2020年8月16日日曜日

ロンドン ロングヤード(Long Yard) / カリオストロストリート(Cagliostro Street)の候補地−その1

ロングヤードの近くにある
グレイトオーモンドストリート(東側)の両側に建つ住宅街(その1)

米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が1935年に発表した長編で、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)が登場するシリーズ第6作目に該る「三つの棺(The Three Coffins 英題: The Hollow Man→2020年5月3日 / 5月16日 / 5月23日 / 6月13日 / 6月20日付ブログで紹介済)」では、2月9日(土)の午後10時10分頃、シャルル・ヴェルネ・グリモー教授(Professor Charles Vernet Grimaud)邸の最上階(3階)にある書斎内において、教授が拳銃で胸を撃たれて、瀕死の状態で倒れているのが発見される。書斎は密室状態で、教授と一緒に書斎内に居た仮面を付けた謎の男の姿は、完全に消え失せていた。また、グリモー邸の周囲には、午後9時半頃に降り止んだ雪が積もっていたが、雪の上には、謎の男が逃げた足跡は、全くなかったのである。


ジョン・ディクスン・カーの原作では、グリモー邸以外に、ラッセルスクエア(Russell Square)を挟んで、同スクエアの西側に建つグリモー邸とは反対側にあるカリオストロストリート(Cagliostro Street)の路上において、もう一つの事件が発生する。
2月6日(水)の晩、大英博物館(British Museum→2014年5月26日付ブログで紹介済)の近くのミュージアムストリート(Museum Street)沿いにあるパブ「ウォーリック タヴァーン(Warwick Tavern)」において、シャルル・グリモー教授達の話に突然割り込んできて、教授を脅した奇術師のピエール・フレイ(Pierre Fley)が、カリオストロストリートの真ん中辺りで、拳銃で射殺されたのである。ピエール・フレイは、カリオストロストリート2B(2B Cagliostro Street)に住んでいた。

グレイトオーモンドストリート(東側)の両側に建つ住宅街(その2)

カリオストロストリートは、先が行き止まりの200ヤード程の通りで、バーミンガム(Birmingham)からやって来たジェス・ショート(Jesse Short)とR・G・ブラックウィン(R. G. Blackwin)の二人が、通りの奥に住む友人のところを訪ねようとしていた。また、ヘンリー・ウィザース巡査(PC Henry Withers)が巡回中で、ちょうどカリオストロストリートの入口に達した時だった。
「二発目は、お前にだ。(The Second Bullet is for you.)」という声とともに、銃声が鳴り響いた。カリオストロストリートの奥へと向かっていたジェス・ショートとR・G・ブラックウィンが通りの入口の方へ振り返り、ヘンリー・ウィザース巡査が通りの入口の方から駆け寄って来た。カリオストロストリートの真ん中、宝石商のショーウィンドの灯りに照らされた路上に、ピエール・フレイが倒れていたのである。ヘンリー・ウィザース巡査がピエール・フレイの身体を調べたところ、ピエール・フレイは、背中を至近距離から拳銃で撃たれて、死亡していた。通りは暗かったものの、現場の路上には、ジェス・ショート / R・G・ブラックウィンの二人とヘンリー・ウィザース巡査以外には、誰も居なかった。また、現場は、身を隠せる建物から数メートルも離れており、銃声が鳴り響いてから、彼らが現場に駆け付ける間に、身を隠せる時間的な余裕はなかった。目撃者である彼らによると、午後10時25分とのことだった。

グレイトオーモンドストリート(東側)の両側に
建つ住宅街(その3)

司法解剖の結果、ピエール・フレイの背中の致命傷は、自分で拳銃を撃つには無理な場所にあり、「自殺」とは考えられず、「他殺」と判断せざるを得なかった。ところが、ピエール・フレイの殺害現場であるカリオストロストリートの路上で、ジェス・ショート / R・G・ブラックウィンの二人とヘンリー・ウィザース巡査の誰も、ピエール・フレイを拳銃で撃った加害者を見ていない上に、現場周辺の雪の上には、被害者であるピエール・フレイ以外の足跡は全くなかったのである。また、ピエール・フレイの傍らに落ちていた拳銃は、グリモー邸において、シャルル・グリモー教授を射殺した凶器であると鑑定された。

グレイトオーモンドストリート(東側)の両側に
建つ住宅街(その4)

ジェス・ショート / R・G・ブラックウィンの二人とヘンリー・ウィザース巡査に挟まれたカリオストロストリートの路上において、犯人は、被害者であるピエール・フレイの背中を至近距離から拳銃で撃った後、どのようにして姿を隠したのだろうか?グリモー邸の書斎において発生した密室状況の事件に加えて、カリオストロストリートの路上における事件も、不可能状況と言えた。

グレイトオーモンドストリート(東側)の両側に建つ住宅街(その5)

奇術師のピエール・フレイが拳銃で射殺されたカリオストロストリートは、一体どこにあるのか?
現在の住所表記上、残念ながら、カリオストロストリートは存在していない。
それでは、現在の住所表記上、どの通りがカリオストロストリートの候補地として最適なのかについて、ジョン・ディクスン・カーの原作から読み解きたいと思う。

2020年8月15日土曜日

ミッチ・カリン作「ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件」<小説版>(Mr Holmes by Mitch Cullin )−その1

2015年に Cannongate Books 社から出版された
ミッチ・カリン作「ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件」の表紙 -
2005年に米国で、また、2014年に英国で出版された際、
「A Slight Trick of the Mind」という原題であったが、
2015年の映画公開に伴って、題名が変更された。

米国の作家であるミッチ・カリン(Mitch Cullin:1968年-)が2005年に発表した「ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件(Mr Holmes)」は、3つの話が並行的に進行する。

<1つ目の話>
1947年、シャーロック・ホームズが諮問探偵業から引退し、ロンドンを離れてから、既に40年以上が経過していた。引き続き、彼は、引退先であるサセックス州(Sussex)丘陵の農場で暮らしており、手記を書いたり、蜜蜂の世話をしたりして、毎日を過ごしていた。未亡人のムンロ夫人(Mrs. Munro)が家政婦としてホームズの世話をし、彼女の息子であるロジャー・ムンロ(Roger Munro)が助手として蜜蜂の世話を手伝っていた。
ホームズは、日本の広島への旅から英国へと丁度戻ったところであった。広島での出来事を振り返り、ホームズは、若い頃のような絶対的な知力が自分にはもうないと思い、知力の衰えと格闘していたのである。
そんな中、彼が思い出すのは、彼が諮問探偵業から引退する引き金となったある事件であった。

<2つ目の話>
1902年の春、ジョン・H・ワトスンは3度目の結婚をするため、クリーン アン ストリート(Queen Anne Street→2014年11月15日付ブログで紹介済 / 多くの医者が開業しているハーリーストリート( Harley Street → 2015年4月11日付ブログで紹介済)の近く)に部屋を借りていて、ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)には、ホームズ一人であった。そこへ、トマス・R・ケラー(Thomas R. Keller)と名乗る青年が、ホームズの元を相談に訪れる。
ケルモット氏は、ホームズに対して、「2年前に結婚してから、妻のアン(Ann)が2回連続して流産し、医者からは「今後、子供を授かることは難しい。」と言われた。」と語った。ケルモット氏は、妻の気持ちを落ち着かせる精神的なケアの意味もあって、アンにドイツ人のマダム シルマー(Madame Shirmer)のところへアーモニカ(Armonicaー金属やガラス片を長い順に並べて、スティックで打つ楽器)を習いに行かせた。それ以降、妻の様子がおかしくなったと言うのだ。妻の案は、マダム シルマーのところから戻って来ると、屋根裏部屋で楽器の練習をしているのだが、彼女以外、部屋には誰も居ないにもかかわらず、誰かと会話をしていると、ケルモット氏は語った。彼は、マダム シルマーが妻のアンを精神的に操っているのではないかと心配していた。
ケルモット氏の依頼を受けたホームズは、早速、アン・ケルモットの後をつける。彼女は、夫名義で小切手を振り出して、それを現金化したり、また、薬局で毒薬を購入したりと、非常に怪しい行動を繰り返している。
果たして、彼女は、夫のケルモット氏を殺害しようと計画しているのだろうか?

<3つ目の話>
ホームズは、知り合いのタミキ・ウメザキ(Tamiki Umezaki)を訪ねて、神戸に居た。
ホームズがウメザキ氏を訪ねたのは、知力の衰えを防ぐために、ウメザキ氏から煮ごこりを手に入れる必要があったからである。一方で、ウメザキ氏の方にも、ホームズに尋ねたい重要なことがあった。
ホームズは、ウメザキ氏によって、広島を案内される。その際、ホームズは、ウメザキ氏から次のような話を聞かされる。ウメザキ氏の父親は日本政府で働いていたが、政府内での権力闘争に敗北して、失脚。その後、ウメザキ氏の父親は、単身ロンドンへと向かう。そして、ウメザキ氏が父親から受け取った手紙には、「ロンドンにおいて、著名な探偵であるシャーロック・ホームズ氏に相談した結果、暫くの間、英国に留まることに決めた。」ということが書かれてあった。ウメザキ氏は、ホームズに対して、「自分の父親の居場所を知らないか?」と尋ねるが、ホームズは「君の父親に会った記憶はない。」と答えるだけであった。

そして、また、1つ目の話へと戻る。

<1つ目の話>
そんなある日、ムンロ夫人は、養蜂場の近くで、死体を発見する。それは、彼女の息子であるロジャーだった。彼には、何かに何度も刺された痕があった。
果たして、それは…

2020年8月9日日曜日

ケル・リチャーズ作「地下室の死体」(The Corpse in the Cellar by Kel Richards)

2015年に Marylebone House から出版された
ケル・リチャーズ作「地下室の殺人」(2013年)の表紙−
徒歩旅行中、財布を誤って暖炉の中に落とし、黒焦げにしてしまい、
手持ちの全財産を失くした主人公のジャック達3人が向かった
マーケットプランプトン(架空の場所)が描かれていると思われる。

1933年の夏、以下の3人が徒歩での旅行をしていた。

(1)クライブ・ステープルス・ルイス(Clive Staples Lewis:1898年ー1963年)
オックスフォード大学(モードリン学寮)の特別研究員で、英文学を担当。幼少時に愛犬ジャクシー(Jacksie)を交通事故で喪った直後から、自らをジャクシーと名乗り始め、現在はジャック(Jack)と皆に呼ばれている。

(2)ウォレン・ハミルトン・ルイス(Warren Hamilton Lewis:1895年ー1973年)
C・S・ルイス(ジャック)の3歳上の兄。元英国陸軍少佐。探偵小説好き。愛称はウォーニー(Warnie)。

(3)トム・モリス(Tom Morris)
ジャックとウォーニーの若い友人で、ジャックの元教え子。

旅の途中で立ち寄ったパブで休息した際、ウォーニーはジャックの財布を暖炉の中に誤って落とし、財布を黒焦げにしてしまう。持っていた全財産を失って、意味消沈するウォーニーとトムに対して、ジャックは「ここから歩いて2時間位のところに、マーケットプランプトン(Market Plumpton)という町があり、そこに自分の取引銀行キャピタル&カウンティーズ銀行(Capital and Conties Bank)の支店があるので、そこで口座から現金を引き出すから大丈夫。昨年も他の友人と一緒に徒歩旅行した際、その視点に立ち寄ったことがある。」と言って、他の二人を安心させる。

彼らの話を聞いていたパブの主人が、次のような話を彼らに語る。
「現在、その銀行が入っている建物は、以前、住宅で、80年程前にサー・ラファエル・ブラック(Sir Rafael Black)という主人が住んでいた。彼は羊毛を扱う商人であったが、酒に酔っては、妻に暴力をふるう乱暴者であった。夫の家庭内暴力に恐れをなしたレディー・パメラ(Lady Pamela)は、若い従僕のボリス(Boris)と密通するようになった。それに気付いた主人は、地下室でボリスを殺害し、床に穴を掘って、彼の死体を埋めた。その後、主人の言い付けで執事が地下室へ降りたところ、そこにはボリスの幽霊が居て、自分の死体が埋められている場所を指差した。それが契機となり、主人の悪事が明るみに出て、殺人罪で処刑された。その地下室は、現在、銀行の金庫室となっていて、今もボリスの幽霊が現れるという噂です。」と。

マーケットプランプトンに到着した3人は、早速、ジャックの取引銀行の支店へと向かった。
ジャックの対応をした支店の行員フランクリン・グリム(Franklin Grimm)は、彼に対して身分証明書の提示を求めるが、残念ながら、身分証明書は財布と一緒に黒焦げになっていて、後の祭りだった。ジャックはフランクリンに対して、「昨年、自分はこの支店を訪問しており、その際、支店長のエドムント・レーヴェンスウッド氏(Mr. Edmund Ravenswood)に会っているので、彼であれば、自分のことを確認できる筈だ。」と告げる。そこで、フランクリンはジャックを地下の金庫室内で作業していたレーヴェンスウッド氏のところへ案内する。ウォーニーとトムも、彼らの後に続いて、地下の金庫室へと降りて行く。

金庫室内での作業が終わり、外に出て来た支店長のレーヴェンスウッド氏は、フランクリンがジャック達を立入禁止区域内へと連れて来たことは、銀行内の規則に反すると咎める。丁度その時、銀行から貸付を受けていた農場主のニコラス・プラウッドフット(Nicholas Proudfoot)が勝手に地下室に降りて来た。プラウドフット青年は、非常に激怒していて、銀行からの借入の件で、何か揉めているようである。プラウドフット青年は、レーヴェンスウッド氏を金庫室内に閉じ込めると、扉のダイヤルを回して、地下室から出て行ってしまった。扉のダイヤルの暗証番号を知っているのは、支店内では支店長のレーヴェンスウッド氏一人であり、彼を金庫室内から助け出すには、銀行の本店から暗証番号を知っている行員を派遣してもらうことが必要だった。

地下室から地上階へと戻ったフランクリンは、銀行の本店に対して、暗証番号を知っている行員を支店に至急派遣するよう要請を行うと、レーヴェンスウッド氏の身を案じたフランクリンは、再び地下室へと戻る。暫くして、フランクリンの叫び声を聞いたジャック達が地下室へ降りてみると、フランクリンが首の後ろを刺され、地下室の床の上に横たわって死んでいたのである。フランクリンを刺した凶器は彼の周囲にはなく、また、彼の死体以外は、誰も居なかった。支店長のレーヴェンスウッド氏は、金庫室内に閉じ込められたままだ。地下室へと通じる地上会には、ジャック達が居たので、犯人はそこから逃げることはできなかった。正に、「密室状態」だった。

犯人は、一体どうやって、地下室へと侵入し、フランクリンを殺害したのか?それとも、ボリスの幽霊による仕業なのだろうか?

(1)背景の設定について
後に「ナルニア国物語(The Chronicles of Narnia)」(1950年ー1956年)の作者として知られるC・S・ルイス(愛称:ジャック)が主人公となっている。また、彼の兄(愛称:ウォーニー)が英国陸軍を退役した年(1932年12月)の翌年の夏に、時代が設定されている。物語中、英国の探偵小説黄金期を支えたアガサ・クリスティー(Agatha Christie:1890年ー1976年)、ドロシー・L・セイヤーズ(Dorothy Leigh Sayers:1893年ー1957年)、フリーマン・ウィルス・クロフツ(Freeman Wills Crofts:1879年ー1957年)やマージェリー・ルイーズ・アリンガム(Margery Louise Allingham:1904年ー1966年)等が引用されたり、彼らが生み出した探偵達が言及されている。

(2)物語の展開について
「密室状態」となった銀行の地下室で殺人事件が発生するという非常に魅力的な謎が提示されるが、何故か、ホームズ役のジャックやワトスン役のウォーニーとトムが真正面からこの謎には取り組まず、後に起きる第2の殺人を含めた事件関係者に話を聞いたりするだけに終始して、物語の終盤になり、急に事件が解決するという流れで、展開としては、あまり面白くない。密室の謎の解明プロセスをもっと正攻法で進めて欲しかった。
探偵小説好きのウォーニーにジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)の第1作で、密室状況での殺人を扱う「夜歩く(It Walks by Night)」(1930年)を持たせる等、設定に凝った割りには、呆気ない。
正直、慣れた読者には、犯人も殺害方法も即座に判ってしまうので、密室の謎の解明に重きを置くと、話が直ぐに終わってしまうかもしれない。

(3)ホームズ役 / ワトスン役の活躍について
ホームズ役のジャックは、本来、学者であり、物語中、元教え子のトムとの間で、キリスト教信仰に関する談議を行う場面が何度も出てきて、それにかなりのページが割かれているが、それが物語の主題に関係している訳ではない。C・S・ルイスのことを知るには良いかもしれないが、物語としては、オマケというか、ページかせぎと思えてしまうのが、逆に興醒めである。また、ワトスン役のウォーニーとトムは、物語を通して、あまり深く考えておらず、殺人事件が発生してものんびりしており、話を面白くする潤滑油になっていない。

(4)総合評価
密室状態における殺人事件という探偵小説好きが欲する謎に幽霊事件を紐付けて、折角うまく提示したにもかかわらず、その設定をうまく生かし切れず、違うところでウロウロするという展開で、残念ながら、読後の感想としては、あまり良くない。
また、物語全体を通して、のんびりとしたムードが漂っており、これが密室殺人という主題とうまく合致していない。

2020年8月8日土曜日

ロンドン マレットストリート(Malet Street)−その3

マレットストリートから見上げたセナトハウス(その1)

米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が1935年に発表した長編で、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)が登場するシリーズ第6作目に該る「三つの棺(The Three Coffins 英題: The Hollow Man→2020年5月3日 / 5月16日 / 5月23日 / 6月13日 / 6月20日付ブログで紹介済)」において、シャルル・ヴェルネ・グリモー教授(Professor Charles Vernet Grimaud)邸が所在するのがより現実的と思われるマレットストリート(Malet Street)は、ロンドン特別区の一つであるロンドン・カムデン区(London Borough of Camden)のブルームズベリー地区(Bloomsbury)内にある。マレットストリートの南側は、大英博物館(British Museum→2014年5月26日付ブログで紹介済)の裏側を東西に延びるモンタギュープレイス(Montague Place→2015年2月21日付ブログで紹介済)から始まり、北側は、同じく東西に延びるトリントンプレイス(Torrington Place)に交差している。
また、マレットストリートの西側には、幹線道路であるガワーストリート(Gower Street)とトッテナムコートロード(Tottenham Court Road→2015年8月15日付ブログで紹介済)が並行して、南北に延びている


マレットストリートは、この一帯の土地を所有していた英国の政治家で、農業経営者でもあった第9代ベッドフォード公爵フランシス・ラッセル(Francis Russell, 9th Duke of Bedford:1819年ー1891年)の娘である Lady Ermyntrude Sackville Russell と結婚した英国の外交官を務めた第4代準男爵サー・エドワード・ボルドウィン・マレット(Sir Edward Baldwin Malet, 4th Baronet:1837年ー1908年)に因んで、名付けられた。

マレットストリートから見上げたセナトハウス(その2)

マレットストリートの左右には、主にロンドン大学(University of London)関係の建物が建ち並んでいる。
主な建物をマレットストリートの南側から列挙する。

2014年7月2日から同年9月15日にかけて、
「Books About Town」というイベントに基づき、
マレットストリート沿いに設置された
本の形をしたベンチ(その1)
2014年7月2日から同年9月15日にかけて、
「Books About Town」というイベントに基づき、
マレットストリート沿いに設置された
本の形をしたベンチ(その2)

(1)セナトハウス(Senato House→2017年1月15日付ブログで紹介済:マレットストリートの東側)
ケンジントン地区(Kensington)からブルームズベリー地区へと移転しているロンドン大学の設計責任者に任命された英国の建築家であるチャールズ・ヘンリー・ホールデン(Charles Henry Holden:1875年ー1960年)が、1931年にアール・デコ様式の設計案を提示。1932年に建設工事が始まり、1937年に竣工。
セナトハウスは19階建てのロンドン大学本部で、同ビルの正面玄関は西側のマレットストリートに、そして、裏玄関はラッセルスクエア(Russell Square)に面している。同ビル内には、副学長のオフィスやセナトハウス図書館等が入っている。
セナトハウスは、1969年に「グレード II (Grade II)」の指定を受ける。2006年の大改修を経て、同ビルはロンドン大学の施設としてだけではなく、会議場やイベント会場等としても使われるようになり、ロンドンファッションウィーク(London Fashion Week)の会場として使用された。

2014年7月2日から同年9月15日にかけて、
「Books About Town」というイベントに基づき、
マレットストリート沿いに設置された
本の形をしたベンチ(その3)
2014年7月2日から同年9月15日にかけて、
「Books About Town」というイベントに基づき、
マレットストリート沿いに設置された
本の形をしたベンチ(その4)

(2)ロンドン衛生熱帯医学大学院(London School of Hygiene and Tropical Medicine:マレットストリートの西側)

(3)王立演劇学校(Royal Academy of Dramatic Art:マレットストリートの西側)

(4)ロンドン大学学生生協(University of London Union:マレットストリートの東側)

2020年8月2日日曜日

フランシス・ダーブリッジ作「地獄から来た蝙蝠(コウモリ)」(Bat Out of Hell by Francis Durbridge)

英国の Arcturus Publishing Limited から
 Crime Classics シリーズの一つとして出版されている
フランシス・ダーブリッジ作「地獄から来た蝙蝠(コウモリ)」の表紙–
ジェフリー・ステュワートを殺害した犯人である
マーク・パクストンとダイアナ・ステュワートの二人が描かれているが、
アメコミ(アメリカン・コミック)調の絵柄の上、
背後の蝙蝠がオカルトというか、ホラーの様な感じなので、
もう少し推理小説に適した絵柄にして欲しかった。

作者のフランシス・ダーブリッジ(Francis Durbridge:1912年ー1998年)は、英国のフル(Hull)出身の推理作家で、推理作家兼名探偵であるポール・テンプル(Paul Temple)を主人公にしたシリーズでデビュー。ポール・テンプルシリーズ14作やティム・フレイザー(Tim Frazer)シリーズ3作の他に、ノンリーズ20作を執筆。上記以外にも、ラジオドラマ、TVドラマ、戯曲や映画の脚本等、多彩な活躍をしている。
なお、本作品「地獄から来た蝙蝠(Bat Out of Hell)」は、推理小説としては、1972年に発表されているが、TVドラマとして、BBC で1996年に放映されている。その際、主人公の一人であるマーク・パクストン(Mark Paxton)を、俳優のジョン・ソー(John Thaw)が演じている。彼は、オックスフォード(Oxford)を舞台にしたモース警部(Inspector Morse)シリーズにおいて、主役のモース警部を演じており、英国内では非常に有名である。

物語は、8月のある日、ロンドンから通勤圏内にあるアランバリー(Alumbury)で始まる。
当地で不動産会社を経営する裕福なジェフリー・ステュワート(Geoffrey Stewart)は、妻のダイアナ(Diana)と一緒に、フランスのカンヌへ旅行に出かける準備をしていた。ジェフリーの右腕で、ダイアナと不倫関係にあったマーク・パクストンは、ダイアナと協力し、偽の不動産取引でジェフリーを誘い出して、彼を殺害(=射殺)する。
そして、ダイアナが警察に「夫のジェフリーが、不動産取引のため、旅行直前に外出したまま、行方不明になった。」と届けた結果、、クレイ警部(Inspector Clay)が捜査にやって来る。ここから、マーク / ダイアナ対クレイ警部の攻防が始まるのである。
ここで、マーク / ダイアナにとって、思ってもみなかったことが発生する。

クレイ警部と別れた後、マークは、自分の車の後部座席に毛布で包んで隠してあったジェフリーの死体を別の場所に遺棄しようとした。ところが、マークが自分の車に戻ったところ、ジェフリーの死体がなくなっていたのである。
一方、ダイアナの自宅には、ジェフリーを名乗る人物からの電話があった。

その後、ベンチリーウッド(Benchley Wood)の砂利置き場で死体が発見され、顔の損傷が酷いため、確認に困難を極めたものの、死体の着衣と指輪からジェフリーの死体と認定される。

にもかかわらず、今度は、ダイアナの友人であるテルマ・ボーウェン(Thelma Bowen)の家に、ジェフリーを名乗る人物からの電話があり、「自分は怪我を負って、トラブルに見舞われている。午後3時にバーチェスター(Barchester)郊外のパインロッジモーテル(Pine Lodge Motel)に来るよう、ダイアナに伝えてほしい。」との依頼だった。
ジェフリーと名乗る人物からの指示通り、ダイアナは車で現地に赴くと、そこには、クレイ警部以下、警察の面々が既に到着していた。クレイ警部の説明によると、匿名の電話が警察宛にあり、建物の裏を調べると、そこでジェフリーの射殺死体を発見した、とのこと。

ここで、マークとダイアナには、次々といろいろな疑問が生じる。
(1)誰が、マークの車の後部座席からジェフリーの死体を持ち去ったのか?
(2)ジェフリーを名乗り、ダイアナとテルマに電話してきたのは、誰なのか?
(3)パインロッジモーテルの裏手で発見されたのが、ジェフリーの死体だとすると、最初に、ベンチリーウッドの砂利置き場で発見された死体は、誰なのか?そして、彼を殺害したのは、誰なのか?

普通の倒叙推理小説では、殺人等の事件が発生した後は、犯人側と警察側の攻防がメインとなるが、本作品では、それにとどまらず、犯人側と警察側の裏で蠢く別の犯人(グループ)によって、特に、マークとダイアナが翻弄されるのが、もう一つの特徴で、他とは違っていると言える。
そういった意味では、本来の犯人グループであるマークとダイアナが、別の犯人(グループ)によって、次第に追い込まれていく過程が興味深い。ただし、本作品における登場人物は、それ程多くないというか、かなり限定されているので、別の犯人(グループ)を特定することは、難しくないと思う。

マークとダイアナは、ジェフリーの殺害計画を、アリバイを含めて、用意周到に準備した訳ではないため、クレイ警部との攻防が期待した程のスリリングな展開になっていないのが、やや残念である。用意周到な殺害計画であれば、クレイ警部との攻防がもっと面白くなった可能性はあるが、その場合、別の犯人(グループ)は不要だったかと思われる。実際のところ、マークとダイアナの殺害計画は用意周到ではなかったので、作者としては、物語の展開をスリリングにするには、別の犯人(グループ)を登場させざるを得なかったのではないか?そうしないと、マーク / ダイアナとクレイ警部の攻防があまりパッとしない展開のまま、最後まで行ってしまう可能性が高かったように思われる。そう考えると、倒叙推理小説として、珍しい展開ではあったが、全体としては、平凡な出来だったという印象である。

2020年8月1日土曜日

ロンドン マレットストリート(Malet Street)− その2

ラッセルスクエアからモンタギュープレイスへと入ったところ−
ギディオン・フェル博士とテッド・ランポールを乗せた
スコットランドヤード犯罪捜査部のハドリー警視が運転する車は、
このルートを通ったものと思われる

 米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が1935年に発表した長編で、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)が登場するシリーズ第6作目に該る「三つの棺(The Three Coffins 英題: The Hollow Man→2020年5月3日 / 5月16日 / 5月23日 / 6月13日 / 6月20日付ブログで紹介済)」において、ギディオン・フェル博士達を乗せたスコットヤード犯罪捜査部(CID)のハドリー警視(Superintendent Hardley)の車がラッセルスクエア(Russell Square)へと入った後、原作によれば、「On the west side ran few foot tracks and even fewer wheel-marks. If you know the telephone box at the north end, just after you pass Keppel Street, you will have seen the house opposite even if you have not noticed it. Rampole saw a plain, broad, three-storied front, the ground floor of stone blocks painted dun, and red brick above. Six steps led up to a big front door with a brass-edged letter-slot and brass knob.」と記述されている。

ということは、ハドリー警視が運転する車は、ラッセルスクエアから西へと延びるモンタギュープレイス(Montague Place→2015年2月21日付ブログで紹介済)を進んだことになる。ケッペルストリート(Keppel Street)は、モンタギュープレイスに並行して、モンタギュープレイスの北側に延びている通りなので、車はモンタギュープレイスから右折して、北上したことになる。

マレットストリートから見たモンタギュープレイス−
奥に見える建物は、大英博物館(British Museum)

モンタギュープレイスの北側にあり、モンタギュープレイスに並行して延びるケッペルストリートの東側は、マレットストリート(Malet Street)に、そして、西側は、ガワーストリート(Gower Street)に接しているので、シャルル・ヴェルネ・グリモー教授(Professor Charles Vernet Grimaud)の邸は、地理的には、マレットストリート沿いか、あるいは、ガワーストリート沿いに所在していることになる。

グリモー邸がマレットストリート沿いにあるとすると、ケッペルストリートとマレットストリートが交差する北西の角に公衆電話バックスが建っていることになるので、「opposite」の意味をどう捉えるか次第であるが、グリモー邸は、ケッペルストリートとマレットストリートが交差する南西の角か、もしくは、両通りが交差する北西の角とは、マレットストリートを挟んで、反対側のマレットストリートの東側に建っていることになる。

一方、グリモー邸がガワーストリート沿いにあるとすると、ケッペルストリートとガワーストリートが交差する北東の角に公衆電話ボックスが建っていることになるので、上記と同様に、グリモー邸は、ケッペルストリートとガワーストリートが交差する南東の角か、もしくは、両通りが交差する北東の角とは、ガワーストリートを挟んで、反対側のガワーストリートの西側に建っていることになる。

モンタギュープレイスから見た住宅街と住宅街の住人のみが使用できるコミュナルガーデン−
画面左手の住宅街の向こう側に、ガワーストリートがあり、画面右手にあるのが、マレットストリート。
また、画面の奥に、モンタギュープレイスに並行して、ケッペルストリートが延びている。

それでは、一体、グリモー邸は、マレットストリート沿いとガワーストリート沿いのどちらにあるのかと言うと、こう考えられる。ジョン・ディクスン・カーの原作では、グリモー邸内以外に、ラッセルスクエアを挟んで、グリモー邸とは反対側にあるカリオストロストリート(Cagliostro Streetー現在、該当する通りは存在していない)の路上に置いて、もう一つの事件が発生する。グリモー邸とカリオストロストリートの間は、徒歩で2ー3分の距離と言及されている。

正直、グリモー邸がマレットストリート沿いにあるとしても、ラッセルスクエアからやや西側に所在しているため、ラッセルスクエアの反対側へと行くのに、徒歩で2ー3分ということは、非常に困難であるが、グリモー邸が徒歩でガワーストリート沿いにあるとすると、マレットストリート対比、ラッセルスクエアから更に西側へと遠ざかっており、ラッセルスクエアの反対側へと行くのに、徒歩で2ー3分ということは、とても無理である。

従って、グリモー邸は、マレットストリート沿いにあると考える方が、まだ現実的と言える。

2020年7月27日月曜日

アンドリュー・ガーヴ作「ヒルダのために、涙は要らない」(No Tears for Hilda by Andrew Garve)

英国の Arcturus Publishing Limited から
 Crime Classics シリーズの一つとして出版されている
アンドリュー・ガーヴ作「ヒルダのために、涙は要らない」の表紙−
本作品で探偵役を務めるマックス・イースターブルックの友人である
ジョージ・ランバートが、ロンドン北部フィンチリーの自宅へと帰り、
台所のガスオーブンの傍で、
妻のヒルダがガス中毒で死亡しているのを発見するシーンが描かれている

作者の本名は、ポール・ウィンタートン(Paul Winterton:1908年ー2001年)で、英国レスターシャー州(Leichestersire)のレスター(Leichester)生まれ。
彼は、生涯を通じて、いくつかの名義を使い分けて、40を超える作品を世に送り出している。彼の活躍時期は、1938年から1978年にかけてで、アガサ・クリスティーの活躍時期(1920年ー1976年)にほぼ重なっている。
本作品の「ヒルダのために、涙は要らない(No Tears for Hilda)」(1950年)は、アンドリュー・ガーヴ(Andrew Garve)名義での第1作で、他には、ロジャー・バックス(Roger Bax)名義で「殺人計画書(Blueprint for Murder→2020年7月18日付ブログで紹介済)」(1948年)等を世に送り出している。

11月のある夜、ジョージ・ランバート(George Lambert)は、ロンドン北部フィンチリー(Finchley)の自宅に帰ったところ、台所のガスオーブンの傍で、妻のヒルダ(Hilda)がガス中毒で死亡しているのを発見。
当初は、自殺、あるいは、事故かと思われたが、現場に駆け付けた警察による検死の結果、ヒルダが舌を噛んでいる上、首の後ろに殴られたような痣があることが判明。そのため、ヒルダの死は、自殺や事故ではなく、殺人の様相を呈してきた。
警察にアリバイを尋ねられたジョージは、ロンドンのレスタースクエア(Leichester Square)で映画を観ていたと答えるが、実際には、娘が入院している精神科病棟の看護婦と不倫関係にあり、事件当夜も一緒に居たことが判ったため、ヒルダ殺害の動機が充分という理由で、警察に逮捕されてしまう。

ドイツからロンドンに旅行でやって来たマックス・イースターブルック(Max Easterbrook)は、早速、長年の友人であるジョージの事務所に電話をかけ、ひさしぶりの旧交を暖めようとした。ところが、その願いも虚しく、ジョージが妻ヒルダの殺害容疑で警察に逮捕されたことを、マックスは知る。
即、マックスは、ジョージの弁護士経由、ジョージとの面会約束を取り付け、彼が拘留されているブリクストン刑務所(Brixton Jail)へと赴く。ジョージと面会したマックスは、友人ジョージが無罪であることを信じ、警察とは別個に、自分独自で事件を調査することを誓う。そして、マックスは、事件の鍵を見つけるため、関係者達を次々と訪問していく。

(1)ジョージと不倫関係にあった看護婦ルーシー・グラント(Lucy Grant)
(2)ジョージの弁護士パーキンス(Mr. Perkins)
(3)ランバート家の家政婦ビッグス夫人(Mrs. Biggs)
(4)ジョージとヒルダの娘が入院しているスワンパーク精神病院のチャロナー医師(Dr. Challoner)
(5)精神病棟に入院しているジョージとヒルダの娘ジェーン・ランバート(Jane Lambert)
(6)ヒルダの弟アンドリュー・ホワイト(Andrew White)とその妻ローズ・ホワイト(Rose White)
(7)昔ヒルダに求婚したことがある建築業者ランブル氏(Mr. Rumble)
(8)ヒルダの知り合いで、出版社に勤めるステファニー・フランクス(Stephanie Franks)
(9)ステファニーの恋人で、画家のアレック・フォーベス(Alec Forbes)

この中に、ヒルダ・ランバートを殺害した真犯人は居るのか?それとも、警察が言う通り、逮捕されたジョージ・ランバートが、妻ヒルダを殺害したのか?
マックスは、ある場所であるものを偶然発見して、ヒルダを殺害した真犯人が誰なのかを遂に突き止め、その人物のアリバイを切り崩していくのである。

当初、ヒルダ・ランバートは平凡な主婦で、警察の捜査では、彼女を殺害する動機を持つ関係者は居ないかに思われたが、マックスの地道な調査により、実は、ヒルダは見かけとは違って、昔から人間性 / 正確に難ありということが、次第に明らかになってくる。実際、ヒルダは、夫であるジョージや娘であるジェーンを心理的に抑圧していたことが判明する。
その辺りの調査の過程が丹念に書かれていて、好感が持てる。

一方で、ヒルダを殺害した真犯人に、マックスが論理的な思考で辿り着く訳ではなく、彼がある場所を訪問した際、そこにあったあるものを見て、疑問を感じ、真犯人と断定する流れとなっている。そういった意味では、本格推理小説ファンが好む論理的な思考によって、真犯人を突き止めるという一種のカタルシスを得ることは、難しいかと思う。

どちらかと言えば、マックスは、ヒルダの関係者を訪問して、会話をすることにより、その人のひととなり、そして、ヒルダの過去、人間性や性格等を解き明かしていく作業が、淡々と繰り返される。
そのため、本格推理小説ファンが、やや過大な期待を持って、本作品を読み進めていくと、若干肩すかしをくらったような気分になるかもしれない。そう考えると、本作品の場合、所謂、推理小説的なバロメーターは低いのであろう。

そうは言っても、本作品の点数をつけるとすると、それ程には悪い点をつけようという気持ちにはならないので、不思議である。マックスによる調査のプロセスが非常に丁寧に書かれていることが、好印象なのかもしれない。
また、マックスやジョージに限らず、その他の登場人物が生き生きとというか、人間としてしっかり描かれているため、ドラマとして成功しているからであろう。

他に読んだ作品のように、初めから途中までは、かなりワクワクさせておきながら、物語の終盤から最後にかけて、大きく失速し、幻滅するのに比べれば、全体として、本作品はまあまあまうまくまとまっている。