推理する。更に、教授の指関節、ウルフハウンド犬のロイ、そして、屋敷の壁の蔦から、この謎を解明するのであった。


本作品「這う男」は、非常に怪奇色が強い物語で、プレスベリー教授の奇行は、エディンバラ(Edinburgh)生まれの英国の小説家、詩人で、かつ、エッセイストであるロバート・ルイス・スティーヴンスン(Robert Louis Stevenson:1850年ー1894年)作「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件(The Strange Case of Dr. Jekyll and Mr. Hyde)」(1886年)を彷彿とさせる。


ホームズが解き明かした事件の真相については、現代の医学 / 科学の観点からすると、首を捻らざるを得ない部分があるが、ジキル博士とハイド氏、吸血鬼ドラキュラ、フランケンシュタイン、宇宙戦争、タイムマシンや透明人間等の傑作が相次いで、小説のジャンルの境目が明確でなかったヴィクトリア朝時代を生きたホームズシリーズの作者であるサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sire Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)の空想性が生んだ一編と見る他はないと言える。