なお、本作品「地獄から来た蝙蝠(Bat Out of Hell)」は、推理小説としては、1972年に発表されているが、TVドラマとして、BBC で1996年に放映されている。その際、主人公の一人であるマーク・パクストン(Mark Paxton)を、俳優のジョン・ソー(John Thaw)が演じている。彼は、オックスフォード(Oxford)を舞台にしたモース警部(Inspector Morse)シリーズにおいて、主役のモース警部を演じており、英国内では非常に有名である。
物語は、8月のある日、ロンドンから通勤圏内にあるアランバリー(Alumbury)で始まる。
当地で不動産会社を経営する裕福なジェフリー・ステュワート(Geoffrey Stewart)は、妻のダイアナ(Diana)と一緒に、フランスのカンヌへ旅行に出かける準備をしていた。ジェフリーの右腕で、ダイアナと不倫関係にあったマーク・パクストンは、ダイアナと協力し、偽の不動産取引でジェフリーを誘い出して、彼を殺害(=射殺)する。
そして、ダイアナが警察に「夫のジェフリーが、不動産取引のため、旅行直前に外出したまま、行方不明になった。」と届けた結果、、クレイ警部(Inspector Clay)が捜査にやって来る。ここから、マーク / ダイアナ対クレイ警部の攻防が始まるのである。
ここで、マーク / ダイアナにとって、思ってもみなかったことが発生する。
クレイ警部と別れた後、マークは、自分の車の後部座席に毛布で包んで隠してあったジェフリーの死体を別の場所に遺棄しようとした。ところが、マークが自分の車に戻ったところ、ジェフリーの死体がなくなっていたのである。
一方、ダイアナの自宅には、ジェフリーを名乗る人物からの電話があった。
その後、ベンチリーウッド(Benchley Wood)の砂利置き場で死体が発見され、顔の損傷が酷いため、確認に困難を極めたものの、死体の着衣と指輪からジェフリーの死体と認定される。
にもかかわらず、今度は、ダイアナの友人であるテルマ・ボーウェン(Thelma Bowen)の家に、ジェフリーを名乗る人物からの電話があり、「自分は怪我を負って、トラブルに見舞われている。午後3時にバーチェスター(Barchester)郊外のパインロッジモーテル(Pine Lodge Motel)に来るよう、ダイアナに伝えてほしい。」との依頼だった。
ジェフリーと名乗る人物からの指示通り、ダイアナは車で現地に赴くと、そこには、クレイ警部以下、警察の面々が既に到着していた。クレイ警部の説明によると、匿名の電話が警察宛にあり、建物の裏を調べると、そこでジェフリーの射殺死体を発見した、とのこと。
ここで、マークとダイアナには、次々といろいろな疑問が生じる。
(1)誰が、マークの車の後部座席からジェフリーの死体を持ち去ったのか?
(1)誰が、マークの車の後部座席からジェフリーの死体を持ち去ったのか?
(2)ジェフリーを名乗り、ダイアナとテルマに電話してきたのは、誰なのか?
(3)パインロッジモーテルの裏手で発見されたのが、ジェフリーの死体だとすると、最初に、ベンチリーウッドの砂利置き場で発見された死体は、誰なのか?そして、彼を殺害したのは、誰なのか?
(3)パインロッジモーテルの裏手で発見されたのが、ジェフリーの死体だとすると、最初に、ベンチリーウッドの砂利置き場で発見された死体は、誰なのか?そして、彼を殺害したのは、誰なのか?
普通の倒叙推理小説では、殺人等の事件が発生した後は、犯人側と警察側の攻防がメインとなるが、本作品では、それにとどまらず、犯人側と警察側の裏で蠢く別の犯人(グループ)によって、特に、マークとダイアナが翻弄されるのが、もう一つの特徴で、他とは違っていると言える。
そういった意味では、本来の犯人グループであるマークとダイアナが、別の犯人(グループ)によって、次第に追い込まれていく過程が興味深い。ただし、本作品における登場人物は、それ程多くないというか、かなり限定されているので、別の犯人(グループ)を特定することは、難しくないと思う。
マークとダイアナは、ジェフリーの殺害計画を、アリバイを含めて、用意周到に準備した訳ではないため、クレイ警部との攻防が期待した程のスリリングな展開になっていないのが、やや残念である。用意周到な殺害計画であれば、クレイ警部との攻防がもっと面白くなった可能性はあるが、その場合、別の犯人(グループ)は不要だったかと思われる。実際のところ、マークとダイアナの殺害計画は用意周到ではなかったので、作者としては、物語の展開をスリリングにするには、別の犯人(グループ)を登場させざるを得なかったのではないか?そうしないと、マーク / ダイアナとクレイ警部の攻防があまりパッとしない展開のまま、最後まで行ってしまう可能性が高かったように思われる。そう考えると、倒叙推理小説として、珍しい展開ではあったが、全体としては、平凡な出来だったという印象である。
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